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武田薬品工業本社(「Wikipedia」より/Lombroso)
武田薬品の危機…収益悪化で世界トップ10入りの夢が頓挫、大型M&A軒並み失敗
http://biz-journal.jp/2016/01/post_13411.html
2016.01.22 文=編集部 Business Journal
2016年は申(さる)年で戦後2度目の「丙申(ひのえ さる)」となり、社会は激動するといわれている。
欧米製薬大手の間では、事業の再編が加速している。仏サノフィと独ベーリンガーインゲルハイムは15年12月、両社の事業交換に向けて交渉に入った。サノフィは大衆薬部門をベーリンガーから取得し、代わりに動物用医薬品部門をベーリンガーに譲渡する。動いたのは4月に就任したばかりのサノフィのオリビエ・ブランディクール最高経営責任者。再編の仕掛け人と呼ばれている。
両社の事業交換が成立すれば、サノフィの大衆薬の売上高は業界トップクラスに浮上。ベーリンガーは動物薬で業界2位になる。ベーリンガーの子会社である日本の大衆薬大手、エスエス製薬(石橋利哉社長、非上場)はサノフィに移る。米製薬大手のファイザーは15年11月、アイルランドの同業アラガンとの合併で合意した。買収総額は19兆2000億円(1600億ドル)に上り、製薬業界のM&A(合併・買収)では最大規模になる。
日本の製薬業界は長きにわたり太平の夢をむさぼってきた。国内の大型再編は05年の山之内製薬と藤沢薬品工業の合併(現アステラス製薬)、三共と第一製薬の経営統合(現第一三共)以来、10年間途絶えたままだ。
「日本には世界のベスト10に入るような製薬会社が1社もない。合併して大きな会社をつくるべきだ」と菅義偉官房長官は、14年春の産業力競争会議で武田薬品工業の長谷川閑史社長(当時)に檄を飛ばした。だが、笛吹けど踊らずの状態が続いてきた。
業を煮やした厚生労働省は、15年9月に発表した「医薬品産業強化総合戦略」のなかで、「日本の製薬メーカーもM&A等による事業拡大も視野に入れるべき」と踏み込んだ。決め手は政府が安価な後発(ジェネリック)医薬品の普及率を20年度までに8割以上にする方針を打ち出したこと。これが新薬メーカー再編の背中を押すことになる。
主戦場は、がんや認知症など新薬開発の難易度が高いバイオ医薬品だ。小野薬品工業はがん免疫薬「オプジーボ」が肺がん治療薬として承認され、これを材料に株価は急騰。15年12月18日には2万2400円と上場来高値をつけた。ただ、1月14日には1万8000円まで値下がりした。
■カギ握る銀行
今後、銀行主導の再編もあり得る。
三菱東京UFJ銀行をメインバンクとする製薬会社は、小野薬品のほか排尿障害改善薬の日本新薬、慢性疼痛治療薬の持田製薬などがある。三菱ケミカルホールディングスの傘下の多発性硬化症薬の田辺三菱製薬は統合の嵐のなかで、どう生き残りを図るのか。
三井住友銀行系では、住友化学傘下の抗精神病薬の大日本住友製薬と塩野義製薬に再編の可能性がある。塩野義は高脂血症薬という切り札を持っており魅力的。手代木功(てしろぎ・いさお)社長のもと、過去4年間で株価は6倍になった。塩野義を中心に三井住友銀行系は回ることになるかもしれない。
みずほ銀行がメインの企業のなかでは、カテーテルなど心臓血管領域に強みをもつテルモが医薬品メーカーの買収に高い関心を示している。糖尿病薬のキッセイ薬品工業や気管支ぜんそく薬のキョーリン製薬ホールディングスの主力銀行も、みずほである。胃腸薬のわかもと製薬の筆頭株主はキッセイ薬品だ。
大塚ホールディングスは主力の抗精神病薬が米国で特許切れ。M&Aに動く可能性が高い。地銀の阿波銀行とりそな銀行がメインだ。認知症薬、抗潰瘍薬を世界展開しているエーザイは独立路線を堅持できるかどうかが焦点。16年3月期の売上高は5500億円の見込みだが、1兆円企業にならないと苦しい。メインは埼玉りそな銀行だ。
エーザイは得意としてきた消化器系分野を、より効率的な研究開発体制を整えるため分社化し、味の素の製薬子会社と統合する。化粧品の原料や検査薬の事業売却も決めた。認知症とがんの新薬開発に経営資源を集中する。
■勢力地図が大きく変化の可能性も
M&Aを仕掛ける側のメインプレーヤーになる可能性が高いのは、富士フイルムホールディングスだ。18年度にも血液がんの抗がん剤を発売する。米国で臨床試験から治験に進むことを決めたほか、日本では治験を実施中だ。がん分野で同社初の薬となる。「医薬品事業を成長の牽引役にする」と古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)は明言している。東レも注目される。関節機能改善薬の科研製薬の大株主(4.7%を出資)だ。
製薬業界の最大の関心事は、国内最大手である武田薬品工業。世界トップ10入りを目指していたが、海外M&Aがうまくいかず収益が悪化し17位(14年)まで後退した。国内2位のアステラス製薬は前立腺がんの薬などが伸びており、連続最高益を続けている。武田と好対照だ。武田は筆頭株主(7.2%を出資)の、婦人科系、泌尿器系に強いあすか製薬(旧・帝国臓器製薬)を吸収合併するだけでは足りない。
政府が製薬再編の旗を本気で振るとすれば、財務大臣名義で33.3%を出資しているJT(日本たばこ産業)を巻き込むことになるかもしれない。もしJT・武田連合になれば、世界のメガファーマと戦う体制が整うが、可能性は低いとされる。
もうひとつ世界的な会社をつくるなら、アステラスと第一三共の大同団結だ。第一三共はインドのジェネリック医薬品メーカーの大型買収で大火傷をした。
日医工(年商約1400億円)、沢井製薬(同1200億円)、東和薬品(同800億円)のジェネリック御三家も安閑としてはいられない。ジェネリックが売り上げの8割に達する日本ケミファ(同360億円)を取り込むと勢力地図が大きく変化する。
最後は市販薬最大手でドリンク剤、風邪薬、発毛剤が3本柱の大正製薬ホールディングス。医療用医薬品の分野の強化が急務である。連結子会社の大正富山医薬品がM&Aを仕掛ける可能性もある。
(文=編集部)
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