昨年末の米利上げは2000年の日本そっくり 2016年1月26日(火)上野 泰也 2000年の故・速水優元日銀総裁と同じ道を歩いているように見えるイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長(写真右=Abaca/アフロ、左=清水 盟貴) クリスマスカードや電子メールなどを通じて米国に住む日本人の知人から最近受け取ったメッセージの中に、「米国の今回の利上げは2000年8月に日銀が強行して失敗したゼロ金利政策解除とよく似ている」という内容のものが、複数あった。 日銀の大きな失敗からちょうど15年が経った昨年8月、米FRB(連邦準備理事会)の利上げ模索とゼロ金利解除には似ている点があることを指摘したレポートを筆者は作成した。今回は類似点をより詳しく調べた上で、表の形に整理してみた。両者には類似点がなんと7つもある。 ■図1:日銀ゼロ金利解除(2000年8月)と米FRB利上げ(2015年12月)の類似点7つ (出所)筆者作成 [画像のクリックで拡大表示] なお、上表にも登場している中原伸之元日銀審議委員は、今年1月8日にロイターが配信したインタビュー記事の中で、年初からの世界同時株安について「米利上げ以降、良いことが起こっていない。利上げは失敗。00年にゼロ金利解除した日銀と同様、いずれ撤回に追い込まれる」と明言。ゼロ金利や量的緩和の復活もあり得るとの見通しを示した。 このように見てくると、米国の今回の利上げがいかに「危なっかしい」政策変更なのかが浮き彫りになる。 むろん、イエレン議長は2000年8月の日銀の失敗を知っており、その考え方はハト派寄りでもあるので、追加の利上げを今後強引に推し進めるとまでは考え難いわけだが、今年中に4回も利上げするだろうというFOMC参加者の昨年12月時点の見通しは、現実味がまったくなく、願望の域を出ない話だと言わざるを得ない。 むしろ利下げやQE4か 「先行き不安が政策不信に変わってきた中国経済」「下げ止まりが見えない原油価格」「米利上げ後の世界的なマネーフロー変調」。3つの大きなリスクを今年に持ち越した中で、「世界同時株安」が年初から再び発生し、深刻化している。 3月といった早いタイミングでの米国の追加利上げはきわめて難しい情勢である。利上げ路線自体が頓挫してしまい、逆に利下げ観測や量的緩和第4弾(QE4)観測が浮上する可能性も意識しながらマーケットを注視していく必要がある。 日米金利差が拡大しない中で、ドル/円相場では円高ドル安方向へのレンジシフトが起こりつつあり、円高の進み具合い如何では日本経済の下振れリスクが大きくなる。ちなみに、年初の時点で筆者が提示した今年のドル/円の予想レンジは108〜125円である。
円・ドルダービー 上野氏「リスクオフで円高へ」 2016/1/23 3:30 読者らに加え為替アナリストら「市場予測のプロ」が為替相場の予想を競う円・ドルダービーの12月末予想の結果が出た。読者対象の第195ラウンドでは浅野勝美さん(66)と、山口正敏さん(76)が1位だった。読者とは別枠のプロ部門では、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストが1位だった。 画像の拡大 12月末の円相場は1ドル=120円41銭。浅野さんは退職前から家族でダービーに参加しているという。「なかなか難しいが今後も参加していきたい」と話す。メーカーに勤務していた山口さんは、株への投資をする中で為替にも注目した。 12月の相場について、みずほ証券の上野氏は「日銀の追加緩和は実現しなかったが、米国の利上げが予想したとおりのタイミングだった」と振り返る。ただし「米国の景気は意外に脆弱であり、今後の利上げ回数はなかなか増えないだろう」とみる。今後は「原油安、中国経済、新興国という3つのリスクについて、市場はリスクオフに傾斜し円高・ドル安に動く場面が予想される」とする。 一方で、プロ部門で2位だった東京都民銀行の木村智勇氏は「1月に発表された米雇用統計では労働市場の力強さが再確認されたが、米国市場では株安・長期金利低下の流れを止めることはできなかった」としたうえで、今後の見通しについて「今の市場はグローバル経済の先行きに対する悲観論に傾倒し過ぎている。いずれかの時点では落ち着きを取り戻し、結果的に米経済の力強さを再認識する場面が近々訪れ、3月末には1ドル=121.5円程度になるのではないか」と予測している。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/012200029/?ST=print 日銀:直前まで市場見極めぎりぎりの判断、今週の決定会合−関係者 2016/01/26 00:01 JST (ブルームバーグ):日本銀行が28、29両日に開く金融政策決定会合は、2%物価目標の早期達成のために追加緩和が必要かどうか、直前まで市場動向等を見極めつつ、ぎりぎりの判断となる見込みだ。複数の関係者への取材で分かった。 複数の関係者によると、日銀内には、原油価格の下落もあり物価見通しの下方修正が不可避となる中、春闘の賃上げも2%物価目標の早期達成には不十分という悲観的な見方も出ている。一方で、春闘は始まったばかりなのに加え、市場の混乱が実体経済に影響を及ぼしているわけではないため、情勢を見極めるには時間的余裕があるとの見方もあり、意見が交錯している。 スイス・ダボスで日本時間22日夜にブルームバーグの英語のインタビューに応じた黒田東彦総裁は金融政策について言質を残さなかった。市場の混乱は現時点で「企業行動にそれほど大きな影響を与えているとは思わない」とする一方、「マーケットは実体経済に影響を及ぼすこともあり得るので、注意深くウオッチしている」と述べた。今週の会合は、インフレ期待低下、原油安、円高懸念の中での決断となる。 JPモルガン証券の足立正道シニアエコノミストは、今週の金融政策決定会合の結果を占う上で最終的に重要なのは、「黒田総裁が何を考えているか」だと指摘。もし総裁が2%の早期達成に向けてリスクが大きく追加緩和が必要と考えれば、「政策委員会をそのように持っていける」と述べた。 会合直前の市場次第 日銀は同会合で2017年度までの生鮮食品を除くコア消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しを明らかにする。日銀は昨年4月に物価上昇率2%の達成時期を「15年度を中心とする期間」から「16年度前半」に変更。昨年10月にはさらに「16年度後半」に先送りしたが、いずれも追加緩和は見送った。今回も再三の下方修正と目標達成時期の先送りは必至とみられている。 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは25日のリポートで、物価見通しの下方修正や2%達成時期の先送りは「本来は追加緩和につながるはずだが、昨年10月のケースと同じく、追加緩和に直結させるわけではないのだろう。追加緩和が今回の会合で決まるかどうかについては、会合直前のマーケット状況に依存する度合いが大きい」としている。 20日のドル円相場は一時1ドル=115円98銭と、昨年1月16日以来の水準まで円高が進行。21日の東京株式市場は大幅続落し、TOPIX、日経平均株価とも日銀が追加緩和に踏み切った14年10月31日の水準を下回ったが、追加緩和の思惑から先週末に急反発。円相場も118円台まで円安方向に戻している。 1月様子見でも3月か4月に SMBCフレンド証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは25日のリポートで、「29 日の金融政策決定会合直前まで、日銀はギリギリまで市場環境を確認してから、決断するように思われる。よって現時点で、日銀が追加緩和すると決め打ちすることはできない」と指摘する。その一方で、「やると決めたなら、中途半端ではない本気の追加緩和を行わなければ市場に失望されるだろう」という。 黒田総裁は繰り返し、量的・質的金融緩和(QQE)は所期の効果を発揮していると述べている。生鮮食品を除くコアCPIは11月に前年比0.1%上昇と原油安の影響などでなおゼロ近辺で推移しているが、日銀が独自に公表しているエネルギーと生鮮食品を除くCPIは1.2%上昇と堅調に推移している。一方で、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)など各種の期待インフレ指標は軒並み弱含んでいる。 SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは同日のリポートで、QQEの目的はデフレ心理の転換なので実際の物価より期待インフレが重要だが、「足元の期待インフレ率は0.3−0.5%にとどまっておりQQE1、QQE2以前に戻っている。先行きも円高と原油安、ベア低下の逆風が吹く」と指摘。「結局いつ踏み切るかだけであるが、1月は様子見としても3月または4月には動くのではないか」という。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1I46K6JIJUS01.html 篠原元財務官:追加緩和の効果限定的、「躊躇に十分な材料」−財政出番 2016/01/26 00:00 JST
