2. 2015年11月04日 07:56:32
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習政権が考える、中国経済が今後5年で進むべき道 2015年11月4日 吉田陽介[日中関係研究所研究員] 10月26日から29日まで開かれた中国共産党第18期中央委員会第五回全体会議(以下第18期五中全会と略)では「国民経済・社会発展の第13次五ヵ年計画策定に関する中共中央の提案」が採択され、次の5年間における習政権の経済運営の指針が決まった。 第13次五ヵ年企画の最終年度が2020年であるため、習政権がいかにして「中国の夢」に向けて、小康社会(ややゆとりある社会)の完成に導くか、その道筋が明らかになるため、多くの注目を集めた。今後5年間の習政権はどのような経済運営をするか分析を試みる。 習政権の経済政策の特徴は ブレない「戦略的不動心」にある 「中国の夢」を実現する上でカギとなるのは、経済政策である。習政権の経済政策の大きな目標は、2013年11月に開かれた中国共産党18期中央委員会第三回全体会議(以下第18期三中全会と略)で定められた「政府の役割を小さくして、市場経済の役割をさせ、経済に活気を与える」として、中国経済を高度成長段階から安定成長段階にバージョンアップさせるというものである。この方針の下、国有企業改革や行政許認可改革、自由貿易区などの改革を推進してきた。
また習政権の経済政策を語る上で「戦略的不動心を保ち、情勢の変化に応じて計画する」という言葉は重要だ。これは習総書記が浙江省視察のときに強調した言葉で、当面の経済政策の基本的方針である「安定的なマクロ経済政策」を変えることはないが、それにこだわり続けるのではなく、経済情勢が悪化したら、適時調整政策をとるということである。 習政権の経済政策の特徴をまとめると、次の四つである。 第一に、民間の力を大いに活用するということである。これまで公益性の強いインフラ事業は公的セクターが行ってきたが、公的セクターの事業運営は効率が悪い。また、民間の生産能力が過剰であるため、それを生かすために公益性が非常に強いもの以外は民間の力を活用しようとしている。 第二に、新たな経済の発展段階に応じた政策をとりつつあるということである。昨年習総書記は河南省視察の際の講話で「新常態(ニューノーマル)」という言葉を使い、昨年の中央経済工作会議でもその言葉が登場し、今後の経済政策の基調となった。それは安定成長路線に転換し、経済構造の調整をはかるというものである。 第三に、安易な資金投入ではなく、既存資金の有効活用を目指している。2008年から09年は世界的大不況の影響で大規模な公共投資を行って景気浮揚を狙ったが、結果として財政赤字を拡大させた。だが、習政権になってからは「節約励行」を提唱し、公務員に「身を切る」ことを求める一方で、財政面での改革にも着手し、財政に眠っている資金を「活性化」し、それを民生に配分するようになった。 第四に、中国企業の「走出去(外に出て行く)」を推し進め、世界経済での存在感を高めているということである。かつて中国は生産力が低く、外資を受け入れて外国の技術やノウハウを学んだが、現在の中国企業は力をつけてきており、また生産能力が過剰でもあり、力のついた企業は海外へ進出している。「一帯一路」はその一環である。 このような特徴をもつ習政権の経済政策だが、では、今後どのように経済運営をしていくのか、その道筋を次に見ていく。 キーワードは「発展」「革新」 「グリーン」「開放」「シェアリング」 このほど閉幕した第18期五中全会は第13次五ヵ年計画を採択し、来年3月の全人代で審議されて正式に決まる。習総書記は5月の浙江省視察の際に同計画の目標として、「成長を保ち、方式を転換し、構造を調整し、イノベーションを促す」ことなどを提起し、その後「10大目標」が発表された。それを列挙してみよう。 1、経済成長の保持 2、経済発展パターンの転換 3、産業構造の調整・最適化 4、イノベーション駆動発展 5、農業の現代化の歩みを加速 6、体制・仕組みの改革 7、調和のとれた発展の推進 8、生態文明の建設の強化 9、民生の保障と改善 10、貧困脱却扶助開発の推進 以上の10大目標が達成されれば、中国経済は安定成長段階へバージョンアップできるであろう。2013年11月に開かれた第18期三中全会で全面的な改革が提起されたが、それ以降改革の歩みが遅くなったという見方もある。だが、改革は着実に進んでおり、この10大目標も三中全会の路線の延長線上にある。ゆえに、この10大目標の中で「体制・仕組みの改革」はさらに重要になってくる。 29日夜に公表された第18期五中全会のコミュニケのキーワードは「発展」「革新(イノベーション)」「グリーン」「開放」「シェアリング」である。 「革新」は新たな発展を促進するものとして、重要な地位にある。コミュニケでは「インターネット+」戦略や「国家ビッグデータ戦略」を推し進めるほか、「大衆による起業、万民による革新」の環境を整えることを提起している。 さらに、コミュニケは「調和のとれた発展」も重視している。都市・地方間の調和のとれた発展のほかに、新しいタイプの工業化、都市化、農業の現代化を同じペースで発展させることなどが提起されている。 日本メディアで報道されている「一人っ子政策」から「二人っ子政策」への転換も人口のバランスが崩れることが懸念されるために提起されたもので、これも「調和のとれた発展」戦略の一部分である。 コミュニケで示されている「発展」の基礎にあるものは「人を基本にする」という理念で、今後中国は人々が経済の発展を肌で感じられるよう民生重視の政策をとり、かつてケ小平が掲げた「共同富裕」の目標の実現を目指すだろう。 