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[中外時報]中国は「二人っ子政策」へ やめられない産児制限 論説副委員長 飯野克彦
中国が「一人っ子政策」を撤廃へ――。各紙にこんな見出しが躍ったのは10月30日のこと。前日に閉幕した中国共産党の重要会議(5中全会)が採択したコミュニケを踏まえた報道だった。
間違いではない。ただ、共産党政権が産児制限の政策を全面的にやめるわけではないので、読者に誤解を与えたのではないか、といささか心配にはなった。試みに、コミュニケの該当部分を日本語に訳すと、次のようになる。
「人口の均衡ある発展を促し、計画出産の基本国策を堅持し、人口の発展戦略を改善する。1組の夫婦は2人の子どもを産み育ててもいいという政策を全面的に実施し、人口の老齢化に対応する行動を積極的に展開する」
「計画出産」とは要するに産児制限のこと。改めて説明すれば、これまで1組の夫婦は原則として1人しか子どもをもてなかったのを、2人まで認めることにする、というだけだ。産児制限という「基本国策」は「堅持」を再確認している。その意味では米紙ニューヨーク・タイムズの見出しが秀逸だった。「中国が二人っ子政策を採択」
中国の産児制限政策は以前にも取り上げたことがある。習近平国家主席が最高指導者になる前、つまり胡錦濤前国家主席の時代から、いずれ「抜本的な見直し」は避けられないと指摘してきた。
ひとつには、15歳以上60歳未満の就業人口が2012年から減り始めるなど、人口動態がこれからの中国の経済成長にとっての阻害要因として浮上しつつあったからだ。そしてもうひとつ。この政策が中国社会に深刻なストレスをもたらしてきたからだ。
違反した夫婦に罰金を科したり、堕胎を強いたり、政治的な権利を制限したり……。そうした迫害を逃れるために戸籍に登録されなかった子ども、いわゆる黒孩子(ヘイハイズ=闇っ子)がとんでもない数に膨らんだ。なかば流民化する家族もあった。
1人目の子どもの場合でも、出産前の検査で女の子と判明すると自発的に堕胎してしまう夫婦が少なくなかった。男の子の跡継ぎを重んじる伝統的な考え方が農村部を中心になお根強いためだ。20年には結婚適齢期の男性が適齢期の女性の数を3000万人も上回る、との推計もある。
驚くべきはむしろ、こんなに問題だらけの政策をなお「堅持」することだろう。ひとつの理由として考えられるのは、制限をなくしたら子どもが増えすぎるのでは、と指導部が心配している可能性だ。とりわけ、農村部に多く暮らす少数民族の人口増への警戒感は強いとみられる。
旧ソ連ではその末期、ロシア人より出生率の高い少数民族の総計がロシア人の総計を上回った。人口構成の変化こそソ連邦の劇的な解体の根っこにあったとの見方もある。
中国共産党はソ連の共産党政権の崩壊を反面教師として研究しつくしたといわれる。中国全体でみれば漢族が圧倒的に多いので旧ソ連とは単純に比較できないにしても、少数民族の人口増に神経をとがらせている公算は大きい。
「産児制限政策にかかわってきた幹部たちの既得権益を守るため」。政策を維持する理由について、海外の専門家の間ではこんな見方も多い。全廃されると、国家衛生・計画出産委員会主任(閣僚級)を頂点に地方の末端まで行き渡っている組織が、存在意義を失ってしまう。数十万人規模の雇用に響きかねないとみられる。
貧しい地方の当局にとっては、貴重な財源を断たれかねない問題でもある。ある推計によれば、一人っ子政策に違反した夫婦からの罰金は、中国全土で年間200億元(約3800億円)を超えていたという。
もう一歩うがった見方をするなら、習主席をはじめとする指導部が、国を治めていくうえで便利な手段として産児制限政策を改めて評価した可能性を指摘できよう。
日本などの家族計画の「計画」はあくまで夫婦の自発的な「計画」だが、計画出産の「計画」は国家が目標としてかかげて実現を目指す「計画」だ。いわばこの政策は、家庭のなか、夫婦の関係というプライベートな領域にまで権力が目を光らせ、時にはあからさまに介入することができる、という仕組みだ。
長期にわたる発展を保つには制限を緩めざるを得ないとしても、国民の私的な生活に干渉するためのテコそのものは手放したくない――。「基本国策」として産児制限の「堅持」を改めて打ち出したコミュニケからは、そんな思惑が感じ取れる。
[日経新聞11月8日朝刊P.12]
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