01. 2014年10月14日 07:37:36
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心配すべきことが多すぎる 米国マーケットは楽観的なムードだが 2014年10月14日(Tue) バイロン・ウィーン S&P500種指数はついに2000を突破しました。そして現在はそのレベルからいくぶん下がった状態にあります(これが一時的であることを祈ります)。アリババのIPOは無事に成功し、公募価格の38%高で初日の取引を終えました。市場は まだ強気ムードですが、この史上最大の IPO により他の銘柄へ向かうはずだった資金が吸い上げられたのではないかと いう懸念も顔を見せています。 FRBのジャネット・イエレン議長は、この数年続いた債券買い入れプログラムが今月で終了したとしても、「当面は」 緩和的な金融政策を継続すると表明しています。つまり、短期金利の最初の引き上げはもっと先になるということです。 第1四半期は振るわなかったものの第2四半期の米国経済は4%以上で成長しており、今年下半期の実質成長率は3%に届く かもしれません。スコットランドでは住民投票にて、今後も英国の一部であり続けることが決まりました。投資家の見通 しもこうした好ましい状況を反映したものとなっており、大半の調査結果で楽観的な見方が示されています。 しかしこうした背景がある一方で、楽観的ムードを一変させかねない悩ましい状況も数々あります。それでも今年の残 りは経済も市場も良い状態で終わるだろうと私は考えていますが、大半の観測筋と同じく心配していることもあります。 まずは株価収益率です。S&P500種は現在、2014年の収益の17倍、来年度予測のおそらく16倍で取引されています。こ れは過去12カ月の収益をベースに計算しています。「バブル」が起こるのは25倍から30倍であるため、この計算方法だと 現在のレベルはバブル発生からはまだ遠い状態にあるということになります。 市場がバブル状態に近づきつつあると考える向きは、イェール大学のロバート・シラー教授が考案した、いわゆるCAPE レシオを用いているのかもしれません。この方法で市場を評価すると、現在の株価収益率は26倍となり、このシリーズの 歴史を基準にすると、現在の市場は買われ過ぎの域にあることになります。CAPE方式は1980年代、1990年代初め、そして 2008年から2009年の金融危機まではうまく機能していました。しかしこの5年間は、同レシオが警告値にあるにもかかわ らず、市場は上昇を続けています。 私はCAPEを考慮はしていますが、戦略を考える中心には置いていません。この方式には、1980年代に私がモルガン・ス タンレーで考案した配当還元モデルを思い出させるものがあります。これはS&P500を米国10年物国債の利回りと関連付 けたものでした。このモデルは1980年代後半から1990年代前半まではうまく機能し、私はこれで一気に引退できると考え たものでした。しかし1990年代の中ごろにはこのモデルがもはや希望の星ではないと悟り、悲しい思いをしました。 収益が予測値に届かなければ、株価に対する評価も変わるかもしれません。現在のところアナリストは予測を上げてき ているようです。年初、私はS&P500種構成企業の1株当たりの収益は115ドルと予想していましたが、現在の各位の見通 しは今年は120ドル、2015年は127ドルと非常に高いものになっています。アナリストが注目する各企業からはネガティブ な見通しが多く出ているにもかかわらずです。米国がリセッションに戻ればこの強気な見通しも変化するでしょうが、私 が注視している指標のほとんどを見る限り、そのようなことは当面は起こりそうにありません。 多くの情報源に基づくオメガ・アドバイザーズの調査によると、市場は、経済が下方へ向かう約7カ月前にピークに達 するようです。しかし市場はまだ完全には頂点に達しておらず、経済もまだある程度の勢いを保っているように見えます 。オメガのスタディでは、リセッションやリセッション前の典型と考えられる状況が数多くリストアップされています。 例えば、インフレが加速する、イールドカーブが反転する、在庫が過多になる、雇用が減退する、1週間の失業保険申請 件数が50万件ほどに達する、主要指数や工業生産高、消費者信頼感、株価が下がる、といったことです。現在のところは 、これらのほぼどれも現実にはなっていないようです。 私が心配してるのは住宅部門です。失業率も改善し、低金利が続く今、住宅着工件数も新築・既存住宅の売り上げも、 住宅ローンの申請件数も着実に上昇していくと考えるのが自然なのでしょうが、実際のデータには良いものもあれば、悪 いものもあります。現代ではライフスタイルが以前より柔軟になり、結婚年齢も上がり、家族構成も変わってきましたが 、そういった長期的な変化が影響しているのではないかと思います。住宅部門は経済成長の重要な要素ですので、投資に 慎重な向きはこの部門に大きく注目しています。 