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伊方原発訴訟最高裁判決はこんなに常識はずれ!
関西電力高浜原子力発電所3、4号機の再稼働を認めた福井地裁の決定にも影響を与えた最高裁の判決が昭和60年(行ツ)133号「伊方発電所原子炉設置許可処分取消事件」と言われるものです。平成4年10月29日に最高裁第一小法廷から出されたものです。この本文が最高裁のサイトの次のURLにあります。
http://www.courts.go.jp/…/f…/hanrei_jp/276/054276_hanrei.pdf
事件番号である昭和60年(行ツ)133号を最高裁の判例検索で引けば出てきます。この資料はコピーや検索ができるのでとても便利です。
自分自身、かなり長い判決文であろうと勝手に思い込んでいたのですが、A4で9枚という非常に簡単な判決です。この記事の後半に全文をコピーしますからぜひお読みください。
以下、この判決がどれほどおかしいかの理由を箇条書きします。
1.最高裁判所は基本的に証拠調べをしません。そのせいなのか、この判決文には「伊方」という文字は含まれていません。当然、伊方原発の地理的特性である中央構造線のことも全く触れられていません。「南海トラフ」も「南海地震」も出てきません。最高裁は法律問題だけを論じると言うことが使命だと言っても、これではあまりに実態を無視しています。そもそも、最高裁に上告できる条件として、平成4年当時の旧民事訴訟法第395条に判決理由に齟齬があるときと定められていて、「齟齬」があるかどうかは、当然実態がどうであるかを見ないと判断ができない場合があるのです。まあ、このことについては、上告人(原告)や被上告人(被告)がどんな主張を展開していたかも関係があるので、一概に言えませんが、それにしても、伊方原発が安全だと最終的にお墨付きを付けた最高裁判決が、実際の危険性についてはまったく何も言及していないということは注目に値します。原子炉と言うとても重要で危険な施設に関連して、実態をほぼ完全に無視した判決がこうしてされてしまうというのはとても危険なことです。司法自体が社会を破壊する役割を果たしてしまっているのです。
2.突っ込みどころ満載の判決本文ですが、あまりにいっぱいあって全てを挙げていると記事が長くなってしまうばかりですから、主要点ではない部分でおかしいという点を1つだけ判決本文2ページから次に引用します。
(*以下引用開始:)
原子炉設置許可の申請が規制法二四条一項各号所定の基準に適合するかどうかの審査は、原子力の開発及び利用の計画との適合性や原子炉施設の安全性に関する極めて高度な専門技術的判断を伴うものであり、同条二項は、右許可をする場合に、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めている。このことにかんがみると、所論のように、基本法及び規制法が、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置いていないからといって、その一事をもって、右各法が憲法三一条の法意に反するものとはいえず、周辺住民である上告人らが、本件原子炉設置許可処分に際し、告知、聴聞の機会を与えられなかったことが、同条の法意に反するものともいえない。以上のことは、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決(民集四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである。
(*以上引用終わり。)
上の引用で言っている「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」は改正がされていて、「規制法二四条」がどんなものか、調べることができませんでした。改正後の法律条文は次のURLにあります。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO166.html
ただ、ここで言っていることは、「高度な専門技術的判断を伴うもの」は「各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めている」のだから、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置いていないからといって、その一事をもって、右各法が憲法三一条の法意に反するもの」とはみなせないということです。
ちなみに、憲法三一条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」です。適正手続の保障についての決まりと一般に解釈されています。「刑罰を科せられない」という部分からまず刑事手続きに関係していることが分かりますが、実際には拡大解釈され、市民生活の安全と法律の関係を示しているとされます。
そして、当然のことながら、専門家が判断しているから素人は黙って従えということは正しくないのです。このことは、刑事裁判において、例えば鑑識が高度な専門知識で証拠をつかんだからと言って、それを容疑者の方へ何も開示することなく、つまり、裁判を開くことをせずに有罪と決めてしまうことがおかしいのと同じです。社会は複雑であって、いろいろな事情が存在します。金庫に指紋が付いているからと言って、容疑者がその金庫を開けたかどうかはまた別問題であることがあるのです。
特に、原子炉設置については、普通数十年、つまり、30年とか40年、またはそれ以上の期間の原子炉運転が予定されているわけですし、また放射性キセノンなどの、通常原子炉から常時漏れていると思える放射性物質の健康被害がどのようなものか、ほとんどまったく開示されていない現状から考えれば、専門家の判断自体がとても危ういというか、信頼性のあまりないものなのです。つまり、原子力と言う巨大技術は戦後発達し、この判決のあった平成4年(1992年)では、終戦から47年後であり、原子炉がどう経年劣化するかもはっきり分かっていなかったからです。このことについては、現在でもはっきりは分かっていません。大きな地震が原発の近隣で発生した例も2007年の中越沖地震が初めてで、もし、大きな地震が原発の直下で発生した場合の被害は、現在でもまったく判明していないのです。
更に、原子炉は政治的な背景があります。通常は、原子爆弾の原料であるプルトニウム製造のため原子炉が設置されるわけであり、単に民間事業者が営利目的で設置するようなものとは全く異なった背景があるのです。そういったときに、専門家の判断は大きな権力によって捻じ曲げられてしまうことがよくあります。
その他にも、原子炉設置について専門家の判断だけでは足りず、実際に原子炉の近くに住み、危険性を背負う住民の方たちの意見や質問を聞くべきだという理由はいくつも挙げることが出来ます。
