安倍政権のイニシアティブで「消費力」喚起へ、日経平均2万4000円も 2016.1.2(土) 武者 陵司 謹賀新年 2016年 From 武者リサーチ 「消費力の国際競争」が2016年のテーマとなるでしょう。IT革命とグローバリゼーションによる世界的な生産性上昇が進展しています。企業が超過利潤を得る一方、労働と資本の余剰は深刻です。その解決には「消費力の向上=生活水準の向上」が鍵となります。 いち早く米国では国民のサービス消費力が向上し、ほぼ失業が解消、ゼロ金利解除を果たしました。欧州では空前の貯蓄余剰(経常黒字)が積み上がる一方、南欧で消費力の立ち遅れが顕著です。 日本では企業の内部留保が空前規模に膨れ上がる一方、政府の賃上げキャンペーンも功を奏さず、消費力は停滞しています。政策のイニシアティブに期待が高まる局面ですが、安倍政権の実行力には期待が持てそうです。 他方、中国は所得配分の壁が、投資から消費への転換を阻んでいます。改革は困難、しかし財政と金融の弥縫策で景気の底割れ回避の努力が行われ、不安はあるものの一定の経済安定化が期待されます。 「消費力」の振興には、制度改革が必須です。また民主主義の成熟度合いが問われます。各国の経済力の強さ、資本主義の健全さが「消費力」によって検証されようとしているのです。当然投資機会もそこにあるはずです。市場経済の合理性、正当性も問われます。 2016年が新たな世界繁栄の入り口でありますように、皆様の投資活動が実りの多いものでありますように。 武者 陵司 (1) 政策がサプライズをもたらす可能性は高い 失速気味の経済と株価、世界投資家の期待減衰 2016年の世界経済では、IT革命の下で将来の展望が切り開かれつつある米国と、過剰投資の後遺症で急失速している中国との相克、がモチーフをなすだろう。 両者の狭間にある日本経済は、2014年の消費税増税の後遺症、中国経済不振のあおりを受けている。鉱工業生産の回復は2014年以降、完全に頭打ちとなっており、日銀短観による業況見通しも先行きについて緩慢な悪化と予想されるなど、アベノミクススタート当時の力強さは減衰しつつある。また、株価も2015年8月の中国為替切り下げをきっかけとした世界株安以降、上昇力が失われ、世界投資家も日本株に失望、日本株式投資比率を引き下げる動きもみられる。 しかし他方で、企業業績は史上最高で2015年度は15%程度の増益が見込まれている。また企業の内部留保(利益剰余金)は350兆円に達するなど、10年前には大問題であった日本経済の「稼ぐ力」は大きく復元している。ここにある企業所得をいかに広範な需要創造につなげ、成長率の加速を図り、デフレ脱却を確実にするか、政策の発動が強く求められる局面である。 拡大画像表示 政策が市場を驚かせる能力健在、むしろ高まる 安倍政権のイニシアティブが再度待たれる場面であるが、それは期待できるのではないか。何よりも重要なのは、安倍首相がデフレ脱却と成長復元(2020年GDP600兆円)に対して強い決意と実行力を持っていることである。 2016年は金融・財政の両面から、シニカルに見ている市場を驚かせる政策が打ち出されるだろう。2012年11月からのアベノミクス相場第一弾、2014年10月からのQQE2(量的金融緩和第二)相場に次ぐ、第三の政策発動をきっかけとする上昇相場が想定できるのではないか。 拡大画像表示 QQE3必至に、黒田政策懐疑論を払しょくへ 金融政策面では2%インフレ目標の達成が後ずれし、市場では失望感が強まっているが、日銀は12月末に新金融補完措置(買い入れ国債の償還期限延長等)を打ち出し、さらなる量的金融緩和(第三弾)に道を開いた。より長期の国債を買い入れることでさらなるベースマネーの増加が可能になる。 しかし、新金融補完措置の発表が実効の乏しい兵力の逐次投入であると見なされ、株価は乱高下した。また、エコノミストのコンセンサスでは2%のインフレ目標達成は困難とされる中で、円ドル124円はかなりの円安と為替水準に言及したり、2014年には消費税増税の遂行を主張する黒田氏に対し、その毅然たる決意を市場は疑うようになっている。2%インフレが絶対目標であり、為替水準や増税などは主目的に対する従属要因(または主目的を達成するための手段)であるはずなのに、従属要因が主目的を阻害しかねない、と市場は疑い始めている。 