3. 2015年10月05日 18:07:33
: OO6Zlan35k
AIなのか人なのか、コンタクトセンターは2分化する問題解決のスペシャリストを育てれば競争力に直結 2015年10月5日(月)木村 知史 製品やサービスなどに問題が生じた際に、ユーザーが駆け込むコンタクトセンター。ユーザーが実際に話しをするオペレーターの対応1つで、ユーザーがその企業に持つイメージが大きく変わるので、コンタクトセンターが担う役割は重要だ。 コンタクトセンターは今後どうなっていくのか。AIなどを利用して徹底的に自動化するのか、もしくはピンポイントで問題解決できるように人を育てるのか、今が分かれ目とコンタクトセンターおもてなしコンソーシアム(COC)代表理事でイースマイル代表取締役CEOの齊藤勝氏は語る。人をスペシャリストとして育てれば、サービスに真面目に取り組む企業として競争力向上にも直結するという。 (聞き手は木村 知史) コンタクトセンターはコールセンターと呼ぶのが一般的だと思うのですが、なかなか市場規模などが分かりません。 齊藤 勝(さいとう・まさる)氏 コンタクトセンターおもてなしコンソーシアム(COC)代表理事/イースマイル代表取締役CEO 東京入谷生まれ。大学卒業後、アラビア語を学び、外務省、在バーレーン日本大使館に勤務。帰国後は、民間企業でCRMビジネスを学び、国内外の様々な手法を経験。コンタクトセンターコンサルタントとしての独自スキルを磨く。 齊藤:コンタクトセンターは、確かに比較的新しい業界だと思います。その市場は、1.1兆円ぐらいと言われていますので、1兆円クラスに入っています。
私が代表理事を務めるコンタクトセンターおもてなしコンソーシアム(COC)は、NPO(非営利法人)として2013年3月に正式に認可を受けたので、3期目という状況です。ただし、2011年から準備活動は行っていました。 2020年の東京五輪誘致が正式に決定したのが、2013年9月ですから、“おもてなし”という言葉を使ったのは、COCの方が早いですね。 齊藤:そうですね。おもてなしという言葉にフォーカスが当たったのは、ありがたいことです。コンタクトセンターというと、あまり日の当たる存在ではないので。 COCは、そういった縁の下の力持ち的な存在であるコンタクトセンターの規模を拡大していくと共に、抱えている課題を克服することを、その活動の目的としています。 中でも、生涯職業化推進と雇用機会の拡大ということには力を入れています。この業界の課題として、非正規雇用が非常に多いということがまず挙げられます。 どれぐらいの方が非正規雇用なのでしょう。 齊藤:コンタクトセンターで働く方を、一般にはオペレーターという呼び方をしていますが、日本ではだいたい7割強ぐらいのオペレーターが非正規雇用です。米国や欧州では、この割合が半分以下になって、正規雇用で働いている方が中心で営まれている業界となります。 これがいいか悪いかは別としても、日本では業績の調整弁みたいになっているところがあり、結果としては正規雇用がなかなか促進されません。オペレーターの方は女性が中心で、結婚や出産を機にこの業界から辞めていってしまいます。せっかくいろいろノウハウが積み上がっているにも関わらずです。そこを何とか生涯職業化にできればと活動しています。 また、産業を通じた地域貢献にも力を入れているところです。地方の活性化などと最近よく言われていますが、コンタクトセンターがいいのは、人がいて、パソコンがあって、屋根があればどこでも作れるところです。 ただ、人を雇用しなくてはならないので、これまでは大都市を中心にして事業が展開されていますが、そこをもう少し企業がチャレンジして、多少言葉になまりがあるような人とか、地方のお年寄りとかでも、ちゃんと受け答えができれば良いとすれば、地方にも広がっていくと考えています。 沖縄などにコンタクトセンターを設ける企業は多いですが、そのような取り組みが他の地方でも可能ということですね。 齊藤:COCでは、さらに将来にも目を向けて、ビジネスモデルの研究も行っています。5年先、10年先はどうなっていくのかを研究しているわけです。実はこの業界、R&Dがすごく弱いのです。