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大荒れの世界経済、米国株の先行きをどう読むか〜最も注視すべきポイントはココだ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47623
2016年01月28日(木) 安達 誠司 現代ビジネス
■注目すべきは、お金の「量」
年初からの世界の株式市場は大荒れの展開である。その理由としては、@原油価格の下落、A中国経済の先行き不安、の2点が指摘されることが多い。
このところ調整が著しい米国株価動向についても、大多数の市場関係者は、これらの2つの要因が大きく影響しており、米国経済のファンダメンタルズは依然として概ね良好である、というのがコンセンサスである。
確かに、昨年来、米国景気を牽引してきた自動車販売と住宅投資は依然として堅調を維持している。自動車や住宅の購入には通常、ローンが用いられることが多く、利上げによる借入金利上昇懸念がこれらの購入を抑制する可能性も指摘されていたが、その兆候はない。
また、非製造業の雇用拡大も続いており、現時点では、まだ、実体経済に利上げの影響は現れていないようだ(ただし、製造業はドル高、鉱業は原油安の影響で、減速が顕著になっており、警戒する必要があるが)。
ところで、多くのエコノミストや市場関係者は、FRBの「利上げのペース」に注目している。そして、利上げのペースが緩やかであれば、実体経済への影響は小さく、「バブル」的な株価上昇等を抑制するという意味でむしろ歓迎すべき話であるとの声も聞かれる。
だが、米国で注意すべきは、「利上げのペース」という金利の問題ではなく、むしろ、お金の「量」の問題である。
より具体的にいえば、昨年12月16日の利上げ以降、マネタリーベースが減少しつつある点だ。マネタリーベースの変動は株価の変動との相関が高く、今後のマネタリーベースの推移は、米国株価の先行きを占う上で重要な要因であると考える。
■「リバース・レポ」による資金吸収
このような話をすると、「FRBは当面はバランスシートの規模を一定に維持することを表明しているではないか」と強い反論を受ける。
確かに、FRBは、昨年12月16日に決定した利上げの際の声明文(FOMCの声明)で、当面は債券の保有残高を維持する方針を明確にしている(具体的には、「FFレート水準の正常化プロセスが順調に進み始めるまでは、FRBが保有するMBSと米国国債の満期償還分は再投資して残高を維持する」と述べている)。
この声明をもってして、多くの市場関係者は、今後、段階的に利上げが進んだとしても、マネタリーベース残高は一定水準を維持すると考えているようだ。
だが、実際のマネタリーベース残高は、1月6日時点で3兆6,499億ドルと、昨年12月の利上げ前の公表値(3兆9,087億ドル)から6.6%減少した。また、この残高を、量的緩和の停止(「テーパリング」)以降のピーク(2014年9月17日の4兆1,497億ドル)と比較すると、12%の減少となっている。これはかなり大きな減少である。
理由は、FRBがFFレートをFOMCで定めた「目標水準」に誘導するために、「リバース・レポ」によって資金を吸収しているためだと推測される。
FFレートは、FRBが単に利上げを発表しただけで自動的に上昇するのではなく、短期金融市場(FF市場)の需給関係で決まる。そこで、短期金融市場が利上げ以前の状態(すなわち、FFレートが0%近傍の状態)の需給関係のままであれば、FFレートはFRBの意図する目標水準に到達しない事態が発生しうる。
これを回避するためには、FRBが資金を吸収するしかない。ところが、FRBは、債券の売り切りオペは当面実施しないことを発表しているので、資金吸収のための手段として「リバース・レポ」を用い、短期での買戻し条件付きで金融機関に債券を売却し、資金を吸収している可能性が高い。これが、マネタリーベースの主な減少要因であると考えられる。
「リバース・レポ」は、一つひとつの取引では、短期間のうちに反対売買が行われるため、それを行って期間(3〜6ヵ月程度)でならしてみれば、債券の保有残高は変わらないはずである。また、会計上の「勘定項目」では両建て、かつ、別勘定になっているため、FRBの保有債券残高は変わらない。そのため、FRBの「バランスシート」は見かけ上、変化しない。
だが、ロール・オーバー(取引を次の期間まで自動的に継続)してしまえば、債券の売り切りオペに等しい効果を有する。また、利上げが進めば、FRBはFF市場の資金の需給関係をよりタイトにする必要があるため、より多くの資金の吸収を迫られる可能性がある。この場合、より大規模な「リバース・レポ」を実施せざるを得なくなる状況も想定される。
