中国ハイテク業界、今年はさらに厳しい状況に By RICK CAREW AND JURO OSAWA 2016 年 1 月 4 日 16:41 JST 昨年、中国のハイテク企業に多額の資金を振り向けた投資家は大きな成果を得た。ただ有望な投資対象はすでに物色されたこともあり、今年の中国ハイテク企業は、投資家から高い期待を寄せられ、より厳しい状況に直面する公算が大きい。 中国の多くの非公開新興企業は昨年、バリュエーションが2倍余りになり、投資家に高リターンをもたらした。また米国上場の中国ハイテク企業の株主は、相次ぐマネジメント・バイアウト(MBO、経営陣による買収)の恩恵に浴した。CBインサイツとディールロジックのデータによると、2015年に中国の新興企業や非公開化へと向かった新規資金は600億ドル(約7兆2000億円)強となり、14年の139億ドルを大幅に上回った。 15年には、投資家はシリコンバレーで一部の投資案件の評価を引き下げた一方、中国の非公開新興企業の持ち分の評価額を引き上げた。大半の投資家は保有する新興企業株の評価額を開示しなくてもよい。こうした企業の評価額は当該企業の直近の資金調達ラウンドに基づくことが多い。 投資家は中国のテクノロジー企業に高い期待を持っている。果たして投資家は期待通りの成果を得られるだろうか? ミューチュアルファンド「フィデリティ・ブルーチップ・グロース・ファンド」では、一部のシリコンバレーの新興企業の評価を引き下げたものの、1月に投資した150億ドルの中国の共同購入サイト、美団網(Meituan.com)の評価を11月末までに20%強引き上げた。また、中国の配車サービス会社、滴滴快的の評価額は2月の60億ドルから9月の160億ドルへと3倍近くに膨らんだ。 こうした評価額の上昇や多くの新興企業が現金を燃焼する状況をにらんで慎重になった投資家もいる。ここ数カ月で一部の投資家は規模の大きな新興企業に新たな資金を投入することをちゅうちょするようになった。中国では株式市場が不安定なことから新規株式公開(IPO)を凍結していたことが背景にある。 オールスターズ・インベストメントの創業者リチャード・ジ氏は、株式市場の乱高下がベンチャー投資市場に波及していると指摘した。同社は460億ドルのスマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ)や滴滴快的に投資している。同氏は「総じてバリュエーションは頭打ちとなり、企業は投資家により良い条件を提示するようになった」と述べた。 投資家や金融関係者によると、資金調達環境が厳しくなってきたため起業家は支出を抑えたりライバル企業との合併を検討したりするようになっている。 滴滴快的の程維・会長兼CEO(昨年12月) PHOTO: ZUMA PRESS 中国のブティック型投資銀行、華興資本(チャイナルネサンス)の合併・買収(M&A)担当共同責任者、ジェレミー・チョイ氏は、新興企業の創業者は「6〜9カ月後により多くの資金を調達しより高い評価を受けることが可能だと想定すべきではない」とし、「このことはM&A関連の協議を活発にするかもしれない」と述べた。 投資家は中国のハイテク新興企業に対し、顧客獲得のための終わりのない競争に現金を燃焼し続ける代わりに統合するよう促している。15年の最大級のM&Aでは、配車サービス会社同士が合併して滴滴快的が発足したほか、美団網と大衆点評網との合併による150億ドルの新会社が誕生した。投資家は、統合の規模は昨年より縮小するものの、こうした統合のトレンドは今年も続く公算が大きいとみている。 非公開新興企業に対する需要は減少しているが、昨年夏の米国上場中国企業の非公開化の動きは今年にかけて再び勢いを増している。ディールロジックによると、15年には計27件、335億ドル相当(14年は1件、6億6000万ドル相当)だった。 中国ハイテク企業の経営陣は、国内を中心とした投資家に、国内ではるかに高いバリュエーションで再上場することを約束している。