重ねて述べますが、いろいろな意味で周辺住民の方たちの生活に影響を与える原子炉設置を、「周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置」くことなく進めることは明らかに憲法31条の適正手続きに違反するのです。
なお、最高裁というか、裁判所は、上に挙げたような判決文や決定を非常によく出すようです。つまり、まったく実態を検討することなく、単に、「右各法が憲法三一条の法意に反するものとはいえず、周辺住民である上告人らが、本件原子炉設置許可処分に際し、告知、聴聞の機会を与えられなかったことが、同条の法意に反するものともいえない。」のように、レッテル貼りと言っていいことをやるのです。判決文を読んでも、何が問題になっているのか、糸口さえさっぱりわからないという判決文は非常に多くあります。このことは、裁判資料が5年間保存で、判決文のみが一応50年保存とされていることも関係があるように思います。つまり、都合の悪いことはあまり長期間残らないようにしたいということです。同様に、こういった判決はネットで公開されている判例にも出てきません。ネットで公開されている判例は世間的に有名なもの、そして、裁判所がいかにも正常に機能していると印象付けできるものです。
3.平成4年伊方最高裁判決の最大の問題点は段階規制というものです。そのことに触れた部分を判決6から7ページから次に引用します。
(*以下引用開始:)
規制法第四章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容をみると、原子炉の設置の許可、変更の許可(二三条ないし二六条の二)のほかに、設計及び工事方法の認可(二七条)、使用前検査(二八条)、保安規定の認可(三七条)、定期検査(二九条)、原子炉の解体の届出(三八条)等の各規制が定められており、これらの規制が段階的に行われることとされている(なお、本件原子炉のような発電用原子炉施設について、規制法七三条は二七条ないし二九条の適用を除外するものとしているが、これは、電気事業法(昭和五八年法律第八三号による改正前のもの)四一条、四三条及び四七条により、その工事計画の認可、使用前検査及び定期検査を受けなければならないこととされているからである。)。したがって、原子炉の設置の許可の段階においては、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事方法の認可(二七条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。
右にみた規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく、その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である。もとより、原子炉設置の許可は、原子炉の設置、運転に関する一連の規制の最初に行われる重要な行政処分であり、原子炉設置許可の段階で当該原子炉の基本設計における安全性が確認されることは、後続の各規制の当然の前提となるものであるから、原子炉設置許可の段階における安全審査の対象の範囲を右のように解したからといって、右安全審査の意義、重要性を何ら減ずるものではない。右と同旨の見解に立って、固体廃棄物の最終処分の方法、使用済燃料の再処理及び輸送の方法並びに温排水の熱による影響等にかかわる事項を、原子炉設置許可の段階の安全審査の対象にはならないものとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
(*以上引用終わり。)
特に問題なのは最後の部分で、「固体廃棄物の最終処分の方法、使用済燃料の再処理及び輸送の方法並びに温排水の熱による影響等にかかわる事項を、原子炉設置許可の段階の安全審査の対象にはならないものとした原審の判断は正当として是認する」とした部分です。
このことには判決2ページにある次の部分も関係してきます。
(*以下引用開始:)
規制法二四条一項四号は、原子炉設置許可の基準として、原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと規定しているが、それは、原子炉施設の安全性に関する審査が、後述のとおり、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある上、科学技術は不断に進歩、発展しているのであるから、原子炉施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず、最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの見解に基づくものと考えられ、右見解は十分首肯し得るところである。
(*以上引用終わり。)
つまり、簡単に言えば、原子炉の建設工事には3年から10年程度かかるし、その後の運転も数十年かかり、その間に科学が進歩することが期待できるので、原子炉設置の時点では、運転してからのことは心配する必要がないと言っているのです。しかし、原子炉を建設するには数千億円かかるわけですから、建設してしまえばどうしても動かしたくなるわけです。電力会社の経営としてそれは当然でしょう。そして、もし、原子炉が運転できないとなれば、地域独占の日本では、一般市民の電気代へそのコストが転嫁されるだけなので、一般市民自体が電気代上げを嫌って運転を望むこともあり得るわけです。
更に問題なのは、「固体廃棄物の最終処分の方法、使用済燃料の再処理及び輸送の方法並びに温排水の熱による影響等にかかわる事項」であり、固体廃棄物には劣化ウランも含まれます。これは再処理してもそのまま残るわけで、核燃料の90%以上は劣化ウランです。これは重金属毒性を持ち、その毒性は永遠に残るのです。地層処分したとしてもせいぜい300mとか500mですから、地下水利用がされる深さです。また、再処理自体の技術的困難さも全く検討されていません。温排水の問題も運転すればほぼ確実に発生するわけで、これを技術的に解決する可能性があるかというと原理的にとても困難だと考えると思います。
つまり、原子炉設置段階で後の問題は考えないというこの最高裁の判断はとんでもないものなのです。なお、この考え方自体は最高裁が最初ではなく、地裁、高裁で繰り返し述べられていたもののようです。原告側がどう反論していたのか、それを知りたいと思うのですが、まだ調べていません。
なお、高浜原発再稼働を認めなかった決定でも、この最高裁判決が引用されています。しかし、上に述べた部分ではなく、最高裁は一般市民のことも考えているよということを示した部分の引用です。非常に興味深いことに、その同じ部分が再稼働を認めた決定でも引用されています。言葉は解釈次第ということを明瞭に示すいい例であると思います。