そうした市場の懸念を放置しておくわけにはいかず、次のアクションによって払しょくされるだろう。「量的金融緩和は無力であり失敗した、政策を変えるべきだ」という多くの専門家の主張を、黒田総裁は容認することは絶対できない。早晩量的金融緩和第三弾が打ち出されるのではないか。 増税財政再建から成長財政再建へ また財政面では、新年の補正予算、財政出動に加えて、消費税増税の延期などが俎上に上るのではないか。 安倍首相は2017年4月から予定されている消費税2%引き上げ(5兆円弱の増税効果)に際しての軽減税率適応範囲を拡大させ、増税負担の軽減を図った。 そのプロセスでは、世論を誘導し増税推進の既成事実化を図ってきた財務省当局とその代弁者である自民党の税務調査会の指導力を大きく希薄化し、官邸イニシアティブを確立した。安倍首相は2014年12月の総選挙により2015年10月に予定されていた消費税増税を1年半延期したことが正解であったことに、強い自信を持っている。もし予定通り実施されていたなら、日本経済は再度リセッションとデフレに逆戻りし、アベノミクスは失敗、国家100年の計は水泡に帰していたかもしれない。増税推進を主張した財務省、多くの学者とエコノミストは深刻に反省しなければいけない。 今後、米国のように予算作成権限を官僚(財務省)から議会(米国では議会予算局CBO)と官邸(米国では大統領府下の行政管理予算局OMB)へと移行させる方向が見えてくるのではないか。 さしあたっては、20兆円近くに達すると推計される外国為替特別会計の巨額の余剰金などを活用した財政の積み増しが予想される。また場合によっては、2017年の消費税増税が棚上げされることも考えられる。 以下のようなバランスの取れた議論が台頭している。(1)2017年4月に延期された次期の増税実施も慎重でなければならない、(2)デフレ脱却と成長復元を取るか、2%の消費税増税を取るかでは、長期財政バランスの観点から前者の方が望ましい、など。 安倍政権は遅かれ早かれ(消費税増税前か後かは別にして)「増税による財政再建路線から成長による財政再建路線へ」と舵を切るだろう。2016年度予算案によると、アベノミクススタート前の2012年度から4年間で税収は13.6兆円増加、内消費税要因6.3兆円、その他(主に成長要因)7.3兆円となっており、財政再建に成長が最も有効なのは明らかである。 7月に予定されている参議院選挙が衆参両院選挙となる可能性も高まっており、年前半の金融・財政面での経済テコ入れは、市場の予想を上回るサプライズになる可能性がある。 (2) 稼ぐ力を取り戻した今、日本に喫緊の株式評価問題 株高はアベノミクス成功への必須の経路 米国好調、中国不振の狭間にあって、日本株高はデフレ脱却を掲げるアベノミクスの必須の経路と言える。 日本において特に大きい過剰貯蓄は、様々な金融資産間の投資リターン格差を著しく広げている。預金金利はほぼゼロ%、国債利回りは0.3%、配当利回りは2%、REITは3%から6%、株式の益回りは7%、そして過去に投資した事業のリターンは10%以上、と大きく開いている。つまり、同じお金を投下してもリターンには極端なギャップがある。これが今の日本の貯蓄の大きな特徴であるが、リターンが著しく低い預金と国債に日本の国民貯蓄のほぼ7割が吸収されているのである。これはアベノミクスとの関連で、日本の政策への大きなインプリケーションを持っている。 日本経済の課題は、2000年ごろの企業の稼ぐ力の衰弱ではもはやない。企業の稼ぐ力は大きく向上し、企業収益は史上最高となっている。にもかかわらず、景気が思わしくないのは、企業の儲けが実際の需要に結びついてないからである。 企業は収益のかなりを内部留保としてため込み、配当にも給料にも投資にも回していない。この企業の利益をいかに需要につなげるかが重要な課題になっていることは、安倍政権が一貫して主張していることである。 しかし、安倍政権が求める3%程度の賃上げでは企業の大幅な貯蓄余剰は解消できない。では政府が借金による財政需要を大きく創造すればいいかというと、ほとんどの官僚や学者は政府の借金に反対であるから、それも容易ではない。ということは、企業が儲かったまま、経済は良くならず、日本の経済体質がどんどん悪化していくのを見過ごすしかないのだろうか。 最重要のチャンネルはおそらく、日経平均が4万円になることなのではないか。