(ブルームバーグ):日本銀行の追加金融緩和の効果は期待しにくい−−。元財務官で国際通貨基金(IMF)副専務理事を務めた篠原尚之東京大学教授は、原油価格下落や中国景気減速という外的要因に影響を受けている日本経済を支えるには財政出動しかない、との認識をブルームバーグのインタビューで21日示した。 日銀追加緩和について篠原氏は「そんなに効果がないという感じがする」との見解を示し、「株や為替に影響はあっても第1、第2バズーカのようなサプライズアタックは無理だ」と述べた。その背景として日本経済は外的要因に左右されている上、「政策協調も現時点では難しい」と説明した。 さらに長期金利は低水準で「市場が副作用を気にし始めている中で有効性は以前に比べて減り、中期的な副作用は非常に大きい」ことから、日銀が「躊躇(ちゅうちょ)するのに十分な材料がある」と指摘。最後のバズーカになるかもしれないという追い詰められた状況での判断になるとの見方を示した。 金融政策の代わりの景気対策については「短期的には財政しかない。財政は自然増がかなりあり、経常収支の黒字が続くのであれば、出て行く余地はある」と述べた。中長期的な財政の持続可能性へ規制緩和加速が不可欠とも話した。 伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は、金融市場の乱高下は中国経財の減速懸念や原油安など外的要因で起こっているとして、「追加緩和でどこまで効果があるかは疑問だ。かつての1発目、2発目ほどのインパクトはない」としながらも、「追加緩和をやらないという選択肢はない」と語った。 日経平均株価は21日、終値で1万6017円と日銀が追加緩和を決定した2014年10月31日の終値(1万6413円)を下回った。株価としては追加緩和の効果が吹き飛んだ形になる。為替相場は20日、一時1ドル=115円台まで円が上昇して約1年ぶりの円高水準を付けた。市場では追加緩和期待が高まっている。 篠原氏は07年7月に財務官に就任。08年9月のリーマンショック後の世界経済の激動期に、主要7カ国(G7)との調整などに当たった。就任時に1万8000円台だった株価は08年10月末に一時7000円台を割り込んだほか、為替も1ドル=123円台から08年12月から09年1月にかけて一時87円台まで急騰した。 経済正念場 為替相場について篠原氏は、米国経済を引っ張る消費がさらに強くなる印象がなく米金利の引き上げが相当ゆっくりになる、欧州もさらに緩和せざるを得ないとして「円は高い方向に行かざるを得ない」と予想した。新興国の混乱も続くとの見通しから相場はボラタイル(値動きの激しい)な動きが続くとみている。 足元の経済情勢については「アベノミクス自体が金融政策1本で来た。円安・株高で経済のセンチメントが良くなったが、実体経済はそんなに良くなっていない。円安・株高が剥げ落ちてくると元の木阿弥になる。明らかに正念場だ」とみている。 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 下土井京子 kshimodoi@bloomberg.net;東京 氏兼敬子 kujikane@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:谷合謙三 ktaniai@bloomberg.net; Brett Miller bmiller30@bloomberg.net 上野英治郎 更新日時: 2016/01/26 00:00 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1CKQ76JTSEK01.html なぜ金融ビッグバンは不発だったか日本の金融が弱い理由 2016年1月26日(火)田村 賢司 「金融・証券市場の国際化」を旗印に1996年に始まった日本版ビッグバン。真の狙いは旧来型事業に偏った銀行改革と産業再強化の環境作りだった。だが、ほとんど成果はなく、金融を通じた日本経済再生は道半ばだ。 個人は既に1600兆円を保有している ●家計の金融資産推移 出所:大和総研の資料を基に本誌作成(写真=Photoshot/アフロ) [画像のクリックで拡大表示] 相変わらず現預金が多い ●個人の金融資産の構成比推移 出所:大和総研の資料を基に本誌作成(写真=Haruyoshi Yamaguchi/アフロ) [画像のクリックで拡大表示] その日、松本大は、米ゴールドマン・サックスの幹部たちが慰留するのを前にきっぱりと言った。「退職して日本でネット証券を興したい」。 1998年11月。同社の日本法人に勤務し、債券トレーダーとして高い業績を上げた松本は、その4年前、30歳の若さで米本社のゼネラル・パートナー(共同経営者)に抜擢されていた。巨額の報酬を得て前途は明るく開けていたが、それを捨て去ることに躊躇はなかった。 松本の人生を変えたのは、1年前、97年3月末にふと目にした1つのペーパーだった。96年11月に首相、橋本龍太郎が着手を宣言した日本版ビッグバンの改革項目を載せたものだ。 日本版ビッグバンは、金融・証券市場を自由化(フリー)、透明化(フェア)、国際化(グローバル)の3点から大改革し、「2001年までにニューヨーク、ロンドン並みの国際市場として再生する」というものだ。 米英に10年以上遅れた改革 具体的には、@証券会社開業を免許制から登録制にするなど、証券、保険などの分野への新規参入促進A業態ごとの商品・業務規制の撤廃・緩和B株式売買など手数料の自由化C銀行を経由することになっていた為替取引の自由化Dデリバティブの導入・利用拡大E情報開示の拡大F証券取引所以外での証券売買解禁──などだった。 「日本の金融が大きく変わる」。松本は一読してそう直感した。 日本版ビッグバンは、戦後日本にとってエポックメーキングな出来事だったが、米国や英国に比べ出遅れ感は否めなかった。 米国は、1975年に証券取引所で証券の売買をする集中義務を撤廃。さらに株式などの委託売買手数料も自由化するなど、断続的に改革を続けた。この結果、市場には多様なプレーヤーが参入。株式の売買だけでなく、様々な投資信託が登場し、活況を呈した。さらに企業のM&A(合併・買収)仲介や市場参加者自身の株式の自己売買など投資銀行業務も成長し、世界最大の金融大国となっていった。 70年代まで米国と並ぶ金融市場だった英国は、米国の改革でいったん、その地位を低下させていた。それを巻き返そうと、86年から取り組み始めたのが日本のモデルにもなったビッグバンだった。手数料の自由化をはじめとした規制緩和を一気に行い、米国に引き寄せられていた取引を再びロンドン市場に取り戻したのである。 この時の米英に共通するのは、日本に逆転された製造業でなく、金融を経済の重要なけん引役に位置付け、そのための環境整備を図ったことだ。米国では、80年代半ばにGDP(国内総生産)に占める金融・不動産業の比率が製造業を逆転していた。その産業構造の変化に対応して、米国にもう一度成長力をつけようとしたのである。 一方の日本は米英のような資本市場改革がほとんど進まなかった。80年代半ばには大手都市銀行が巨大化。世界の預金残高ランキングでトップ10の半分を占めるほどにもなって、その力を過信した。株式市場もバブルで上昇を続け、市場改革のニーズを感じた人間がいなかったからだ。 その結果、日本の金融ビジネスは米英の変化の潮流から取り残された。米英の金融機関が証券業務に果敢に攻め込み、M&A仲介や自己売買、デリバティブ(金融派生商品)の開発など、新たなビジネスを必死に開発していたのに、日本の金融機関の主要業務は相変わらず個人や企業から預金を集め、貸し出す伝統的な商業銀行の域を出ることがなかった。 根強く残っていたカルテル体質 そのツケはバブル崩壊で余分に払わされた。当時の日本の金融市場は、マクロ的に見れば、「個人や企業のマネーが、株式などではなく預金などの形で銀行部門にたまりすぎた」(後に金融庁長官となった五味弘文)状態(上のグラフ参照)だった。 しかも金融機関は、地価の上昇を前提に土地を担保に融資していた。地価や株価が暴落すると、多額の融資を受けていた不動産系企業などの資金繰りが悪化して不良債権が増大していった。