2016年01月03日14時20分 武田信弘
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以下、判決文のコピーです。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。 理 由
上告代理人の上告理由のはじめに、第一章、第二章及び第五章の第一について 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
所論は、憲法三一条は、電力会社等が設置する原子力発電所の設置規制手続を定める法律には、(1) 原子炉設置予定地の周辺住民の設置規制手続への参加、(2) 設置の申請書、付属書類及び審査資料すべての公開、(3) 設置基準(安全基準)の明白かつ定量化の三点を定めることを要求していると解すべきところ、これらの点についての定めを欠く原子力基本法(昭和五三年法律第八六号による改正前のもの。以下「基本法」という。)、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和五二年法律第八〇号による改正前のもの。以下「規制法」という。)の設置規制手続に関する規定は、憲法三一条に違反するものであり、また、上告人らに告知、聴聞の機会を与えずにした本件原子炉設置許可処分は同条に違反する、と主張する。
行政手続は、憲法三一条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではないと解するのが相当である。そして、原子炉設置許可の申請が規制法二四条一項各号所定の基準に適合するかどうかの審査は、原子力の開発及び利用の計画との適合性や原子炉施設の安全性に関する極めて高度な専門技術的判断を伴うものであり、同条二項は、右許可をする場合に、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めている。このことにかんがみると、所論のように、基本法及び規制法が、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置いていないからといって、その一事をもって、右各法が憲法三一条の法意に反するものとはいえず、周辺住民である上告人らが、本件原子炉設置許可処分に際し、告知、聴聞の機会を与えられなかったことが、同条の法意に反するものともいえない。以上のことは、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決(民集四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである。 また、規制法二四条一項四号は、原子炉設置許可の基準として、原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと規定しているが、それは、原子炉施設の安全性に関する審査が、後述のとおり、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある上、科学技術は不断に進歩、発展しているのであるから、原子炉施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず、最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの見解に基づくものと考えられ、右見解は十分首肯し得るところである。しかも、設置許可に当たっては、申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関する審査の適正を確保するため、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を聴き、これを尊重するという、慎重な手続が定められていることを考慮すると、右規定が不合理、不明確であるとの非難は当たらないというべきである。したがって、右規定が不合理、不明確であることを前提とする所論憲法三一条違反の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
次に、所論は、本件原子炉設置許可処分は、法律又はその委任に基づいて定められたものではない原子炉施設の安全性に関する基準を用いた安全審査に依拠してされたものであるから、憲法四一条、七三条一号、国家行政組織法一二条、一三条に違反するともいうが、本件原子炉施設の安全審査は、その合理性を十分首肯し得る規制法二四条一項四号の規定に基づいてされたものであるから、それが法律の規定に基づかないものであることを前提とする所論は、その前提を欠くものというべきである。論旨は、採用することができない。 所論のその余の違憲主張は、原審の認定しない事実を前提とするものにすぎない。また、所論引用の各判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、いずれも採用することができない。
同第三章について 原子炉を設置しようとする者は、内閣総理大臣の許可を受けなければならないものとされており(規制法二三条一項)、内閣総理大臣は、原子炉設置の許可申請が、同法二四条一項各号に適合していると認めるときでなければ許可してはならず(同条一項)、右許可をする場合においては、右各号に規定する基準の適用については、あらかじめ核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること等を所掌事務とする原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないものとされており(同条二項。なお、昭和五三年法律第八六号による改正により、実用発電用原子炉の設置の許可は被上告人の権限とされ、同法附則三条により、右改正前の規制法の規定に基づき内閣総理大臣がした右原子炉の設置の許可は、被上告人がしたものとみなされることとなった。)、原子力委員会には、学識経験者及び関係行政機関の職員で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ、原子炉の安全性に関する事項の調査審議に当たるものとされている(原子力委員会設置法(昭和五三年法律第八六号による改正前のもの)一四条の二、三)。 また、規制法二四条一項三号は、原子炉を設置しようとする者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、同項四号は、当該申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。原子炉設置許可の基準として、右のように定められた趣旨は、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。 