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あのアパホテルが一泊3万円! 爆買い中国人殺到で東京・大阪は泊まるところがない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47533
2016年01月26日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
歌舞伎町タワーは620室〔PHOTO〕アパホテルHPより
熱い風呂で疲れを癒やし、ベッドでぐっすり眠る。サラリーマンの出張先での数少ない楽しみだ。だが、宿泊料金高騰でそれさえ叶わなくなっている。なぜ、そんなにまで値上げするのか。
■雪が降ったら3倍
「アパも随分変わってしまいましたよ。もう使うことはありません」
こう憤慨するのは、大阪在住の弁護士のA氏だ。
アパホテルといえば、シングル一泊の通常料金が7000円程度と思い切った低価格を打ち出し、ビジネスホテル業界の低価格競争の火付け役として成長。きらびやかな姿で広告に登場する元谷芙美子社長(68歳)の奇抜さも相まって、注目されてきた業界の雄だ。
新規オープンの際には、5000円台の特別価格で部屋を提供したり、仕事で疲れた体を癒やせるサウナや大浴場を併設したりと、「サラリーマンの味方」というイメージがウリだった。
だが、それはもはや過去の事だと、A氏が言う。
「仕事で東京に出てくることが多く、もう何年も日本橋の駅前にあったアパを利用していました。1万円ちょっとのリーズナブルな料金で雰囲気も良く、フロントスタッフとも親しかった」
ところが、再開発に伴いA氏が定宿にしていたアパ日本橋駅前店は閉店。
「閉まったとはいえ、長年使ったアパへの愛着があり、新橋にあるアパを引き続き利用することにしました。対応は以前のところと違ってマニュアル的で、素っ気なかった。でも、『やっぱりアパがいい』と宿は変えませんでした」
ところが、A氏を愕然とさせる出来事が起こる。
「ある日、急な出張で訪れた際にフロントで値段を聞いたら、びっくり。なんと、一泊3万円と言われたんです。耳を疑って聞き返すと、フロントマンが涼しい顔で、『明日、雪が降りますから』と言う。大雪になれば当然、ホテルが埋まるので高値に設定したのでしょうが、なんだか悲しくなりました。
アパはビジネスマンの味方だと思っていたからこそ、ずっと利用してきた。でも、部屋が埋まるとなると、いままで支えてきた顧客に高値をふっかける。いくら商売でも、3倍はやりすぎでしょう。明らかに人の道を外れている。裏切られた気分です」
以来、A氏はアパを一切利用していないという。
こうした、ビジネスホテルの宿泊料金の理不尽とも言える値上がりは、いまやアパに限ったことではない。
■まさに便乗値上げ
昨年の11月に、関西から出張で東京を訪れた大手食品メーカーで営業職を務めるB氏も、宿泊料金高騰で苦労したという。
「会社から出る宿泊費は一泊8000円が上限。でも、新宿周辺でホテルを探すと、空いていてもふだんなら一泊5000円がせいぜいの部屋が1万5000円はした。
7000円も自腹を切るのも馬鹿らしくなって、あてどもなく歩き、疲れ果てた末にたどり着いたのはラブホテル。しかも、ラブホテルでも一室料金でしっかり6000円はとられた。疲れが取り切れず、翌日の商談には万全の体調で臨めませんでした」
中堅証券会社の営業マンとして全国を飛び回るC氏が続ける。
「急な商談で大阪に出張を命じられ、2日前から宿を探したものの、どこも予約でいっぱい。仕方なく、宿を予約せずに大阪入りしました。
当日の夜、商談が終わってから梅田界隈で手当たり次第にキャンセル待ちをあたってみたものの、どこも満室。サウナやカプセルホテルですら空きがなく、朝まで営業しているチェーンの居酒屋で、ちびちびウーロンハイを飲みながら一晩明かしました。たった1泊の出張なのにほとほと疲れ切りましたよ」
こうしたビジネスホテルの予約難や料金の高騰は、なぜ起きているのか。『ホテルに騙されるな!プロが教える絶対失敗しない選び方』などの著書がある、ホテル評論家の瀧澤信秋氏が言う。
「円安やビザの発給条件緩和に伴う訪日外国人の増加が大きな要因です。政府も観光立国化に注力しており、歓迎すべきことではあるのですが、中国人の団体客などが大口でホテルをごっそり押さえてしまうのは、やり過ぎの感もあります。
彼らは、半年前であるとか、1年前から取れる部屋を過分に予約して、それから条件の良い部屋を選んで、ほかをキャンセルするケースが見られます。ホテル側からすれば迷惑な行為なのですが、日本のホテルの場合、海外であれば数週間前からかかるキャンセル料を3日前までは設定していない場合が多い。しかも、実際には請求しないケースすらある。
そのため、直前までキープされる部屋が増え、予約が取りにくくなるのです。東京、大阪、福岡などの大都市部、あとは京都や金沢といった、外国人に人気の観光地のホテルが異常に値上がりしている。とりわけ、東京と大阪、名古屋は稼働率が大幅に上昇し、手頃な値段で部屋を見つけるのが難しい」
経営コンサルタントの小宮一慶氏も口をそろえる。
