07. 2014年4月05日 09:09:32
: YaBuhXQzqI
【第67回】 2014年4月5日 降旗 学 [ノンフィクションライター] 「出世の見込みがない中年力士は早く引退を」 朝日新聞スポーツ記者の言い分に、首をひねる 我が身の……、もとい、みんなの党・渡辺喜美代表が窮地に立たされている。 発端は、週刊新潮(4月3日号)のスクープである。ワイドショーが理化学研究所ユニットリーダー小保方晴子さんの“疑惑”で持ちきりの中、週刊新潮は『さらば 器量なき政治家』と題した記事をトップに持ってきた。渡辺さん、言われてますよ。 週刊新潮の記事は、DHC会長・吉田嘉明氏の告白をもとに構成されている。 自民党を離党した渡辺喜美議員は、二〇〇九年八月、吉田会長に自身の不動産(渡辺氏が所有していた那須の土地)を買ってもらうよう依頼した。そのとき、吉田氏に送られたメールには、新党を立ち上げるが手許不如意で困っている、会長、助けてください――、という文言が綴られていた。 翌一〇年の参院選の前には三億円、一二年の総選挙では、維新の会と共闘し一〇〇人以上の当選者を出すから、と二〇億円の借用を願い出た……、が、維新の会と決別したため、吉田氏に借りた金は五億円に下方修正される。 渡辺代表の借入金は、都合八億円となった。しかし、一二年の渡辺代表の資金等報告書では、借入金の欄に記載された額は二億五〇〇〇万円となっていた。額がぜんぜん違うのである。 すると、それは資産公開法違反にあたる可能性が出てきて、さらに、計八億円の借入金が“政治活動”に使われていれば政治資金規正法違反、“選挙活動”に使われていれば公職選挙法違反になる――、と週刊新潮は指摘した。 このスクープで、ブン屋……、もとい、新聞記者さんたちは歯ぎしりしたんじゃないだろうか。あるいは地団駄を踏んだか。こんな疑惑を週刊誌に抜かれ、雑誌の後追い取材になったんだもの。 さて、この問題によく似た騒動がつい最近もあったような気がする、と思っていたら猪瀬直樹前東京都知事の問題と構図が同じだった。吉田会長は、政治資金として貸したと、当時のメール内容も明かした。しかし、渡辺代表は、あくまで個人的に借りたもの、と反論した。会長助けてくださいとか言っておきながら。 渡辺代表は、猪瀬さんと全く同じことを言っているのである。 しかも渡辺代表、その言い訳がみみっちい(あくまで個人的な感想です)。 八億円もの借入金を、渡辺代表は個人的に借りたと言い、では、その八億をどう使ったのかと訊かれれば、熊手を買ったとか訳のわからないことを言い、借りた金は手許に全くない(使途についても不明)、吉田会長はメールのやり取りが残っていると言うが、あのときの携帯電話は機種変して確認のしようがない――、と記者陣を煙に巻こうとした。 そして、三月二八日の、みんなの党役員会議と衆議院本会議を欠席する。声が出なかったからだそうだ。ほんとに? 真偽はともかく、我が身の……、もとい、みんなの党HPでは、猪瀬氏と自分のケースは全く違う、と縷々説明し、今回の騒動はみんなの党を離脱した江田憲司議員が吉田会長と組み、自分を貶めようとしている、などと謀略説を展開した。実にみみっちい男なのである(あくまで個人的な感想です)。 渡辺代表は、個人的な借入金だったと言い、吉田会長は政治資金として貸したと言っている。渡辺代表が嘘を言っている場合、これは詐欺罪に該当する。元東京地検特捜副部長・若狭勝氏が、週刊新潮の取材にこう応えている。 「万が一、渡辺さんが借りたお金を個人的な用途で使っていたとすれば、相当な窮地に追い込まれます。分かりやすく言うと、“母親が病気なので金を貸してくれ”と言って、それを飲食に使ったのと同じことです」 個人的な借入だったのであれば、渡辺代表は吉田会長に何と言って八億もの大金を借りたのだろう。