右の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そ のものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の右技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、右審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、規制法二四条二項が、内閣総理大臣は、原子炉設置の許可をする場合においては、同条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号所定の基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めているのは、右のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。
以上の点を考慮すると、右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては、右処分が前記のような性質を有することにかんがみると、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。 以上と同旨の見地に立って、本件原子炉設置許可処分の適否を判断した原判決は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をもいうが、その実質は、単なる法令違背をいうものにすぎず、原判決に法令違背のないことは右に述べたとおりである。論旨は、いずれも採用することができない。 同第四章について 規制法は、その規制の対象を、製錬事業(第二章)、加工事業(第三章)、原子炉の設置、運転等(第四章)、再処理事業(第五章)、核燃料物質等の使用等(第六章)、国際規制物資の使用(第六章の二)に分け、それぞれにつき内閣総理大臣の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第四章所定の原子炉の設置、運転等に対する規制は、専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないことは明らかである。
また、規制法第四章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容をみると、原子炉の設置の許可、変更の許可(二三条ないし二六条の二)のほかに、設計及び工事方法の認可(二七条)、使用前検査(二八条)、保安規定の認可(三七条)、定期検査(二九条)、原子炉の解体の届出(三八条)等の各規制が定められており、これらの規制が段階的に行われることとされている(なお、本件原子炉のような発電用原子炉施設について、規制法七三条は二七条ないし二九条の適用を除外するものとしているが、これは、電気事業法(昭和五八年法律第八三号による改正前のもの)四一条、四三条及び四七条により、その工事計画の認可、使用前検査及び定期検査を受けなければならないこととされているからである。)。したがって、原子炉の設置の許可の段階においては、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事方法の認可(二七条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。右にみた規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではなく、その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である。もとより、原子炉設置の許可は、原子炉の設置、運転に関する一連の規制の最初に行われる重要な行政処分であり、原子炉設置許可の段階で当該原子炉の基本設計における安全性が確認されることは、後続の各規制の当然の前提となるものであるから、原子炉設置許可の段階における安全審査の対象の範囲を右のように解したからといって、右安全審査の意義、重要性を何ら減ずるものではない。右と同旨の見解に立って、固体廃棄物の最終処分の方法、使用済燃料の再処理及び輸送の方法並びに温排水の熱による影響等にかかわる事項を、原子炉設置許可の段階の安全審査の対象にはならないものとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。 同第五章の第二について
原審の適法に確定した事実関係の下において、原子力委員会に置かれた原子炉安全専門審査会及び専門部会における原子炉施設の安全性に関する調査審議の手続に、内閣総理大臣が原子炉の設置の許可をする場合には、原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないとした規制法二四条二項の規定の趣旨に反すると認められるような瑕疵があるとはいえず、右手続が違法でないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。 同第五章の第三について 原審の適法に確定した事実関係の下において、所論のスリーマイルアイランド原子力発電所二号炉の事故及びその原因が、本件原子炉施設について行われた安全審査の合理性に影響を及ぼすものではないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 同第五章の第四について 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足り、右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係の下において、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会が本件原子炉施設の安全性について行った調査審議及び判断に不合理な点があるとはいえず、これを基にしてされた本件原子炉設置許可処分を適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をもいうが、その実質は、単なる法令違背をいうものにすぎない。論旨は、いずれも採用することができない。 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 小 野 幹 雄
裁判官 大 堀 誠 一
裁判官 橋 元 四 郎 平
裁判官 味 村 治
裁判官 三 好 達
- あるべき原発反対行動について お天道様はお見通し 2016/1/03 20:03:11
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