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ブリヂストンの工場(「Wikipedia」より/Wiki591801)
ブリヂストンを覆う暗雲…最重要の米国戦略が頓挫、よぎった巨額買収の悪夢
http://biz-journal.jp/2016/01/post_13353.html
2016.01.19 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
ブリヂストンが利益の柱である米国事業強化策の練り直しを迫られることになった。米国事業を強化するための重要な施策だった米国タイヤ販売大手ペップ・ボーイズの買収に失敗したためだ。
ブリヂストンがペップの買収で最終合意したのは2015年10月26日。ペップは自動車アフターマーケット大手で、全米35州とプエルトリコに800店舗以上の販売ネットワークを展開している。「ファイアストン・コンプリート・オートケア」などのブランドで、全米に販売代理店を含めると5000店舗以上のタイヤ小売店を展開しているブリヂストンは、ペップの株式を1株当たり15ドルで公開買い付け、16年初に総額8億3500万ドル(約1002億円)で買収することで合意。ペップ買収によって、ブリヂストンの全米でのタイヤ小売直営店数は2200店舗から一気に約35%拡大する計画だった。
ブリヂストンがペップの買収を決めたのは、タイヤ販売と利益の柱である米国事業を強化するためだ。仏ミシュランとタイヤ業界トップの座をかけて覇権を争うブリヂストンは、経営の最終目標として「業界において全てに『断トツ』」を掲げており、米国事業を強化することはミシュランを引き離すためにも最重要課題となっている。
米国タイヤ市場シェアは、小売店の意向が大きく左右する。特にペップのような大手チェーンは価格交渉やシェアの面で強い影響力を保持しており、その意向がブリヂストンの業績やシェアの動向にも直結しかねないほどだ。
昨年、ブリヂストン、ミシュランに続くタイヤ世界3位の米国グッドイヤーと同6位の住友ゴム工業が、提携を解消した。これを機に、グッドイヤー、住友ゴムそれぞれが米国でのタイヤ事業を強化するなど、今後販売競争が激化する見通し。ブリヂストンとしては、ペップ買収により米国市場で影響力を持つことがシェアアップと収益確保には重要で、ミシュランと差別化をするためにも必要な戦略だった。
■買収断念
そのブリヂストンの戦略に立ちふさがったのが、著名投資家カール・アイカーン氏だ。昨年12月、アイカーン氏はペップ株式の12.12%を保有していると報告するとともに、ペップ株式をブリヂストンを0.50ドル上回る15.50ドルで買い付けると公表した。
これを受けてブリヂストン側も昨年12月11日、株式買い付け価格を15.50ドルに引き上げると発表。さらにアイカーン氏が12月21日に16.50ドルに引き上げると、ブリヂストン側もこれに対抗、12月24日には17.0ドルへ引き上げると公表し、買収合戦の様相を呈してきた。
最終的にアイカーン氏は18.50ドルにまで引き上げることを提案、ブリヂストン側は昨年12月29日に「追加提案は行わない」と公表して、ペップ買収を断念した。買収価格が当初計画から2割程度上回ったためだ。もともとブリヂストンがペップの買収を決断したきっかけは、業績が悪化していたペップ側からの株式売却提案だった。全米販売ネットワークと業績から採算を確保できる水準として、1000億円で買収することを決めた。
結局、アイカーン氏の登場による買収価格の上昇を受け、「全米のネットワークは魅力的だが、投資を回収できないと判断した」(ブリヂストン関係者)と見られる。
■苦い経験
ブリヂストンは1988年に米国事業を強化するため、ファイアストンとの資本提携で合意した後、伊ピレリがこれに対抗するように買収を公表した。このため、ブリヂストンはファイアストンを買収する方針に転換。最終的にその買収には成功したものの、買収価格はピレリが最初に提案した価格の1.38倍にまで膨れ上がった。当時のブリヂストンのトップは「独の販売網拡大には長い時間と労力がかかり、ファイアストンをピレリに取られたらと永久にチャンスを失うと考え、時間を買ったのです」と後に述べている。
しかし、ファイアストンは買収後も業績悪化で赤字を垂れ流し、フォード車のリコール問題も発生するなど、長期間ブリヂストンのお荷物となった。
同じ過ちを繰り返したくなかったブリヂストン首脳陣は、今回再び大きな負担になる可能性もあったペップの買収からあっさりと手を引いた。代わりに、米国でコントロールできるタイヤ小売店ネットワークの拡充という大きな課題は残ったままだ。ブリヂストンとしては、迫りくるミシュランを突き放すためにも、米国事業を強化する新たな戦略の練り直しを迫られることは必至。
ペップ買収見送りが将来のブリヂストンにとって「吉」と出るか、「凶」と出るのか。業界関係者は、今後の同社の米国戦略に関する次の一手に注目している。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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