熊手が欲しいんです、とか? ちなみに、渡辺氏が買った熊手は大中小の三本で、総額は八〇万円ほどだったとのことだ。じゃああとの七億九九二〇万円は……? 吉田会長は、渡辺代表の辞任を求めている。猪瀬前都知事と自分は違う、と渡辺代表は強く主張するが、私は、猪瀬都知事と同じ道をたどるのではないかと思っている。疑惑の議員が党の代表でいるのは、実に危険だ。 今回の問題で渡辺喜美氏の議員生命は終わってしまうのか――? 終わると言えば、今週月曜日、フジテレビの『森田一義アワー 笑っていいとも!』が三二年の放送に幕を閉じた。八〇五四回を数えた長寿番組は、同一司会者による生番組ということでギネス記録にも登録されたそうだ。 名物コーナーの『テレフォンショッキング』は、ビートたけしさんで締めくくられた。最終回のゲストは誰か、でさまざまな憶測が飛び、本当なら一回目のゲスト桜田淳子さんを迎え、“友達の輪”を完結させたかったとか、最後はタモリさんの永遠の憧れ・吉永小百合さんで決まり、というような声が散見された。 三二年前と言えば、私は受験をひかえた高校三年生だった。上越新幹線が開通した年でもある(ただし、当時は新潟―大宮間の限定運行)。それを思うと、三二年という年月は本当に長いと感じられた。むか〜しのガールフレンドは有休を取って笑っていいともの観覧に行くと言って喜んでいたし、あの番組に青春時代を重ねた人も多くいただろう。 昼にレギュラーの最終回を放映し、夜は特番を組んでの盛り上がりだった。最後でそんなに力を入れるのなら、通常の放送に力を入れればいいのに……、というのは嫌味だが、おじさんにはちょっと感情移入のできないエンディングではあった。 歴代のレギュラー・とんねるずやダウンタウン、ウッチャンナンチャン、ナインティナイン、明石家さんまさんらが同じステージに立ったのは、フジテレビが連続で視聴率三冠王を樹立していた“黄金期”を彷彿させたが、な〜んかみんなしてタモリさんを泣かせようとしているような演出は、やっぱり興醒めだった(あくまで個人的な感想です)。 笑っていいともは“永遠のマンネリズム”と揶揄されていたようにも記憶しているが、しかし、それでも三二年間も放送し続けたのだから、偉業には違いないのかもしれない。週刊文春によると、タモリさんの資産は一〇〇億を超えてるらしいとも言うし。いっぱい働いたのだから、貯めてもいいとも! 今週末までは各局とも番組の改編期で、笑っていいともにかぎらず、『みのもんたの朝ズバッ!』から『朝ズバッ!』にタイトル変更した朝の情報番組が終わり、『はなまるマーケット』も終了した。他にも……、いっぱい終わってるね。 たいへん長い前フリになってしまったが、朝日新聞の記事だ。角界のお話である。 記事をお書きになったのは、抜井規泰さんという記者さんだ。いま、角界には三人の四〇代力士がいるとのことだ。序二段が二人、三段目がひとりだ。三人のうち二人は幕下にあがったこともないという。 実をいうと私は相撲のことがよくわからず、序二段とか三段目と言われても何のことかさっぱりわからなかった……、ので、ちょっと調べてみたら、相撲の番付は、強い順に、幕内・十両・幕下・三段目・序二段・序の口とランク付けされるらしい。 そして、幕内には、横綱と大関と関脇がいて、小結、前頭筆頭、前頭二枚目、三枚目と続き、十両以下は、筆頭、二枚目、三枚目と続く。なるほど。 この記者さんが書くには、幕下以下は無給で、二ヵ月に一度“本場所手当”という小遣いが支給されるとのことだ。額面は、幕下で一五万円。これだと、序二段三段目の力士は年に九〇万円しか収入がないことになるが、角界では力士ひとりあたり一五万円余が各部屋に支給されているから、序二段でも年収は二七〇万円にはなる。 