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公的年金の運用損に「怒り」を覚える人がいてもおかしくないが、その怒りは正しい方向に向けるべきだ
相場大荒れでまたも大損失!? 公的年金の「運用責任」は誰にあるか
http://diamond.jp/articles/-/84466
2016年1月13日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■年初から大荒れの相場展開 早速「公的年金の損失額」が話題に
世界の資本市場は、年初から大荒れの展開となった。原因は、直接的には中国の経済低迷と株式市場の混乱だが、原油をはじめとする資源価格低下と新興国経済・財政の問題や、昨年末に行われた米国FRBの利上げも背景にあるのではないかと思われる。
日経平均で見た日本の株価は、大発会の1月4日から1月12日まで6取引日連続で下落し、1万7200円台で、1万7000円割れ寸前に迫っている。ちなみに、2014年末は1万7450円なので、ここまでの数日で、昨年の上昇分を全て吐き出した勘定になる(もっとも「運用利回り」としては年率1%台後半の配当があるので、まだわずかにプラスの計算だ)。
こうした状況になると、メディアで話題になるのが「公的年金の損失額」だ。新年も、例えば「日刊ゲンダイ」(9日売りの1月11日号)が早速、「株年初来5日続落 年金4兆円損失」「この責任は誰が取るのか もはや制御不能となった鉄火場相場の現状とそこに公的マネーをぶち込む危うさと狂気」「嗚呼 年金がどんどん消えていく」と賑やかに取り上げている。
公的年金の運用責任の所在については、12月2日付の本連載「GPIF『損失8兆円』で怒りを向けるべきは誰か?」でも取り上げており、本稿はその再論だが、要点の再確認と共に、「責任」についてもう少し掘り下げて考えてみたい。公的年金の運用損失に「責任があるとすれば」、誰にあるのだろうか?
■公的年金積立金の損失額簡便計算 日経平均が1000円下がれば4兆円の損
読者をはじめとして、世間のニュースに関心をお持ちの方でも、資本市場の数字で絶えず意識の中にあるのは日経平均とドル/円の為替レートくらいだろう。この際、後の議論にリアリティを持たせるために、日経平均が変動すると、公的年金の積立金がどのくらい変動するのか(基本ポートフォリオで見た運用計画としては「どのくらい変動すべき」なのか)、ざっくりと見当を付けておこう。
最近の相場下落で金額はもう少し減っているはずだが、GPIFが運用する資産額は、ざっと140兆円だ。そして、運用計画の「基本ポートフォリオ」は、「国内株式」が25%、「外国株式」が25%、「外国債券」が15%、「国内債券」が35%、なので、計画通りに運用したとして、GPIFが保有する国内株式はざっと35兆円ということになる。ここで、計算がしやすいように日経平均を1万7500円とすると、日経平均が500円動く毎に、GPIFの保有する株式時価が1兆円変動することになる。
多くの場合、日本の株価と外国の株価は同時・同方向に上下している。また、外国株式と外国債券に影響する為替レートと国内株式の関係も、近時、おおむね「円高なら、株安に」「円安なら、株高に」となっている。大雑把には、国内株で損が出ている時には、外国資産でも似たような損が出ている場合が多い、と考えていていい。今回も、NYダウは下落しているし、対ドルの為替レートは円高になっている(読者には、計算が大雑把すぎると腹を立てないでいただきたい。相場変動と公的年金の損得の関係を「実感」していただくことが目的なのだから)。
ざっくり言って、GPIFが運用している公的年金の積立金は、株価(日経平均)が500円下がると2兆円、1000円下がると4兆円くらいの損が出ていておかしくないものなのだ。
ついでに計算すると、公的年金の積立金の損得には、年金の現在の受給者、現在保険料を払っている加入者、将来の加入者、さらに年金財政の一部国庫負担を通じて納税者全般が関わっている。すなわち、最大の数で約1億2500万人が、この積立金を間接的に保有していると見ていい。