ちなみに、マネタリーベースは、流通現金と準備預金の合計値だが、「リバース・レポ」が実施されると準備預金がFRBの別勘定に振り替わるので、その分減少することになる。
以上より、FRBがマネタリーベースを一定水準に保つ保障は必ずしもないのである。
■「テーパリング」から「マネタリーベースの削減」へ
ところで、金融危機からの回復局面における「金融政策の正常化プログラム」を「お金の量(もしくは「流動性」)」という観点から見た場合、量的緩和解除から「テーパリング」を経て、マネタリーベースの削減へと段階的に進んでいくことが想定される。
米国では、過去において、この「正常化プログラム」を実行した経験がある。これは、1935年半ばから1937年前半にかけてであり、その結果は、「大失敗」であった。すなわち、当時の米国は、「金融政策の正常化」に失敗し、再度、量的緩和を採用せざるを得ない状況となった。
当時も、マネタリーベース残高を一定水準に維持する「テーパリング」には成功した。例えば、1935年後半から1937年初めにかけて、マネタリーベース残高は拡大トレンドから(多少の上下動はあったが)横ばいトレンドに移行した(「テーパリング」の実施)。
そして、「テーパリング」の局面では、株価は上昇トレンドを維持していた。だが、当時のFRBが「テーパリング」から「マネタリーベースの削減」へ、「正常化プログラム」を一歩進めた1937年3月以降、株価は一転、下落トレンドに転じた(図表1、2)。
当時のFRBも、一連の「正常化プログラム」を実施する過程で、「これは、金融引き締めを意味するものではない」というアナウンスを盛んに行った。また、当時も、「テーパリング」が進行する過程で、FRB当局者や市場参加者の間では、「金融市場でのバブル抑制につながるという意味では、多少の金融引き締めはかえってプラスの効果をもたらす」との意見が大勢を占めていた。
だが、この「1937年の出口政策の失敗」を分析したブラウン大学のガウチ・エガートソン氏らの研究(「The Mistake of 1937」)では、1937年以降、人々は、金融政策の引き締め転換を意識した行動をとり始めたことが示されている。
つまり、人々は、1937年初めのマネタリーベースの減少を「デフレ・レジームへの再転換のシグナルが点灯した」ととらえ、経済行動を変えた可能性が高いのである。より典型的だったのは、中小企業向けの融資や、低格付け社債への投資に代表されるような「リスクテイキング」な経済活動が突然止まったことであった(そのため、低格付け社債と国債の利回り格差であるクレジットスプレッドが急拡大した)。
そして、1937年3月にマネタリーベースの減少とほぼ同時期に下落した株価に続き、実体経済(鉱工業生産指数)も、その3ヵ月後の1937年6月から急低下したのであった。
今年は、マネタリーベースの動向に注意
このように、一般的なニュースフローで注目されることはほとんどないが、マネタリーベースの動きは今後の米国株の動向を占う上で重要な指標であると思われる。
だが、前述のように、直近までのデータをみる限り、12月半ば以降、米国のマネタリーベースは減少トレンドに移行し、それとほぼ同じタイミングで米国の株価も低下トレンドに転じているようにみえる。
このまま減少が続けば、米国は、1937年の「金融政策の正常化プログラム」の失敗パターンを踏襲しつつあると考えざるを得ない(政策提案的には、リーマンショック以前のトレンドを直近まで伸ばした名目GDPの水準を「政策目標」として、金融緩和、すなわち、少なくともゼロ金利とマネタリーベース残高を維持できれば、米国経済は正常時に戻る可能性が高まるということになるかもしれない)。
ただ、1937年当時と異なるのは、今回のマネタリーベースが「リバース・レポ」によってもたらされている点だ。株価の調整等によって資金需要が減速すれば、超過準備から短期金融市場への資金流出も減速し、「リバース・レポ」の額も減少する。また、FRBによる債券の買戻しによって、逆にマネタリーベース残高が増加することも期待できる。現に、1月20日時点のマネタリーベースは、リバウンドした(図表3)。
これによって、短期的に、米国株式市場の混乱が一服する可能性も出てきた。ただ、株価が再び上昇基調に入れば、「リバース・レポ」の拡大によって、マネタリーベースは再び減少トレンドに転じるリスクもある。
いずれにせよ、今年は、米国のマネタリーベースの動向に注意しておく必要があると考える。
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