皆さん、自ら率先してやりたがらない。だったらNPOとしてR&Dを率先して行なっていこうという考えです。 米国発でも日本流に発展させる 研究を進めれば、コンタクトセンターが日本の強みになるんじゃないかというのを非常に感じております。コンタクトセンターのオペレーションは、日本は米国から教えてもらったことがすごく多いのです。特に非対面の対応で、標準化するという面においては。 そうは言っても、我々はおもてなしという言葉を使っていますが、おもてなしの精神で非対面の中のサービスモデルをどんどん追求していく。そうするとこれが世界的に差別化要素になってくるのではないかなということで、この辺を推進していきたいと取り組んでいます。 コンタクトセンターは、元々は米国から伝わってきたもので、米国から学んだ。ただ、日本がそこから成長させた部分もあって、今後はより発展させられるという意味ですか。 齊藤:米国には多種多様な人種がいます。そういったすべての人種に応えるとなると、やっぱり標準化なんですね。標準化して、お客様に対して平均的にサービスを提供しましょうというのは、それはすごく正しい。ただ、お客様にはいわゆるユーザー単価が高い方もいれば低い方もいます。また、お客様の嗜好もまちまちです。 日本人はお客様の高い期待に応えられる技術要素というのは結構持っているので、コンタクトセンターの技術を高めることができる。一方で、それに向かうのが正しいかというと、企業活動全体からすればそればかりやっていても経営は成り立たない。具体的には通話時間が長くなったりとか、要員が多く必要になってきたりするので。 でもお客様との関係をどんどん良くしていくことが、経営を良くしていけるようなビジネスもあるのだと思います。そして、そういうところが結構、日本人は得意だと考えています。 経営者の方々に聞くと、皆さん、7割ぐらいの方々がサービス品質を重視するとおっしゃっています。では、実際にそれを差別化要素としてどうやって実施するかというと、対面接客を充実していこうという考えは容易に想像つきます。今までは、コンタクトセンターに注力して投資するという方は、あまりいらっしゃらなかったように思います。 もちろんコンタクトセンターも差別化要素になり得ますし、そういった実績も結構あるのです。であれば、もっと多くの方にそこに経営資源を当ててもらいたい。新しいお客様を見つけるよりも、既存のお客様にもっと好きになってもらう方がいいビジネスもあるじゃないかと。コンタクトセンターに投資をするという発想がもっと促進できればいいなと思っているんです。 おもてなしと言われるように、コンタクトセンターを通じてお客様をより満足させることが日本人は得意というわけですね。どうして日本人なら差別化要素として成長させられるのでしょう。 齊藤:まだ我々も定量的には分析できてないのですが、日本は狭い国で人と関わりながら生きているということが大きいと思います。人と全然関わらずに自分のやり方で押し通すというのは、たぶん日本では地形的に許されない。基本的に誰かと関わってうまく調整していくというのが、ほかの国の方々よりは、潜在的にできているんですね。 例えば、旅館でもお店でも、お客様が見えなくなるまでずっと見送るじゃないですか。目が届くところまではちゃんと私の責任において、何かあったらお助けしますということがあるのだと思います。海外の人はやらないですよね、何か考え方とか、人に対しての節度の持ち方とかいうのが、長い歴史の中で積み重なって形成されて、自然と日本人はできているのだと思います。ここは対面の部分です。 ただ、非対面となった途端に、そこは歴史がないのです。言われた通りにやってみたら、一律的にはできているんだけど、それ以上、何かもう一歩を踏み出せないというのが今の状況だと思っています。 コンタクトセンターを経営視点で見たときのKPI(重要業績評価指標)がすごく細かいのも原因だと思っています。このため1本当たりの電話の処理は何分が望ましいとか、休憩もシフトできっちり決められているとか、その間にちゃんとお手洗いに行きなさいとか、かなり厳しく管理されているんです。 