01. 2014年12月22日 07:43:15
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2015年の東アジア:戦争と平和の可能性を考える 中国、台湾、南シナ海などの情勢をどう見るか〜アメリカ空軍戦争大学で教えて(11) 2014年12月22日(Mon) 片桐 範之 2014年の東アジアは軍事的にも経済的にも、大きな目で見れば安定した1年だった。先月北京で開かれたAPEC会議では安倍晋三首相と習近平・中国国家主席との間で会談が実現し、朴槿恵・韓国大統領とも短いながらも会話が生まれ、日本の外交に一定の期待を残した。 東アジア情勢は近い将来どう変わるのだろうか。本稿では今年の進展を元に、来年注目すべき点を幾つか挙げたい。特にここ数カ月の政治・経済両面での動きは地域の安定にどう影響を与えるのかという問題に着目したい。 軍事対立は東アジアで戦争を引き起こすか 安全保障の分野で最も大切な問題の1つに、戦争の可能性がある。とりわけここ数年の間で日本を取り巻く環境は厳しくなってきており、専門家の間でも尖閣地域での日中の軍事衝突の可能性とシナリオが分析されている。冷戦中にあったソ連からの脅威は低下したぶん、北朝鮮や中国を中心とする西からの脅威が顕著になった。 中国の軍事増強を目の前に、日本の領土防衛は少しずつ不利になってきている。2013年11月の中国の防空識別圏設定から先月の小笠原諸島海域での「宝石サンゴ」の密漁漁船の問題まで、迅速で効果的な対応を見せることができなかった。 海上保安庁のデータによると、ここ数年、中国漁船の日本領海への侵入が増えている。防衛省統合幕僚監部のデータでも、ロシア軍機の次に中国軍機に対しての航空自衛隊機のスクランブルが増えている。日本の抑止力の低下と、それへの有効な対処法の欠如を示唆している。 しかし日中間の軍事衝突を起こさぬための政治・外交・軍事・経済的な措置が取られている。東京と北京を分断する根本的な問題は多く残っているが、それがすぐに戦争を意味するわけではない。 朝鮮半島も然りである。南北統一という将来の展望に関しては不明な点が多く、韓国と北朝鮮の関係の根本的な問題は解決の糸口も見えていない。しかし、北朝鮮のミサイルや核開発など時折見せる軍事活動を除き、より大きな目で見れば朝鮮半島は安定しているとも言える。 とは言っても、日韓関係で大きな発展を期待するのは難しい。もちろん、日韓間での戦争は考えにくいが、竹島問題、日本海呼称、歴史問題、対立感情を含め根本的な問題は解決されておらず長期的に進展を見守る必要がある。この点、日中韓首脳のサミットが開かれれば今後の東アジア外交の布石となるかも知れない。 板門店の非武装地帯の緊迫した状況は変わらない(2014年3月、著者撮影:以下同)今年3月、ソウルの日本大使館近くで行われた反日デモの様子 東アジアの問題は北東アジアに限らない。フィリピンではイスラム勢力による独立運動に歯止めがかかっておらず、クーデターのあったタイに加え、ミャンマーでも民主化運動の減速とロヒンギャ族などの少数民族への政府弾圧が続いている。 インドシナ半島の様々な所で水不足に関する紛争も起きており、必ずしも大規模な軍事衝突には至らないかも知れないが、今後も不安定な状態が続くだろう。 南シナ海では中国とフィリピン、そしてベトナムの対峙は続く。フィリピンとベトナムはここ数年でアメリカとの関係を強化しており、南シナ海の領土問題が米軍を巻き込んだ地域全体の戦争に発展する可能性も存在する。 また、フィリピン軍と日本の自衛隊の協力も今後数カ月のうちに進む見込みがあり、南シナ海での力学は東シナ海に一定の影響を持つと見ることもできる。 東アジア諸国の国内問題は戦争を引き起こすか 東アジア各国の内政はどうであろうか。国家の内政がどう外交に影響するか考えるにあたり、重要な要素はその国の政治形態にある。つまり、その国が民主主義かそうでないかという問題は、地域の平和に結びつく問題である。 国際関係学には「democratic peace」と呼ばれる、民主主義国家同士は戦争をしないという理論がある。 戦争の際のコストを直接払う立場にある民衆が、戦争失敗の際には政治指導者を選挙において罰するため、結果的に民主国家同士が戦争をすることを難しくする。この考えを東アジアに当てはめてみると、中国や北朝鮮などが民主化すれば、東アジア全体がより安定するのではないかという希望が生まれる。 しかしこの見方には問題が少なくとも2つある。1つ目はその現実性に乏しいことで、北朝鮮はおろか、中国が民主化するという保証はなく、仮にその方向に進んだとしてもそのためには時間がかかる。もちろん、ここ数年の中国内の地方選挙の実施はある程度の期待をもたらすが、共産党のコントロールは依然として強い。 もう1つの問題は、民主主義は結果として平和をもたらすかもしれないが、民主化の「過程」は戦争を引き起こす可能性が高いと政治学で証明されている点である。 