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防衛産業 支援の必要性と課題は?/田中泰臣・nhk
2023年02月17日 (金)
田中 泰臣 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/479776.html
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政府は、自衛隊の装備品を安定して調達するため国内の生産基盤を強化する必要があるとして防衛産業の支援強化に乗り出します。その必要性と課題は。
《防衛産業の現状》
防衛産業とは、自衛隊の戦闘機や護衛艦、ミサイルなどを開発・製造する企業のことで契約額の上位5社はご覧の企業です。
これらは防衛省と直接契約をする企業で、部品などを製造する「下請け」も含めると膨大な数の企業が関わっています。
例えばF2という戦闘機では1100社。護衛艦は8300社、戦車は1300社です。しかしこの防衛産業、昨今、事業から撤退する企業が相次ぎ厳しい状況にあります。最近撤退した主な事例を見ても、軽装甲機動車から航空機のタイヤまで様々な分野に及んでいます。
《撤退の要因は?》
なぜ撤退する企業が相次いでいるのでしょうか。
US−2という海上自衛隊の救難飛行艇を製造する航空機メーカーに話を聞くと、1機の製造を受注するのは5年に一度。そのために設備や人員を維持し、また同じ部品を保有しておくだけでもコストがかかると言います。業界では「お久しぶり生産」とも言われています。工場には下請け企業が撤退したため、引き取った設備もありました。
幹部は「利益は赤字にならないギリギリ。戦前から軍事用の飛行艇を製造しているので、それを絶やしたくないとの思いで続けている面が大きい」と言います。他の企業からも、相手が自衛隊に限られるため少量で受注生産。でも特殊な技術が必要で、割に合わないという声が出ています。また欧米の企業と比較すると、売り上げ全体に占める防衛関連の割合が圧倒的に少ないため株主などから事業継続に疑問の声が上がりやすい側面もあります。
この状況に政府は、防衛産業の縮小で海外からの購入が増え続ければ、安定した装備品の調達や迅速に修理ができなくなるリスクが高まると危機感を募らせています。このため5年間で43兆円を投じる防衛力の抜本的強化策の一環として、今月、国会に法案を提出し、予算措置と合わせて大幅な支援強化に乗り出すことにしたのです。
《適正な利益確保へ》
具体的に何を支援するのでしょうか。
企業側が最も期待しているのが利益を増やす仕組みの導入です。
現在利益率は黒字の製造業をもとに算定されていて昨年度では平均8%。
ただ実際は、先ほど紹介した「お久しぶり生産」や製造に時間がかかることに伴う原材料・人件費の上昇から防衛装備庁によれば2から3%になると言います。そこで今回、工期に応じて1%から5%を保障し、さらに品質や納期、コスト管理などが評価できれば、5%から10%の利益率を上乗せすることにします。単純に平均すれば10%超となり、現状より利益が大きい契約が増えるとしています。
《支援はどこまで?》
また主に下請け企業を対象に製造工程の効率化に役立つAIの導入や、サイバーセキュリティーの強化を行う経費も支援することにしています。
さらに撤退する企業の事業を受け継ぐ企業に対しては、それにかかる経費も支援。
受け継ぐ企業がない場合には、国自身が施設を保有し引き取り先を見つけることまで行う方針です。文字通り国が主導して供給網の維持を行います。
《支援の必要性は》
これらの支援策の必要性、どう考えるべきでしょうか。
そもそも防衛費の大幅増額には反対で、防衛産業ではなく他の産業への支援に力を入れるべきとの声がありますし、政府関係者からは企業どうしの連携など企業側の努力ももっと必要だとの声も出ています。一方で装備品の原資は税金で、政府は、43兆円の財源の一部として増税も行う方針です。今回、アメリカから巡航ミサイル、トマホークを購入しますが、納税者としては海外よりも国内にお金が流れる方が納得できるという方もいると思います。
ただ支援策を実施するにしても企業からは、過去に装備品の導入計画が予算不足で実行されなかった経緯もあり、着実に実行されるのか不安だとの声も出ています。企業が事業としての魅力を感じなければ、縮小の流れは変わりません。
また支援策を実行していくのは防衛省の外局である防衛装備庁で、企業の支援に本格的に取り組むのは初めてです。利益率の算定や支援の認定を適正に判断できるのでしょうか。過去、装備庁の前身の組織では汚職事件も起きています。適正かつ公正に実行するためのルール作りも必要なのかもしれません。支援の必要性も含めて国会での徹底した議論と、私たちも厳しい目で見ていく必要があると思います。
《海外への市場拡大は?》
政府は市場を拡大するため、装備品の海外への移転の支援策も講じようとしています。
海外への移転は、9年前、安倍政権が新たなルール「防衛装備移転三原則」を策定し促進してきました。しかし価格交渉が難航するなどして、これまで完成品として契約が成立したのはフィリピンへのレーダーのみです。今回の法案では、新たに基金を設置し、他国のニーズ、機密保持の点から装備品の改修が必要な際の費用を国が負担できるようにします。これにより価格の低下とともに企業が海外への移転にチャレンジする機運を高めたいとしています。
ただこれで移転が大きく進むかは疑問です。
先に紹介したUS―2は、5年ほど前インドへの移転がほぼ決まりかけていました。ただ価格の問題に加えてインド政府が雇用創出のために一部の製造をインド国内で行うよう求めたことから調整がつかず、契約成立にはいたりませんでした。
韓国では大統領によるトップセールスなど国家戦略として輸出を促進し、ウクライナに軍事支援を行っているポーランドには大量の戦車を売り込んでいます。
海外への移転は、よほど政府主導で取り組まなければ進まないように思います。
《移転のルール見直し議論も》
ただ韓国とは移転できる装備品が限定されている点が決定的に違い、今後そのルールを見直す議論も注目されそうです。
実は去年の与党協議でも議論されましたが、「見直しを検討する」として事実上結論が先送りされ、春の統一地方選挙後に協議が本格化する見通しです。
今の装備移転三原則では共同開発など除き、救難・輸送・警戒・監視・掃海の5つの種類に限られ、殺傷能力のある装備品の移転は認められておらず、この点が焦点となりそうです。見直せば移転できる装備品が格段に増え、また相手国との関係の強化にもつながる可能性があります。一方、今の「三原則」策定の際には「日本の武器で紛争が助長され、人が殺傷されないとの基本理念を変えるものだ」と反対の声も上がり、今回それをさらに見直すとなれば、そうした懸念はさらに強まると思います。この議論は安全保障政策の転換となる可能性があるだけに注目すべきだと思います。
《防衛産業どう位置付けるべきか》
「防衛産業はまさに防衛力そのもの」。政府は、この言葉を掲げ支援策を実施していく方針です。ただ防衛産業が拡大することそのものに反対する声もあります。
それだけに政府には、支援の必要性を強調するばかりでなく、国内の防衛産業が将来的にどのような姿となるのが望ましいのかビジョンを示し、そのあり方をめぐっても国会で議論を尽くしてほしいと思います。(田中泰臣解説委員)
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