バブル崩壊は、伝統的な商業銀行モデルの継続に重いかせとなったのである。 それでも金融改革を進めようという機運は盛り上がらなかった。例えば証券ビジネス。当時、株式の売買は証券会社の手数料が高止まりしていた上に、有価証券取引税などがかかり、欧米に比べてコスト高な構造がはっきりしていた。ところが、「証券会社の中には、そうした問題を指摘する声はほとんどなかったし、逆に守りに入っていた」と松井証券社長の松井道夫は指摘する。 松井はビッグバンの始まる前、96年4月から、顧客の株式を預かる際に証券会社がかけていた保護預かり手数料を他社に先駆けて無料化。インターネット証券に進出する前年の98年には、投資信託の手数料を大幅に引き下げて、大手証券系列の投信会社から商品供給をストップさせられている。 「当時の証券界はカルテル体質のようなものだった」(松井)のである。バブル時代まで長期にわたって株価が上昇した時代の名残で、バブル崩壊後になっても投資家は不満の声を上げないし、規制する側の旧大蔵省は「前例踏襲に慣れきっていた」と元財務大臣の与謝野馨は振り返る。 90年代後半に資本・金融市場改革を一気に進めた ●日本版ビッグバンを中心にした改革の概要 1996年 1月 橋本龍太郎内閣発足 橋本首相は、2001年までに日本の金融市場がニューヨーク、ロンドン並みの国際市場となることを目標に金融システム改革に乗り出した。 1997年 6月 自社株取得の促進、ストックオプション制度改革 ストックオプション全面解禁。企業の自社株買い規制を緩和。 同年 7月 デリバティブ全面解禁 個別株オプションなどデリバティブを全面解禁。リスクヘッジの多様な取引が可能に。 同年年 10月 証券総合口座解禁 翌年9月には、給与振り込みも可能に。個人と証券市場の距離を短くした。 同年 11月 三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行が事実上経営破綻 金融危機深刻化。大手金融機関が連続破綻。 同年 12月 金融持ち株会社解禁 持ち株会社の下での銀行、証券などの金融再編を進めやすくした。 1998年 4月 外国為替及び外国貿易管理法を抜本改正 改正まで海外と国内の資金やモノ・サービスのやり取りを財務大臣などに事前に届け出る必要があったが、事後報告に。銀行のみが為替業務を行う為銀主義も廃止。個人や企業が自由に取引可能に。 同年 6月 金融監督庁発足、金融システム改革法成立 金融庁の前身となる金融監督庁が大蔵省から分離発足。日本版ビッグバンの基本法となる改革法が成立。2000年7月、金融庁に。 同年 12月 取引所集中義務撤廃 証券取引を東京証券取引所などに集中する義務を撤廃。私設取引が可能に。 同年 同月 銀行窓販導入 銀行の窓口での投資信託などの販売を解禁。証券の販売チャネルが拡大。 同年 同月 証券会社を免許制から登録制へ 証券会社を登録で開業できるようにして参入しやすくした。ネット証券などが参入。 1999年 4月 有価証券取引税、取引所税廃止 証券取引に課していた税を廃止。海外の証券市場に比べ、証券取引をコスト高にしているとされていた。同月、東証で立会場が廃止に。 同年 10月 株式売買の委託手数料全面自由化 株式売買の際、証券会社に支払う手数料の規制を廃止。完全に自由に。ネット証券などでは手数料は一気に10分の1以下に下がった。 同年 同月 株式交換・移転制度導入 株式を対価に企業買収ができるようになり、企業のグループ再編やM&A(合併・買収)をしやすくした。 同年 同月 銀行の証券子会社など業務規制撤廃 銀行などが設立した証券子会社の業務規制を廃止。既存証券会社と競争できる環境整備。 同年 11月 東証がマザーズ市場創設 新興企業の上場拡大を目指し、東証が新市場を創設。翌年、大阪証券取引所がナスダック・ジャパン市場を創設。 2000年 3月 連結決算中心へ移行 企業会計は、3月期から世界標準となっていた連結決算へ移行した。 2001年 3月 時価会計導入 企業会計が時価会計へ。不動産や株式の含み益を使った経営に転機。 同年 7月 ETF上場 ETF(上場投資信託)が新たな金融商品として登場。 同年 9月 REIT上場 不動産からの収益を裏付けにしたREIT(不動産投信)が上場された。 2004年 6月 証券取引法改正 銀行に証券仲介業務を解禁。 2006年 5月 会社法施行 企業の統治構造を柔軟化。種類株を拡大。 2007年 9月 金融商品取引法施行 業態を超えて金融関連事業者を規制。投資性の強い金融商品に対する投資家保護や、開示制度の拡充、不公正取引などへの対応などを定めた。 「成果を生まなかった」と断定 バブル崩壊で右肩上がりの時代の甘えは許されなくなり、改革の必然性は高まっていた。しかし動かない。そんな状況を変えるきっかけになったのは旧大蔵省の不祥事だったと言えるかもしれない。 95年になって旧大蔵省幹部がイ・アイ・イ・インターナショナル(EIEインターナショナル)の社長、高橋治則らから風俗店などの過剰な接待を受けていたというスキャンダルが発覚した。 スキャンダルは旧大蔵省への不信につながり、政治サイドからは銀行・証券局など監督部門と主計・主税など財政部門とを分離せよとの声が高まった。今の金融庁を設立するという案は当初からあったが、国税庁も切り離すといった解体論まで飛び出していた。 組織防衛を図る必要が生じた同省は、橋本の日本版ビッグバンに一も二もなく同調した。 当時、中堅幹部だった人物はこう打ち明ける。「総理が行政から金融まで幅広い6大改革を打ち出すとすぐ、大蔵省内でビッグバンについて改革項目を検討していた」。その“積極性”に対して、霞が関周辺では「大蔵省の存在意義を官邸に理解してもらうために、自ら改革者のふりをしたのではないか」とも揶揄されたが、米国から20年、英国からも10年遅れのビッグバンは、ともかくこうして動き出した。 サインで株式の売買をしていた東京証券取引所の場立ち(写真=読売新聞/アフロ) しかし、大蔵省始まって以来とさえ言われるビッグバンは最終的には「成果を生まなかった」。金融庁が諮問した学識経験者の懇談会は2002年夏にそう総括している。 日本版ビッグバンの表の狙いは、橋本がぶち上げた通り「日本を米英と並ぶ国際市場にする」ことだろう。だが、裏にある本当の狙いの一つは、傷んだ日本の銀行を再生するためにも、米英から大幅に遅れた投資銀行業務の力をつけること。これが、ほとんどうまくいかなかった。世界トップクラスの投資銀行と呼べる金融機関は今も育っていない。 「貯蓄から投資へ」も進まず 2つ目の狙いは、衰えが見え始めていた日本の産業競争力を再強化することだった。ベンチャーをはじめとした起業を活発化させ、既存産業の改革を促す。それを金融制度や市場を改革することで、達成しようとした。 まず手掛けたのが外国為替及び外国貿易管理法の抜本改正である。企業や個人が国内銀行を経由していた海外との外貨建て取引を自由化し、海外銀行への預金口座開設も解禁。迅速な資金移動ができるようにして、ビジネスをしやすくした。 さらに銀行に偏り過ぎていた資金を株式市場経由で企業に流れるようにしようとした。株式売買の手数料自由化、証券会社の開業の免許制から登録制への移行…。規制緩和は断続的に続けられ、その一方で政府はビッグバンの中で「貯蓄から投資へ」と、これをお題目のように唱え続けた。 しかし、この2つ目の狙いももくろみ通りにはいかなかった。「ビッグバンが始まった直後の97年に山一証券や北海道拓殖銀行などが実質破綻。金融危機に陥った影響」と大和総研金融調査部長の保志泰は指摘する。 だが金融危機が去った後もビッグバンが狙った日本経済の構造改革は道半ばと言わざるを得ない。その証拠とも言えそうなデータがある。ビッグバンがスタートした96年度末に、個人金融資産のうち預金や現金の占める比率は49.9%だった。これが2014年度は52.5%へと逆に上昇している。政府は「貯蓄から投資へ」と旗を振り、直接市場を充実させて産業の活性化を図ろうとした。しかし数字を見る限り、その起点となるところでつまずいているということになる。 貯蓄率と共に衰退の恐れも ビッグバンの中で唯一の成果と見えるのは、冒頭の松本や前出の松井らがネット証券を作っていったことだろう。インターネットの普及に加え、1999年の自由化で株式売買の手数料は、それまでの100分の1以下になり、個人の株式売買に占めるネット証券の比率は90%に達するまでになった。 所得が減り、貯蓄率も下がってきた ●個人の貯蓄率、消費の推移 出所:大和総研の資料を基に本誌作成 [画像のクリックで拡大表示] ただし、その取引量の大半は1日に何度も売買を繰り返すデイトレーダーに占められ、普通の個人の投資家は増えていない。ネット証券拡大という唯一の成果も、ビッグバンの狙いからみれば中途半端な格好のままだ。 2000年代に入って日本人の貯蓄率は大きく低下している(上のグラフ「所得が減り、貯蓄額も下がってきた」参照)。これは、1600兆円に達している個人マネーも、いずれ縮小することを意味している。金融業がビッグバンで整備した環境を生かし切れなければ、個人マネーの縮小とともに弱体化する可能性がある。製造業の成長力も伸び悩む今、金融業の暗いシナリオは日本自体の危機につながるように思える。 =敬称略 (主任編集委員 田村 賢司) 戦後70年の日本経済 日本は昨年、第2次世界大戦から70年の節目を迎えた。高度成長から1980年代バブルを経て、90年代半ばからデフレ不況へ。古希の日本経済はどう変わったのか。シリーズで見る。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900002/012500005/?ST=print