12月には、セキュリティーソフトを手掛ける奇虎360科技が1株77ドルという、6月の拘束力のない提示と同じ条件で総額93億ドル相当の非公開化をすることに合意した。その間、9月には、非公開化が完了するか疑問視されたため株価が40%近く下落し42ドルまで下げる場面もあった。 奇虎の非公開化の資金の大半は銀行ローンや中国投資家に販売された投資商品で賄うが、こうした商品の中には当初の投資分の最大7倍のリターンを約束するものもある。 関連記事 企業M&A、2016年も当たり年となるか 中国ハイテク業界、来年はさらに再編進む 近未来の中国経済、成長の担い手はヤッピー 2015年アジア市場ほぼ全滅、何がまずかったか 中国の中間層に開かれる米金融市場への道 個人の投資可能資産は2020年末までに約3610兆円へ By CHUIN-WEI YAP 2016 年 1 月 4 日 16:29 JST
【北京】銀行員のチェン・チンイエさん(30)の知る限り、中国人は言葉の壁やさまざまな規則を乗り越えなければ海外に投資することはできなかった。 だがチェンさんが昨年12月、中国の小規模投資家と米国市場をつなぐことを目的としたスマートフォンアプリの新製品を試した時、その概念は変わった。登録手続きを3分で済ませ、500ドル(約6万円)を入金した翌日、米国市場に上場している中国の宜人貸と諾亜(中国)控股の株主になった。宜人貸はインターネットを介して借り手と貸し手を結びつけるピアツーピア(P2P)融資仲介会社、諾亜は富裕層向け金融サービス会社だ。 チェンさんは「銀行の窓口に行く必要さえなかった」と語った。 こうしたアプリは、中国の金融市場と伝統的な銀行業務を一変させるイノベーションの新たな波で、利益を生む投資先を求めている中国の中間層に米金融市場への道を開いている。人民元相場は下落しており、国内には利用可能な選択肢がほとんどない。 ボストン・コンサルティング・グループの試算によると、中国の個人の投資可能資産は2020年末までに現在の110兆元から196兆元(約3610兆円)に拡大する見通しだ。 チェンさんは積木盒子のプラットフォーム「積木股票」を通じて米国株を購入した。同社の共同創業者、バリー・フリーマン氏は「当社は新しい富裕層をターゲットとしている。この若年層は投資先が限られていて、ネットに移行しつつあり、投資のペースが前の世代よりはるかに速い」と述べた。 新興のネット証券会社、老虎証券も昨年7月、同様のプラットフォームを開設。中国のネットサービス大手、騰訊控股(テンセントホールディングス)が出資する香港の富途証券もアプリで同じサービスを提供している。 老虎証券は電子メールで「投資について、より多様で国際的な観点を持つ1985年以降、90年以降生まれの若い投資家が大幅に増えていることが分かった」と説明した。 同社のような新興企業は、厳しく管理された中国の金融システムから海外への資金流出の一因となっているトレンドに乗りたいと考えている。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、中国経済の減速と元安に伴い、株式や債券を購入するポートフォリオ投資では2015年上半期に中国から正味572億ドルが流出した。前年同期は25億ドルの純流入だった。中国の外貨準備高は昨年11月に約2年ぶりの低水準を記録した。 不動産市場の低迷と昨夏の株価急落を受けて、中国では海外に投資する方法を模索する動きが広がっている。一部の資産運用商品と社債のデフォルト(債務不履行)がそれに拍車をかけた。 積木盒子の董駿・最高経営責任者(CEO)は「中国の投資家は国内株式市場の乱高下を見て、代替投資先を積極的に探し求めており、人民元の価値に大きな不安を抱いている」と語った。 中国には厳しい資本規制などがあるため、積木盒子が運営しているようなアプリは小規模投資家向けだ。若干の例外はあるものの、同国では個人の海外送金額は年間5万ドルに制限されている。アプリ開発会社は、政府の規制に従う責任はユーザーとその銀行にあるとしている。 