日経平均が4万円になると今600兆円ある日本の株式資産が1200兆円になり、3割の外国人持ち分を除いても400兆円、日本人の財産が増える。400兆円というのは国民1人あたり400万円、そのごく一部が消費に向かうだけでも大きな資産効果、経済浮揚効果をもたらすだろう。景況感は一変し、人々のアニマルスピリットは大いに喚起されるに違いない。 では、日経平均4万円になったらバブルか、モラルハザードかというと、まったく違う。今7%株式の益回りは3.5%まで低下し、今2%の配当利回りが1%に低下するが、それでも国債利回りの3倍以上であり、国債や預金のリターンと比較すると決して割高とは言えないことは明白である。また、留保利益の増加自体が株式価値を高める要素であり、(賃上げや増配がなくても)株価上昇が広範な購買力引き上げをもたらす、という連鎖の経路もあり得る。 日本のオウンゴール、不必要かつ有害だった資産デフレ つまり日経平均4万円になるだけで多くの問題が解決するということもあり得るのである。 なぜこのようなことになるかというと、実は日本の異常な長期デフレの最も重要な原因の1つが、株価と不動産の理屈に合わない過度の下落であったからである。そのおかげで不必要な不良債権の処理や、値下がりの損失を引き起こし、それが日本経済や日本企業に過剰な負担を与えた。資産価格のミスプライシングの復元、つまり過剰値下がりの是正ということは当然であり必要なことなのである。 資産インフレなくして2%インフレ無し バブル崩壊後に半減した住宅・不動産価格や株価を放置するなどということは、日本以外のどの国でも起きていない。株価など資産価格の水準をなるべく高く維持し、経済心理を壊さないのが普通の金融政策だ。日本はそれを徹底的に壊した。明らかに政策のミスマネージメントだった。 株価重視の発想に対しては、投機をする人たちや富裕層だけを潤し、格差拡大を招くとの批判があるが、結局のところ、人々が注目する経済の体温は株価だ。株高は紛れもなくアベノミクス成功の重要な経路である。 安倍首相と黒田日銀総裁は2013年以降がそうであったように、大方の学者やメディアの批判に惑わされることなく断固として資産価格重視の(あえて言えば資産インフレ誘発の)政策を推し進めるべきである。 拡大画像表示 拡大画像表示 (3) 世界経済は消費力に焦点が 米国で見られる新時代の消費力 2006年以来9年ぶりの米国の利上げは、米国経済がリーマン・ショックの後遺症を完全に払しょくした自信の表れと言える。 リーマン・ショック後の大不況の困難は、2000年以降のIT革命の進行による生産性の上昇により生まれた余剰労働力、余剰資本が2007年まで建設部門(=バブル産業)に吸収されていたものが、バブルの崩壊により一気に顕在化し、戦後最大の失業・賃金停滞とカネ余り・低金利を引き起したことにある。この労働力と資本の余剰が辛抱強い量的金融緩和により、ほぼ解消しつつある。 失業率は2009年のピーク10.0%から直近では5.0%まで低下した。また米国企業のフリーキャッシュフローを見ると、2000年以降の大幅な余剰がほぼなくなっている。設備投資額の増加が好調なキャッシュフローに追いついてきたためである。 さらにようやく労働賃金が上昇し始め、2000年以降急低下していた労働分配率が底入れから上昇に転じ始めた。この労働分配率の低下こそ、企業収益を歴史的水準に押し上げた主因であり、企業の過剰貯蓄の根本原因でもあった。 米国の雇用がどこで増加したのかを図表7で見ると、教育医療、専門サービス、娯楽観光など、ひとえに個人向けサービス分野であることが鮮明である。IT革命の下でのイノベーションと個人のライフスタイルの向上が進行し、個人向けサービス需要が急増しているのである。情報化時代の新ビジネスモデルと新ライフスタイルが垣間見える。在宅勤務、ビジネスマンの兼業の一般化、アウトソーシングの一般化、新ネットワークビジネスの誕生、ネットによる物流が主チャンネルになりつつあることなどにより、一層の個人生活のフレキシブル化が進行している。実際、米国の個人消費をけん引しているのがサービス分野であることは、ISM非製造業指数の上昇を見ても明らかである。 拡大画像表示 企業収益段階にとどまっていたIT革命の成果がようやく個人のライフスタイルを変え、生活水準の一段の向上に結び付きつつあり、それは米国において歴史を画する情報ネット新時代の萌芽が見られ始めていると評価できる。 