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東電本社(撮影=編集部)
東電幹部を業務上過失致死傷の疑いで起訴へ!原発、大津波事故を予見しつつ対策先送り
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13746.html
2016.02.12 文=小石勝朗/ジャーナリスト Business Journal
福島第一原子力発電所で未曽有の事故を起こした東京電力の幹部に対して、刑事責任を問うことができないか。福島県の原発事故被災者らが検察に告訴・告発したのをきっかけに、勝俣恒久・元会長ら3人の東電元幹部が強制起訴されることが決まったのは昨年7月だった。
検察官役を務める5人の指定弁護士は、東日本大震災から5年となる今年の3月11日をメドに3人を起訴する見通しだ。そこから始まる長い刑事裁判を後押ししようと、弁護士や文化人、市民運動家らが呼びかけた「福島原発刑事訴訟支援団」が1月30日に発足した。
これまでの経緯をおさらいしておく。2012年6月、原発事故被災者らでつくる「福島原発告訴団」が東電幹部らを業務上過失致死傷罪などで検察に告訴・告発する。しかし、検察は翌年9月に全員を不起訴とした。これを不服とした告訴団の申し立てを受けた検察審査会は14年7月、3人について「起訴相当」と議決。再捜査した検察は翌年1月に再び不起訴としたが、再度の申し立てを受けた検察審査会が3人に2度目の「起訴相当」の議決をしたため強制起訴となることが決まった。
起訴されるのは、勝俣元会長と、武藤栄・元副社長(原子力・立地本部長)、武黒一郎・元副社長(同)の3人。罪名は業務上過失致死傷だ。検察審査会の議決は、3人が福島第一原発を大きく超える津波が襲来して重大事故が発生する可能性のあることを予見できたのに、必要な安全対策を取ることなく運転を続けたため、大震災による津波で炉心損傷などの事故を起こし、避難を強いられた近くの双葉病院の入院患者44人の病状を悪化させて死亡させるなどした、と認定した。
発足した刑事訴訟支援団は、この事件に対して「公正な裁判が行われ、真実が明らかになり、問われるべき罪がきちんと追及されるよう働きかけること」を目的に掲げている。福島の原発事故には「人災」との指摘があるにもかかわらず、これまで刑事責任が問われてこなかったためだ。
■事故対策を先送り
活動としては、公判の傍聴・記録と社会への発信、証拠の収集・分析などを想定している。賛同する法律家やジャーナリストらのネットワークを形成したり各地で集会を開催したりして、息長く世論の関心を喚起していく方針だ。年会費1口1000円以上の個人会員も募集している。
支援団の団長には、福島原発告訴団の中心メンバーだった佐藤和良・元福島県いわき市議が就いた。佐藤氏は東京都内で開いた発足集会で「原発事故は想定外でも天災でもなかった。刑事裁判を通じて民事訴訟では出てこない証拠を開示させ、事故原因を究明し、責任を明確にしたい。原発再稼働の路線にストップをかけ、事故の再発防止にもつなげたい」と力を込めた。
発足集会では、原発告訴団や、東電の現・元取締役を相手取った株主代表訴訟で代理人を務める海渡雄一弁護士が講演。これまでに把握した「事故前の東電の対応」として以下の内容を解説した。
・08年3月:福島第一原発を15.7メートルの津波が襲う可能性があるとの試算を社内でまとめる
・同6月:担当部署が武藤氏に対し、上記試算結果とともに、原子炉建屋を津波から守るには海面から10メートルの地盤に高さ10メートルの防潮堤を築く必要があると説明。武藤氏は対策の検討を指示
・同7月:対策を先送りすることに方針転換
刑事裁判ではこうした点も含めて、東電の幹部が大津波による事故の発生を予見できたか、また、対策を取っていれば被害を回避できる可能性があったかが争点になりそうだ。初公判は今年の夏以降になる見通しという。
■10年がかりの裁判
検察官役を務める5人の指定弁護士のうち、石田省三郎氏と神山啓史氏は「東電女性社員殺害事件」で再審無罪を獲得しており、山内久光氏は2度目の「起訴相当」議決をした検察審査会で審査補助員(アドバイザー)だった。強制起訴による刑事裁判では小沢一郎氏のように無罪となるケースも多く、支援団に加わる弁護士からは「有罪にするのは強制起訴より大変だ」との状況分析が聞かれるが、海渡氏は「最高の布陣」と期待を込めた。
海渡氏によると、この裁判における被害者となる双葉病院の入院患者の遺族から支援団の弁護士が委託を受け、被害者参加制度を利用して法廷で意見を述べたり被告に質問したりすることができないかも検討しているという。
審理が最高裁まで続くのが確実で、10年がかりになるともみられる刑事裁判。支援団の発足集会には400人以上(主催者発表)が参加したが、「脱原発」一色で、年配の人の姿が目立った。広く社会の関心を集めるには、脱原発にとどまらない多様な立場からのアプローチと、より若い層への働きかけが不可欠だろう。
(文=小石勝朗/ジャーナリスト)
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