中国「住宅が余りすぎだから農民に買わせてしまえ」バブルのツケを農民に押し付ける見当違いの収拾策 2016.1.26(火) 姫田 小夏 中国の農村。不動産バブルのツケが農民に?(資料写真) 経済の失速に歯止めがかからない中国で、2016年の最大の課題となりそうなのが住宅在庫の処理だ。 1級都市を中心とする沿海部のいくつかの大都市では活発な住宅需要が見られるが、規模の小さい3〜4級都市ではすっかり停滞している。 積み上がる住宅在庫は国家統計局の数字を見ても明らかだ。昨年(2015年)11月末、分譲住宅の在庫は6億9637平米に達した。2014年同期における分譲住宅の在庫は5億9695万平米だったから、この1年で在庫は約1億平米も増えたことになる。昨年9月末からの1カ月間には2122万平米が増え、過去最高の増加数を記録した。 こうした状況に対し、中央政府は強い危機感を抱いている。昨年末に翌年の経済政策の方向性を決める「中央経済工作会議」が開かれたが、この会議で初めて住宅の在庫問題が取り上げられた。 政府は、どのようにして在庫処理を進めるのか? 会議で出た“妙案”というのが、「農民に買わせる」というものだ。 会議に先立つ11月に、李克強首相は「『戸籍制度』の改革こそが住宅需要を喚起する」と述べた。 中国の都市部には常住人口が7.5億人いると言われるが、その3分の1にあたる2.5億人が、都市戸籍を持たない農村出身者だ。彼らは「民工」として都市部に集まり、都市部の発展を支えた貴重な働き手である。だが、中国には「戸籍制度」が存在するため、都市戸籍保持者と同様の教育や医療といった公共サービスを受けられない。都市部で住宅を購入することもできなかった。 そこで中央政府は、農村出身者も都市部で住宅を購入できるようにすれば在庫を処理できると考えたのである。 農民も住宅を持て余している しかし、その施策への批判が高まっている。まず、中央政府は「農民がまだ住宅を持っていない」「都市部の住宅に憧れている」と見ているが、見当違いの可能性がある。 農民は住宅を持っていないわけではない。確かにぎりぎりの生活をしている“貧農”もいるが、その一方で、農村では多くの農民が2〜3階建ての戸建てに居住している。農村の住民は自分たちの手で住宅を建てる習慣があり、都心部の集合住宅よりはるかに広い家に住むケースも珍しくはない。 不動産ブームが中国全土を席巻すると、地方政府と不動産業者が結託し、農民を立ち退かせて農地をどんどん宅地に転用させた。その際、それまで住んでいた家を手放して近代的な集合住宅に移転した農民も少なくない。全国的な宅地化の結果、農民もそれなりの家に住むようになったのである。 中には家を持て余している農民も存在する。筆者は、湖南省出身の中国人女性に話を聞く機会を得た。この女性は次のように語る。 「私の両親は数年前、湖南省のある町に分譲マンションを買いました。高齢の祖父を農村から呼び寄せ、家族で都市の郊外に居住しようと計画したのです。ところが今、その部屋には誰も住んでいません」 時間が経つにつれ、家族の誰にとっても必要ではないことが分かってきたのだという。女性はこう続ける。 「祖父は生まれ育った農村での生活を望んでいます。両親は商売のために省都に近い郊外で生活しています。私と弟も海外での生活に憧れており、そんな中途半端な町には住みたくありません。だから誰も住まないのです」 購入した部屋は、打ち放しのコンクリーが剥き出しのまま、内装も施されず放置されているという。「この住宅を借りたいという人もいません。価格は下がる一方ですが、売るにも売れない。まったく無駄な買い物だったというわけです」 同様の話は中国各地で枚挙にいとまがない。中国紙「経済視察報」は、こんな記事を掲載した。ある地権者が農地再開発に際して6戸の住宅を手に入れた。1戸目は自宅に使い、2戸目を犬小屋に使い、3戸目はハトの養殖に使っている。残りの3戸は空き家のままだ――。 また、そもそも農民に経済的な余力があるのかという問題が立ちふさがる。前出の中国人女性は、「農民に不動産を買わせるなら、価格を下げなければ無理だ」と訴える。不動産バブルによって、地方都市でも住宅価格が吊り上がった。農民の平均的な年収は1万元(約18万円)と言われている。その年収で都市部の住宅を購入できるのかという根本的な問いは避けて通れない。 現実的には政府が補助金を支給し、農地を売り払わせ、住宅ローンを組ませることになるのだろう。だが、当然こんな反発が沸き起こる。「農民はようやく『小康(まずまずの暮らし向きの意)』になった。その農民に新たに住宅を買わせれば、再び貧困に逆戻りだ」 こんな状況の中で農民が都市部の住宅を欲しがるとは、とても思えないのである。 解決には価格を下げるしかない 「農民による在庫処理」をたくらむ中央政府だが、それ以前に着手すべきことがある。例えば、住宅の保有に関する課税の見直しや、住宅価格の正常化などだ。 中国の不動産事情に詳しい日系企業の経営者はこう述べる。「中国では依然として住宅需要はありますが、価格があまりに高いので誰も買いません。市場を正常に戻すには、不動産業者が損を覚悟で価格を下げるしかないでしょう」 中国の「証券時報」も、「農民に含み損を抱えさせていいのか」「(不動産市場を正常化させる)唯一の方法は価格を下げることだ。不動産業者が損失を被るのは当たり前だ」と訴える。 「住宅を建てることが経済発展」という地方政府の勘違いで、中国の住宅バブルは膨れ上がった。今度は中央政府の見当違いで、バブルのツケが農民に回されようとしている。結局、農民に「トランプのババを引かせればいい」ということなのだろうか。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45846 蔡英文の総統選勝利に苦虫、何もできない中国 「圧力」をかけるほど台湾の人心は離れていく 2016.1.26(火) 阿部 純一 蔡氏、対日FTAに意欲=台湾 台湾総統選で当選し、台北で手を振る最大野党・民進党の蔡英文主席(2016年1月16日撮影、資料写真)。(c)AFP/Sam Yeh〔AFPBB News〕 1月16日投開票の台湾総統選挙において、民進党の蔡英文候補が689万票を集め、国民党の朱立倫候補に308万票の大差をつけて勝利した。同時に行われた立法院(国会に相当)選挙においても、総議席数113のところ民進党が68議席を取り、単独過半数を確保し、国民党はわずか35議席にとどまった。 これによって、2008年から2期8年続いた馬英九の国民党政権から、蔡英文政権への交代が確定した。 2000年から08年まで続いた民進党の陳水扁政権では、立法院では国民党が過半数を占めていたため、重要法案を通すのに散々苦労してきた。今回、初めて民進党優位の立法院が実現したことにより、蔡英文政権にはスムーズな政権運営が期待される。 台湾における政権交代はこれで3度目になるが、民進党にとっては、立法院も押さえることができた今回の政権交代こそが「本当の政権交代」といえるだろう。 蔡英文、そして民進党の勝利についてはすでにさまざまな分析がなされており、とくに目新しい分析を提供できるとも思えないので、ここでは中国が蔡英文政権下の台湾にどう対応するかを中心に論じてみたい。 「外交休戦」を終わらせて台湾の孤立化を徹底? 中国が台湾に対して取りうる選択肢は、概念的に言えば3つある。 1つは「圧力」であり、力づくで台湾を孤立させ、言うことを聞かせることである。台湾の輸出の4割、対外投資の7割が中国向けであり、台湾の主要な製造業は中国に工場を建設し操業している。上海を中心に、100万の台湾人が中国で経済活動に従事している。これを「人質」に中国が台湾に圧力をかけることは想定しうる行動だろう。 また、台湾は現在、南米などを中心に22カ国と正式な国交を持っている。