こうしたサービスが登場する前は、投資家は言葉の問題と中国の厳格な規則に閉口することが多かった。中国の銀行は通常、顧客が資産運用口座を開設する前に100万ドル以上の純資産があることを証明するよう求める。同口座の開設は外国為替取引の要件となっていることが多い。 積木盒子は、投資可能資産が30万〜70万元(約540万〜1260万円)の投資家を呼び込もうとしていると述べた。この新しい市場を開拓するために、新興企業は大抵、最低投資額を設定せず、手数料を低く抑え、すぐに登録できることを強調している。 フリーマン氏によると、積木盒子は積木股票のサービス開始から3日間で5000の米国株口座を開設した。老虎証券は、昨年7月の開業以降で顧客の投資家の数が10倍に増えたことを明らかにした。 北京の新興企業、弥財は中国初の「ロボ・アドバイザー」とする資産運用サービスを開始し、投資家に世界の金融市場へのアクセスを提供している。同社はベターメントやウェルスフロントといった米国のロボ・アドバイザーを手本としている。 積木盒子や老虎証券のサービスでは、顧客が自分でどの株式を購入するか決めるが、ロボ・アドバイザーはアルゴリズムを利用して、顧客のリスク許容度の評価に基づき、主にパッシブ投資家のポートフォリオを運用する。弥財は最低投資額を5000ドルに設定しているが、グレゴリー・バンデンバーグCEOは「引き下げを予定している」と述べた。同社の顧客のポートフォリオ全体で米国市場は現在、約70%を占めている。 こうした企業が抱えるリスクの1つは、資金流出が急に加速した場合、規制当局が各社を警戒するようになることだ。これについて各社はコメントを控えたが、人民銀行が人民元国際化の一環として、中国人の海外投資に関する規制を緩和する方針を示していることを挙げた。人民銀行は問い合わせに応じなかった。 積木盒子のフリーマン氏は「長期的に見ると、米国市場へのアクセスは、国際分散投資が可能になるという真の価値を中国人投資家に与えるだろう」と述べた。 関連記事 フィンテック先進国、中国に見る現状と課題 中国、2016年は改革の正念場に インドと中国、移民の送金データから見える違い 中国の銀行が後遺症によろめいた2015年
中国、今年は改革の正念場に By MARK MAGNIER 2016 年 1 月 4 日 14:55 JST 【北京】中国指導部は今年、早急な景気対策の必要性と、非効率な制度の改革という長期目標とのバランスを図る上で正念場を迎えている。
問題は、数百万もの失業者が出た場合に起こり得る社会不安を招くことなく、望まれない製品を過剰生産する国有企業を政府が改革、もしくは閉鎖できるかどうかだ。昨年は労働争議が倍増したが、労働運動家らは今年さらに増加すると予想している。 中国指導部は昨年12月の中央経済工作会議で、目先の景気急減速を回避するために財政・金融政策手段を用いつつ、経済をより強固な長期基盤に乗せることを目的とした改革を進めると公約した。これが成功すれば、欧州や日本の生産低迷に圧迫された世界経済の支えになるだろう。 広告 エコノミストらは、経済において市場に決定的な役割を担わせるとともに、経済を投資主導から消費主導に切り替えるという2013年の公約を果たすため、政府がこうした大がかりな改革に動き出すことの重要性は増していると指摘する。 中国政府は、一人当たりの国民所得を2020年までの10年間で倍増させると約束しているが、それには同年までの年間成長率を6.5%とする必要がある。中国経済は長期に及ぶ二桁成長を経て、昨年は7%の成長にとどまったとみられている。エコノミストらは、成長率が今年さらに低下すると予想している。 投資銀行ノース・スクエア・ブルー・オークの中国調査部門責任者、オリバー・バロン氏は「中国は長期的な成長減速軌道にあると認識されている。問題はその深刻度だ」とし、「政府がどれほど積極的になるつもりなのかに全てがかかっている」と述べた。 他国の労働コスト低下で中国の競争力が弱まる中、中国製品に対する世界需要の弱さに賃金の上昇が重なり、見通しは複雑さを帯びている。 