つまり、「140兆円÷1億2500万人」と計算すると、国民1人当たり112万円の財産を、GPIFに運用してもらっている計算になる。厚生年金に加入している方、所得が大きな方は、実質的な影響はもっと大きいし、家族の分まで考えると、おそらくはダイヤモンド・オンラインの読者の大半は、これ以上の金額を運用委託しているつもりで物事を考えていいはずだ。
前回の拙稿の標題(注;チェックはできるので書き手も責任を負うが、通常は、編集部が考えたものがそのまま標題になる)にあるように、公的年金の運用損に「怒り」を覚える人がいてもおかしくはない。
ただし、その怒りは、正しい方向に向けるべきだ。
■GPIFの「運用部隊」は悪くない 問題は「基本ポートフォリオ」にある
前回の拙稿でも書いたが、昨年の7〜9月期も、今年の年初も、「公的年金の運用損」の原因の大半は、先に挙げた「基本ポートフォリオ」にある。
CIO(投資管理責任者)の水野弘道氏を筆頭とするGPIFの運用部隊に対しては、仮に、基本ポートフォリオから計算されるある期間の損失額が4兆円である場合、同じ期間の実際の運用損が3兆5000億円なら「上手くやった!」と褒めるべきだし、損が4兆5000億円なら「この期間の運用は失敗だった」と考えるのがフェアだ。
なお、GPIFのリスク資産への投資配分比率は、昨年9月末時点から、その後の内外の株価の上昇(チャイナショックからの戻り)で基本ポートフォリオの少し下くらいまで積み上がったと推測されるが、その後に、基本ポートフォリオの比率を超えたのかどうかに関して、筆者は情報を全く持っていない。昨年の10〜12月期、そして、今年に入ってから、基本ポートフォリオのパフォーマンスに勝っているのか、負けているのかは、今後の発表を待つしかない。
先に挙げた「日刊ゲンダイ」の記事の本文には、「GPIFの運用下手は市場関係者の間でお笑い草で、年金資金の巨額損失は当然の懸念だ」などとあるが、基本ポートフォリオとの比較抜きに運用の上手・下手を論じることは全く不適当であり、この書き方は、「バカでかつ失礼」だと思う。
ちなみに、安倍政権に批判的な論調で記事を書く傾向の強い同紙の場合、事態を正確に把握していれば、「安倍政権の責任」をもっと強調できたのではないだろうか。
■運用責任の実質的所在は何処の誰にあるのか
前述のように公的年金の損得の大半を説明する要因は「基本ポートフォリオ」である。
それでは、このGPIFの基本ポートフォリオに対する実質的な責任が何処の誰にあるのかは、なかなか複雑な問題だ。ただ、複雑ではあるのだが、はっきりさせておく方がいい問題でもある。
現在の基本ポートフォリオは、GPIFの運用委員会(安倍政権の意を受けて、本件の検討のために、改組されていた)の答申を受けて、GPIFがその案を理事長の責任で採択し、厚労大臣に認可を求めて決定された。
基本ポートフォリオに関しては、形式的には塩崎恭久厚生労働大臣が責任者であると考えるのが妥当だ。ただし、理事長以下のGPIFスタッフ(主に基本ポーフォリオの策定に関わった者)は責任者に情報を上げた部下として応分の責任があろうし、運用委員会のメンバーには「専門家」としての責任がある。
発表されたのは、一昨年の10月末で、日銀の追加緩和(俗称「黒田バズーカ第二弾」)と同日であった。ちなみに、その日の日経平均終値は1万6413円だった。もちろん、この日にポートフォリオを基本ポートフォリオに合わせるのは現実的に無理だ。2014年の12月末が1万7450円、年度で見るとして2015年3月末が1万9206円であり、大まかにはこのあたりが評価のスタート点だろう。
基本ポートフォリオを検討するGPIFの運用委員会は、異様なまでに集中した世間の関心の下で、2015年の夏を中心とする時期に基本ポートフォリオの策定作業を行った。この間、政府に近いと見られる外部有識者の一部からは、日本株で20%は最低必要だろうと述べるような意見表明があり、「20%」が注目されるレベルとなった。
仮に、運用委員会が相場に与える影響を意識したとすれば、「20%」を下回ると、市場には「失望売り」が出るのではないかという予想をした可能性が大きいし、事実上の任命者と思しき政府の希望を「忖度」すると、「20%」を下回らない数字が無難だろうと考えたのではないか。もちろん、委員会に関する情報は管理されていたので、これは、筆者の推測に過ぎない。
