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(回答先: 保坂修司「奴隷制度の復活は、国際社会の中には入らないと宣言しているのと同じで、組織を引き締める狙いも…」/今夜のN9 投稿者 仁王像 日時 2014 年 10 月 15 日 22:04:25)
http://www.asyura2.com/14/warb14/msg/398.html#c1 から抜粋再録
≪「イスラム国」との戦いは泥沼化するのか〜オバマ大統領が“突然”新しい戦争をはじめた理由≫
2014年10月7日(火) 瀬川 明秀
オバマ大統領は9月10日、武装勢力「イスラム国(Islamic States、旧ISIS)」の壊滅を目標に掲げ、新たな「戦争」をはじめた。それ以来、欧米メディアは連日、イラクとシリアでの戦争の模様を伝えている。
米国を中心とする多国籍軍による軍事作戦は「イスラム国」を壊滅させることになるのか?それとも新たな泥沼の戦争への序章となるのか?
中東の安全保障やイスラム国の動向に詳しい国際政治アナリストのに話を聞いた。
(聞き手は瀬川明秀)
菅原出:オバマ大統領がイラク北部のイスラム国の拠点に対する空爆を命じたのは8月8日だったのですが、この時の作戦目標は「米国人の保護」と「人道支援」でした。この時オバマ大統領は、「米国人の職員たちを守り、山頂に追い詰められ食料や水もなく死に直面している数千ものイラク人市民の命を助ける人道的努力のために、限定された空爆作戦を行うことを命じた」と述べていました。
−8月までは「壊滅」は想定してなかった?
ええ。
菅原:当時イスラム国の武装民兵たちがエルビルに迫っていました。このエルビルというのはクルド自治区の首都がおかれているイラク北部の大都市で、過去10年間、イラク国内の内乱とはほとんど無縁の独自の発展を遂げ、イラクの都市とは思えないほど治安がよく、外国企業の進出も進んでいる都市です。当時、イスラム国がエルビルまで攻撃できるほどの能力を持っているとは思われておらず、多くの専門家が「エルビル危うし」の報道に衝撃を受けました。ここには米国のビジネスマンや政府の職員だけでなく、多数の欧米人や日本人も駐在していましたので、もしここがイスラム国に占拠されるようなことになれば、多くの外国人が人質にとられたり殺害されたりするリアルな危険がありました。
ですからこの時点での介入は、オバマ大統領が明言している通り、領事館で働く米国人外交官や文民たち、それに米軍のアドバイザーといった米国人たちを守るという自衛的なものだったと思います。当時の軍事目標も、「イスラム国のエルビルへの侵攻を止める」という防衛的なものであり、イスラム国を「壊滅」させるなどという攻撃的なものではありませんでした。しかし…。
≪オバマ大統領の「無策」ぶりに批判≫
−ところが、その後事情が変わった?
菅原:はい。一つはメディアでも大々的に報じられた米国人ジャーナリストの殺害です。イスラム国は「米軍がイラク空爆を中止しなければ拘束していたジャーナリストを殺害する」と警告し、実際その通り実行しました。インターネットを通じてオバマ大統領を挑発して、米国人を惨殺する映像が世界中に流されると、米国内の世論はオバマ大統領の「無策」を非難する方に流れました。
ちょうど今年11月の中間選挙前ということもあり、共和党は「オバマ大統領のリーダーシップの欠如と弱腰が米国民の安全脅かしている」、として大々的なオバマ批判を展開しました。ホワイトハウスは相当危機感を抱いたことでしょう。
基本的にこれ以上対外軍事介入をしたくないオバマ大統領が、今回このような「戦争」に踏み切った背景には、このイスラム国の問題で米国がリーダーシップを発揮しなければ、米国民の支持を失い、中間選挙で大敗してしまうという国内事情があったのだと思います。
≪イラク戦争の悪夢再来?≫
−その地上軍の派遣ですが、結局のところ、米軍は地上部隊も派遣することになり、かつてのイラク戦争のような泥沼に入ってしまうのでしょうか?
菅原:オバマ大統領は繰り返し、「地上部隊は派遣しない」と明言し続けており、地上軍を派遣する可能性は低いと思います。
≪政府関係施設を警備するイラク軍≫
−つまり、米国は基本的には「地上にいるパートナー」であるイラク軍を支援する形で空からの軍事作戦をすればいい?
