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インスリンとインクレチン関連薬(C)日刊ゲンダイ
日本人論文で注目 糖尿病薬で「前立腺がん」抑え込めるか
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/179224
2016年4月12日 日刊ゲンダイ
糖尿病が怖いのは血糖値が高くなることではない。それを引き起こす生活習慣や体形が合併症を発症させることだ。とくに怖いのはがん。2013年の日本糖尿病学会の調査報告によると、糖尿病患者はそうでない人に比べて約1.2倍のがん発症リスクがあるという。いったん発症すれば増殖に歯止めがかからないがんだが、「種類によっては糖尿病の注射薬で抑え込めるかもしれない」との日本人の研究論文が注目されているという。
「現在、糖尿病の薬で抗腫瘍効果があるとされているのがメトホルミンです。世界中の研究機関の大規模臨床試験等で確認され、そのメカニズムの解明も進んでいます。それに続く薬として注目されているのが『GLP−1受容体作動薬』です。血糖を下げる注射薬ですが、前立腺がんの進行を食い止めるのに役立つ可能性があるとの論文が一昨年、世界的糖尿病雑誌『Diabetes』に掲載されたのです」
こういうのは糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・西蒲田)の辛浩基院長だ。
食事による刺激によって小腸から分泌され、インスリン分泌を促進する働きを持つホルモンをインクレチンと呼ぶ。GLP−1はそのひとつで、すい臓のβ細胞表面にあるGLP−1の鍵穴(受容体)にくっつき、インスリンを分泌させ、血糖値を抑える。
「GLP−1はほかにも血糖値を上げるホルモン(グルカゴン)の分泌を抑制したり、すい臓のβ細胞を増殖したり、摂取した食物の胃からの排出を遅らせたり、食欲を抑えたり、脳神経の保護をしたりなどさまざまな作用が明らかになっています。今回、新たにがん細胞の増殖を抑える作用が判明したのです」(辛院長)
■乳がん、大腸がんも
マウスを使った6週間の動物実験では、GLP−1受容体作動薬を使ったマウスの前立腺がんは、使わなかったマウスに比べて明らかに増大が抑制されたという。論文を発表した、福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科の野見山崇准教授が言う。
「この研究はGLP−1受容体作動薬の抗腫瘍作用を、そのメカニズムまで詳細に明らかにした初めてのものです。私たちはまず、前立腺のがん細胞にGLP−1受容体があることを免疫染色で確認。その後、GLP−1受容体作動薬を前立腺がん細胞に投与したところ、GLP−1受容体が多いと考えられる前立腺のがん細胞ほど、がん増殖抑制効果が高いことが分かったのです」
その後、マウスによる動物実験でこれを証明した。
「GLP−1受容体作動薬は前立腺がんを自壊させることはありませんが、細胞増殖シグナルである分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(ERK−MAPK)を抑制することでがん細胞の増殖を防いでいると考えられます」
いまのところGLP−1受容体作動薬によるがん増殖抑制効果が確認されたのは前立腺がんだけだが、海外では乳がん、大腸がんでの研究が進んでいるという。
「前立腺がんについてはメトホルミンとの相乗効果も確認しており、今後は他のがんでの抗腫瘍作用や抗がん剤との併用効果も調べたい」という野見山准教授。これからは糖尿病治療薬の選び方が「がんを抑え、がん死を増やさない」ことに直結することになりそうだ。
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