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年収2百万円未満の人、安価な米・パンに食偏重で病気も…肉・野菜の摂取少
http://biz-journal.jp/2016/01/post_13124.html
2016.01.01 文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト Business Journal
12月初旬、厚生労働省が発表した2014年「国民健康・栄養調査」【編注1】で、所得の低い世帯ほど米やパンなどの穀類の摂取量が多く、逆に野菜類と肉類の摂取量が少ないことが、初めて明らかにされた。一方、同省の11月初め発表の14年「就業形態の多様化に関する総合実態調査」【編注2】で、非正社員(非正規社員)が、これまた初めて4割に達したことがわかった。この2つの調査結果は、少子高齢化で働き手の数が減る中、その4割もが貧困から低栄養、そして生存の危機へと追い詰められている実情を現す。これは、格差拡大型経済政策のアベノミクスの罪か。
■生存のための穀類偏重
「国民健康・栄養調査」は、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基礎資料として、毎年実施されている。14年は5432世帯を対象にして行われ、有効回答が得られた3648世帯について集計された。そのなかで特に「所得と生活習慣等に関する状況」の表【編注3】が衝撃的だ。
米やパン、麺などの穀類の1日当たりの摂取量平均は、世帯所得が600万円以上の男性の494.1gに対して、200〜600万円未満がその1.05倍の520.9 g、200万円未満は同1.08倍の535.1 gだった。女性もそれぞれ352.8 g、その1.02倍の359.4 g、同1.06倍の372.5 gと、所得が低いほど量が多い。
逆に野菜類の場合、所得600万円以上の男性は200万円未満(253.6g)の1.27倍の322.3g、同女性も200万円未満(271.8g)の1.15倍の313.6gと、所得が高いほど多い。
肉類も野菜類と同様に、所得600万円以上の男性は200万円未満(101.7g)の1.20倍の122.0g、同女性も200万円未満(74.1g)の1.13倍の83.9gと、所得が高いほど多かった。この傾向は、乳類でも同じだ。
つまり、低所得世帯の男女は、体内で主にエネルギー(カロリー)源として利用される炭水化物を多く含む米などの穀類を多食する。
その一方で、細胞の活性を維持するカリウムなどのミネラルや、免疫力を高めるなどの働きがあるビタミンなどが多い野菜類と、筋肉などの組織をつくるのに欠かせないタンパク質や、細胞膜の成分である脂質などに富む肉類の摂取量は少ない。
例えば米には多少、カリウムやビタミン、タンパク質、脂質などが含まれているとはいえ、野菜類や肉類の代わりにはならない。つまり、穀類に片寄った栄養バランスが悪い食生活は、健康を損ね、さまざまな病気の温床になりかねない。
■低所得者の「奇妙に合理的な食生活」
低所得だと、なぜ穀類の摂取が多く、野菜類・肉類が少なくなるのか。それには、小売単価とカロリーが関係しているのではないか。
例えば、さまざまなデータ【編注4】を基にした筆者の計算によれば、米(精白米)の1g当たりの小売価格は0.4円で、同1g当たりのエネルギーは1.7キロカロリー(kcal)【編注5】だから、同1円当たりのエネルギーは4.25kcalとなる。
これに対して、国産牛肉(冷蔵ロース=肩ロース、リブロース)の1g当たりの小売価格は7円【編注6】で、同1g当たりのエネルギーは4kcalだから、同1g当たりのエネルギーは1.75kcalとなる。
同様に計算すれば、輸入牛肉の同1g当たりのエネルギーは0.7kcal、豚肉(もも=脂身つき、生)が0.8kcal、鶏肉(もも=皮付き、生)が1.5kcalだ。つまり、1円当たりのエネルギーだけを考えれば、米は国産牛肉の2.4倍、豚肉の5.3倍、鶏肉の2.8倍も多く、肉類よりも安くて高カロリー食ということになり、低所得者はむしろ合理的な選択をしていることになる。
ちなみに、キャベツとトマトの1円当たりのエネルギーは共に2kcalもあって肉類より多く、カロリー摂取だけを考えれば、奇妙な話だが肉類を食べるよりも野菜類を食べたほうが良いということになる。
■年間120万円 から360万円の大差
「奇妙に合理的な食生活」に追い立てられる低所得者の、所得の実情はどうか。
まず、先の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の表【編注7】によれば、全労働者のうち正社員(正規社員)は60.0%で、残り40.0%が非正社員(非正規社員)だ。非正社員のうちパートタイム労働者が約6割(58.0%)のダントツトップで、ほかは出向社員や契約社員、嘱託社員、臨時労働者、派遣労働者、その他がそれぞれ1〜5%程度で横に並ぶ。前回の10年調査結果で非正社員は38.7%【編注8】だったから、1.3%増加したことになる。
