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日本の巨大年金基金はこうしてカモられる - 岩本沙弓 現場主義の経済学
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20160122-00163213-newsweek-nb
ニューズウィーク日本版 2016/1/22 18:40 岩本沙弓
2016年の年明けから随分と相場も動いています。波乱の幕開けなどとする指摘が多いのですが、クリスマスからお正月まで休暇気分が抜けないのは実は日本人だけ。相場取引の現場ではクリスマス以降は各国おしなべて通常通りの業務となります。一斉に休みを取るという点ではお盆の時期も同じなのですが、日本国民が休暇気分に浸っていても世界は全く違います。そこで、休暇中の日本人に不意打ちを食らわすような、投機的な動きも含めて、大きな変動が年末年始やお盆の時期にはままあるのものです。
苦言を呈すようですが、相場に携わっていてながら、年末年始の動きを波乱と感じたのであれば、それは事前準備が万端でないと自ら吐露しているようなもの。もちろん、取引をしながら休みを取ることはいっこうに構わないのですが、休暇中に何があろうとも、天災人災で相場が休場しようとも、極論で言うなら戦争で市場が閉鎖されてしまっても、それでも持ち続けていられる株を持つというのが投資の基本でしょう。数日、数週間、あるいは数年後に市場が再開した際に適正価格で株価が成立するのかどうか。成立するのであれば問題ないわけです。一方、投機であれば休暇中、ポジション=持ち高を売りでも買いでも一切持たないというのが基本の「キ」です。短期的な市場の変動を狙っているにも関わらず、休暇で価格の変動を追いかけきれないなら休み前に撤収しておく。当たり前の話です。
いつ参入し、いつ撤収するのか、それは投資でも投機でも、始める前から自身の取引ルールとして決めるべきことで、入口の時点で出口も全て決まっているのが前提です。出口が決まっている以上、どんな投資・投機をしても、どんなに市場がボラタイルでも狼狽することはありえません。
相場指南はこのコラムのメインテーマではありませんのでこの辺りにするとして、昨年末から2016年1月20日時点の終値ベースで比較すると、北南米、欧州の主要株式市場の下落率は次の通りとなっています。
NYダウ 工業株30種 -9.5%
S&P 500種 -9.0%
ナスダック 総合指数 -10.7%
S&P トロント総合指数 -9.0%
メキシコ ボルサ指数 -5.0%
ブラジル ボベスパ指数 -12.4%
ユーロ・ストックス50指数 -12.3%
FTSE100指数 -9.1%
フランス CAC40指数 -11.0%
ドイツ DAX指数 -12.6%
対して日経平均はハンセン指数と同じ−13.8%です。世界同時株安などといって、さも各国の主要株価の下落に日経平均株価が引きずられているようなイメージを醸し出していますが、それをいうなら世界的な株安を牽引している2トップの1つが日本と言えるでしょう。
主要株価とは言えませんが、サウジアラビアのタダウル全株指数はさすがに原油安を受けて昨年末から21.01%の大幅下落になっていますが、その市場規模は微々たるものです。
そもそも原油安で苦しくなるのは産油国であり、逆に多大なメリットを受けるのは原油を輸入に依存しているアジア、欧州、そして日本です。原油価格の値下がりによって、輸入国から原油輸出国へと支払われる原油代金は大幅に引き下がります。輸入国は払うはずだった金額を払わずに済むわけですから、日本もその分得をしたことになります。
非常に大まかに、原油価格は2015年を通じて1バレルあたり 50 ドル以上の下落を見ました。仮に他のすべての定数が一定ならば、年間50ドルの値下がりは 原油輸出国から輸入国へ約6000 億ドル以上の所得移転を生じさせ、産油国の損=欧州とアジアが主な受益者となることは米財務省も2015年10月の為替報告書でも指摘しています。(P33のAnnexIのグラフがわかりやすいと思います。)
果たして原油安のメリットを日本国民全体が享受しきれているか、という問題は別にありますが、日本の実体経済全体から鑑みれば、原油の大幅安があればこそ辛うじて底抜けせずに済んだ、との見立てもできます。実体経済にとってはプラスであるはずの材料を、株式市場への影響としてだけ捉え、株価低迷の主たる要因とする報道にも首を傾げざるを得ません。
短期的に投機的な動きがあったとしても実体が強固であれば、株価は適正価格に戻ってくるはず。ポイントはこれまでの日経平均株価が日本の実体経済を反映した水準であったのか、ということになりますが、実のところはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的基金を使って、半ば力づくで押し上げてきた相場です。
GPIFが扱う基金は約135兆円と巨額で、その資金の一部が買いで動けば、リアルなお金が市場に入ってくるわけですから、一時的に株価は上昇します。しかし、実体を鑑みないまま購入すれば、市場価格を歪めることになります。そして、実体経済を置き去りのままの歪んだ株価であれば、そのしっぺ返しは(それがこのステージになるのか、もっと先になるのかは別として、最終的には)大変手痛いものになるのは間違いありません。であるからこそ、実情からかけ離れてもなお株価さえ上がれば良しとするような、人為的な操作は慎むべきなのです。
これまでのところ株や円安でひと儲けしたという人もいるでしょう。GPIFの基金も株価が上昇すれば収益が増え、下落すれば損失が出ます。しかし、これは実現益や実現損ではなく、評価損益に過ぎません。相場取引というのは買ったものは売る、売ったものは買い戻す、この売り買い2つの作業をして初めて完結したとことになります。買っただけの株価が上昇する中、評価した際に収益が出たところで、それは取引の途中のことです。実現益として懐に入れない限り、評価益などというものは所詮、砂上の楼閣に過ぎません。
逆に、評価損だけで運用のまずさを指摘するのも適当ではありません。実現益や実現損として確定しないうちは、相場動向次第で損した得したの水かけ論に終始するだけです。
問題は評価損益の部分ではなく、そもそも国民の大切な資産である年金基金を市場リスクに漫然と晒してもいいものなのか?という根源的な部分です。そちらの本質的な議論が当初から余りに不足していると言わざるをえません。
各国それぞれ年金基金がありますが、例えば米国の代表的な社会保障制度に老齢・遺族・障害年金(OASDI)があります。社会保障年金(Social Security)と呼ばれ、米連邦政府の社会保障庁(Social Security Administration、略称SSA)が運営をしています。日本以上にこの米国の公的年金は積立金を保有していて、日本円に換算すると約320兆円にもなります。しかも、OASDIの場合は全額を米国債での運用と法律で定めており、現在は米国債の中でも、特別債での運用のみとなっています。米国債に限定する理由として、巨額の運用が市場に与える影響や安全性を重視する様子がSSAのQ&Aの内容からもうかがえます。
Q:どのように(OASDIの運用している)信託基金は投資されているのですか?