収益の質を心配するのは、おそらく妥当な視点です。低金利時代の今、ほとんどの企業は税率を低く抑えられる控除対 象や債務を抱えています。その結果、利益率は史上最高の域にあり、これがすぐに平均的な利益率まで落ちるとも思えま せん。たとえそうなったとしても、これまでの傾向から考えて、市場が下落に転じるのはその1年後になります。 1株当たりの収益の上昇率も1桁台後半となっています。しかし売り上げの伸長率は4〜5%と、それほど高くはありませ ん。利益率は今度も高いレベルを維持しそうですが、株式の買い戻しが1株当たりの収益に影響を与えるかもしれません 。企業の純利益の伸びは、売り上げの伸長の方に同調しています。企業は現金を潤沢に保有しており、それを配当に回す よりは、株式買い戻しに使った方が株主に利益となる税金対策になると考えているようです。といっても今年は配当額も 増えているのですが。今後も株式買い戻しの傾向は続きそうですが、これが1株当たりの収益の増加に大きな影響を及ぼ すことは認識すべきです。株式市場は、単なる純利益の増加以外のさまざまな要因によって上昇しているのです。 株価収益率以外にも株式市場を評価する指標はあります。コンピュスタットのデータを使用しているネッド・デイビス ・リサーチの調査によると、2000年のピーク時、S&P500の株価売上高倍率は2.2倍、2007年のピーク時は1.5倍、直近は 1.7倍となっています。2000年の配当は1.1%、2077年は1.6%、直近では1.9% です。PBRは2000年は5.1倍、2007年は3.0 倍、直近は2.7倍です。1株当たりの不測の事態のための現金は2000年は140ドル、2007年は353ドル、直近は443ドルです 。資産負債比率は2000年は36.7%、2007年は32.1%、直近は23.2%です。こうした数値は、米国の現在の株式市場は総体 的に2000年や2007年ほど買われ過ぎているわけではないという結論を裏付けています。 現在のところ、地政学的な混乱の市場への影響度は低くなっているようです。ウクライナ情勢は、親ロシア地域の停戦 も伝えられ、一段落の模様です。ウラジーミル・プーチン大統領は制裁解除を視野に、分離派が最も支援を受けている地 域の政治的自治権を拡大するよう、交渉を進めています。この紛争によりロシア経済は明らかに疲弊しており、プーチン はウクライナ(クリミア半島も)で意図していた部分の多くを手に入れたことから、旧ソ連の構成国を再び統一しようと いう目標に対し、より段階的なアプローチを取ることにしたようです。(彼は旧ソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的悲 劇」と表現しています) 問題はこの停戦をどれほど続けられるかです。欧州にとってロシアは製品の輸出先ですし、冬を前にロシアからのガス 供給も重要課題になります。ウクライナで衝突が起こるまでは欧州経済は成長率が1%に届きそうな勢いでしたが、この 衝突によってその可能性は小さくなってしまいました。このまま衝突が回避され真の交渉ステージに入ることができれば 、1%の実質成長率も夢ではなくなるかもしれません。またECBのマリオ・ドラギ総裁は金融緩和に向けて複数のステップ が進行中であることを発表していますが、これは欧州経済の刺激になるはずです。どれも欧州の株式市場にとって、そし てその先の米国の株式市場やドルにとってプラスとなる材料ですが、状況は流動的であり、いつマイナス方向に転じても おかしくはありません。 さらに頭が痛いのは、シリアおよびイラクの問題です。オバマ大統領は、イスラム国のクルジスタンへのさらなる侵攻 を阻止し、この地域での同組織の勢力を弱めるため、イスラム国への空爆命令を出しました。アラブと欧州の多くの国が 米国側でこの戦闘に参加しています。米国はこの空爆に対し国際的な支持を多く得ることができましたが、これは最近の イスラム国による処刑映像によってこの組織の野蛮な残忍性が強調されたからかもしれません。 しかし空爆だけではイスラム国の動きを停滞させることくらいしかできないのではないかと思います。最初のターゲッ トは、イスラム国の軍事資金源になっているシリアの石油施設でした。イスラム国はすでに、簡単に降伏しそうにないほ ど十分な地域を手中に収めています。 マーチン・デンプシー統合参謀本部議長は、米国内での高い支持は得られないだろうが地上部隊の派遣が必要かもしれ ない、と述べています。オバマ大統領は、地上戦はサウジアラビアやイラク、ヨルダン、UAE、カタールといった近隣の アラブ・イスラム諸国に任せることになると述べています。今回の空爆には幅広い国々から支持が得られているようです が、リスクもあります。シリアのラッカにあるイスラム国の拠点は人口密集地域にあるため、空爆を行えば市民に犠牲者 が出る可能性があります。そうなると、国際的な批判を浴びることも考えられます。 イスラム国の目的はこの地域に「カリフ」つまりイスラムの国家を樹立することです。