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共謀罪で司法は歯止めにならない 元高裁判事が語る(AERA dot.)
by 作田裕史 (更新 2017/4/25 16:00)
https://dot.asahi.com/aera/2017042400082.html
治安維持法の復活と警戒され、3度廃案になった「共謀罪」法案。「テロ等準備罪」と表紙を変えて再登場した。元高裁判事は、権力に弱い「司法の忖度」を危ぶむ。
今回の法案が通れば、「テロ等準備罪」という名のもとに、277もの罪が創設されます。これは、新たな捜査手法の拡大につながります。
たとえば、現行の通信傍受法でテロの計画、準備行為への捜査が不十分となれば、捜査機関は「もっと新しい捜査手法が必要だ」と主張する。今回のような新たな犯罪を処罰する法律ができた後では、「すでに法律があるのに処罰できないのはおかしい」という論理が通用しやすくなります。捜査手法はどんどん拡大する恐れがあり、そうなれば、日本は完全な監視社会になってしまいます。
元東京高裁の判事で、弁護士の木谷明氏(79)はこう指摘する。
●テロ関連は半分以下
4月19日、犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「組織的犯罪処罰法改正案」の実質審議がスタートした。「共謀罪」は小泉内閣の2000年代に過去3回も廃案となったいわくつきの法案。日本の刑事法は、犯罪を実行しようと具体的な行動を起こした時点で罪に問うことが原則だった。「共謀罪」は、複数人で犯罪をしようと合意した段階で罪に問うもの。かつての治安維持法のように、「思想や内心を理由に処罰される可能性がある」ことから、野党が激しく反発して廃案となってきた。
今回、その批判を避けるために安倍政権は対象犯罪を原案の676から277に絞り、「テロ対策」を強調。安倍晋三首相は「従来の共謀罪とはまったく違う」と繰り返し、「3年後には東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策に万全を期することは開催国の責務だ」と、法案の必要性を訴えてきた。
だが、対象の277の犯罪のうち、「組織的な殺人」「ハイジャック」などテロの実行に関連するものは、110にとどまる。一方で、「著作権法違反」「保安林での森林窃盗」などテロや組織的犯罪集団とは無関係に見える犯罪も含まれている。依然として、捜査の適用対象に曖昧さが残る。木谷氏は「本質的には過去に廃案となった共謀罪と変わらない」と語る。
●首相の手土産にしたい
確かに条文の文言は変わっているが、その条文自体が抽象的で曖昧です。いくらでも拡大解釈できる余地が残っています。特定秘密保護法、安保関連法から連なってきた国民の自由・権利の制限、政府方針に反対する勢力の抑え込みを目的とした大きな政策の一環のように思えてなりません。
戦前の治安維持法にしても、最初はおそるおそる無政府主義者や共産党員だけを取り締まる法律という触れ込みでした。それが社会主義者、自由主義者に拡大適用され、マスコミ、宗教家、文学者、芸術家まで対象となった。そこまで進んだら、国民にはもう反対するすべはない。国民はそうした歴史に学び、賢くなる必要があります。
政府は、捜査情報を他国と共有できる国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に入るため、「共謀罪」が必要だと説明してきた。同条約は187の国・地域が締結済みで、G7で未締結は日本のみ。締結すれば、国同士での犯罪者の引き渡しや国際的な捜査協力が円滑になる、という理屈だ。
5月下旬にはTOC条約が署名されたイタリアのシチリア島でG7サミットがあるため、「共謀罪成立を手土産にしたい」(政治部記者)との思惑もあるようだ。政府・与党は6月18日の国会会期末までの成立を見込み、当初は4月中の衆院通過を目指していたが、衆院法務委員会が紛糾し、審議が遅れている。7月には東京都議選があり、国会の会期延長は難しい。
●権力になびく裁判所
