01. 2014年11月28日 07:01:39
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軍事で勝ち経済で負けつつあるロシア 軍事的緊張が高まるウクライナ東部情勢〜行き詰ったドンバス政策 2014年11月28日(Fri) 藤森 信吉 ウクライナ東部ドンバス地域で軍事的緊張感が高まっている。ミンスク議定書による和平は行き詰まり、停滞を打破するため、ロシアが軍事的圧力をかけるのではないか、と予想されているからだ。 ロシアからの援軍により軍事的に優位に立った人民共和国だが、今度はウクライナ政府の封鎖を受けて経済危機に陥っており、ロシアが際限ない負担をいつまで続けられるのか注目されている。 ロシアによるドンバス介入 地図データ ©2014 Google 利用規約
地図 航空写真 今日のドンバス情勢が、最初からロシア政府が主導・意図したものかは定かではない。 ドネツク・ルガンスク両州で州議会による分離的な動きが収束した4月、突如として武装した勢力が各地域の政府系施設を襲撃・占領し、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国を名乗り、主権独立国家としてウクライナからの分離独立を宣言した。 兵士の主体はロシア正規軍ではなく、また分離主義の指導部は、地元のならず者や2流エリート、他所者から成っていたことから、ロシア政府が直接関与したものではない、とする見方が強い。 戦車など数十台、ロシアから越境 ウクライナの親露派地域に入る ウクライナ東部ルガンスク地域を走る親ロシア派の戦車〔AFPBB News〕 指導部の人材はお粗末であるし、非承認国家化や編入を目指すのであれば、正規軍を投入して早期決着を図るはずである。 ドンバス住民の3分の2はウクライナ枠内にとどまることを希望するという世論調査結果があるように、住民と人民共和国とのつながりは弱く、外部から維持するべく、ロシア政府は日に影に人民共和国を支援してきた。 ロシア政府は正規軍人の派遣・兵器の供給を否定し続けているが、部隊章を外した兵士、認識番号を塗りつぶした兵器を送り、また「人道援助物資」を満載したトラック群をこれまで7度にわたりドンバスに派遣している。 人民共和国に対する支援は、「ファシスト軍と戦う同胞支持」という大義名分につながり、ウラジーミル・プーチン大統領の支持率につなげることができるし、軍事的にウクライナ政権に圧力をかけ、連邦制を導入させ、そのNATO(北大西洋条約機構)・EU寄り外交に制約をかけることもできる。 しかし、人民共和国は追い込まれていく。 ウクライナ軍(志願兵部隊含む)の夏季攻勢の前に両人民共和国が崩壊寸前に至ると、ロシアは8月24日に大挙して部隊を越境させた。高い練度を誇るロシア部隊に不意を突かれたウクライナ軍はイリバイスクで集中砲火を浴び、大部分の装備と千人近い犠牲者を残して遁走した。 死傷者の増大を受け、OSCE(全欧州安全保障機構)が仲介する形で9月5日にウクライナ、ロシア、OSCE3の者が調印したミンスク議定書が発効し、一応の停戦が実現している。 人民共和国の経済危機 ウクライナ東部、停戦合意後も1000人近く死亡 国連 ドネツクの空港近くで砲撃により破壊された家屋の消火活動に当たる人〔AFPBB News〕 ミンスク議定書はロシア政府が待ち望んだものであった。ウクライナ政府が採択した特別地位法(「ドネツィクおよびルハンシク州の特定地区の地方自治特別措置法」)をロシア政府は絶賛した。 同法は、キエフとドンバス地域との特別な関係を定めており、ウクライナの連邦化への取っかかりになる。さらに同法は、ウクライナ法の枠内、すなわちウクライナの同地域に対する主権を前提としたものであるから、ロシア政府は人民共和国の経済負担をウクライナ政府に押しつけることができる。 実際、人民共和国は、軍事的な支配地域を広げたことにより、域内に年金生活者を含む多くの住民を抱え込むことになり、彼らの扶養が喫緊の課題となってきている。 ウクライナの金融機関はこれら占領地域から撤収しており、年金、奨学金などの社会保障費や公務員、国営企業従業者に対する給与が滞っていた。ウクライナ政府に代わろうにも人民共和国には財源がなく、一方で従属ばかり求めるため、住民の人民共和国に対する支持は低下していった。 ドネツク大学は正式にウクライナの中部州、ヴィニッツァへ疎開し、いくつかの医療機関も離脱が相次いでいる。 11月2日に行われた人民共和国総選挙では投票が伸びず、票数の改竄が行われた。現金不足は深刻で、期待されたルーブル導入も進んでいない。 