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焦点:いまだ不明のマレーシア機、捜査の責任はどこに
2014年 03月 12日 18:41 JST
[クアラルンプール/ニューヨーク/パリ 12日 ロイター] -消息不明となっているマレーシア航空(MASM.KL: 株価, 企業情報, レポート)370便の捜索に当たっている関係者らは、努力が無駄になりかねない極めて珍しい困難に直面している。それは、航空機の安全性を捜査する正式な権限が彼らにないということだ。
乗客乗員239人を乗せた370便ボーイング(BA.N: 株価, 企業情報, レポート)777―200型機が消息を絶って4日が経過したが、正式な捜査を先頭に立って開始しようとする国はおらず、リーダーシップの真空状態が起きている。航空業界の専門家らによると、こうしたことは前代未聞とみられる。
マレーシア当局は他国の政府や機関と協力し、非公式な捜査を行っているが、国連の国際民間航空機関(ICAO)が定めたルールのもとで正式な国際捜査を伴うような法的権限は持っていない。
マレーシアの捜査に詳しいある高官によると、同国の当局はマレーシア機の墜落場所に関する証拠が不足しているため、国家管轄権の問題で、いまだに正式な捜査を開始できないでいるという。
ただ、この高官はこのことがマレーシアの捜査を妨げているわけではなく、同国は米当局やボーイングのほか、近隣諸国から管制との交信やレーダーなどの情報を問題なく収集し、非公式の捜査を開始していると語った。
しかし、東南アジア海域は領有権をめぐる係争が絶えず、もし墜落現場がマレーシア以外の領域なら、マレーシアがICAOのルールのもとで一方的に捜査を正式に始めると決定した場合には、主権を巧妙に主張していると解釈される可能性がある。
航空事故の専門家は、ICAOによるルールのもと迅速に正式な捜査が行われなければ、極めて重要な初動捜査の妨げとなり、手掛かりや記録が失われるリスクがあると指摘する。
正式な捜査の欠如はまた、マレーシア当局が情報公開における独占的な支配権や、断片的な情報を集約化する能力を持たず、他の関係者の「善意」に基づいた協力に事実上頼るしかないことを意味しているという。
正式な捜査では、航空機メーカーや航空会社、航空安全規制当局などから捜査に当たる担当者を指名するための委員会が設立される。こうした関係者は、それぞれの作業グループに代表者を参加させるのが一般的だ。
ワシントンの法律事務所ホーガン・ロヴェルズの航空専門の弁護士で、かつて米連邦航空局(FAA)の主席法律顧問だったテッド・エレット氏は、「どこの国が捜査を担当するのかさえ決まっていないのであれば、指揮系統と協調が著しく欠如した状況にあるだろう」と話した。
マレーシアの捜査に詳しい前述の高官によると、米運輸安全委員会(NTSB)とFAA、ボーイングから派遣された捜査員が10日、マレーシアの首都クアラルンプールに到着。マレーシアの捜査員と協議を重ねているという。
また、NTSBの報道官は、FAAとボーイングを含むNTSB主導のチームが、不明機が発見されたときのために待機しており、マレーシア当局に支援を申し出ていることを明らかにした。
ボーイングとFAAはコメントを差し控えている。
<権限の欠如>
捜査をめぐる不透明さは、すでにマレーシアと中国の間で緊張の源となっているようだ。不明機に最大154人の国民が搭乗していた可能性のある中国は、マレーシアに対し圧力を強めている。中国外務省は10日、マレーシアに対し、「できる限り速やかにかつ正しく」捜査を開始することを求めた。
通常は、事故発生直後に主として航空機が墜落した領域に基づいて、政府が捜査の主導を名乗り出る。
今回のケースでは、10カ国から派遣された海軍や軍用機、沿岸警備隊や民間の捜索救助船が、南シナ海からマラッカ海峡にわたる広範囲な海域を捜索するなか、そうした決定的な情報が依然として不明なままだ。
マレーシアの捜査に詳しい前出の高官は、墜落現場が判明するまで、同国政府は正式な捜査を開始できず、米国とオーストラリアの当局と密接に協力していく計画だとし、「もし待つなら、貴重な時間を失うことは分かっている。だからこそ、マレーシア当局はあらゆる記録とデータを集めている」と話した。
ICAOのルールによると、国際水域で航空機が墜落した場合、航空機が登録されている国が捜査を担当することになっている。
故に、2009年にエールフランス(AIRF.PA: 株価, 企業情報, レポート)機が大西洋に墜落したとき、まだ機体の残骸が見つかっていなかったにもかかわらず、同社は直ちに正式な捜査の指揮に当たっている。
<法的保護>
もし不明機がベトナムの領域に墜落していた場合、同国が捜査権限を持つことになるが、捜査を主導するリソースが不足しており、外部の助けに頼らざるを得ないだろうと、地域航空当局者は明かす。
ICAOのルールのもとでは、捜査本部には制約されることなくあらゆる関連資料にアクセスすることや、証拠などを無制限にコントロールすることが認められるという。
ホーガン・ロヴェルズのエレット氏は「関係する企業や機関は、捜査で社員や職員が尋問されることを快く思わない」と指摘。「捜査権限が誰にあるのか疑問が残る場合、それが分かるまでは捜査に参加しないと答える可能性がある」と述べた。
訴訟が渦巻く可能性がある一方で、航空安全の理由から、証人は事故について自由に語ることを求められている。
捜査当局は一般的に文書や記録、特に事故機の保守整備記録を「凍結」するほか、レーダー画像や航空管制記録を確保する。そして、個々の証拠をふるいにかけるため、オペレーションや保守整備などの分野を専門とする作業グループが設置される。
欧州の航空安全当局者は、匿名を条件に「今回のようなことはほかに思い出せない。普通は捜査の責任者はかなり明確で、すぐさま仕事に取りかかる」と語った。
(Siva Govindasamy記者、Alwyn Scott記者、TimHepher記者、翻訳:伊藤典子、編集:佐藤久仁子)
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