1. 2015年11月09日 18:02:51
: OO6Zlan35k
焦点:中国CO2排出量データの耐えられない軽さ[北京 9日 ロイター] - 中国の温室効果ガス排出量を正しく測定するのがいかに困難かを感じるには、北京徳青源農業科技の養鶏場を訪れるといいだろう。 ここでは、大量の鶏糞から電力がつくられ、近くの発電所に供給しているほか、周辺の39の村に燃料を提供している。途上国への地球温暖化対策のための国連クリーン開発メカニズム(CDM)の下、同社はこうしたバイオマス発電で、取引可能な温室効果ガス排出量である炭素クレジットを取得している。 しかし、排出量の計算には、国連認証の54ページに及ぶルールブックに従わなければならない。このような面倒なプロセスによって、徳青源の排出削減量は2割も変動することがある。 正確なデータ収集は、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正スキャンダルを見ても分かる通り、どこにおいても油断のならない仕事だ。 だが、正確な排出量データを得ることは、今月30日から仏パリで開催される第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で新たな枠組み合意を目指す各国政府にとっては極めて重要だ。 より正確な数字の把握は、世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国とされる中国の場合は特に重要だ。同国エネルギー消費量は膨大なため、データ上のささいなミスでも排出量が何百万トンも変わってくる可能性がある。 現在、中国の二酸化炭素排出量が年間どれくらいなのか、正確に分かっている人は誰もいない。中国国外の専門家の多くは、現在出ている推定値の正確性にも疑問を抱いている。 「中国は(COP21に)二酸化炭素排出量について貢献の予定だろうが、そのデータを公表していない」と、ノルウェーのオスロ国際気候環境研究センターの上級研究員、グレン・ピーターズ氏は指摘した。 中国政府が前回公式データを発表したのは2005年で、排出量は「およそ」74億7000万トンだとしていた。排出量は遅くても2030年までにピークを迎えると約束したものの、統計があまりに不確かなため、ピークとされる数字が1年で110億から200億トン変動しかねないと、専門家らは指摘する。 それは欧州全体の二酸化炭素排出量よりも多い。 <どのように算定するか> 中国では数多くの機関がデータ作成に関わっているが、地方の政府や業界による数字は国家統計局の発表と食い違うことも多々ある。また、小規模な企業は含まれておらず、不法に操業する多くの小さな炭鉱は、閉鎖を恐れて生産量を明らかにしていない。 中国とロシアは、全体の石炭生産量を算定するのに販売量ではなく原炭生産量を使っている。それ故、加工や輸送段階で生じる損失は含まれておらず、原炭生産の約18%を占めるとされる脈石のような廃棄部分も考慮されていない。 このような違いにより、中国の排出量は実際のところ、過大に見積もられている可能性があると、ある政府機関の研究者は指摘する。 科学誌ネイチャーに8月掲載された研究は、誤った算定方法により、中国の排出量が14%多く計算されていた可能性を指摘した。 官僚的なライバル意識もデータの食い違いに影響している。どのようなデータを公表するかは国家発展改革委員会(NDRC)によって決められている。 「公式の排出量推定値は、国家統計局ではなくNDRCによるもの。NDRCが気候変動交渉を取り仕切っている」と、気候変動の経済学を専門とする、英イースト・アングリア大学のDabo Guan教授は語る。「NRDCは気候変動交渉を担当しており、中国が最も有利な立場になるよう取り図っている。そのためどの数字を公表して、どの数字を非公開にするかに腐心している」 また、イエール大学の林学・環境学スクールのAngel Hsu教授は「中国政府は、公式とは異なる数字が社会不安につながることを恐れて、データに関する権限を握りたいと考えている。中国はモニタリングする人的能力がないと主張するが、過去10年以上にわたり、大気汚染を測定している。単に社会不安につながることを心配して公表しないだけだ」と述べた。 <約束> 中国はより正確なデータを算定する必要性を認めている。6月には国連に対し、データを集める監査官を訓練したり、「普通の」二酸化炭素排出量を算出したりすることを約束した。 「中国政府は二酸化炭素排出に関する研究に資金提供している。排出量削減にはまず、実際の水準を知る必要がある」と、中国科学院の研究員、Xi Fengming氏は話した。同氏は過去6年間、国全体の排出量水準を調査してきた。 同氏によれば、中国のデータ収集方法は2012年以降、不法な炭鉱生産やエネルギー集約型の企業による統計的な不正を取り締まるなどして、大いに前進したという。二酸化炭素の蓄積を検知するため、都市部でドローンを実験的に飛ばしたり、リアルタイムで産業施設のエネルギー消費水準を測定する試験的プロジェクトを立ち上げたりしている。 中国全体の排出量の約7─8割を占めるエネルギー部門の排出量を測定することが、全体像を得るためには決定的に重要だと研究者らは指摘する。 「中国のエネルギー部門のデータがしっかりしていれば、二酸化炭素排出量に関するデータもおおよそ正確だろう」と、中国科学院のXi氏は述べた。 また、中国が2017年末までに二酸化炭素排出量取引制度を導入すると約束していることも、データ収集改善の原動力となっている。 だが、そこまで到達するには気の遠くなるような仕事が残されている。 「30省、2000都市以上もあり、第3者の仕事をする企業が、そしてデータを集める企業で働く専門家がもっと必要だ」と、Xi氏は語った。 中期的にみても、リアルタイムで排出量を測定するのは困難だろう。 二酸化炭素排出量管理コンサルタント会社、EnvironomistのRichard Mao氏は「温室効果ガス観測機器の設置を企業に義務付ける規則は今のところない。そうした方向にすぐに向かうとは思わない」との見方を示した。 この点では、中国も西側の主要経済国と同じ制約に直面している。 正しく事を運ぶために必要なテクノロジーについて、「あまりにコストがかかり過ぎるかもしれない」Mao氏は述べた。 (原文:David Stanway、Kathy Chen 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀) http://jp.reuters.com/article/2015/11/09/analysis-china-co-idJPKCN0SY0K020151109?sp=true
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