http://www.asyura2.com/15/hasan103/msg/830.html
Tweet |
※日経新聞連載
[時事解析]人民元の実力
(1)国際通貨として認知 金融危機が契機に
人民元が2016年10月から国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に組み入れられる。国際的な通貨として認知される格好だ。
中国が元の国際化を意識し始めたのは08年の金融危機だ。中国人民銀行の李波氏は「ドルなどの大きな変動が国際貿易の縮小を招いた。輸出入業者の元決済の必要性が高まった」と指摘。基軸通貨ドルの揺れが背景にあることを示唆している。
国際化の具体策として09年から上海などで国際貿易での元決済を試行。11年には国内機関の元建て海外投資、銀行による元建て海外融資を解禁した。また香港で元のオフショア市場を整備し、国際化を進めた。
IMFは、SDR構成通貨は「自由利用可能通貨」の必要があるとして、要件として外為取引、準備通貨利用などを挙げてきた。今回、貿易金融や国際決済での利用などを新たに要件に加えたことから、組み入れには政治的な配慮があるとの指摘もある。
SDRに組み込まれると、中央銀行が準備通貨として保有を増やす可能性がある。基軸通貨に関して、英HSBCの屈宏斌氏は「元がドルに取って代わるのではなく、ドル、ユーロ、元がそれぞれの役割を果たす体制になる」と指摘する。
一方で中国は資本取引の自由化を迫られる。IMFのタミム・バヨマイ氏は「資本取引を自由化すれば国内総生産(GDP)の11〜18%の資金が流出する」と試算している。混乱なく自由化を実施できるのか、中国金融当局のかじ取りが問われることになる。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞12月21日朝刊P.23]
(2)貿易決済、ユーロ抜く 英国の支援が寄与
人民元は貿易通貨としての地位を確立している。貿易金融を決済通貨別にみると、元は9.1%(8月、SWIFT調べ)で、ユーロ(6.1%)を抜きドルに次ぐ第2の通貨だ。円は1.8%にとどまっている。
中国貿易の多いアジアでは、元はドルと並ぶ貿易通貨だ。貿易金融に占める元建ての比率は中国・香港間が53.9%、中国・シンガポール間が28.5%に達している。
国際決済銀行(BIS)のチャン・シュー氏は「(元の国際化で)金融チャネルを通してアジア太平洋地域で中国の影響が強まっている」と指摘する。背景には世界貿易に占める中国の重みがある。巨大人口を抱え一大輸入国であるとともに、生産基地として巨大輸出国でもある。貿易量はドイツと世界一を争う。
中国人民銀行(中央銀行)が貿易相手国の中央銀行と結ぶ通貨スワップ協定の役割も大きい。欧米勢が手薄な国や資源国と地道に関係を構築し、相手国に元を供給できる体制を整えてきた。
国際化を官民挙げて支えたのは英国だ。ロンドンに元のオフショアセンターを設立し、英銀が元の関連業務を強化している。2013年には人民銀とイングランド銀行が通貨スワップ協定を結んだ。香港の旧宗主国の立場を生かし、元取引を取り込むことでロンドン市場の活性化を狙った。
英財務省、香港金融管理局の呼びかけでできた香港・ロンドン元フォーラムは10日、「SDR(特別引き出し権)採用は元の貿易通貨としての信認を高め、国際化にはずみがつく」と指摘した。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞12月22日朝刊P.28]
(3)準備通貨の利用低調 資本自由化が課題
国際通貨の要件の一つに、中央銀行などが支払いに備える準備通貨としての側面がある。マレーシア、韓国、インドネシアなどが人民元を外貨準備に組み入れているが、世界的にみると元の組み入れ比率は1%程度にとどまっている。
重視されるのは資本取引の自由度合いだ。いつでも売買できる流動性を確保する必要があるためだが、中国は資本取引自由化の日程を示していない。とりわけ短期国債市場の整備が求められるが、その面で元はまだ国際的な水準にない。
英スタンダードチャータード銀行のロバート・ミニキン氏は「中国は2018年ごろに短期の投機的な資金の流れだけを管理する管理交換制に移行する」とみている。
もう一つ重視されるのは価値の保存機能だ。中央銀行が貴重な資産を運用するのだから、一定の運用益確保への期待がある。中国国債(1年物)の利回りは2.5%で、ドル金利を上回る。