ただ、今回は規模5人以上の民間の事業所に加え、官公営の事業所も対象にしており、前回との連続性はないが、広くカバーしており、より実態に近い。
肝心の所得だが、正社員の場合、ボーナスなどを除いた「9月の賃金総額(税込)階級別労働者割合」【編注9】によれば、最も多いのが33.7%の20万〜30万円未満で、これに26.8%の30万〜40万円未満、15.2%の20万円未満、10万〜20万円未満が続く。
それが非正社員では、最も多いのが41.5%の10万〜20万円未満で、これに36.7%の10万円未満、12.9%の20万〜30万円未満が続く。つまり、第1位から第3位で見た場合、正社員と非正社員との間では、わずか1カ月だけで10万〜30万円の差がある。年間にして、120万〜360万円という大きな差だ。
これだけの大差があれば、小売単価の高い肉類や野菜類を避け、カロリー単価の低い穀類偏重の食生活にならざるを得ない状況がよく理解できる。
■雇用調整弁とアベノミクスの相関関係
非正社員の雇用は、バブル期(1986年末〜1991年初め)に中小企業の人手不足解消の手段として定着していた。それがバブル崩壊後、ヒト(雇用)・モノ(設備)・カネ(債務)の3つの過剰を抱えていた大企業までもが、人件費削減のために新規採用の抑制や早期退職の優遇などリストラ(企業の再構築や人員整理)の一環として、非正社員の雇用に踏み切った【編注10】。
米国などと違い、日本では新規学卒者の長期雇用で人材を育成する伝統的な雇用システムが維持され、会社都合による解雇は禁じ手とされていた。
しかし、バブル崩壊で追い詰められた日本企業は、人件費抑制と即戦力確保のために、なりふり構わず、いわば安易な雇用の調整弁として、非正社員の雇用に乗り出した。その後、非正社員雇用は常套手段と化し、そこに格差拡大型の経済政策でもあるアベノミクスが加わり、低所得者が増え、栄養バランスの悪い貧しい食生活に追い詰められているという構図だ。
■切ない姿が浮かび上がる
低所得者は、いわば政治と経済的な構造の歪みという名の谷間に落ち込んだといえる。その「低所得の谷間」では、生活習慣も変わるようだ。
特に200万円未満の低所得世帯の男女共に、所得の高い世帯に比べて以下のそれぞれの割合が高い。
(1)ストレスが強いためか、「習慣的な喫煙者」
(2)時間や費用負担の問題によるのか、「健診の未受診者」
(3)「歯の本数が20本未満者」
それも、特に健診の未受診者の場合、「習慣的な喫煙」と「運動習慣がない」割合と共に、血圧の平均値が高く、さらに女性の場合、肥満者の割合も高かった。それだけ病気予備軍の要素が強まっているというわけだ。
最後に、改めて所得と食品選択で重視する点との関係【編注11】だが、200万円未満の低所得世帯の男女共に所得の高い世帯に比べて、「おいしさ」を重視する割合が低かった。それだけではなく、「好み」も「大きさ・量」も、「栄養価」「季節感」「安全性」「鮮度」「簡便性」の割合も低い。逆に高いのは「特になし」だけだ。
それはまるで、食べられるか否かだけにしか興味がない、といわんばかりの低所得者の姿が浮かび上がる。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)
【編注1】厚生労働省「平成26年『国民健康・栄養調査』の結果」2014年12月9日
【編注2】厚生労働省「平成26年『就業形態の多様化に関する総合実態調査』の結果」2015年11月4日
【編注3】「表2 所得と生活習慣等に関する状況(20歳以上)」
【編注4】米穀機構(米穀安定供給確保支援機構)「米の小売価格調査結果」(2015年12月17日発表)によれば、同11月の全銘柄の平均価格は5キロ精米袋当たりで1771円
【編注5】女子栄養大学出版部「五訂増補食品成分表2007」2006年12月
【編注6】農林水産省「食品価格動向調査(食肉・鶏卵)の調査結果」の『平成27年12月(12月7日〜12月9日)の調査結果(全国平均)』
【編注7】「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の「参考表3 就業形態別労働者割合」
【編注8】厚生労働省「平成22年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概要」
【編注9】厚生労働省「平成26年『就業形態の多様化に関する総合実態調査』の結果」のボーナスなどを除いた「表10 就業形態、性、9月の賃金総額(税込)階級別労働者割合」
【編注10】内閣府「平成18年度 年次経済財政報告」2006年7月など
【編注11】厚生労働省「平成26年『国民健康・栄養調査」の結果』」の「表4 所得と食品を選択する際に重視する点に関する状況(20歳以上)」
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