ロシア政府はルーブル為替レートの下落とインフレ率の加速に悩んでおり、ルーブル札の提供は限定的である。一方で人民共和国には外貨準備も金融の専門家もないため、独自通貨の発給は難しい。 企業からの課税もうまくいっていない。長引く戦闘で域内の企業活動は停滞しているが、そもそもドンバスは、平時であっても、ウクライナ政府が補助する石炭や天然ガスを浪費する産業構造であるため、キエフから補助金を切られると、ドンバス経済全体は立ちいかなくなる。 人民共和国側は、占拠した炭鉱を操業しロシアやウクライナに転売を試みているが、ロシア炭より割高なドンバス炭販売は持続可能なものではない。 こうした人民共和国の現金不足とロシア政府の躊躇を見透かしたかのように、ウクライナ側は11月、ついにドンバスの占領地域を経済的に切り離す法令を採択した。 ドンバス占領地域から公的機関を引き上げ、当該地域における予算執行を停止する措置をとったのだ。これにより、12月1日から、人民共和国内の住民は、年金などの社会保障費や給料を完全に止められ、ウクライナ政府から切り捨てられてしまうことになる。 これまで、住民は、ウクライナ側支配地域まで出かけ、現金を受け取っていたが、占領地域から引っ越さない限り、受領することができなくなってしまう(ただし、これら地域へのガス、水道、電気、暖房の供給は続けられている模様)。 軍事的解放から、経済資源を引き上げる「焦土化」へと、ウクライナは政策転換したわけだ。 この決定に人民共和国は大きな衝撃を受けている。フリブナ札の流入は一層減り、現金不足が一層深刻化している。支配地域の一部では、社会保障費の支払いを求める市民の抗議集会が行われ、人民共和国は対応に苦慮し、ますます経済的にロシアに依存せざるを得なくなっている。 ロシアの選択 多くの論者が指摘するようにウクライナ危機に対するロシアの政策は逐次的である。状況が変化し(変化させ)、反応を伺い、その状況がロシア政府にとって不利な方向に進展するとテコ入れをし、結果として制御不可能なまでに膨れ上がる。 今や、人民共和国は経済危機に陥っており、ロシア政府は判断に迫られている。 ミンスク議定書の調印以降、ウクライナと国際社会に対し、ミンスク議定書に基づいたキエフとドンバスとの直接対話を訴え続けている。さらに、両人民共和国に働きかけ、彼らの政策を変更させている。 これまで、両人民共和国はミンスク議定書の当事者でない(オブザーバー資格で署名)としてその履行に従ってこなかったが、11月以降、彼らはミンスク三者協議における法的当事者として協議に加わり、新たなミンスク議定書作成に加わる意思を示し始めている。 しかし、ミンスク議定書そのものを遵守しないのはロシア政府や人民共和国側であるとして、新たな議定書の作成をウクライナ側や欧米諸国から拒否されている。 ミンスク議定書が機能しないなか、ロシア政府は次なる手を打つ必要に駆られている。座して両人民共和国の経済的崩壊を待つことはできないが、ドンバス編入や独立承認も難しい。 現在、人民共和国内には400万人の住民がいるが、この数字は沿ドニエストルの10倍、クリミアの2倍であり、ロシアが抱え込む場合、莫大な経済的負担が予想される。 そもそも、ロシア政府は人民共和国内の独立投票や総選挙を「尊重する」としたが、「承認する」と表現したことはなく、一線を超えることを慎重に避けている。 とすれば、人民共和国に最低限の経済援助をしつつ軍事的な圧力をかけて、再びウクライナ政府と国際社会をミンスク議定書やその先にあるウクライナ連邦制導入やNATO非加盟確約の交渉テーブルに引っ張り出すというのが現実的な政策となる。 軍事的な攻勢には、クリミアへの陸上回廊を確保する意味もある。 ロシアのクリミア半島への海上輸送ルート(ケルチ海峡、アゾフ海)は冬季に凍結して利用できなくなるため、ウクライナ側の臨時州都が置かれているマリウポリを掌握して、ヘルソン・クリミア半島に至るまでの陸上輸送ルートを確保する必要がある。 ドネツク人民共和国の指導部からは「ドンバス人民共和国の領土はドネツク全州であり、マリウポリから占領者を追い出す」との発言が繰り返し出されている。 しかし、ウクライナ政府もマリウポリへ部隊を集結させ防御を固めるとともに、ロシアのドンバスへの軍事的増援を指弾して、国際社会とともにロシアの攻勢を強くけん制している。 衆人環視のなか、防御が固いマリウポリへ攻撃を行うのは政治的にも軍事的にも大きなリスクを伴うはずである。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42294
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