四〇代でこの年収はちょっと淋しいが、抜井記者は、一定年齢までに所定の地位に昇進できなかった力士は“強制引退”とすべく、定款に盛り込むべきだ、と書く。 さらに、強制引退で力士が減り、部屋の経営が苦しくなるぶんは、一人当たりの補助を増やせばいい、とも書いている。 おいおいおい、なのである。 『好きで続けている高齢力士もいるかもしれない。だが、出世の見込みがない中年力士が土俵を務める姿は痛々しい。第二の人生に送り出してやることも、協会と師匠の器量ではないか』 だそうだ。やっぱりおいおいおい、である。 ってことは、新聞社は、中年にもなってつまんねえ記事を書く記者をとっとと退職させろ、ということなのだろうか。第二の人生に送り出すことも、ジャーナリストの器量なのだ、と。そんなことしますか、朝日新聞は。せいぜいが異動でしょうが。 というのは措いといて、この記者さんは何が不満なのだろう。 今年のソチ五輪では、今年四二歳になる葛西紀明選手が大活躍し、レジェンドと謳われた。もちろん、葛西選手は毎年のように好成績を残していたが、同年代のジャンパーが次々と引退してゆくなか、まだ飛び続けると明言した。 私たちは、その挑戦に心を揺さぶられる。 プロ野球界では、今年四九歳になる山本昌投手がまだ現役だ。あぶさんなんて還暦まで現役だった。クルム伊達公子さんは今年四四歳、キングカズこと三浦知良選手は四七歳だ。 彼らと序二段を同列に語ることに無理があることは承知しているが、プロスポーツの世界に生きる人たちが引退を決めるのは、自分でではないだろうか。私は常々思うのだが、プロになった時点で、彼らは私たちとは次元が違うのだ。 一九九八年、横浜ベイスターズ(当時)が三八年ぶりに優勝した年、権藤博監督に取材する機会を得た。私が、監督はバントのサインを出しませんね、と訊くと、監督は、あん? きみな――、と言って続けた。 「プロのユニフォームを着た時点で、あいつらは野球の天才なんだよ。わかるか、ここ(グラウンド)にいるのは全部天才だ。天才にバントしろなんて言えるか」 監督の言葉が、いまも強く残っている。 だから、四十路を越え、勝てないまでも、あの土俵で戦う力士は、やはり相撲の天才なのだろうと思う。むしろ、この記事で初めて知ったが、下っ端の中年力士がいるのなら、なんだか応援したいとさえ思う。 若い力士が自分を追い抜き、どんどん出世していく姿を横目に、序の口三段目で土俵に上がるのは、おそらく、屈辱のはずだ。だって周りは新人ばかりなんだもの。 惨めとわかっていて、それでも相撲を続ける、土俵に居続ける精神は、天晴れではないか。そんな姿にこそ、私は感動する。拍手を送りたい。 だが、残念ながら、抜井規泰記者には、そうは映らないらしい。 『出世の見込みのない中年力士が土俵を務める姿は痛々しい』 と書く。そうだろうか。 出世の見込みのないビジネスマンなんて、きっとざらにいる。私だってそうかもしれない。でも、頑張ってるよね。 この記事に、私はがっくりときて、首をひねった。 スポーツ部のデスクは、よくこんな原稿を通したものだとも思った。人権派新聞のくせに、何でこんな偉そうなことを言えるのだろうとも。それよりも、疑惑の政治家こそすぐに引退を、って書くべきじゃないか。 朝日新聞の記者さんは、協会と師匠に“器量”を求めたが、週刊新潮は渡辺喜美代表を“器量なき政治家”と題した。タイトルからして新聞は雑誌に負けてるじゃないか。 さて、中年の頑張りは、痛々しいだろうか。 肉体が衰えても、若手に負けまいと限界に挑む姿は、可愛そうだろうか。 この記者さん、もしかして、ゆとり世代? あくまで個人的な感想です。 参考記事:朝日新聞3月19日付スポーツ欄 週刊新潮4月3日号10日号 週刊文春4月10日号 |