「大型連休後には、天皇陛下の退位を一代限りで認める『特例法』の審議が控えている。これ以上の混乱があれば、特例法の審議にも影響が出かねない。そこで、政府は法務省の刑事局長を前面に出し、発言が不安定な金田勝年法相になるべく答弁させない戦略に徹している」(前出・政治部記者)
早期成立への並々ならぬ意気込みだが、共謀罪が過去3回廃案になった背景には、国民の根強い不安感がある。時の政権や捜査機関に法律が拡大解釈されて、一般人まで対象になるのではないか。治安維持法のように内心や思想の自由への侵害につながるのではないか。そうした懸念に対して、与党は「(治安維持法の)当時と現代では我が国の民主主義の状況や刑事司法制度のレベル、社会意識は格段に異なっている」と訴えるが、木谷氏は「裁判所の体質は根本的に変わっていない」と反論する。
治安維持法の時代と全く同じとは言わないが、裁判所の体質はいつの時代も権力寄りになりやすい。裁判官にとって、権力に逆らった判決を書くのは労力と決断を要することです。私は裁判官時代に30件を超える無罪判決を書きましたが、一生に一度も無罪判決を出さない裁判官だっています。権力側にたてついたために、不利な処遇を受けたとみられる例も決して少なくありません。そういう人事も目の当たりにする多くの裁判官は、当局の意向を「忖度」して、「事なかれ主義」に陥っていくのです。
捜査機関が容疑者の関係先を捜索したり、逮捕・拘束したりする場合は、裁判所に証拠を提示して令状を取得する必要がある。この「令状主義」により、捜査権の乱用を抑止できると見る向きもある。金田法相も国会答弁で、「捜索、差し押さえとか逮捕といった強制捜査は、裁判官の令状審査が必要となるため、裁判官が法令に従って『合意』の有無を適切に判断することになる」と述べているが、裁判所は歯止めになるのか。元裁判官の立場から、木谷氏はこれに疑義を唱える。
●事なかれ主義の裁判官
これが最大の「まやかし」です。逮捕状、捜索差し押さえ令状は、捜査官が提出する一方的な資料に基づいて、発布の適否を判断します。しかし、捜査官から提出された資料が真実かどうかを裁判官が判断するすべはない。「資料が足りない」と指摘すると補充してきますが、それで疎明(裁判官が事件の存否について、一応確からしいという心証を得た状態)できれば、裁判官は令状を発付せざるを得ません。この段階で歯止めをかけるのは非常に難しい。
これは、裁判官の心理を考えるとより理解できます。捜査官は重大な犯罪が実行されそうだという資料を持ってくる。それに対して、その情報を虚偽と疑うべき証拠はない。裁判官が「逮捕、勾留や捜索、差し押さえまでする必要があるのか」と思ったとしても、もしその計画が実行されて重大犯罪が起きたらどうなるかとも当然考えます。裁判官も1人の人間として「事件が起こって社会からバッシングを受けるくらいなら、捜査機関の意向に従って令状を出しておこう」という判断になりやすいのです。
捜査機関は個々の裁判官の判断傾向も事前に把握しています。全国には多くの裁判官がいて、非常に厳格に吟味する人もいれば、捜査官の主張通りにどんどん令状を出す人もいる。大都市圏では「夜間令状」という深夜の令状発布は、民事も含めた全裁判官の当番制です。中小の裁判所は令状部があるわけではないので、日中の令状発布も当番制だったりします。その日の当番が厳格な裁判官だと事前にわかると、捜査機関は令状請求をしません。簡単に令状を出してくれる裁判官が当番の日まで待ってから申請するのです。捜索差し押さえ令状などについては、そういう措置も優に可能です。私が勤務したある地裁では、そういうことが日常茶飯事的に行われていました。
沖縄の東村高江周辺のヘリパッド建設に反対する住民たちへの逮捕に対して、司法は歯止めになりましたか。各地で起こっている反原発訴訟に対してどういう判決が下されていますか。それを考えれば、明白です。裁判所は、権力に「なびきやすい」と知るべきです。誠に残念なことですが、間違っても「裁判所があるから大丈夫」などと、安心してはいけません。(編集部・作田裕史)
※AERA 2017年5月1−8日合併号
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