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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
末期膵臓がんにかかった「作務衣の医師」 最後の提言とは
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/179445
2016年4月15日 日刊ゲンダイ
どれだけ「医学」が進歩しようと変わらない事実がある。「医学」は命を延ばせるだけで、「死ぬのが怖い」という患者の苦しみを取り去ることができないことだ。だからこそ、多くのがん患者を看取り、みずからも末期の膵臓がんにかかった、ある「作務衣の医師」の言葉に耳を傾ける必要がある。
「一昨年の秋、進行した膵臓がんが見つかり手術しました。そのときの生存期間中央値は1年。平均より長生きしましたが、肝臓への転移が見つかり、がんも大きくなっているので残された時間はわずかです。私の命は夏ごろまでに尽きてしまうでしょう」
こう語る田中雅博医師(70)は、奈良時代に建立された真言宗の名刹「西明寺」(栃木県益子町)の住職でもある。同敷地内にある「普門院診療所」(写真)で緩和ケアを手掛ける「作務衣の医師」として、多くのがん患者と向き合ってきた。
「私は常日頃から、がん患者と向き合ってきただけに、がんと分かった時は驚きも悲観もなく、とうとう自分の番が来たかと思いました。もっとも、そう思えるのも私が宗教家として心を整え、『自分に執着しない心境』を得ているからともいえます」
しかし、一般のがん患者はこうはいかない。大抵は「死への恐怖」に苦しみながら死んでいく。
田中医師に言わせると、世界に誇る日本医療で最も欠落しているのは「死ぬのが怖い」という患者のスピリチュアル・ペイン(いのちの苦)のケアだという。
「それを痛感したのは、国立がんセンターの内科医だった40年前です。担当したのは、いずれも死に直結する進行がん患者。『死にたくない、死ぬのが怖い』という悲痛なスピリチュアル・ペインを発していました。しかし、当時、私は宗教家ではなくサイエンスを扱う医師。どうすることもできませんでした」
■スピリチュアル・ケアワーカーの必要性
父の死で国立がんセンターを退職。その後、西明寺住職となって境内の有床診療所で治療を開始して以降、本格的にスピリチュアル・ペインとスピリチュアル・ケアに乗り出した。
「かつて、寺院は施薬院、療病院といわれる医療施設があり、僧侶が医学的治療と『いのちの苦』の治療にあたっていた。仏教では、苦が生じるのは思い通りにならない3つの欲があるからだと教えます。『愛欲』『生存欲』『死にたい欲』です。それをコントロールできれば苦はなくなる。仏教は苦の此岸から楽の彼岸まで運ぶいかだの役。故に仏教がスピリチュアル・ケアになり、僧侶はスピリチュアル・ケアワーカーだったのです。この復活が必要だと感じたのです」
日本では明治以降、医療と仏教の関係が破壊され、スピリチュアル・ケアが置き去りにされた。
「しかし、欧米では違います。医療施設にスピリチュアル・ケアワーカーがいることが常識。バチカンには、計8年間のスピリチュアル・ケアワーカーの資格取得・育成制度がある。また、ケアワーカーがいなければ病院設立許可が下りません。イタリアでは100床に1人が必要とされています」
いまの日本は、スピリチュアル・ケアワーカーどころか、身体的痛みを緩和するオピオイド鎮痛剤使用も麻薬規制で普及しない。
「今年に入り、スピリチュアル・ケアの普及と質的向上をめざし、宗教関係者らが『日本臨床宗教師会』を創設しました。日本のがん治療がサイエンスのみからスピリチュアル・ペインのケアへの広がりの一歩になればと期待しています」
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