米国においてはデフレに陥る危機は去ったと考えられる。米国の長期金利が日欧のそれを1%以上、上回って推移しているのはそれを如実に示している。それは米国株式の高バリュエーションにも表れている。2015年12月16日の9年ぶりの米国利上げを可能にしたものは、そうした労働余剰と資本余剰の顕著な減少であった。 2016年は米国流の新ライフスタイルの向上と個人生活水準向上が、ユーロ圏や日本などの先進国に伝播していくものと見られる。日本では2016年度予算にみられる子育て支援関連、三大都市圏の物流ネットワーク整備、介護施設・人材関連などの目玉が盛り込まれ、消費力を高める配慮がうかがわれる。 (4) 再度日本株式に注目が集まる公算大 デフレ=低バリュエーションか、インフレ=高バリュエーションか 適切な政策イニシャティブを前提とすれば、世界の他国で有利な投資対象が見当たらなくなる中で、日本株式は最も魅力的資産となり得るのではないか。 日米欧の先進国間で、最も経済が強いのは米国であることは論を待たない。だが、米国の株価は既に大きく上昇してきたため、上値余地は小さい。それに対し、日本株のPBR(株価純資産倍率)などのバリュエーション(株価評価)は、先進国最低水準で割安さが際立つ。それは日本が世界で唯一長期デフレに陥り、名目経済の収縮を前提とした株式バリュエーションが定着してきたからである。 しかし今、デフレ脱却が確実となる過程で、株式バリュエーションは大きく転換することになる。そうしたパラダイムの転換(価値観の転換)に伴う価格変化こそ、最も大きな投資チャンスであることは論を待たない。 上値余地から考えると、日本株は最も魅力的な市場となっている。アベノミクス相場が始まって以降、株価は最大2.4倍となったが、企業の大幅増益により、割安感は薄まっていない。中国経済次第という側面はあるものの、2016年の日経平均株価は2万4000円を目指すだろう。 過去20年間に主要国の名目GDPが3倍、4倍と成長する中、日本経済だけが麻痺したかのように成長が止まっていた。その日本が20年間の雌伏の時を超えて復活しようとしていることに疑いはない。 (*)本稿は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」(第153号・2016年1月1日)からの転載記事です。 (*)本記事の情報に基づく損害について株式会社日本ビジネスプレスは一切の責任を負いません。投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45689 FT執筆陣が占う2016年の世界 恒例の大予測:原油価格から米大統領選、サッカー欧州選手権まで 2016.1.1(金) Financial Times (2015年12月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 2016年はどんな年になるのか (c) Can Stock Photo 新年が手招きする中、本紙(フィナンシャル・タイムズ)は今再び、向こう12カ月間の出来事を予測する恒例の儀式にふける。本紙の専門家と解説者が普段の慎重さを封印し、米国の大統領選挙からサッカーの欧州選手権(ユーロ2016)に至るまで何が起こるかを予想する。 その前に、1年前の予測の結果をざっと見てみよう。 エド・クルックスは原油価格の続落を正確に予測した。原油価格がすでに半値になった年の終わりだけに、これは勇気ある予想だった。 マーティン・ウルフは欧州中央銀行(ECB)が全面的な量的緩和(QE)を導入すると予測し、その通りになった。 クライブ・クックソンは、2015年末までに西アフリカのエボラ出血熱が根絶されるとの予想を的中させた。ギデオン・ラックマンは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナや欧州で別の地域を併合することはないと述べていた。2014年末の時点でそう公言していた向きは多くなかった。 外した予測も1つあった。1年前には、英国の総選挙はハングパーラメント(宙づり議会)に終わると予想した向きが多く、本紙のジョナサン・フォードもその1人だった(おまけに彼は挙国一致内閣が作られるとさえ書いていた)。 