さらに推測すると、政府筋では、「日銀の債券(国債買い)+GPIFの株買い」の実質的な効果が、日銀による多額の株式買いと同等であると考えて(それ自体は大きな間違いではない)、デフレ対策と景気対策を兼ねた大きな効果を持つと期待した人がいたのではないか。
■怒りの矛先はピンポイントには厚労大臣 より広くは安倍政権に向けるべき
もちろん、大きな意味では、塩崎厚労大臣の任命者かつ監督者である安倍首相にも責任があるし、安倍首相の意を受けて影響力を行使したとすれば、首相官邸や有識者にも、曖昧だが実質的な責任はあると考えられる。
先のダイヤモンド・オンラインの拙稿末尾に読者に対するアンケートがあり、「7〜9月期のGPIF運用実績が約8兆円の損失になったことに、あなたは怒りや不安を感じる?」という問いに対して、57.46%の読者が「感じる」と答えているが、「日経平均1000円の上下で、損得は4兆円」(国民1人当たり3万円強)という振れ幅について不満を感じるのであれば、その矛先は、ピンポイントでは塩崎厚労大臣に、より広くは安倍政権に向けられるべきだ。
ただし、今後株価が急回復して公的年金積立金が急増した場合の「運用上」の主な殊勲者は再び「基本ポートフォリオ」であり、筆頭はこれを維持させた厚労大臣ということになる。
また、例えば、2014年度には、GPIFは、収益率にして12.27%、収益額にして15兆2922億円の運用成果を上げている。損した時にだけ大騒ぎするのはフェアではない。
とはいえ、「株価1000円で、4兆円」は、振れ幅としていささか大きすぎるのではないか、というのが個人的には率直な印象だし、多くの国民がそう思うのではないか。
ことGPIFの運用計画を振り返るとしても、現在の基本ポートフォリオが策定される前には、有識者の検討において、株式投資比率では現在のざっと半分の投資配分で、長期的には年金積立金の運用目標を満たすだろうとされていたのだ。
国家の英知を結集したとしても(当然、皮肉として言っているのだが…)、「ほどほど」を実現することは、なかなか難しいことだ。
■金融緩和策として「株買い」は非力 むしろ弊害の方が懸念される
ついでに申し上げると、デフレ脱却を目指した金融緩和の方法として、これから株式を買うことは、あまり有効な方策ではないし、弊害が大きいと筆者は考えている。
アベノミクスのスタート当初のように、日本の株価が明らかに割安な場合、株式を買うことで株価は上がるし、上がった株価は維持される理屈だが、現在のように株価に対する高安感が拮抗する状況では、例えば日銀が株式を買っても、「株価は高い」「今のうちに売っておきたい」と思う投資家と株主が入れ替わるだけで、効果が乏しい。公的資金の買いで一時的に上昇したとしても、株価はやがて元に戻ってしまう公算が大きい。
この場合、マネタリーベースを増やす効果と、市場から株式を吸い上げて民間のポートフォリオを変化させる効果があるはずだが、前者は短期的には主に市中銀行の日銀当座預金残高を増やすだけだし、後者は、効果ゼロとは言わないが、「株高→消費増・投資促進→物価上昇」に至る効果は迂遠であり、頼りない。
目標とする「マイルドなインフレ(年率2%程度)」を実現するには、国債の購入を通じたマネタリーベースの増額に加えて、財政的な需要追加を、減税(増税の延期も含めて)ないし給付金が広く行き渡るような形で行うことが、効果的だと考える。
公的年金資金や日銀による大量の株式購入は、それが、(1)市場への介入であること、(2)政府の民間企業経営に対する介入やインサイダー投資の心配をもたらすこと、(3)議決権が公的機関に集中することが望ましくないこと、(4)政府が株価に介入すると正しい株価が分かりにくくなること、(5)「出口」が難しいこと(国債なら、満期に償還されるが、株式はそうはいかない。特に日銀は保有株式を将来どうするつもりなのだろうか?)、などの弊害ないしその心配をもたらす。
公的年金の運用の基本方針からして、政府から大きな実質的影響を受けていたとすれば、これらの心配は単なる杞憂ではあるまい。
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