解決策は必ずしも明確ではないが、中国の目標ははっきりしている。中国指導部は生産を押し上げるため、多額の債務や投資主導型の経済成長への依存といった問題に取り組む必要がある。スタンダード&プアーズ・ファイナンシャル・サービシズによれば、足元の企業債務は中国GDPの160%相当と、2008年の98%を大きく上回る。米国の水準は70%だ。 だが、政府は6回の利下げや数回の預金準備率引き下げ後、成長を支える上で財政支出への依存を高めているため、財政赤字はほぼ確実に増えるだろうとエコノミストらは指摘している。 関連記事 2016年の市場を動かすのはー中国、石油そしてFRB 中国経済、来年は「V字型ではなくL字型」 中国の物価上昇、景気促進策の効果示す 中国自動車市場、販売台数より価格が肝心 中国最大のシェアを握るVWが同国に擁するディーラーの数は、マクドナルドやスターバックスの店舗よりも多い PHOTO: SHENG LI/REUTERS By ABHEEK BHATTACHARYA 2016 年 1 月 4 日 11:13 JST 投資家は世界最大の自動車市場の成長に注目しているが、その将来は価格次第だ。そして状況は良好とはいえないようだ。 2015年1-6月期(上半期)の中国自動車市場で目を引いたのは、価格設定だった。メーカーはあまりに多くの車を供給し、価格引き下げを強いられた。だが、過去2カ月、投資家の注目は再び成長に集まっている。中国では9月下旬に自動車購入時の税金が引き下げられたことを受け、販売台数が上向いたためだ。香港市場ではそれ以来、自動車銘柄が15〜20%上昇している。 だが、価格の問題が消え去ったわけではない。 自動車の供給は依然として過剰だ。10月には、ディーラーへの出荷台数が新車登録台数を11%上回った。サンフォード・バーンスタインのアナリスト、ロビン・チュー氏によると、11月も8%多かったという。在庫の増加は、ディーラーが大幅な値引きを強いられる可能性が高まることを意味する。 中国自動車出荷台数の変動率(前年同期比) ENLARGE 中国自動車出荷台数の変動率(前年同期比) 価格下落の余地を生んでいるもう一つの要因は、多くの部門で、国際基準に比べて価格が依然高すぎることだ。中国では11月の時点で、同じ中型セダンと大型スポーツタイプ多目的車(SUV)の価格が米国より高かった。マッコーリーのデータによれば、独フォルクスワーゲン(VW)の「パサート」は最大37%高い。独BMWなど高級車メーカーはさらにひどく、最大152%高い価格(税金調整前)で販売している。そうした上乗せは、いい時代には普通だったが、需給が変化し、中国当局が多国籍企業の価格を精査するうちに消えていくだろう。 長期的には、最大の価格押し下げ要因は競争になりそうだ。現在の中国市場では、世界の主要自動車ブランドと国内メーカー数十社が競合している。また、自動車ディーラー間の競争もある。 中国では、14年のディーラー1社当たりの自動車販売台数は757台。これに対し、米国では約1000台だった。サンフォードのチュー氏によれば、中国で最大のシェアを握るVWが同国に擁するディーラーの数は、マクドナルドやスターバックスの店舗よりも多く、上海だけで少なくとも78店ある。一つのブランド内でも、ディーラーが互いに利益を奪い合っている。 これらの状況から、中国では自動車販売台数が持続的に伸びたとしても、その恩恵の多くは各社の利益に届く前に価格下落に相殺されそうだ。中国自動車市場への投資家にとって目玉の飛び出そうな価格とは、余りに低い自動車価格を指すのかもしれない。 関連記事 中国自動車市場、米アルコアの悲観は良い兆候 フィンテック先進国、中国に見る現状と課題 http://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AE381_CCARHE_16U_20160103100008.jpg
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