陳水扁政権の時代、台湾と国交を持つ国はもう少し多かった。中国はそれをあらゆる手段を講じて台湾と断交させ、中国との国交を選択させてきた。馬英九政権になり、中国はそうした行動を控えてきたが、それを「外交休戦」と呼んできた。馬英九の親中路線に対する「見返り」でもあった。蔡英文政権になれば、中国はその一方的な「外交休戦」を終わらせ、台湾の外交的孤立化を徹底しようとするかもしれない。 そして軍事的圧力である。台湾本土を射程に収めるミサイルは1000基を優に超え、有事に介入する可能性のある米海軍艦船の接近を阻止するA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略を実行するための潜水艦戦力の強化、米空母を攻撃しうる対艦弾道ミサイル・東風21Dの開発・配備を進めてきた。最近では、台湾の対岸に当たる中国の南京軍区に属する第31集団軍が「揚陸演習」を行ったと報じられている。同集団軍は福建省勤務が長かった習近平主席と関係の深い部隊であるだけに、習近平政権の対台湾政策との関連で総統選挙後の台湾に対する牽制の意味合いがあるのかもしれない。 「1つの中国」と蔡英文の「現状維持」は両立できるか 第2の選択肢は「対話」である。それを象徴したのが昨年(2015年)11月7日、シンガポールで行われた習近平主席と馬英九総統による中台首脳会談であった。 それ以前にも、中国の張志軍・国務院台湾事務弁公室主任(閣僚級)の訪台など、高レベルの人的往来を実現してきたし、台湾側も国民党の連戦名誉主席をはじめ、政界の要人が北京を訪問し中国の指導者と会談してきた。さらに、李登輝元総統の時代に設置された民間交流窓口である海峡交流基金会(台湾側)と海峡両岸関係協会(中国側)との連絡も復活させた。 では、中国は蔡英文政権と対話する用意があるのだろうか。中国と馬英九政権との間で共有されてきた「92年コンセンサス」、すなわち「1つの中国、各自表述」の存在を認めない蔡英文との対話に踏み切るのは、現在の中国には高すぎるハードルのように思える。中国は「92年コンセンサス」に代わる中台双方が納得できる両岸交流の枠組みを提示する必要があろう。 その一方で、蔡英文側にとって中国との対話は選択肢に入るだろうか。穏健な現状維持路線を目指す蔡英文にとって、中国との対話は当然のことながら排除されるものではない。習近平主席と馬英九総統が、中台首脳会談において、それぞれの公式な役職を離れ、お互いに「先生」と呼び合うスタイルを実行したことを考えれば、それは蔡英文にとっても受け入れられる形式だろう。問題は、何を話し合うかであり、それが建設的なものであれば台湾側には話し合う用意はあるといえよう。 中国は、蔡英文政権の対中政策については、現状では「疑心暗鬼」のはずだ。蔡英文は両岸関係の現状維持を主張しつつも、その内容について具体的に語ってこなかったからだ。これまでの蔡英文の立場上、「92年コンセンサス」を認めることはないだろう。すでに触れたように、中国のいう「1つの中国」と、蔡英文のいう「現状維持」が両立できるスキームを形成できるかどうかが、今後の中台関係の鍵となる。 蔡英文政権の言動が左右するアメとムチのさじ加減 最後の1つは「アメとムチ」である。要するに「圧力」と「対話」のミックスであり、中国の馬英九政権への対応もこれであった。海峡両岸の経済交流、人的交流は進め、「外交休戦」も実施するが、台湾を標的とする弾道ミサイルなど軍事的攻撃手段の拡充は継続してきた。 中国にしてみれば、「圧力」がなければ台湾はすぐにでも将来的な統一を拒否する「独立」へと台湾が舵を切る懸念がつきまとうのであろう。 中国の蔡英文政権に対するアプローチも、現実に即して言えば当然ながら「アメとムチ」の対応となるだろう。アメとムチの「さじ加減」は、蔡英文政権の言動を見て調整するつもりであろう。 ますます中国から離れてしまった台湾住民の心 しかし、中国が実際に蔡英文政権にどのような政策で臨むにせよ、実は現実に採りうる政策選択肢は多くはない。 台湾が経済的に中国に大きく依存している状況から、中国側にはいくらでも台湾に圧力をかける手段があるように見える。外交・軍事にしても同様に中国が圧倒的な優位にある。とはいえ、今回の総統選挙で蔡英文が勝利した背景に台湾住民の「台湾人アイデンティティー」の高まりがあったとすれば、それは馬英九政権に対して中国が与えた「アメとムチ」の両方の結果であったことに気づかなければならない。 端的に言って、中国が露骨な武力による圧力ではなく、経済的に台湾を取り込み、中国とがんじがらめの関係にすることによって将来的な統一の実現を既成事実化しようとしてきたのが、馬英九時代の台湾に対する政策であった。しかるに、経済的に台湾の中国依存を高めることには成功したが、台湾住民の心、すなわちアイデンティティーはむしろ中国から遠ざかってしまった。 中国が「アメ」のつもりで経済的に恩恵を与えたつもりが、逆に台湾住民の警戒感を呼び起こしてしまったと言ってもいいだろう。それが昨年3月の中台サービス貿易協定の批准をめぐって学生が立法院を占拠するという「ひまわり学運」につながった。 若い世代が「中国への過剰な傾斜」に嫌気 台湾中央研究院の副研究員・林泉忠氏がいみじくも指摘しているように、「中国が経済力を背景に、自由や民主主義といった台湾の価値を変えようとしているとの危機感が若い世代の間で強まっていた」(「朝日新聞デジタル」1月19日)結果として、「台湾が独立国であることを当然のこと」と受け止めてきた「天然独」である若者世代が馬英九の国民党政権に「ノー」を突きつけたことの意味は重い。 今回の総統選挙の投票率は66.27%で、前回の2012年の74.38%と比べ、8ポイント以上低下している。投票総数で比べると100万票以上の減少だ。これは、事前の世論調査で蔡英文が圧倒的にリードしていたこともあって、国民党支持者が投票に行かなかったと見ることができよう。それにもかかわらず、蔡英文が2012年の総統選の馬英九(689万1139票)を上回る得票(689万4744票)を得たのは、若い世代の支持が集中したことによると見ていいだろう。若い世代が、台湾の中国への過剰な傾斜を忌避し「台湾であること」を維持するために蔡英文に投票した結果が今回の総統選挙であった。 ただし、判断が難しいのは、蔡英文が選挙戦で中台関係を主たる争点にした事実はないということだ。蔡英文自身も中台関係については「現状維持」を言うのみで踏み込んだ発言は控えてきた。踏み込めば必ず注目され、それに批判的な勢力から攻撃されることになるのが分かっていたからだろう。 中国は、5月20日の蔡英文の総統就任にからめて、馬英九時代の中台関係の基礎となった「92年コンセンサス」に同意するか否かの「踏み絵」を踏ませようとするだろう。しかし、蔡英文のこれまでの姿勢から見て、その「踏み絵」を踏まない蓋然性が高いのは言うまでもない。だから、すでに指摘したが、「92年コンセンサス」に変わるスキームが求められる。「92年コンセンサス」を中台関係の「レッドライン」に設定し、それを台湾が認めないなら実力で言うことを聞かせるというほど、習近平政権は硬直してはいないだろう。 しばらくは互いの腹の探り合い いずれにせよ、今回の台湾総統選挙は、これまでの中国の対台湾政策が失敗だったことを証明することとなった。しかし、台湾に圧力をかければ、台湾住民の心はますます中国から離れていく。力関係で優位に立つ中国は、いろいろな手を打つ余地がありながら、実は有効な手立てがないのが現実だ。 その裏返しとして、蔡英文の台湾にも、対中国政策として明確に提示できるアイデアを持っているわけでもないように見える。結果として、5月20日の総統就任からしばらくは、中台それぞれ腹の探り合いとなろう。 実際には使えないパワーを持つだけ中国のほうにフラストレーションが溜まるが、両者の駆け引きは当然ながらわが国にも米国にも影響を及ぼす。蔡英文の主張する「現状維持」の中身が問われることとなる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45861 ミレニアル世代:若く、才能に富み、抑圧される人々 2016.1.26(火) The Economist
世界中で、若者が抑圧されたマイノリティ(少数派)になっている。彼らを解放しなければならない。 仕事や住まいを見つけるのが難しく、将来を描きづらいという若者の不満は万国共通 (c) Can Stock Photo 『ハンガー・ゲーム』の世界では、若者たちが白髪の支配者たちの娯楽のために、死を賭して闘うことを強いられる。現代のティーン向けフィクションは容赦なくディストピア的だが、空想の世界と現実のギャップは、我々が思っているよりも狭いことが珍しくない。年配の世代は、直接的な殺人という手段こそ取らないにせよ、ミレニアル世代に関する本誌(英エコノミスト)の今週の特集記事でも触れているように、いくつかの重要な面で若い世代を抑圧している。
