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コラム:米中が露呈した外交的矛盾=ブレマー氏[ロイター]
2014年 06月 20日 14:59 JST
国際政治学者イアン・ブレマー
[19日 ロイター] - 世界の2大経済・軍事大国である米国と中国。その言動は同盟国や敵対国の行動を左右するだけでなく、グローバル経済に影響を与える。故に、外交政策を実行に移す際のリスクも大きい。
問題は、中国の習近平国家主席も、米国のオバマ大統領も、外交政策で一挙両得を狙っていることだ。両者とも国際的な問題への関与は二の次であり、世界でリーダーシップを発揮するよりも、喫緊の国内問題に専念したがっている。
だが同時に、米中には、海外で一方的かつ積極的に推進したいと考える特定の優先事項もある。こうした矛盾が、両国の指導者を苦境に立たせている。また他国も、そうしたことが国際協調を弱らせ、ウクライナやイラクのような危機を一段と悪化させるのではないかと危惧している。
オバマ大統領に外交政策での主義というべきものがあるなら、まさに一貫した主義がないことだと言えよう。ウエストポイントの陸軍士官学校で最近行った演説でオバマ大統領は、自国の核心的利益ではない紛争への関与に反論し、軍事的な選択肢は最後の手段だと強調。「最良のハンマーを持っているからといって、すべての問題が打つべきクギとは限らない」と語った。
そんなオバマ大統領だが、無人機を使った武装勢力掃討など、非従来型の関与ではハンマーを振りかざすこともいとわない。実際、ブッシュ前大統領に比べても明らかに積極的な行動に出ている。オバマ政権下の同攻撃による死者数は数千人に上るとみられるが、そもそもこうした攻撃は他国の領土主権を確実に侵害するものだ。
ジキルとハイドのような二重人格的な外交政策は実のところ、コインの表裏なのかもしれない。オバマ大統領は従来型軍事行動のリスクを回避しようとするあまり、非従来型の代替手段を積極的に活用している。「自衛の必要があるなら直接行動を取る」ことができるとして、このような一方的な関与を正当化する。だが、大統領が関与できるとする場合、脅威はどれだけ直接的でなければいけないのだろうか。
オバマ大統領の矛盾を最もよくさらけ出しているのがイラク情勢だ。イスラム過激派が北部の都市モスルを制圧したのを受け、オバマ大統領は米国の対応について「あらゆることを排除しない」と明言した。ただ同時に、「イラクの戦闘地域に米軍を再び派遣することはしない」とも述べた。
イラクでの紛争は米国の国益にとって真の脅威だが、アフガンとイラクからの米軍撤退を外交分野の功績としてアピールしている大統領にとっては、最後まで関与を回避したい問題だろう。米国の安全保障にとって、イエメンでの武装勢力掃討よりイラクへの関与の方が重要だとしても、現段階での直接介入は政治的代償が大きい。オバマ大統領のリスク回避的な矛盾をはらんだ政策は、長期的に米国の利益を損なうことになるだろう。
一方、中国の習近平国家主席は、自国の経済モデルを転換すべく野心的な改革を実行することで手一杯な状況にある。これは前例のない実験であり、中国が世界の表舞台で「責任ある利害関係者」になりたがらない理由の大半を説明できる。中国が実際にもっと強大になるまでは、習氏は自国の力を控え目にしか売り込まないだろう。
こうした国際的な関与をためらう背景には、中国が長年、内政不干渉の原則を貫いてきたことがある。イスラム過激派がモスルを制圧したとき、中国はそれを非難する公式声明を出すことすらしなかった。ロシアによるクリミア編入を認めないとする国連総会決議案は採択を棄権し、ウクライナ危機に関してロシアにも西側にもくみせず、傍観する立場を取っている。
だが、中国の国境を越えた核心的利益となると、習主席はこうした信条をかなぐり捨て、積極的に独自の道を突き進む。中国は昨年、東シナ海に防空識別圏を設定。当然のことながら、日本との緊張を高めることになった。
中国はまた、南シナ海の9割の領有を主張し、周辺諸国との関係を悪化させている。そして、漁船の一団を伴い、同海域に石油掘削装置(リグ)を設置したことで状況は一段とエスカレートした。ベトナムでは暴力的な反中デモが発生し、2国間の経済関係も多大な打撃を被っている。
習主席は国内で改革を成功させることに専念したいが、相次ぐ外交問題はそうした路線からの危険な逸脱を招き、長期的な経済的利益が損なわれることになる。
オバマ大統領も習主席も、それぞれの外交政策に根本的な矛盾をはらみ、自国の長期的な健全性を弱体化させている。同盟国や周辺国は、世界の2大強国のリーダーシップを頼りにできないが、彼らが予期せず一方的に関与してくることは避けられない。米中の核心的利益として直接狙いを定められた国は、最悪な事態を被ることになる。
国内問題を優先し、それに専念することは理解できる。だが、外交政策の矛盾解消は、国内における目標達成の一助となるだろう。
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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