経済成長率や構造改革など 成長への課題は多い このようにコミュニケでは小康社会の完成に向けての道筋が示されたわけだが、それにはいくつかの課題がある。 まず第一に、どの程度の経済成長を続けられるかという点である。ケ小平も指摘していたが、改革の環境をつくるにはやはり一定の経済発展が必要だ。これまでは10%を目標にしていたが、それは経済規模の拡大を狙った、いわゆる開放経済下での「大躍進」であった。そのため、過剰で無駄な投資や水増し報告も含まれている。 習政権は「水分のない」経済発展を目指して発展の質を求め、就任後の政府報告では「合理的な経済の動き」という言葉を使い、過度な経済成長路線をとらないことを明言している。 今年の第3四半期の経済成長は6.9%で7%を割り込んだ。今年の「政府活動報告」では、今年の目標経済成長率を7%ほどと設定しており、やや幅をもたせている。 国家情報センター経済予測部の祝宝良主任は、6.52%あれば2020年までに所期の目標を達成できるとみており、大方の専門家も6.5%前後あれば十分とみている。ただ、現在中国は内需が力強さに欠けることや、輸出もこれまでよりも力弱いなど不安定要因もあり、多少の曲折が予想される。今後、現段階の中国にとってどの程度の成長率が適正かを見極め、調整政策をとる必要がある。 二つ目の課題は、経済構造の転換がスムーズに進むかということである。新常態下の中国経済はこれまでの政府による固定資産投資に頼った経済から消費主導の経済構造に転換するとされている。実際に中国政府もそれを目標に掲げ、内需拡大のための政策をとっている。 現在習政権が進めている「大衆による起業、万民によるイノベーション」もその一環である。その実現には、政府が経済発展のためのレールを敷くことも必要だが、大企業などでスピンアウトした人たちが容易に起業し、活躍できるような環境の整備が必要である。 もう一つの課題は、改革の障害を取り除くことである。大胆な改革の途上では様々な障害に遭う。例えば、三中全会は、現代的な企業制度を基礎にした国有企業改革を提起したが、その方向にはいかず、党の役割を強調した改革となった。 また、金融市場の整備も十分でなく、管理監督を強化した。このため、しばらくは党が強力なリーダーシップを発揮して改革の障害を取り除く必要があろう。 以上、今後の中国の課題を挙げたが、現在中国政府は財政政策において「ストック資金を活性化」することと同様、国内における発展の潜在力を掘り起こそうとしている。それにはやはり、「戦略的不動心を保ち、状況に応じて計画していく」ことが重要となってくる。 中国の発展のために 日本との協力は不可欠 コミュニケは互恵ウィンウィンの開放戦略をとり、世界経済と密接な関係を保ち、さらに「幅広い利益共同体を構築する」ことも述べている。現在中国は「一帯一路」を提唱して沿線諸国との経済関係を強化しており、またAIIBを発展させようとしている。 中国のいう「幅広い利益共同体」というのは、「一帯一路」のことを指すと思われるが、それが中国の経済的覇権を目指すという疑念もある。ただ、中国の対外経済外交の基本は互恵ウィンウィンで各国の共存共栄を目指すものである。 中国は国際的地位が上がって大国になったが、まだその地位に慣れているとは言い難く、自らの目指すものをはっきりと世界各国に伝えきれていないところもある。そのため、中国の対外経済政策はウィンウィンなのだと世界に説明する必要があるだろう。 このような状況のもとで日本との関係はどうなるか。今年は戦後70周年の節目の年で、中国は抗日戦争に関する宣伝を強化し、さらには軍事パレードで、自国の軍事力を誇示したため、政治体制の異なる日本の人々の目には「中国の宣伝やパレードは日本に向けたものだ」と映る。だが、日中関係は全体的にみれば、改善に向かっており、以前のように極端に日本を批判するような報道はあまり見られず、関係改善の環境は整ってきている。 日中の政治関係は本格的改善にはいたっていないが、経済面では両国関係発展の可能性がある。 中国は改革開放後、三十余年で経済が発展し国力も向上したが、中国の製造業が作り出すものが人々の高度化したニーズに対応しているとは言い切れない。今後中国の工業化はミドルハイエンド段階に入るため、クリーンエネルギーなど「環境に配慮した発展」が必要となる。日本はその面での技術に優位性があるため、日中協力の余地は大いにある。 今年の全人代の「政府活動報告」には、中日韓FTAについて言及されており、三国間の経済協力が進む可能性がある。国家発改委対外経済研究所国際経済協力室の張健平室長によると、「生産能力と技術設備レベルについては、日本はハイエンド、韓国はミドルエンドで、中国は過去のミドルエンドからハイエンドに向かいつつある」とし、日本と韓国が付加価値の高い部品を中国に提供し、中国が組み立てるという分業が成立するのではと見ている。 また、中国は経済構造転換のため、サービス業の発展を目指している。生活レベルの向上とともに、消費者もサービスの質を求めるようになってきた。これまでの中国は「人がたくさんいるから、あなたが買わなくても、ほかにほしい人がたくさんいる」という発想で、サービスを考慮していなかった。また、「サービスをする人は、ランクが下の人間」という発想もあり、なかなかサービス業が発展してこなかった。 中国のサービス業はレベルが上がってきたものの、日本のような「きめ細やかな」サービスのレベルに達しているとは言いがたい。今後中国は雇用吸収が多い産業として、サービス業の発展を目指しており、その面での日中協力は不可欠だ。 今後の日中経済関係は、これまでの労働コスト節約のために進出して自社製品を加工するというものではなく、市場創出型、高度な技術面、環境面での協力にバージョンアップするのではないかと考える。 http://diamond.jp/articles/-/81039 |