菅原:いや。事はそんなに単純ではなく、クルド地域、スンニ派地域、スンニ派とシーア派の混在地域で地上のパートナーの能力が異なりますので、作戦の進展にも大きな差が出ています。特にスンニ派多数の地域において、米国は「パートナー探し」に苦労しておりまして、いまだ効果的な作戦ができずにいます。
またイラク軍の能力にも問題が多く、最近マーティン・デンプシー米統合参謀本部議長が議会証言で、「イラク軍50個旅団のうち、パートナーとして信頼できるのは26個旅団に過ぎず、残りの部隊は敵の浸透を受けていたり、リーダーシップが欠如していたり、宗派抗争があったりなど問題が多い」と証言しています。
≪シリアはイラク以上に困難≫
−シリアは?
菅原:それ以上に困難なのがシリアです。シリアではイラクと違い、米国はアサド政権を支援することができません。イスラム国はアサド政権と敵対していますので、アサド政権の軍隊を支援してイスラム国を鎮圧させることができればシンプルなのですが、米政府は「民衆を弾圧するアサド政権は正統性を失っている」という政治的な立場をとっており、アサド政権と敵対しています。つまり、シリア内戦においてアサド政権とイスラム国いずれの勢力とも敵対しています。
−オバマ政権はシリアでは地上のパートナーなしで空爆を開始してしまったということですか? では結局米軍の地上部隊を派遣せざるを得なくなるのではないでしょうか?
菅原:オバマ政権は、シリアでアサド政権に対する反政府武装闘争を展開している勢力の中で、イスラム国ではない穏健な組織を支援・育成してアサド政権及びイスラム国と戦わせるという方針を示しています。
これから1年かけて5000人訓練したとしても、その状況が変わるとは思えません。
これまでの米軍の空爆作戦は、上空から見えるイスラム国の軍事拠点、例えば軍事訓練施設だとか検問所や監視施設、それに軍用の車両や装甲車などを潰すことを目的にしています。それから「イスラム国」の石油密輸を阻止するために、彼らが利用している中小の違法な製油所なども破壊しています。もちろん、こうした攻撃はそれなりに効果がありますが、イスラム国とすれば重要な拠点を地下の施設に移したり、一般市民の多数居住する市街地に移したりするでしょう。
上空から見える軍事施設にはイスラム国の末端の戦闘員はいるでしょうけれど、指揮官や幹部はより安全な場所にいるはずです。
彼らがどこに隠れていて、そうした隠れ家を攻撃する第二段階の攻撃には、地上のパートナーがどうしても必要になってきます。敵の居場所を発見するためのインテリジェンス活動だとか、一般市民と同じエリアに居住するイスラム国幹部だけを急襲するような作戦には、機動的で優れた地上の部隊が必要になりますから。
−イスラム国はシリアとイラクをまたがる広大な地に事実上の国家を維持することになるのでしょうか
菅原:近隣諸国のトルコ、サウジアラビアやカタールは、イスラム国よりもむしろアサド政権が大きな脅威だと考えているので、米国の要請に応じてホイホイと地上部隊を派遣することはできません。これらの国々では「今、イスラム国だけを攻撃してしまえばアサド政権を強くすることを助けるだけ」との見方がいまだに根強くあります。またこれらの国々はいずれも国内に相当数の「イスラム国支持者」を抱えていますので、米国の軍事作戦に深く関与してしまうと、国内で報復テロを招く恐れもあり、米国への協力はほどほどにという力学が働いてしまいます。
菅原:こう考えていくと、当面シリアにおいては、派手な軍事作戦よりも、イスラム国の資金源を止めたり、シリアへの外国人の流入をストップさせるといったインテリジェンス作戦が中心になると思います。
イスラム国はシリアやイラクで占拠した油田や製油施設から石油を密輸出して莫大な富を稼いでいると言われていますが、トルコ南部の港を通じてタンカーで石油を密輸出するネットワークを通じて、イラク・シリアの石油を売りさばいているとされています。この密輸ルートは、サダム・フセイン時代から続いていて、長年にわたって構築されてきた非常に強固で組織化されたネットワークです。
この密輸にかかわる組織もトルコ国内に広範囲に及んでいると言います。
「イスラム国を壊滅させる」ためには、このブラックマーケットを潰さなければならないことになり、外交や諜報協力を通じてこうした国際的な取り組みを進めていかなければならないでしょう。
菅原 出(すがわら・いずる)氏
ジャーナリスト/国際政治アナリスト
1969年、東京生まれ。中央大学法学部政治学科卒。94年よりオランダ留学。97年アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係学修士。在蘭日系企業勤務、東京財団リサーチフェロー、英国危機管理会社役員などを経験。会員制ニュースレター『ドキュメント・レポート』を毎週発行。著書に『戦争詐欺師』(講談社)、『ウィキリークスの衝撃』(日経BP)、『秘密戦争の司令官オバマ』(並木書房)、『海外進出企業の安全対策ガイド』(並木書房)、『リスクの世界地図: テロ、誘拐から身を守る』(朝日新聞出版)
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