A:法律により、信託基金の歳入については、日々、元金と利子の両方が、連邦政府によって保証されている有価証券に投資されなければなりません。信託基金が保有するすべての有価証券は、米国財務省證券の「特別債」となります。このような有価証券は信託資金だけが購入可能とされています。
過去には、一般でも手に入る、市場取引されている米国債を信託基金が保持していたこともありましたが、市場取引される有価証券とは異なり、特別債はいつでも額面価格で換金することができます。取引される有価証券は、自由市場の影響下にあり満期になる前に売った場合に、損失を被ることも、あるいは利益を得ることもあります。特別債への投資は、現金で資産を保持するのと同様の、事態の変化に対する適応性を信託基金が保持することにつながるのです。
株式は元本の保証がないのに対して、債券は元本+利息が保証されるものです。その債券のなかでも最も安全な米国債に投資すべしというわけです。翻ってGPIFですが、そもそも日々の売買代金がわずか数兆円と市場規模の小さい東証一部市場に30兆円から40兆円近くの資金を投下するのですから、リーマンショックのような一日で市場が急転するような事態になった場合に、現金に換金することもままならない状況に陥る可能性があります。
米国と言えば市場主義とのイメージから株式投資などもっとも積極的にしているのではと思われるかもしれません。確かにカリフォルニア州職員退職年金基金(英語の頭文字をとってCalpers、「カルパース」との通称名で呼ばれる)などは基金の50%以上を株式で運用してはいます。が、こちらはあくまでも「カルフォルニア州」の「公務員」の年金基金に過ぎず、その規模は30兆円前後とGPIFともOASDIとも比べものになりません。米国全体の公的年金の積立については余計な収益性を期待せず、元本割れしない事を最優先にと非常に保守的なスタンスを貫いているのです。
株式投資の唯一かつ明白なメリットは、基金の収益を増やす可能性です。しかしながらそれは表裏一体であり、主なデメリットにもなりえます。どうなるかもわからない将来の収益だけを見込んでデメリットを鑑みないのはおかしな話で、国民の大切な資産であるからこそ、たとえ見劣りはしても債券の金利による利息収入の安定性と元本保障を確保する必要があるというのが米国のスタンスでもあります。
OASDIやGPIFなどの大規模基金が株式市場に入ってくれば、大量の株式購入が発生するため株価にも大きな影響を与えることになります。民間企業の運営への株主としての影響といった問題も生じてきます。そして、実務面として、巨額の資金をリスクの高い運用に振り分けるのであれば、相当数のスタッフを要し、対象企業の財務状況のレビューを継続的に行うなど膨大なポートフォリオ管理が必要です。そのための破格の管理・点検コストも付随してきます。ちなみにカナダの公的年金は基金の規模は30兆円前後で、株式投資も50%ですが、人員は1000人。カナダにしても先述のカルパースにしても基金自体が主体性を持って運用に臨んでいます。GPIFはわずか80数名ですから外部委託をする以外方法はなし。倫理面での公正性や清廉性が保てるのか、主体性はもちろんのこと、投資をする際のコスト面や運用面での有効性、妥当性を的確に判断出来るのか。
本来、政府が注力するのは株価の上昇そのものではなく、実体経済の回復、増強のはず。であるからこそ、成果として官邸が株価上昇を掲げることには本質的に違和感を覚えるものです。目先の株価上昇を成果とすることだけに目を奪われ、GPIFの出口戦略が明確化されてない。今頃になって直接投資の話が出てきていますが、改革とは名ばかりの、あくまでも政治主導で、巨額基金を運用する際の根本的な方式・方針もガバナンスも曖昧なまま見切り発車をしてきた証左でもあるでしょう。
主体性も戦略も持たない投資家は「カモ」にもなりやすいものです。株価が急落して初めて、国民の資産の毀損とともに、問題の所在が白日に晒されるのでは遅すぎます。
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