世界の人口のおよそ4分の1(約18億人)は、15歳以上30歳未満の年齢層にいる。
彼らは多くの点で、かつて存在した中で最も幸運なヤングアダルト世代だ。 これまでのどの世代よりも豊かで、天然痘も毛沢東も存在しない世界に生きている。過去最も充実した教育を受けた世代でもある。現在のハイチ国民が学校で過ごす時間は、1960年当時のイタリア国民よりも長い。このように長くなった学習時間と栄養状態の向上のおかげで、彼らは上の世代より知的になっている。 女性や同性愛者の場合は、彼らの先人たちには想像もつかなかったほどの大きな自由を、多くの国で手に入れている。さらに、技術の進歩にも期待が持てる。例えば、彼らの多くは100歳を優に超えるまで生きられるだろう。それでは、彼らはいったい何に不満があるというのだろうか? 大人に唾を吐きかけられる子供たち 不満はたくさんある。歴史上初めて若者たちが世界共通の文化を形成している今、若者特有の不満もまた世界中で共有されている。世界中の若者たちが、職や家を見つけるのが難しすぎる、大人になるまでの道のりが長く複雑になっている、と不平を漏らしている。 彼らの苦悩の多くは、若者よりも高齢者を優遇する政策のせいにできる。雇用について考えてみてほしい。多くの国の労働法は、企業に充実した福利厚生を求め、労働者の解雇を難しくしている。そうした規定は、すでに職を持っている人(年齢の高い者が多い)にとっては好都合だが、企業にすれば新規採用をためらう要因になる。 次へ [あわせてお読みください] 世代間の公平性:英国という老人国家 (2015.3.5 The Economist) アメリカンドリームの死 (2013.9.28 The Economist) 日本の選挙制度改革:改革阻む一票の格差 (2013.7.9 The Economist) ジェンダーと教育と仕事:弱い性 (2015.3.13 The Economist) 教育と階級:米国の新たな貴族 (2015.1.26 The Economist) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45873 1月に減らすべきはお酒ではなく労働時間 エリートの間では仕事中毒の自慢が不作法になり始めている 2016.1.26(火) Financial Times (2016年1月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米NY、最貧地区とウォール街周辺の平均寿命の差は11年 ウォール街で働くバンカーや法律家などの専門職のエリートが昼夜働くのがステータスシンボルのように思われてきたが・・・〔AFPBB News〕 先週、シニアバンカーが集まる社交イベントで、ふと気づくと、雑談を交わす6人の男性の輪に入っていた。グループを見回すと、5人が炭酸水の入った大きなグラスを握りしめており、私と一緒に、燕尾服姿のウエイターが差し出してきた冷えたシャンパンのフルートグラスを受け取ったのが1人しかいないことに気づいた。 私はこのグループの節度についてコメントするという過ちを犯し、1月はみんな禁酒しているという支離滅裂な会話に火を付けてしまった。しばらくすると、シャンパングラスを持った男性が、自分はアルコールよりずっと難しいものを断ったと宣言した。 彼の決意は、31日間だけでなく死ぬまで、過度な仕事を控えることだった。要領を得ない会議に出たり、夜11時にメールを書いたりすることに、うんざりしたのだという。 過去3週間というもの、以前と同じだけ仕事の成果を上げたが、平均して週に7時間しか働かなかった。そして残りの時間を楽しく過ごしたそうだ。 この話について驚くようなことは何もない。完璧に筋が通っている。仕事の量は持ち時間を埋めるように増えてく等々、言われる通りだ。それに彼は自分の予定を自分で決められるくらい上の立場にいる。 ケインズの予言がついに現実になるのか 私がこの話をことさら取り上げる理由は、これが私の待っていた、夏の到来を告げるツバメかもしれないからだ。過去20年間、過大な報酬を得ている専門職の人々は、昼夜通して働き続ける永遠の冬から抜け出せず、それを普通のことと思うばかりか、立派なことだと見なしていた。 ところが、ここに、競争が熾烈でワーカホリックな業界の上層部にいながら、働く時間がどれほど長いかはなく、どれほど短いか自慢することで同業者たちに自分を大きく見せようとしている人がいたのだ。 これは何か大きなものの始まりである可能性がある。バートランド・ラッセルとジョン・メイナード・ケインズはともに、1930年代にこれを予想していた。なかなか実現しなかったが、もしかしたら、それがついに起きつつあるのかもしれない。 昨年、私は2カ月ほどかけて働き過ぎをテーマとしたラジオのドキュメンタリー番組を制作し、自ら選んで四六時中働く人や、この現象について研究した専門家を取材して回った。 取材で分かったのは、大雑把に言って、私が予想していたことだった。つまり、専門職の人たちは4つの理由から長時間働くということだ。 一部の人は、競争心、あるいは隣の人に負けたくないという気持ちから長時間働く。効率が悪く、職場でサイバースカイビング*1にあまりに時間を費やすせいで、仕事を終えるために残業しなければならない人もいる。 仕事から得られる快感を愛しているために長時間働く人も多少いる。何しろ仕事は、実生活よりずっと楽で、大きな満足が得られることがある。だが、ほぼ全員が少なくとも部分的には、長時間労働に付いてくるステータスのためにやっている。人は、やることによって決まる。たくさんやればやるほど、もっと自分になる、というわけだ。 長時間労働の自慢が不作法になる日 だが、作家のマーガレット・ヘファーナン氏とのインタビューで、私が予想していなかったことが浮上した。彼女の話では、米国のエリートエグゼクティブの間では、状況が変わり始めているという。どれだけ消費しているか自慢することが不作法であるように、今では、どれほど長い時間働くか自慢することが下品なことになりつつあるというのだ。 私が出会ったバンカーのような類の自慢をし始めている先駆者たちがいるとヘファーナン氏は言う。働く時間の短さイコール高いステータスなのだ。 インタビューした時には、彼女の理論は気に入ったが、それが事実である兆候は見えなかった。代わりに私が目にしていたのは、子供の友人たちがコンサルティングや法律の世界で働き始める様子だった。彼らはかつてないほど長時間働いているように見えただけでなく、午後6時に職場を出る人を見下していた。けれど今では、ヘファーナン氏は正しいのかもしれないと思っている。 *1=cyber-skivingは、仕事中にネットサーフィンやオンラインショッピングをしてサボること スウェーデン(かねて働き過ぎのファンでは決してない国)の雇用主は長年、1日6時間労働制を試してきた。ワーカホリックのアングロサクソン人が優越感ではなく好意的な気持ちで目を向けている兆候がある。英インディペンデント紙は先週、オンラインの世論調査を実施し、英国で同じような実験をしたら、全員の生産性と幸福度が高まるかどうか聞いた。 約95%が高まると回答した。英国のマーケティング会社エージェントに至っては、これを実験で試すことにし、米ファストカンパニー誌に熱狂的な記事を書かれたばかりだ。 私も自分なりの興味深いテストを完了したところだ。とあるデーティングサイト上で、管理職、バンカー、法律家のプロフィールをチェックしたのだ。登録している人は皆、毎週何時間働いているか申告する仕組みで、40時間以上働いていることを認める人は1人も見つけることができなかった。 例のバンカーは変人なのかトレンドセッターなのか もちろん、パートナー候補(恐らくは職場をずっと離れない人とはデートしたくないだろう人々)に向かって、空き時間がどれほどあるか自慢することは、それはそれで別の話だ。だが、同僚はどうだろうか。私の会ったバンカーは変人なのか、それともトレンドセッターなのか。 彼が話している傍らで、水をがぶがぶ飲む男性たちの顔を観察した。1人は鼻を鳴らし、「そりゃ、幸運を祈るよ」と言ったが、残り4人は純粋な妬みが混ざった怨嗟のように見える表情で彼に目を向けていた。言い換えると、このバンカーの自慢は見事に成功したのだ。 By Lucy Kellaway http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45871 爆買いの劉さんが気もむ人民元安・円高、さらに進むと「ちょっと困る」 2016/01/25 15:45 JST (ブルームバーグ):昨年来日した際、高級音響機器メーカー、アキュフェーズのCDプレーヤーとアンプを総額200万円で購入した北京在住の劉さん(46)。