理由はというと、民主化の過程で大衆とエリートとの間に対立が起き、既得権益を持つエリートは国内状況を「整える」ためにナショナリズムを使って外部からの脅威を誇張し、結果として対外的な紛争の可能性が高まるというものである。 ここで注目すべきは北朝鮮やミャンマーなどの非民主主義国家と、中国のように徐々に民主化の方向に向かうかもしれない国家である。 立法院占拠の2週間ほど前に台北で行われた学生デモの様子 そこで重要なのは台湾である。過去数十年で何度か一触即発の状態にあった台湾海峡であるが、今日では台北と北京の間での経済協力や観光事業が強化され、状態はある程度安定している。 しかし、台湾の政治ステータスの問題は未解決である。台湾独立に対する北京の反対は明確であり、3月に立法院の学生占拠でも見られたように、民主主義を謳歌する台湾には根本的な緊張感が存在する。 もし中国国内で民主化が進んでいるのであれば、そのプロセスは中国近辺の領海問題にどのような影響を与えるのか。中国と対立するフィリピンやベトナムとの紛争の可能性は高まるのだろうか。 現時点ではアジア回帰の枠組みで増しているアメリカのプレゼンスに抑止効果があるのは明らかだ。 しかしその一方で、もし米軍のプレゼンスが中国にとって脅威と感じられるのであれば、中国国内のナショナリズムの波と共に、南シナ海におけるフィリピン、ベトナム、そしてアメリカとの戦争の可能性が高まるかも知れない。 経済相互依存は東アジアの平和をもたらすか 安全保障の面ではある程度の安定が見られるものの、領土紛争などは基本的に解決されておらず、来年も紛争の火種として残るのではないかとみている。一方で経済面ではどうだろうか。ここ数年で顕著なのは東アジア諸国間の経済関係が強化されつつある点である。 国際関係学の中には「capitalist peace」という理論がある。これは、資本主義国家同士による相互依存関係は戦争のコストを引き上げ、結果として戦争が起きる可能性が低下するという見方である。先に述べた民主主義が起こす平和ではなく、資本主義が起こす平和である。 好例の1つは台湾海峡に見られる。馬英九政権は台湾の独立運動から距離を置き、経済協力の下での政治的な現状維持に努めている。台湾と中国の政治体制は種を異にするが、貿易や投資が形成する相互依存が安定をもたらしている。 アジア最大の経済国である中国はもちろん資本主義国家ではないが、上海などの沿岸大都市に見られる比較的オープンな経済政策はアジア地域に十分融合されている。 また、東南アジア諸国には中国経済の影響力が広まっており、それが領土紛争の可能性を低下させている。華僑の多いマレーシアやシンガポールだけでなく、マニラなどにも大量の中華資本が流れ込んでいる。 もちろん、外資産業の影響はその国内でも問題を引き起こす可能性がある。貿易・投資で儲ける者もいれば損をする人間もいるからであり、現地の景気が悪化すれば、中国資本が否定的に捉えられ関係が悪化することも考えられる。1997年のアジア財政危機の時にインドネシア各地の比較的裕福な華僑社会が地元民に攻撃された例がある。 アジアの経済協力はアジアの「地域化」と共に発展している。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉は遅れてはいるが、そもそもすぐに交渉国が合意に達する案件ではない。一方、中国は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を率いて東アジア諸国が中心になった地域化を図っている。 注目すべきはアメリカの役割である。中国が率先して行う「アメリカ外し」の一環としては、アジアインフラ投資銀行も注目すべきであろう。これはまさに中国の地域的指導力が生み出す新手の地域政策で、今後はこの種の投資が増え中国のソフトパワーの向上が図られるに違いない。 日本の最大貿易相手国である中国との経済関係の修復が、今後の安倍政権にとって重要になる。しかし現状では、貿易収支や知的財産、中国による断続的なサイバー攻撃などが2カ国間の不信につながっている。 日本への意味合い ここ1年の東アジア情勢を振り返ってみると、著しい外交的な発展が見られるわけではない。ある程度の進歩が見られる一方、根本的な問題が未解決のままである。 これは日本へどのような意味を持つのか? 2つの視点が得られる。 第一に、未解決問題に関する短期間での状況改善の期待は持てないため、日本の積極的な外交努力が求められる。特にフィリピンを含む日本と安全保障面で強い共通認識を持つ国との協力体制の強化は効果が見られるかもしれない。 また、地域化を率先して推進し、少なくとも経済面での指導力を東アジア内で発揮する必要もあるだろう。加えて、安全保障の面でアメリカの抑止力に頼るのではなく、独自の軍事力の向上を継続し、様々な軍事シナリオに対応できるようヘッジ戦略を強化する必要も考えられる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42429 |