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[核心]アベノミクス、隠せぬ現実
供給改革遅れ成長率低迷 本社コラムニスト 平田育夫
いまの安倍晋三政権が発足してから26日で丸3年。金融緩和中心のアベノミクスは円安、株高をもたらし一見、華々しい。
その実、国内総生産(GDP)は政権発足直前の四半期からの3年間でわずか実質2.3%の増加だ。同期間の米国(6.7%増)の3分の1で、年平均では0.76%。派手な日銀緩和の割には寂しい成果だ。
緩和策による円安などでデフレ心理が和らいでも、働き手の減少や低い生産性など供給面の制約のため成長率は高まらない。政権もそれに気づいてはいるが、参院選を控え、痛みを伴う供給面の改革に及び腰だ。
米国販売が好調な自動車業界では期間従業員の争奪が激しい。「月収32万円超」「光熱費と水道代含め寮費無料」「35カ月皆勤なら慰労金306万円」など厚待遇を競う。完全雇用に近い今、容易には集まらない。
円安でも生産が増えない原因として人手不足を無視できない。日銀の企業短期経済観測調査によれば、人員不足感はバブル崩壊直後以来、23年ぶりの強さ。団塊の世代の退職もあり現役世代である15〜64歳の人口はこの1年で99万人減った。ほぼ千葉市1市(96万人)分の消滅だ。
この働き手の減少が潜在成長率(労働力や生産設備、技術など供給面から推計する成長の実力)を下げる。内閣府試算では実質0.5%で米国の2%弱を下回る。需要が増えても0.5%以上の成長は長続きしない。今の潜在成長率からみると政府が目指す実質2%成長ははるかかなた。
また円安や原油安で潤う企業は賃上げをすべきだとしても、供給制約が解けて成長期待が高まらない限り賃金上昇は続かない。
内閣府の幹部によれば「供給側に問題あり」との見方は夏までに政権幹部にも浸透した。9月に首相が発表した「新3本の矢」のうち子育て・介護支援は働き手を増やす狙いがある。
経団連に設備投資を要請したのも生産性を高める狙い。新3本の矢はつまり需要重視からの軌道修正だ。その裏には「日銀緩和が不発に終わり、将来の混乱リスクを国民に抱えさせたため、緩和策から目をそらす狙い」(民間エコノミスト)があったかもしれない。
狙いはどうであれ供給重視は大切。だが政府の取り組みは腰が引けている。
3000億円以上の予算を使い低所得の高齢者らに3万円の給付金を配る。選挙にらみのばらまきは供給力強化にはつながらない。
一方、法人実効税率を下げるとはいえ投資機会に乏しく、人手難に悩む企業に設備投資を頼んでもむなしい。経団連は政府の2%成長目標を基に「3年後に10兆円増」の予測をこしらえた。茶番劇のにおいもする。
成長力向上のため本当に必要な政策は何だろう?
労働市場の改革を重視するのは米コンサルティング会社、A・T・カーニー日本法人の梅澤高明会長。例えば生産性の低い産業から高い産業へ人が移りやすくなれば人材を有効に使える。
同氏は「職業訓練を拡充する」「金銭支払いで社員を解雇する際のルールを作る」「同一労働、同一賃金を徹底し女性や高齢者の労働参加を促す」よう訴える。厚労省は解雇ルールを検討中だが労組の反対も強く結論は選挙後の見通しだ。
設備投資拡大のカギは規制改革。介護保険は質の高いサービスを提供する事業者が追加料金をとるのを認めていない。八代尚宏昭和女子大学特命教授は「豊かな高齢者に多額のサービスを買ってもらうのは介護労働者の賃金増と事業者の採算性向上にプラス」という。規制緩和は介護施設の不足解消にも役立つかもしれない。
また技術革新は生産性を高めるが、人工知能、再生医療や、あらゆるものをネットにつなぐ「IoT」構築でも規制改革が不可欠。それも政治的に簡単な改革だけでは実効を望めない。
さて、それではアベノミクス第1幕の主役、日銀の身の振り方はどうなるか。
日銀は2%のインフレ目標を掲げて巨額の国債を購入し、実質金利低下と円安を演出したが、2%目標到達には程遠く、景気浮揚の効果も弱かった。
その日銀は18日、残存期間の長い国債をより多めに買うなど緩和の補完策を決めた。緩和路線を変えない黒田東彦総裁の方針に日銀の木内登英・佐藤健裕両審議委員は批判的だ。
多額の国債を買い続ければ将来、購入額を減らす時に金利上昇を招くなど様々な副作用が生じると木内氏は警告。佐藤氏は「生産性や競争力の向上を地道にやるしかない」という。
緩和の効果が弱い一方でその副作用が懸念され、財政規律を緩めてもいる。見直し論が出るのは自然だ。
成長率の低迷は財政健全化計画の見直しをも迫る。政府は実質2%、名目3%の成長を前提に5年後、財政再建の第一歩となる基礎的収支均衡を目指す。
だが成長力を高める改革には何年もかかる。移民を大量に受け入れるなら話は別だが国民の合意はない。2%より低い成長でも財政が改善し、社会保障も回るよう改革を急ぐしかない。成長に向け企業の投資資金を確保するためにも国債発行額を早く減らしたい。
首相の頭を支配するのは来夏の選挙だろう。人々の関心事はずっと先までの生活。それに影響する成長力や財政・金融の健全性に、もっと気を配ってほしい。
[日経新聞12月21日朝刊P.4]
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