3カ月ぶりとなる今月の旅行でも、数十万円のオーディオ機器を買う予定だが、以前より為替レートが気になると言う。 2012年末以降のアベノミクスによる大幅な円安やビザ要件の緩和などを追い風に、日本を訪れる外国人旅行者数は急増し、昨年は2000万人の大台まであと一歩に迫った。ただ、国・地域別で初めてトップとなり、空前の「爆買い」でインバウンド消費をけん引してきた中国からの旅行者には、人民元安・円高の向かい風が吹き始めている。 「去年とおととしは特別。去年、特に夏ぐらいが一番安かった」。来日は今回が10回目で留学経験もあるという劉さんは、東京・銀座の免税店ラオックス前でのインタビューでそう振り返り、今後さらに元安が進めば「ちょっと困る」と話した。 元は今年に入り円に対して2.5%下落。昨年6月に付けた1元=20円台の高値からは約12%元安となっている。中国景気が減速する中、中国人民銀行(中央銀行)は同年8月に事実上の人民元切り下げを実施。年明け以降は元中心レートの引き下げをきっかけに世界的に金融市場が混乱に陥り、リスク回避の動きから円高傾向も強まっている。 劉さんは「もちろん買うときはレートを比べながら。高くなったらちょっと考える。本当に欲しかったら買うが、欲しいか考える場合は買わない」と流ちょうな日本語で話した。「例えば1万円が600元(1元=約16.7円)になると高くなる。今は565元で何とか大丈夫だが、600元になるとみんな考える」と言う。 JPモルガン・チェースは、中国からの資金流出が続き、元は年末に向けて1ドル=6.9元まで下落すると予想している。ドル・円相場については1ドル=110円までの円高を予測。こうした予想に基づくと、元は対円でさらに10%下落し、1元=16円割れの水準まで元安が進むことになる。 年に2、3度来日する上海在住の兪暁君さんの日本での買い物は子供服や粉ミルク、玩具など子供用品が中心で、1回につき約5万円。次によく買うのが化粧品で、「マツキヨで最高12万円分の買い物をしたことがある」と言う。「いつも元と円のレートを換算しながら買い物する」という兪さんは昨年末も来日したが、元安・円高の影響は「まだそこまで強く感じない」と語る。 中国人の消費が4割占める 元は対円で12年末から昨年6月の高値まで5割近く上昇。日本銀行による大規模緩和を背景に大幅な円安が進んだ一方、米ドルに事実上ペッグされてきた元は、米国の利上げ観測を背景に進んだドル高に伴い上昇した。 個人消費が盛り上がらず、景気の低迷が続く日本で、訪日外国人の存在感は高まっている。日本政府観光局(JNTO)によると、15年の訪日外国人数は1974万人と前年比47%増加し、過去最高を更新。中国からは2倍強増えて499万人に達した。観光庁によると、昨年の訪日外国人の旅行消費額は前年から7割増加し、初めて3兆円を突破。中国は2.5倍の1.4兆円と全体の4割を占め、1人当たりの旅行支出は28万3842円と全国籍・地域の平均17万6168円を大きく上回った。 もっとも、昨年の中国からの訪日客数は12月が34万7100人で、過去最高だった8月の59万1510人をピークに頭打ちとなっている。4月から2倍超が続いていた前年比の伸び率も、9月以降は鈍化している。また、昨年10−12月期の旅行消費額は同年7−9月期を下回った。 元の先安観強まる ブルームバーグがまとめた為替予測調査によると、足元で1ドル=6.58元前後の元の対ドル相場の16年末予想(中央値)は6.7元程度で、昨年8月の切り下げ前は6.15元だった。15年の中国の経済成長率は6.9%と、1990年以来の低水準となった。 JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、さらに10%の元安・円高が進めば、年間20兆円に上る中国からの輸入のコスト低下やインフレ圧力の減退、日本企業が中国に抱える推計5兆円の留保利益の目減りなど、「日本経済にはかなりいろいろな影響がある」と分析。インバウンド効果については、ビザ要件の緩和などの効果の方が大きく、中国からの訪日客数が著しく減ることはないだろうとしながらも、「日本で買う商品が2割割高になったら爆買いの勢いは弱くなるかもしれない」とみている。 日本を訪れるのは初めてという北京在住のワンさん(27)の一番の目的は観光だが、買い物も9万円ほどする予定だ。この日はフェイスマッサージ器などの家電製品やタイガーのステンレスボトルを計3万円購入。「元・円レートは重要」と語る。 CLSAが401人の中国人旅行者を対象に行った調査では、43%の人が元が10%下落した場合に海外旅行の回数を減らすと回答、35%が買い物を減らすと答えた。 みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは、「中国経済が好調だから爆買いが出ているというより、人民元が高いから爆買いが出ているという方が正しい」と指摘。元は人為的に高く、「経済が大して良くなくても日本で爆買いできる人がたくさん出てきているということで、その無理が今たたり始めているということ」と話す。 上海の兪さんは、「さらに円高になればもちろんレートは気になるが、中国の若者や金持ちにはそこまで影響はないかな。中年や老年の旅行者は多分買い物を減らすかと思う」と語る。自身は「必須のものはレートに関係なく続けて買うつもり」で、今後も年2、3回は日本に来たいと言う。 また、銀座で洋服などのベビー用品を買い物中のシュージン・ルーさん(25)は、生まれてくる子供を連れて来年も日本に来る予定だ。「日本の方がものがいい。私は為替レートは気にしない」と語った。 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 小宮弘子 hkomiya1@bloomberg.net; Tokyo Chikako Mogi cmogi@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:山崎朝子 tyamazaki@bloomberg.net 青木 勝, 崎浜秀麿, 山中英典 更新日時: 2016/01/25 15:45 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1HB2K6KLVRY01.html
コンドーム需要回復へ、日本人草食化も訪日中国人支え−相模ゴム (2) 2016/01/25 15:52 JST (ブルームバーグ):日本人の性欲は減退しているとされ、そうした男性は「草食男子」と呼ばれることもある。 日本のコンドームメーカー、相模ゴム工業は国内顧客層の先細り、高齢化、そして性的な無関心と苦闘している。一方で、同社製コンドームは中国で高い人気となっており、相模ゴムの安心材料になっている。 中国では外国製コンドームの需要が急上昇しており、訪日中国人の急増と相まって相模ゴムの薄さを売りにした商品は売り切れが続出している。同社大跡一郎社長によると、今年は2月8日から始まる中国の春節を前に店頭での品切れを警戒して、出荷を制限しているという。 訪日客の買い物需要で「急に品薄になった」と大跡社長(67)は話す。「春節では特に絞ろうと思っています。この辺で小売り店がもうじゃんじゃん毎日電話をかけてきて、欲しい欲しいとなる」と言う。同氏は1934年に同社を創業した松川サク氏の孫にあたる。 中国人、自国製品に懸念 中国人消費者が日本製コンドームに求めているのは「やっぱりクオリティー」と、クレディ・スイス証券の森将司アナリストは指摘する。中国製品の安全性に懸念が高まる事態が続出したこともブームを後押ししたという。 上海市公安局は、粗悪かつ異臭のする原材料から製造された300万個のコンドームを押収したと人民日報が2015年4月に報じた。英紙ガーディアンによると、その2年前にはアフリカのガーナで、中国企業が製造した輸入コンドーム100万個に穴が空いていたり、性行為中に破れたりしたことが明らかになった。 日本政府観光局によると、中国からの訪日客は15年に前年から倍増して499万人。日本製の紙おむつから生理用品、炊飯器からトイレの便座まで、いわゆる爆買いのターゲットになっている。 「日本は中国人旅行者にとって、買い物のメッカになっている。背景には日本製品へのあこがれ、中国人旅行客が他では得られない買い物体験を楽しめること、また最近、免税措置が旅行者に拡大されたこともある」と、ユーロモニター・インターナショナルの調査マネージャー、コンウエイ氏は電子メールで指摘した。 株価上昇と下落 国内コンドーム製造大手の相模ゴムも、その恩恵を受けている。