これ以外では、本紙は予測の内容ではなく、どんなテーマについて予測をするのかという問題設定でつまずいた。具体的には、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の支援によるテロがフランスで発生することを予測できなかったし、ロシアがシリアで軍事行動を取ることも、移民危機が欧州連合(EU)にとって深刻な脅威になることも予測していなかった。2016年にも、まだ本紙の想像を超えている出来事が起こるのだろう。 (James Blitz) ■ヒラリー・クリントン氏は米国大統領選挙に勝利するか。 答えはイエスだ。大統領選は流れがころころ変わる選挙、そして記憶にある限り最も見苦しい戦いになるだろう。クリントン氏は共和党の候補者テッド・クルーズ氏から、性格の面で欠点があるとか米国の敵と対峙したときに弱腰になるといった批判を受けるだろう。多くの有権者が、クリントンという名前を今日の米国の悪いところ――そして堕落しているところ――すべての象徴だと見なすだろう。 クリントン氏、領事館襲撃を議会で証言 共和党の攻勢に対抗 ヒラリー・クリントン氏がホワイトハウスの主になるか〔AFPBB News〕 だが、選挙というものの勝敗は、まだ中道(あるいは中道の残骸)で決している。クルーズ氏は、ホワイトハウスの主になるには平均的な有権者よりあまりに右寄りすぎるということになるだろう。 世論調査での際どい接戦にもかかわらず、クリントン氏は選挙人団の投票では地滑り的な勝利を収めるだろうし、民主党は議会上院の主導権を奪い返すだろう。しかし、大統領としての第1期は、ひどく2極化したワシントンで始まることになる。「ハネムーン*1」はないだろう。 (Edward Luce) *1=就任後100日間、議会やメディアが大統領批判を手控える期間のこと ■2016年に予想される国民投票で英国はEU離脱を選択するのか。 答えはノーだ。国民投票ではEU残留が選択されるだろう。といっても熱意や高揚感を伴った判断ではなく、英国の有権者がもともと持っている良識が最終的に勝るためだ。 デビッド・キャメロン首相が再交渉で好条件を引き出せるかとか、ブリュッセルへの拠出金を投資や貿易の規模拡大で取り戻せるかといった細かい話はこの際忘れ、離脱論と残留論の主唱者が誰であるかを考える必要がある。 結局のところ有権者は、ジョン・メージャー元首相が冷静に説いた論理と、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏のポピュリズムのどちらかを選ぶことになるのだ。 筆者はメージャー氏の方に賭ける。もしこの予想が外れたら、英国は本当に不穏な時代に直面することになる。 (Philip Stephens) ■バシャル・アサド大統領は12カ月後も権力を保持しているか。 保持している。アサド氏は2016年も、名目上はシリアの大統領であり続けるだろう。実際にはもう国家の支配者ではなく、最大の地方軍閥の地位に滑り落ちているとしても、だ。 シリア大統領一族の有力者が殺害される、民兵組織の創設者 シリアのバシャル・アサド大統領〔AFPBB News〕 軍事面では、敵である反体制派を標的に据えたロシアの軍事介入という支援材料を得ている。政治的には、数週間前に合意された米国とロシアの計画で18カ月間の移行期間が想定されており、その計画自体もリスクをはらんでいる。 和平プロセスに弾みがついた場合でも、アサド氏はこれを遅らせ、ダマスカスの権力の座にとどまるべく全力を尽くすだろう。 (Roula Khalaf) ■イングランド銀行は2016年についに利上げに踏み切るか。 踏み切らない。イングランド銀行は2016年の大半を通じて利上げをちらつかせ、市場をじらすだろうが、最終的には実行しないだろう。決断の先送りにはそれなりの理由がある。まず、インフレ率は0%からごくゆっくりとしか上昇しないだろうし、賃金の伸びも弱々しい。原油価格は下がっている。財政赤字の削減も好景気の到来を妨げるだろう。 イングランド銀行、インフレ背景に政策金利を5.50%に - 英国 イングランド銀行はどう出るか〔AFPBB News〕 また、イングランド銀行は政策金利について考える前に、信用規制に関する新たな権限を試したがっている。 さらに、インフレ率が目標値をしばらくの間上回ることがあっても、その影響は限定的だ。 