04. 2014年11月19日 07:39:07
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ロシア経済:ルーブル暴落の足音 2014年11月19日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2014年11月15日号)100ルーブル紙幣は「ポルノ的」、ロシア議員が図柄変更を要請 モスクワのボリショイ劇場の屋根のアポロ像(上)と、この像を描いたロシアの100ルーブル紙幣(下)〔AFPBB News〕 中央銀行家は誰でも信頼の重要性を知っている。不換通貨――さらなる紙幣によってしか裏付けされていない紙幣――の世界では、買い物客や企業が現金を保有するには、現金の価値が保たれることを確信できなければならない。 その信頼が、ロシアで試されている。ロシアでは、過去3カ月間でルーブルがドルに対して23%下落した。 このような通貨急落は必然的に、輸入価格の上昇という形でインフレをもたらす。ロシアの消費者物価がすでに年間8%を超すペースで上昇していることを考えると、インフレ高進は心配の種だ。 だが、この数週間、それよりもっと怖いものの兆候が見え始めている。ロシアの銀行は切実なドル需要に直面し、ドルを少しでも取り込めるよう、ドル預金に対して支払う利息を引き上げた。貸金庫の需要が増加しており、顧客が外貨をため込んでいることがうかがえる。 ルーブル防衛に必死のロシア中銀 ロシアの中央銀行を率いるエリヴィラ・ナビウリナ総裁は、この傾向を芽のうちに摘もうと奮闘している。まず、総裁は11月5日に金利を9.5%に引き上げた。これはルーブル預金がドル預金よりはるかに多くの利息を稼ぐことを意味し、ルーブルの魅力を高めるはずだ。 次に、ルーブル防衛のために中銀が行ってきた、小規模で予測可能な1日当たり3憶5000万ドルのドル売り介入に代わり、はるかに規模が大きい臨機応変な介入の可能性を口にすることで、ルーブル安に対する賭けを食い止めようとした。最後に、銀行が通貨に投機を仕掛ける力を抑えるために、ルーブル資金に対する商業銀行のアクセスを制限した。 ナビウリナ総裁は大胆になる必要があった。ルーブル安には根深い原因があり、いずれも消えてなくなるものではない。 1つ目は原油だ。2014年上半期にロシアの輸出は2550億ドルの収入をもたらし、そのうち68%が原油と天然ガスの販売によるものだった。上半期の平均原油価格は1バレル109ドルだった。それが今では80ドルに近い水準だ。 原油価格と比例する減少率をエネルギー輸出に当てはめると、収入が400億ドル以上減ることになる。ロシアの経常黒字をすべて帳消しにし、なお穴を開ける規模だ。 大半の経済国では、大幅な通貨下落は国産品に対する需要を押し上げる。外国製品の価格が高くなるにつれ、買い物客が国産の代替品を選ぶようになるからだ。だが、ロシアの近年の歴史は、そうした代用を困難にする。 ソ連時代の補助金から市場を基盤とする農業への移行は円滑ではなかった。ロシアとウクライナにおける牛肉、豚肉、鶏肉の生産は、1991年には1300万トン近かったが、2001年にはたった500万トンになっていた。 最近、(特に穀物生産で)多少の改善が見られたが、ロシアの農業はまだ極めて非効率だ。その結果、食肉、牛乳、卵などの多くの輸入品は、国産の代用品がごくわずかしかない。こうした製品を輸入する卸売業者は、製品購入のためにドルを必要とし、それがルーブルに下落圧力をかけている。 迫り来るドル建て債務の返済期限 ほかにも、ルーブルを売ってドルを買う理由がある。中銀の統計によると、ロシア経済全体で今後1年以内に返済期限を迎える対外債務が1200億ドル以上ある。ざっと3分の1が銀行による借り入れで、残る3分の2が銀行以外の企業の債務だ。 一部の企業――特にロシアのエネルギー大手――には、ドル建ての収入がある。銀行を含む残りの企業の大部分は、ドル建ての収入源を持たない。