株価は昨年1−10月にかけて137%高の1071円まで上昇した。首位のオカモトは同期間に156%高の1099円。ただ以降は中国市場の混乱や人民元安を受け、相模ゴムが532円、オカモトが851円まで下落している。 それでも森アナリストは国内コンドームメーカーの将来に楽観的だ。中国経済が投資から消費へ移行すれば、中国人は「よりいいものを使おうということになる」という。「まだまだ伸びる余地はたくさんある」と指摘する。 相模ゴムは、ポリウレタン製薄型コンドームの生産を拡大するため、マレーシアのイポーにある2工場のうち1つを拡張し、春までに日本市場向け生産量を現在の年産約4000万個から約8000万個に増やす方針。また3つ目の工場建設も計画している。 相模ゴム株は25日の取引で一時、前週末比13%高となり、昨年10月5日以来の上昇率となった。同9.6%高の583円で取引を終えた。 中国本土へ輸出開始 厚さ0.02ミリをうたったポリウレタン素材の「サガミオリジナル002」は6個入りで1000円と、1個あたりの価格は同社天然ゴムラテックス製の2倍。大跡社長によると、サガミオリジナルの品不足を招いているのは中国人旅行客の需要。今月から本土への輸出を開始した。 中国は、売り上げの大半が国内を占める相模ゴムにとって、人口減や停滞する経済、さらにぱっとしないコンドーム需要を乗り切るための救いとなるかもしれない。ポリウレタン製のコンドームのおかげで利益こそ上がっているが、相模ゴムのラテックス製の製品需要は1980年代中旬がピークだったと大跡社長は話す。 「どんどん下降気味で、特に2000年を超えてからだいぶ悪い」という。「日本人がコンドームを使う頻度は確実に下がっていますね。確実に」と社長はみる。「性欲が衰えている。全般的に。ただこれ、海外では全然違うんでね。日本が特にひどいですね」と述べた。 日本人は世界の中でも性的に最も控えめだ。世界41カ国、31万7000人を対象としたデュレックスの統計によると、日本人の年間の性交回数は平均45回で調査対象国中で最低。最高はギリシャで138回、中国では96回となっている。 「男性に問題」 相模ゴムが13年1月に国内で行った調査によると、20代男性の41%にセックスの経験がなかった。「大変、男性に問題があると思いますよ。やっぱり気弱なんでしょうね」と大跡社長は述べた。 相模ゴムは対策を打っている。都内のクラブに独身男女を集め、「サビシンボウ ナイト」を開催している。会社によると、昨年のクリスマスには約5000人が集まったという。コンドームのサンプルを無料配布し、女性の入場は無料だ。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1CIUY6TTDS301.html
ハリバートン、10-12月期は最終赤字−北米で大幅減収 By ANNE STEELE 2016 年 1 月 25 日 22:53 JST 油田開発サービスで米2位のハリバートンが25日発表した2015年10-12月期(第4四半期)決算は、最終赤字に転落した。北米事業で大幅な減収にあえぐ中、資産の評価損や退職手当の負担が響いた。 10-12月期の純損益は2800万ドル(約33億円)の赤字(前年同期は9億0100万ドルの黒字)、1株利益は0.03ドルの赤字(同1.06ドルの黒字)となった。特別損益を除いた継続事業の調整後1株利益は0.31ドルと、前年同期から横ばいにとどまった。同業ベーカー・ヒューズの買収関連費用としては今回7900万ドルを計上し、1株当たりでは0.09ドルだった。 売上高は前年同期比42%減の50億8000万ドル。 トムソン・ロイターが調査したアナリストの間では、調整後1株利益が0.24ドル、売上高が51億1000万ドルと予想されていた。 北米事業の売上高は54%減の21億6000万ドルに沈んだ。 ゴールドマン:米リセッションが心配なら、この銘柄を買うべきだ 2016/01/26 00:54 JST (ブルームバーグ):S&P500種株価指数の年末目標を2100とする米ゴールドマン・サックスの予想は、ウォール街の金融機関の中で極めて低い方だと言えそうだが、米国のリセッション(景気後退)が差し迫っているとみているわけではない。それでも景気後退を予測する顧客のために、デービッド・コスティン氏と同氏のチームはリポート「USウィークリー・キックスタート」でどういう銘柄を推奨するか説明した。 金融状況が引き締まる局面に比較的好調となるのは強いバランスシートを持つ企業だとして、ゴールドマンのアナリストらはこうした銘柄に目を向けるよう勧めている。コスティン氏はかつて、米利上げ開始時に保有すべき株として同様の提案をしている。 「リセッションを心配する投資家のために当社が推奨する強いバランスシートと高い国内売上高を持つ企業という取引戦略は、景気後退に陥った場合も比較的好調なパフォーマンスとなるだろう」とコスティン氏らは記述。「相対的な米経済の堅調やドル高、企業の高いレバレッジ、原油で増幅された信用市場の弱さといったトレンドを踏まえれば、こうした戦略は引き続き力強いリターンを生み出すだろうと当社では確信している」と続けた。 フェイスブックやアマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、アルファベット(グーグル親会社)といういわゆる「FANG」株のうち、フェイスブックとアルファベットはゴールドマンのリストに含まれた。強いバランスシートを持つ他の人気企業の中には、ビザやマイケル・コース、スターバックス、ホール・フーズ・マーケット、3M、マラソン・ペトロリアム、ベライゾン・コミュニケーションズが含まれる。最近の病原性大腸菌感染による問題にもかかわらず、チポトレ・メキシカン・グリルもゴールドマンはリストに入れた。 近い将来のリセッションを予想していないならば特に今は買いの好機だとゴールドマンは指摘。「年初の時点では、株価指数が2016年にわずか3%しか上昇しないと当社は予想していた。調整局面を通過した現在、予想されるリターンは今や10%だ(配当を含む全体のリターンは12%)」と記した。 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1IKCG6KLVSJ01.html 追加緩和では消えぬ中国不安 経済部 小川和広 2016/1/25 15:00 先週末に900円以上値を上げた日経平均株価が、月曜日も1万7000円台を回復している。25日の外国為替市場では円相場も1ドル=118円台に入り、じりじりと円安方向に向かう展開となっている。年初からのリスクオフの流れがリスクオンに反転しつつあるように見えるが、本格的な動きにつながるのか。
「ドラギ・マジック、再びか」。22日、市場関係者の間ではこうした声が聞かれた。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、追加緩和への期待をにおわせるだけで、年初から市場を覆っていた沈滞ムードを払拭して見せた。 「今の動きが本格的なリスクオンにつながるかどうかを見るには、今週の日銀の金融政策発表後の株価の動きが1つの鍵になる」。三菱東京UFJ銀行の天達泰章シニアアナリストはこう指摘する。 天達氏は「今週の金融政策決定会合で日銀の追加緩和はない」とみている。その理由として挙げるのが、1月に公表された地域経済報告(さくらレポート)だ。東海地方の景気情勢が「緩やかに拡大している」に上方修正されたが、拡大という強い表現から、景気は日銀のシナリオ通りに改善しているという日銀の自信が垣間見えると指摘する。 ただ追加緩和論が浮上する市場では、緩和がなかったとなれば株は失望売りされることが予想される。「そこで株価が持ちこたえれば」(天達氏)、現在のリスクオン相場が持続するかを見極める上での1つの判断材料になるだろう。 もっと冷めた見方もある。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「今の相場は年初からの3週間がひどすぎたことの巻き戻しでしかない」と指摘する。ECBや日銀の追加緩和があろうとなかろうと、市況悪化の根本原因である中国経済の不安払拭にはつながらないという見立てだ。それこそ中国政府による大型の財政出動でもないと、状況は改善されないのかもしれない。 今週は日銀の金融政策決定会合と米連邦公開市場委員会(FOMC)があり、世界の市場関係者がその結果を固唾をのんで見守っている。ただ日米欧の金融政策がどうなろうと、今年も中国経済に翻弄される1年となることは間違いなさそうだ。
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