2016年の後半には行動する決断を下すかもしれないが、仮に決断したとしても、大した変化は生じないだろう。金利に関する限り、英国は2016年以降もしばらくの間、マーク・カーニー総裁の言う「低位が長引く」世界にとどまることになる。 (Chris Giles) ■2016年には主要20カ国・地域(G20)から国際通貨基金(IMF)に支援を要請する国が少なくとも1つは出るか。 出るだろう。同じG20でも、先進国のメンバーは救済を必要としない。公的債務の規模を考えれば、唯一候補になり得るのはイタリアだが、この国は金融の量的緩和をはじめとするECBの施策に守られている。 G20には新興国も10カ国含まれている。その中には、コモディティー価格の急落で打撃を受けているところがある(アルゼンチン、ロシア、サウジアラビアが典型例だ)。 巨額の経常赤字を出しているところもある(ブラジルや南アフリカとともに、再び思い浮かぶのがサウジアラビアだ)。 インドと南アフリカはともに、財政赤字が結構多い。また、ブラジルなどその他の国は、財政赤字こそ小さめだが、公的債務の負担は大きい。 このような不安定要因がすべて該当するのはアルゼンチン、南アフリカ、ブラジルの3カ国だ。この3カ国はストレスにさらされており、最近、財務大臣が交代している。また、アルゼンチンでは新政権が新しいアプローチを公約している。IMFの準備はできている。これらの国々の少なくとも1つがIMFに救済を要請するだろうか? その可能性は高いように思われる。 (Martin Wolf) ■アンゲラ・メルケル氏は2016年末にもドイツ首相の座にとどまっているか。 答えはノーだ。先日の与党・キリスト教民主同盟(CDU)の党大会ではメルケル氏を称えるスタンディングオベーションがあったが、2016年は、同氏が首相として国を率いた長い時代が終わる年になりそうだ。 メルケル独首相、国内流入難民数の削減誓う 具体数には触れず 10年を超えたアンゲラ・メルケル首相の在任期間も終わりが近いのか〔AFPBB News〕 2015年だけで約100万人もの難民がやって来たことによるプレッシャーにもかかわらず、あのようなスタンディングオベーションが見られたことは、メルケル氏の雇用が安泰であることの決定的な証拠のように思われた。 しかしメルケル氏は、受け入れる難民の数を来年は減らすと約束している。そして、この約束は果たすことができそうにない。密航業者の手を借りて必死に逃げのびてきた移民の流入が続くからだ。 首相の勇気と道義的なリーダーシップに対する称賛は、不確実性と不平不満に取って代わられるだろう。最初に亀裂を入れるのは、押し寄せてくる難民の数をさばききれないと断言している地方政府の反発かもしれない。もしそうなれば、ついにCDU内からメルケル氏に挑む動きが出て、その座が揺らぐことになるだろう。 (Gideon Rachman) ■サッカーの欧州選手権(ユーロ2016)で勝つのは誰か。 ベルギーが勝つ。最近の国際サッカー連盟(FIFA)ランキングによると、ベルギーは世界最高のチームだ。この難解な係数はベルギーの質を誇張しているが、法外な差で誇張しているわけではない。スカウトと指導の高度なシステム――そして移民に対するリベラルな帰化政策――を通じて、脆い政府の下にあるこの小国はエリート選手を続々と生み出してきた。 アザールの決勝点で本大会に王手!ベルギーがキプロス破る 欧州選手権予選 2016年欧州選手権で優勝するのは、ずばりこのチーム?〔AFPBB News〕 ベルギーはエデン・アザール、ケビン・デブライネ、ロメル・ルカクの攻撃トリオを投入できる。この3人は合計した市場価値が1億5000万ポンドに達するイングランド・プレミアリーグのスター選手だ。 ドイツのチームはより経験豊富で、スペインのチームはより結束力があるが、技術的な質そのものにおいてベルギーに欠けるものはほとんどない。フランスが開催国であることから、ホームアドバンテージに似たものもある。 (Janan Ganesh) ■ブラジルのジルマ・ルセフ大統領は、オリンピック(五輪)がリオデジャネイロで始まる前に弾劾されるか。 答えはノーだが、際どい情勢になるだろう。今のところ、ルセフ氏は恐らく議会で弾劾手続きを阻止できるだけの支持を得ている。しかし、時間が経てば経つほど、ブラジルの景気後退が悪化し、大統領の政治的な支持が低下していく。 