価値保存に関しては通貨政策も参考にされる。日本は通貨安に走りがちで、運用側からすれば政策リスクが大きい。中国は1997年のアジア危機後に元切り下げを回避するなど安易な通貨安とは距離を置いてきたが、8月には元を事実上切り下げた。準備通貨としての利用は徐々にしか広がらないとみられている。
ただ潜在可能性は大きい。米ゴールドマン・サックスのケネス・ホー氏は「中国の債券市場は今後10年で3倍の21兆ドルになる。投資家の債券市場へのアクセスが改善され、国際化が一段と進む」と指摘している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞12月23日朝刊P.26]
(4)政府・大手銀は健全 「影の銀行」に不安
人民元を発行しているのは中央銀行の中国人民銀行だ。国務院傘下にあって独立していない。資産の8割を外貨資産が占め、リスク資産での運用も少なくない。
欧米の中央銀行と成り立ちが異なることもあり、元の信用力は国に結びつけて考えられることが多い。政府債務の国内総生産(GDP)に対する比率は43%と、財政は健全だ。米格付け会社による長期国債の格付けも中国はダブルA格で、信用力はかなり高い。
ただ経済の問題点は、過剰債務を抱える企業や地方政府にある。債務には政府の暗黙の保証が付いているとの見方もある。債務を国が肩代わりすれば、国の信用力に低下圧力がかかる。
銀行は元の利用を推進してきた。各行はアジアを中心に海外戦略を急速に強化している。市場の評価を表す株式時価総額をみると、中国の四大商業銀行が世界の銀行の上位10行に入っている。信用格付けはシングルA格で、三菱東京UFJ銀行と同格だ。中国は国際化を意識し、大手銀については国際的な資本比率規制などを余裕を持って満たす指導をしてきた。
だが投機的な融資を手掛けてきた非銀行部門(シャドーバンキング=影の銀行)には問題があり、貸付資産が不良化すれば大手銀の経営に響く恐れがある。欧州金融大手UBSのルーシー・フェン氏は「銀行の公表不良債権比率は1%台だが、隠れ不良債権比率は11.7%にのぼる」と推定している。
元の信用力は、中国が抱える構造問題を表面化させずに軟着陸させられるかにかかっている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞12月24日朝刊P.15]
(5)抜かれた日本円 信用力回復が急務
国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨比率で人民元は10.92%と、円の8.33%を抜いた。中国の国内総生産(GDP)は日本の2倍。貿易額でも日本を上回っており、その意味では元が円を抜くのは自然の流れだ。
国際化姿勢にも差がある。日本は1980年代後半に円の国際化を進める好機があったが、金融政策への影響を懸念する日銀が消極的だった。中国は元の国際化についてマイナス面はあっても、長期的には国益に合致するとの考えから通貨・金融改革を進めた。ラガルドIMF専務理事は「構成通貨への組み入れは中国の改革の進展を認めることだ」と表明した。
もう一つ大きいのは信用力だ。米格付け会社が今年日本の長期国債をA格に格下げし、ダブルA格の中国を下回った。
SDRは国際的な準備資産として設けられ、実質的には構成通貨に対する請求権だ。準備通貨としての利用を想定するとダブルA格程度の信用力を備える必要がある。日本の格付けがさらに下がれば、円の構成通貨としての適性が問われかねない。IMFにとっては、地域性への配慮からSDRにアジア通貨が入る方が望ましいが、元の採用により万が一、円が外れてもアジア通貨の代表を確保し続けられることになる。
SDR構成通貨は、世界の代表通貨としての象徴的な意味合いを持つ。中国に抜かれたことを悲観する必要はないが、SDR構成通貨としての適性を疑われない信用力を取り戻すための戦略と政策運営が欠かせない。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞12月25日朝刊P.33]
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民103掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。