制裁措置の影響で多くのロシア企業はこうしたドル建て債務を借り換えるために外国で借り入れを行うことができないことから、これは継続的なドル需要を生み出す。 12月に大規模な債務返済が控えているため、年末までに、ルーブルが再び暴落する可能性がある(図参照)。 西側の市場と通貨に対する依存は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を苦しめている。プーチン大統領は11月10日、中国の習近平国家主席と、ロシアが新しいパイプラインを経由してシベリアから中国へ天然ガスを輸出することになるガス供給契約に調印した。 中国シフトにはなお時間 上海で中露首脳会談、合同軍事演習も 天然ガス交渉は妥結せず プーチン大統領は中国との関係強化に期待を寄せるが・・・〔AFPBB News〕 この契約は巨大な新規需要源をもたらし、中国が欧州に取って代わってロシア最大の輸出市場になるかもしれない。加えて、ドルではなく人民元建てで売買し始めるという合意は、ドルに対する需要を減らす。 しかし、パイプラインの建設には何年もの歳月を要し、プロジェクトの資金調達はまだ確保されていない。一方、ロシアは今後何年も、安い原油・天然ガス価格に耐えなければならないかもしれない。 11月12日、米国政府機関のエネルギー情報局(EIA)が公表した新たな予想によると、原油価格は2015年の年間平均で1バレル83ドルになる可能性が高いという。 原油価格が1バレル90ドルに上昇するという楽観的な想定に基づき、ナビウリナ総裁はまだ、2015年にゼロ成長と8%のインフレ率を予想している。ロシアのルーブル危機はまだ当面終わりそうにない。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42237 核兵器を振りかざすロシア 「狂人理論」を地で行くようなプーチン大統領、はったりだとしても危険な駆け引き 2014年11月19日(Wed) Financial Times (2014年11月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 筆者は1980年代当時、英国のグリーナム・コモンに集まる女性たちに、あまり関心がなかった。あの時代の少し反動的な学生の1人として、核兵器が配備された英軍基地の外で反核運動のキャンプを張っていた彼女たちのことを、勘違いをした愚かな人たちだと見なしていた。核抑止力が機能していることはこの数十年の経験から分かるじゃないか、と思っていたのだ。 あれから30年、核による平和はまだ保たれている。だが筆者は、核兵器は絶対に使用されないというこれまでの自分の考えに、少し自信が持てなくなっている。 不安を覚える3つの理由 不安を覚える理由は3つある。第1に、核兵器はパキスタンや北朝鮮といった不安定な国々にも拡散している。第2に、世界は過去に何度か核戦争寸前の状態に陥っていたことを示す証拠が増えてきている。そして第3に、これは前の2つよりも差し迫ったものだが、ロシアが核兵器をちらつかせる場面がとても増えているのだ。 赤の広場で戦勝記念日のパレード、ロシア ロシアが核大国としての地位を口にすることが多くなってきた〔AFPBB News〕 最近のロシアは、公式な場と非公式な場の両方で、核兵器を持っていることにますますはっきりと触れるようになっている。 筆者は2週間ほど前、米ワシントンで開催されたある非公開のセミナーで、ロシアのある大物が「プーチン大統領は核兵器という銃をテーブルの上に置いた」と聴衆に警告する姿を目撃した。 確かに、大統領はロシア国内で行った演説で、部外者は「我々に干渉」すべきでないと語っている。「ロシアは核大国の1つだ」というのがその理由だった。 冷戦時代に旧ソビエト連邦政府の代弁者だった新聞「プラウダ」が先週、「ロシア、核でNATOを驚かす準備」という見出しの記事を掲載した。同紙はこの中で、ロシアは米国と同程度の戦術核兵器を保有していると論じ、誇らしげにこう続けた。 ロシアの術中にはまりたくはないが・・・ 「戦術核兵器について言えば、現在のロシアは北大西洋条約機構(NATO)に対しかつてないほど優位に立っている。米国はこのことをしっかり認識している。彼の国は以前、ロシアはもう二度と台頭しないと確信していた。今となってはもう手遅れだ」 ロシアの核について文章を書くにあたり唯一ためらいを覚えるのは、これでは先方の思うつぼではないか、ということである。ロシア政府がわざわざ核に言及するのは、西側の評論家にロシアの核の脅威について語らせるためでもあると考えてほぼ間違いない、と筆者は見ている。 ロシアは、西側によるウクライナへの軍事支援を何としてもやめさせたいと思っている。そのため、事態をエスカレートさせたらロシア政府は猛烈に反撃することになろう、ひょっとしたら核兵器だって使うかもしれないというメッセージを伝えたがっているのだ。 