「観光目的だけなら、ビジネスホテルよりも格上のシティホテルなどを中心に予約が埋まるのでしょうが、円安を背景に日本で購入したブランド品や電化製品を、価格差を利用して中国で売りさばく、いわゆる『爆買い』目的のツアー客が増えたことがいまのビジネスホテル難につながっている。
主要都市では、そういう物品も手に入りやすいですし、仕入れのみが目的であれば、別に高級ホテルの贅沢な雰囲気は必要ない。彼らは、手頃な値段で最低限の設備が整っているところを探そうとするので、出張族のビジネスマンと需要が被ってしまうのです。
混乱のピークだった昨年に比べて、今年はやや落ち着く気もしますが、それでも春節(中国の旧正月)にあたる2月上旬や、国慶節(建国記念日)の10月上旬は、今以上にホテルがとれない状況が予想されます」
実際、円安の追い風を受け、日本を訪れる外国人の数は4年連続で増加。昨年は11月までで、約1800万人もの外国人が日本を訪れた。うち中国人観光客が460万人と、全体の4分の1を占める。
■帝国ホテルより高い
苦労人の社長はこの部屋に一泊3万円出すのか〔PHOTO〕アパホテルHPより
こうした需要増に伴って、ビジネスホテルの宿泊料金は加速度的に上昇している。
「ホテルのオーナーたちは『いま儲けないでいつ儲けるんだ』とばかりに、値上げの大号令をかけている。実際、平均客室単価のデータを見ても、東京は対前年比で2000円前後、大阪に至っては3000円程度も上昇しています。それでも、企業の出張旅費の規定は変わらない。これでは、東京や大阪に出張する人は自腹を切らなければ中心地には泊まれません」(ホテル事情に詳しいノンフィクション作家の桐山秀樹氏)
中国人客の増加に乗じて、ここぞとばかりに値上げを続けるホテル各社。なかでも値上げ幅の大きさで話題を集めたのは、やはりアパだった。
約1年先までの料金が閲覧できるアパホテルの予約サイトで検索すると、昨年9月にオープンした「アパホテル新宿歌舞伎町タワー」のシングルルームは、素泊まりで通常1万円台前半。しかし、この部屋が3月から4月の週末には、なんと3万円台に跳ね上がる。同じ部屋、サービスで価格差が2万円。
これでは、もはやビジネスホテルという水準の金額ではない。ちなみに同時期、3万円を出せば、ホテルニューオータニや帝国ホテルなど名だたる有名ホテルに一人で宿泊可能なプランもある。
■オリンピックでさらに上昇
あのアパホテルで3万円とは、いくら需要過多とはいえ誠実さに欠けるのではないか。
元谷社長の夫で、ホテルやマンション事業を含めたアパグループ全体を率いる元谷外志雄代表に話を聞いた。
——なぜシングル素泊まりで2万〜3万円もする部屋があるのか。
「連休の前日とか、中国の旧正月など需要が高まると予想される時期は、支配人の裁量で価格を上げているのです。
確かに、時期によってはご指摘の料金になることはありますが、あくまで都心のごく一部のホテルの話。むしろ、日によっては定価の半額でご提供することもあります。高い日ばかりを取り上げて『アパは高い』といわれますが、むしろ他社よりも安い日もある。
こうして、需要の変動に合わせて価格の上げ下げをするのは欧米のホテルでは当然のことです」
——かつての駅近・低価格を打ち出したアパは、サラリーマンの味方だった。このままではサラリーマンの出張手当ではアパホテルに泊まれない。
「他のホテルをお使いになればいいですよ。ウチはいたずらな価格競争ではなく、50インチの大画面テレビやシーリーと共同開発したオリジナルベッドを導入するなど、世界中からいらっしゃるお客様にくつろげる空間をご提供し、満足していただけるホテルを目指しています。
現状でも日本のホテルは総じて価格が安い。ウチは各ホテルの定価の1・8倍を上限に支配人に価格を設定する裁量を認めています。他の国ではオリンピックの時期なら5倍、10倍になってもおかしくはない。
そもそも、東京や大阪に出張があるからといって、わざわざ都心に泊まらなくても、電車で20〜30分の近郊まで行けば手頃な値段で泊まることができます。アメリカのビジネスマンは、ホテル料金の高いニューヨークのマンハッタンで仕事があっても、下町のニュージャージーの料金の安いホテルに泊まって、そこから電車でマンハッタンまで出てきますよ」
——今後、アパを含めたホテルの料金はどうなっていくと考えるか。
「マグロの初競りだって、何千万かの値段がついたりするけど、あれも普通の日なら何百万で済むでしょう?
それと同じで、資本主義の原則に即した値付けをうちがやっているというだけのこと。いずれは全てのホテルがうちのような料金システムになりますよ。'20年の東京オリンピックに向けて、訪日外国人の数はどんどん増える。
オリンピック開催時には標準価格がいまの1・5倍くらいになっていてもおかしくはありません。いずれ、東京都心のホテル料金も、マンハッタン並みに上昇するでしょう。ですから、ご予算に合わせて、少し都心から離れたホテルをご利用いただければと思います」
「資本主義の原則」を掲げ、堂々と語った元谷代表。だが、ホテルは単に需要と供給の論理だけでなく、「イメージ」や「好み」で客が選ぶ業界でもある。強引な値上げで一般サラリーマンに嫌われたことを、後悔する日が来なければいいが。
「週刊現代」2016年1月30日号より
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