おもてなし度の評価指標を作成 日本型コンタクトセンターとして発展させるためには、日本人の持った潜在的な力を引き出すということが重要ということでしょうか。 齊藤:そうですね。ただ、どんなにオペレーターにやる気があっても個人の裁量でお客様にこういうことをやった方がいいとか、意見を言えるような環境が整っていないのも事実です。もう少し現場に権限委譲すれば、お客様が喜ぶ場合もあるかもしれない。コスト偏重型から付加価値提供型のビジネスモデルにどんどんシフトしていきたいです。 また、今はオペレーターの待遇がすごく悪いのも問題です。平均的なオペレーターの年収が250万円前後で、その上位者の方、スーパーバイザーという言い方をしていますが、その方でも300万〜400万円。業界として人材をちゃんと育成できるような仕組みを作っていく必要があるでしょう。そんな中で我々は今、ベストオペレーターとかスーパーオペレーターを輩出したいというようなことも考えています。 また活動の1つとしてユニークなところでは、おもてなし度というのを定量的に把握できるような仕組みを考えています。経済産業省が“訪日客にやさしいお店”という視点でおもてなし度を評価、認証する制度を考えているようですが、我々はコンタクトセンターの評価の指標としておもてなし度を使おうと思っています。 それによって、どの会社のコンタクトセンターが顧客に本当に優しいか、といったことが分かるわけですね。 齊藤:はい。通常、コンタクトセンターの評価というのは、モニタリングと言って、社内の人間がコンタクトセンターに実際に電話をかけてみて、これができている、できてないといったようにマルバツを付けて採点します。ただ、あまり顧客視点ではないんですね。あくまで企業の中で誰が優秀とか、優秀じゃないとか。 そうではなく、ちゃんとお客様の心をつかんでいるかとか、会話に何か感動があったかとか、期待をちゃんと超えているかとか、そういったものを含めて評価をするような仕組みを作ろうしているのです。そうすれば、改善した結果がサービス向上にどうつながっているのかも分かるので、携わる方にやる気が湧いてきます。 では、コンタクトセンターでは、これから人に投資することが重要になってくるのでしょうか? 齊藤:必ずしもそうとは言えません。今、コンタクトセンターではサービスが2分化しようとしています。AI(人工知能)が進歩してきたことによってデジタル化でいくのか、あるいは人を活用していくのか。ちょうど今、分かれ目にきていると言えます。 デジタル化というのは、完全に無人で対応しようということでしょうか? 齊藤:極端な話、バーチャルなオペレーターが対応してくれるような世界も一部ではできています。「こういうことで悩んでいるんだ」とお客様が尋ねると、機械が分析して、「こういうことですか」と返してくれる。 一部の企業ではトライアルで導入されていますが、まだまだ精度がよくないんですね、ただ、どんどん情報が蓄積されれば、回答精度も上がってきます。10年も経たない中で、かなりの部分はAIで対応できると考えています。 企業としては、どうしても人を雇うのが一番の重荷になります。だからお客様ではあるけれども、そんなに利益に貢献してくれてないお客様とか、先ほど申したようにユーザー単価が小さいようなお客様には、人手をかけずに、機械でやってもらおうという、そういう発想です。 人でなくてはできないことを突き詰める 一方で、コンタクトセンターで人を活用して何をやるんだということですが、それはコンタクトセンターを通してサービスを充実することでしかないのです。モノがこれだけあふれていて、さらに情報もあふれていれば、適切な価格も分かってお客様は買っていらっしゃる。であれば、サービスを充実させて、競合他社との違いをつけようと考えてもおかしくありません。 では、そのサービスってコンタクトセンターでは何かというと、多分そこは人でないとできないこと。お客様に聞かれたことに対して答えるのは当然なんですが、そのバックグラウンドをいろいろ聞いて意識を共有するとか、その問題に行き着くまでにどのようにお客様は選択していったのかを聞くことで、よりよいアドバイスにつなげるとか。そういう付加価値の高いことを、人を活用してもっとやっていこうというのが、もう1つの流れです。