彼らの暴力行為は中東内に限ら れていますが、その政治的関心もまた、中東に限られているようです。一方、私たちが情報を蓄積してきたのは、その目 的達成のために欧州や米国の都市を攻撃してきたコラサンのアルカイダ系組織についてでした。 9.11から10年以上が過ぎ、テロの脅威を忘れがちになったりもしますが、これまで私たちへのテロ行為が未然に防がれ てきたのは、スキルと運の両方があったからです。こうした防衛策が今後も奏功することを誰もが願っていますが、テロ の脅威はまだ去ってはいないのです。 イランとの核開発交渉は袋小路に入ってしまったようです。その一因は、中東における政治的連携の複雑さにあります 。サウジアラビアは対イスラム国で米国と協調し、シリアの特定の反政府勢力に武器を供給するよう米国に迫っています が、米国はこれに反対しています。 またサウジアラビアはイランが核兵器保有国になることに断固たる抵抗を示しており、米国主導のこの交渉で、重要な 点で目的が損なわれるような取り決めがなされるのではないかと恐れています。加えてサウジアラビアは、米国がイスラ ム国との戦いでイランからも軍事協力を得たいがために、この核交渉の難しい部分で何らかの譲歩をするのではないかと も懸念しています。一方米国は、イランとの核開発に関する交渉の結果、サウジアラビアが抱くかもしれない問題につい て、その懸念を払拭したいと考えています。米国は対イスラム国でサウジの軍事的支援を頼りにしており、これでもしイ ランの石油産出量が何らかの理由で大幅に減少することになれば、サウジアラビアの重要性がますます大きくなるからで す。 サウジアラビア、米国、イランの相互関係は薄氷の上に立っているようなもので、どのような形であれ亀裂が入るよう なことがあれば、石油価格の高騰を招きかねません。この交渉の結果、イランのウラン濃縮プログラムに制限が設けられ るような合意がなされるだろうと私は期待していますが、状況は流動的であり、悪く転べば市場にマイナスの影響が及ぶ ことも考えられます。 イスラエルとガザも、現在は停戦状態にありますが、この問題は永遠に解決しそうにありません。どちらも譲歩が難し いような要求を提示しているため、恒久的な和平協定に向けた交渉は始まりそうもありません。多くのパレスチナ人犠牲 者が出ていることで、特に欧州では、イスラエルに対する激しい非難が噴出していますが、イスラエルは、これはハマス のミサイル攻撃に対する防衛手段に過ぎないと主張しています。両者の姿勢にまったく相容れるものがないため、合意の 糸口を見つけることは非常に難しい状況です。私は今月は中東を訪れ、11月にはイスラエルを訪れる予定にしていますの で、これらの旅から得た情報で私の見解をさらに充実させたいと考えています。 最後に、私は南シナ海の情勢についても心配しています。世界第2位の経済大国として中国は、すべての国を従わせる ような政治的影響力を持つことも考えられます。中国は、日本やフィリピンが領有権を主張している海域に自分たちの漁 業権があると考えており、またベトナム沖には石油の採掘権があると考えています。 ただ中国はこれらの問題で戦争を起こす気はないでしょう。現在のところ中国指導部は、腐敗防止活動の積極的な遂行 や規制改革、さらにはGDPのバランスを国営企業やインフラへの投資重視から内需拡大重視へと切り替える政策など、国 内の改革プログラムのことで手一杯な状況です。中国が直近の取り組みとして主に注力するのはこれらの課題になるだろ うと、私は考えています。そのため対外政策の重要度は今後も低く置かれることになるでしょう。 米国の機能不全状態の民主主義についても、私は心配しています。議会は今のままでは、立法の点で歴史上最も生産性 の低い議会のひとつということになりそうです。一部の議論好きはこれで満足かもしれませんが、ワシントンには成すべ きことがたくさんあるのです。11月の選挙で共和党が上院の過半数を制しても、この状況は変わらないと思います。これ が悪いニュースです。 一方良いニュースは、今後数カ月で議会に何が起こっても経済にも市場にも大きな影響は及びそうもないということで す。大きな心配事はここにはありませんが、市場というのはムードがポジティブな方向に流れているときほど、ネガティ ブな出来事に必要以上に反応してしまうものです。 (バイロン・ウィーン=ブラックストーン・グループ ストラテジスト) ・本記事は、ブラックストーン・グループのバイロン・ウィーンによる市場コメンタリー(10月号)を転載したものです 。 【バイロン・ウィーンさんは毎年初めに発表する「びっくり10大予想」で知られる米国の著名ストラテジストです。こち らもお読みください】 ・「地政学的混乱の中にあっても楽観的な展望(市場コメンタリー9月号)」 (2014.09.03、バイロン・ウィーン) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41921 |