プーチン氏は、かつてリチャード・ニクソンがリーダーシップの「マッドマン・セオリー(狂人理論)」と呼んだものに従っているように見える。 ニクソン元大統領はかつてこう説明していた。「あの国は予測ができない行動を取る、向こう見ずですらある――敵国がもしそんなふうに考えるようになれば、相手をとことん追い詰めることに躊躇するようになるだろう。そうすると、敵国が妥協する可能性が大幅に高まる」 オバマ大統領、「最も影響力のある人物」また2位に 狂人理論に基づけば、プーチン大統領がオバマ大統領にいつでも勝てると考える計算は正しいかもしれないが・・・〔AFPBB News〕 米国のバラク・オバマ氏は冷静沈着で分別のある大統領だから、交渉のテーブルの上に核兵器を持ち出せば、上を行く狂人としていつでも勝てるというプーチン氏の計算は正しいかもしれない。 とはいえ、ロシアが核をちらつかせるのは「はったり」でしかないと考えるとしても、まだ危険は消えない。ロシアが「はったり」で相手を震え上がらせるためには、緊張を高めてリスクを取る必要があるからだ。 NATO欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官は先週、ロシアがクリミアに「核兵器を扱える部隊を配備した」と語った。ウクライナでの戦闘が続いているだけに、ロシアとNATOが互いの意図を読み誤る危険性は高まっている。 ミスや誤算で世界が核戦争の瀬戸際に追いやられてきた過去 冷戦時代を研究する歴史家たちによれば、世界はこれまでミスや誤算によって偶発的な核戦争の瀬戸際に、それも一般に理解されているよりも頻繁に追いやられてきた。英国王立国際問題研究所(RIIA、通称チャタムハウス)が先日まとめた報告書「Too Close for Comfort(冷や汗ものの瞬間)」には、そうした事例がいくつか収められている。 これによれば、コンピューターの誤作動のために米国あるいは旧ソ連が核攻撃を受けたと考えるに至ったことがあったという。また、「個人の判断(規約や政治家の指導に背いたものであることが多かった)により回避できたケースも何度かある」そうだ。 最も危険なニアミスのいくつかは、モスクワとワシントンの間で政治的緊張が高まっている時期に起きていた。最もよく知られているのは1962年のキューバ・ミサイル危機である。また、今日にも通じるものがある事例としては、1983年11月のエイブル・アーチャー事件が挙げられよう。 この年の9月、旧ソ連は大韓航空機を撃墜して乗客267人を死亡させていた。この悲劇は、ウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された今年の事件と同様に、東西の緊張を著しく高め、旧ソ連は今日のロシアと同様に、米国は軍事主義の国で世界の支配を計画していると批判した。 そのような状況下でNATOは、西側がソ連を核攻撃するという想定の軍事演習を行った。このエイブル・アーチャー演習は非常に綿密に組み立てられた、非常にリアルなものだったため、ソ連政府の幹部の多くは、NATOが第一撃を加える準備をしていると解釈した。そしてソ連も核兵器を使用できるように準備を整えた。 最終的には、ソ連政府がこの演習を本気だと思っているとの警告が諜報部門から西側諸国に発せられ、事態は収束に向かったようだ。 エイブル・アーチャー事件の教訓 このエピソードからは2つの教訓を学ぶことができるだろう。1つは、モスクワとワシントンの間に「ホットライン」があっても、両者が間違いを犯さないという保証にはならないこと。もう1つは、核兵器がからむ曖昧な行動は危険なパニックを引き起こす恐れがある、ということだ。 ぞっとする話だが、筆者の親の世代は爆弾の影におびえて暮らすことに慣れていった。筆者の世代には、核戦争という概念自体がSFの、さらに言うなら『博士の異常な愛情』のようなブラックコメディの題材のように感じられてしまう。しかし、冷戦が終わっても世界の核兵器は廃絶されなかった。 悲しいことだが、我々は今、核戦争の脅威をSFの話として片付けることができない時代に戻りつつあるのかもしれない。 By Gideon Rachman http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42242 ロシア敵視論が高まっている |