たとえ下院が投票で手続き開始を決めたとしても、弾劾手続きが始まるのは恐らく2月10日になってからだろう。 その後、複雑な手順に丸180日かかると仮定すると、ルセフ氏は8月半ばに弾劾される可能性がある。これは五輪が8月5日に正式に始まった後になる――やれやれ――が、8月16日の高跳びの決勝にはまだ間に合うタイミングだ。 (John Paul Rathbone) ■中国は新年に人民元を大幅に切り下げるか。 イエス。中国には、2016年に対ドルで人民元を安定させておきたいと考える妥当な理由がある。商品貿易の多額の黒字、莫大な外貨準備、そして「レッドバック(人民元の呼称)」が立派な準備通貨であることを世界に示そうとする願望だ。 人民元と円の直接取引、6月1日から開始 安住財相 米ドルの「グリーンバック」という呼称にひっかけ、「レッドバック」と呼ばれるようになった人民元〔AFPBB News〕 だが、人民元はやはり、現在の1ドル=6.48元前後から約7元まで下げる可能性が高い。米ドルが米連邦準備理事会(FRB)の継続的な金融引き締めに支えられる一方で、低迷する中国経済は恐らく、新年に少なくとも2度の利下げが必要になるからだ。 そのために中国からの資本流出は高水準が続き、通貨に下落圧力がかかる。人民元の軌道は滑らかなものにはならないだろう。2016年は多分に、中国の通貨にとって最も振れの大きい年になる。 (James Kynge) ■ジェレミー・コービン氏は今から1年後も英国労働党を率いているか。 イエス。それも複数の理由がある。1つ目は、労働党の議員はそうではないとしても、党員の大半が続投を望んでいることだ。世論調査における労働党の成績不振にもかかわらず、一般党員は党が取っている方向性に満足しているように見える。 そのうえ労働党議員の生来の忠誠心がある。保守党と異なり、労働党は「暗殺」を得意としたことがない。また、いずれにせよ、今その可能性が高く思えるように、コービン氏が労働党の不明瞭な党首選規則を変更し、何があろうと現職が候補者名簿に載るようにすれば、どんな挑戦もひいき目に見ても非現実的だ。 平和主義を掲げる最後の労働党党首だったジョージ・ランズベリーを1935年に退任に追い込むには、アーネスト・ベビンの全力を挙げた弁舌が必要だった。当時、労組のリーダーだったベビンは、ファシズムに立ち向かうよう党を説得した。今日の労働党にはまだ、ベビンがいない。2016年に姿を現すことはなさそうだ。 (Jonathan Ford) ■アベノミクスは2016年に失敗するか。 安倍首相、アジアに1100億ドル投資を表明 AIIB資本金上回る アベノミクスは害よりも大きな利益を日本経済に与えてきた〔AFPBB News〕 答えはノーだ。アベノミクスの実績はまちまちだが、全体としては、日本経済に害よりも大きな利益をもたらした。この状況は2016年も続くだろう。 確かに、中心となる目標――インフレ率を2%に引き上げること――は達成できなかった。石油価格が急落したために、通常の尺度で測ったインフレ率はまだゼロ近辺で推移している。 安倍晋三首相率いる政府は、消費税を早計に引き上げることで問題を悪化させた。消費者が支出してくれることを望んでいたまさにそのときに、人々のポケットからお金を奪ってしまったのだ。 だが、アベノミクスの全般的なリフレ目標は、うまくいっている。 エネルギー価格を除外すると、インフレ率は約1%だ。名目国内総生産(GDP)に対する比率では、公的債務の増加は止まった。日本企業は記録的な利益を計上している。 安倍氏の問題は、2017年に消費税を再び引き上げると誓ったことだ。危機的な状況が訪れかねないのは、そのときだ。 (David Pilling) ■ロシアの陸上選手は2016年五輪に出場するか。 イエス。ソ連時代の大量ドーピングを復活させたことについてロシアを罰しようとする政治的な意思は存在しない。ロシアは2015年11月、薬物を使っていないことを証明できるまで無期限で陸上競技への出場停止処分を受けた史上初の国になった。 だが、ロシアと西側諸国は、陸上史上最悪の部類に入るような薬物使用をリストアップした第三者報告の困惑を最小限に抑えたいと思っている。 リオデジャネイロ大会に出場するためには、ロシアはドーピング計画に加担した当局者を全員解任し、未解決の規律違反案件をすべて解決し、国のドーピング文化について調査し、行動を改めたことを実証してみせなければならない。