主にユーザー単価が高いようなお客様に対応する場合が主となりそうですが。 それと、今後は予見管理がどんどん進んでくると思います。予見ができれば、このタイミングでは、こういうことで困っているので問い合わせが来るはずだというのが分かるのです。必要に応じて、こちらからお客様にコンタクトしていくのもコンタクトセンターにいるオペレーターの役割になっていくはずです。 その予見管理に基づいて、ユーザー単価の高い優良なお客様に対して、能動的なアプローチをするときに、今までみたいな一律な対応はそぐわないわけですよね。また、コンタクトする手段としても、電話ではなくメールやSNSなど、お客様に適したチャネルにしなくてはなりません。それはもう経営者の方もご存じのはずなので、そういった人を活用する方向にカジを切るかどうか、そこの見極め時期だと思っています COCの活動の目的に生涯職業化ということを挙げてらっしゃいました。生涯職業として考えたとき、AIではできないとことを人は身に付けるしかないのですね。 齊藤:そうですね。業界規模を考えると、大部分がAIに代わってしまうとなると、一時期は縮退になるかもしれません。ただ、“人にしかできないこと”を突き詰めていけば、まだまだ市場は広がると考えています。 サービスの2分化を考えたとき、この業種のコンタクトセンターはAI化に進む、一方でこの業種は人手活用に進む、といった分け方はできますか。 齊藤:そういう分け方はしにくいと思います。ただ、やっぱり高齢の方々は最終的には人にサポートしてもらった方がいいですよね。そういった高齢者がユーザーである製品やサービスであれば、人を活用した方向は外せないと思います。 また、AIに置き換えが可能といいましたが、繰り返しますが人でやらなければならない部分は絶対に残ります。お客様が自己解決しようとして、チャットやメール、インターネットで駄目だったら、やっぱり電話がかかってくるわけです。そうすると、今以上にコンタクトセンターに対しての期待は大きくて重要になっていきます。 優れたオペレーターを表彰 そうなると、オペレーターは製品やサービスに対して隅から隅までしっかりと理解していないと、お客様の期待には応えられそうにありません。 齊藤:もちろんです。もし、真剣にコンタクトセンターで競争力をつけたいとしたら、スペシャリストを作るための仕組みを構築すべきでしょう。しっかりした教育を受けさせるといったことと共に、勤務態度などを定期的にモニタリングするなどが必要となります。既にある程度の仕組みを設けている企業の方もいらっしゃいますが、これを徹底しなくてはなりません。 私が見ている限り、現状でもコンタクトセンターで評価されているオペレーターの方は、すごく真面目で学習熱心な方が多いです。いい加減では、決して務まる仕事ではありません。人に会うのが嫌いという方はいらっしゃると思いますが、そういった方には格好な仕事だと思います。 オペレーターを目指す方を増やすためには、さらに広報宣伝に力を入れるなど、COCの活動も重要となりそうです。 齊藤:ご指摘の通りです。そういったことを目的に、10月16日に「おもてなしフェスティバル」を開催いたしますので、多くの業界の方に参加していただけたらと思います。先ほど、おもてなし度を評価する取り組みについてお話ししましたが、このイベントではおもてなし度を評価するための基準などに対して発表する予定です。 それと共に、その基準に基づいて優秀なオペレーターの方を表彰することも予定しています。事前に何社かの方に、お客様とオペレーターの方のやり取りが録音された音声ファイルを送っていただき、それを我々が顧客目線で審査させていただき、表彰します。今回はトライアルの意味合いが多いのですが、今後も継続させていくことで、オペレーターの方にはやりがいを持っていただきたいです。そして、企業の方にはコンタクトセンターをもっと重要視していただけたらと考えています。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/100200064
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