ロシア側は、これには3カ月かかると話している。 (Malcolm Moore) ■2016年には、ディーゼルエンジンを搭載した自動車の販売が欧州で減少するか。 VWの米11月新車販売、前年比25%減 排ガス不正が影響 フォルクスワーゲン(VW)の販売台数は主要市場で大幅に落ち込んでいる〔AFPBB News〕 イエス。欧州の自動車購入者はすでにディーゼルエンジンへの熱意を失い始めており、フォルクスワーゲン(VW)が全世界1100万台のディーゼル車について排ガス試験で不正を働くためにソフトウエアを搭載したことが秋に発覚した一件は、販売減少に拍車をかけるだろう。 欧州の新車に占めるディーゼル車のシェアは2010年の55%でピークを付けており、補助金が減額され、環境に対する影響への懐疑論が高まったフランスでは急激に低下している。 VWはディーゼルエンジンでは特に規模の大きいメーカーであり、スキャンダル勃発後の11月には主要市場における自動車販売台数が20%以上減少した。2016年には、ディーゼルのシェアが急激に低下し、自動車市場全体の伸びを相殺してしまうだろう。 (Brooke Masters) ■北海ブレント原油は年末に50ドルを超えているか。 イエス。2015年の石油市場は、前年の暴落からの急反発を信じていた人にとって、ひどく厳しいものになった。米国シェール産業の粘り強さとイラクとサウジアラビアの産油量急増は、世界が原油で溢れかえることを意味した。新年には、イランに対する制裁の解除によって、さらに多くの石油が市場に出回る可能性がある。 原油価格はようやく持ち直すか (c) Can Stock Photo それでも、世界中の石油生産業者の財務の厳しさから、各社はプロジェクトの中止と掘削プログラムの削減を強いられ、将来の石油供給が抑え込まれており、そのインパクトが明白になるだろう。 1バレル50ドルを下回るブレント原油相場は、業界が増大する世界需要を満たすために必要な投資を行うには、低すぎる。世界経済が景気後退に突入しない限り、2016年は石油価格がより持続可能な水準に持ち直す年になりそうだ。 (Ed Crooks) ■ジョージ・オズボーン英財務相は「3月予算」で年金の税額控除を廃止するか。 廃止するだろう。財務相は11月の「秋の演説」で、この問題について決断を下すのを先送りしたが、広範に及ぶ変化が訪れるという強い合図を送った。年金拠出金の事前税控除は現在、財務省に年間500億ポンド近いコストを強いている。 議論されている「年金版ISA(個人貯蓄口座)」は、この費用を削減することになる。労働者は定年退職時に無税で引き出せる保証を得て、課税済み所得から貯蓄を積み立てるようになるからだ。 制度変更は、実行に移すのに何年もかかるだろう。納税者は、4月の税制年度末までに年金に最大限の拠出金を払い込むことで将来に備えることができる。 (Claer Barrett) ■2016年はバーチャルリアリティー(仮想現実、VR)がついに離陸する年になるか。 米フェイスブック、VR技術企業を20億ドルで買収 バーチャルリアリティー(仮想現実)が本格的に始動するのは、まだ先かもしれないが、多くの人が初めて体験することになりそう〔AFPBB News〕 答えはノーだ。だが、多くの人が初めて、いつの日かあらゆる技術の中でも最も大きな変革を起こす可能性を秘めた技術を体験する年になるだろう。 VRヘッドセット――別の現実の3D(3次元)バージョンを見るために使われる分厚いゴーグル――を通して見た最初の光景は、大半の人にとっては、忘れられないものだ。しかし、素晴らしいデモだけでは産業は生まれない。 VRゲームが登場し始めているものの、VR装置用のコンテンツは不足している。また、VRを主流にするアプリケーション――仮想空間で医師を訪れたり、社内会議を開催したりするもの――は現実というよりは夢だ。それでも、VR技術は人々の想像を魅了するはずだ。物理的な現実はもう2度と同じには思えなくなるだろう。 (Richard Waters) http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/45649
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