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少子化はいくつもの要因が複雑に絡み合って起こるが、未婚・晩婚化が大きな理由だ。国立社会保障・人口問題研究所は2035年の生涯未婚率は男性29・0%、女性は19・2%に達すると予測している。
なぜ未婚・晩婚は進んだのだろうか。ここにも占領期に連合国軍総司令部(GHQ)が仕掛けた「人口戦」の影が及んでいる。
日本人の結婚や出産に対する価値観を決定的に変えたのは、昭和22(1947)年施行の日本国憲法で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」とした24条だ。
戦時中の「家制度」の下では、結婚は家と家の結びつきであり、戸主が結婚相手を決めることに疑問を持つ者は少なかった。
ところが、憲法24条によって誰と結婚するかが個人の判断となると、「結婚しない自由」が当然のように語られるようになり、行き過ぎた個人主義ともつながった。家族を「個人」の集合体と考える人たちの登場は、現在の未婚・晩婚と無関係ではなく、少子化にもつながっている。
https://www.sankei.com/premium/news/160209/prm1602090007-n1.html
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こうした価値観の変化は戦時中の「産めよ殖やせよ」政策への批判にもつながった。国民の反発を恐れた国会議員や官僚は、出生数減の危機を知りながら結婚や出産の奨励政策に及び腰となり、少子化対策は後手に回ったのである。
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「産めよ殖やせよ」政策といえば、一般的に国防国家体制を確立するための兵力や労働力の確保策と説明される。16年1月に近衛文麿内閣によって閣議決定された「人口政策確立要綱」には、「今後ノ十年間ニ婚姻年齢ヲ現在ニ比シ概ネ三年早ムルト共ニ一夫婦ノ出生数平均五児ニ達スルコトヲ目標トシテ計画ス」など、実に細かな“指示”が記されている。
だが、この「産めよ殖やせよ」政策は、GHQによる「人口戦」とは別の、戦前にあった「もう一つの人口戦」の影響を強く受けていたことはあまり知られていない。近隣諸国との出生率をめぐる戦いである。
実は、戦前の日本も少子化に悩んでいた。人口1千人あたりの出生率は大正9(1920)年の36・2をピークに、昭和14(1939)年は26・6に落ち込むなど長期下落傾向を示していたのだ。
https://www.sankei.com/premium/news/160209/prm1602090007-n2.html
人口が基礎国力であり、人口差がそのまま国防上の危機に直結した時代である。「産めよ殖やせよ」には兵士確保策としての目的はもちろんのこと、日本人口の減少に伴い近隣諸国に国力で負けることへの政府の危機感があったのだ。
17年4月に厚生省人口局が編集したパンフレット『健民運動』は、当時の政府の考えを伝えている。
「我が国の出生率が大正九年を界にして一路下降の傾向を辿り始めたと言ふ事は大いに警戒を要する事柄であつて今にして之が対策を講ずるのでなければ将来臍を噛んで後悔しても亦如何とも為す能はざるは火を見るよりも明らかである」との指摘だ。
日本の出生数が減る一方で近隣諸国の出生数が増え続ける状況を、将来の国力差につながる“脅威”として受け止めていたのである。
厚生省予防局が昭和16年に出した『国民優生図解』(国民優生聯盟)は、「我々がこれから世界の檜舞台に於いて覇を争つて行くために注目を要するのはフランスやイギリスやドイツではなく、実に同じ亜細亜にあつて日本を取り巻いて居る支那であり、ソ聯であり、印度である」と指摘している。
https://www.sankei.com/premium/news/160209/prm1602090007-n3.html
その上で、「出生率に於いて我が国より遥かに高いソ聯や支那、印度は更に全人口が我が国の二倍乃至四倍もある。従つて年々に生れる赤坊の数を比較すると、我が国で一人生れる間に支那では七人生れ、印度では五人、ソ聯では三人生れてゐる。我が国が之等多産の国々に伍して大いに国運を伸ばして行く為には余程国民の自覚を必要とする」とも記している。
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日本は戦後70年を経てもなお、GHQの仕掛けた「人口戦」の呪縛にある。時代背景は大きく異なるが、人口大国の中国の隣にあって人口が減っていく。それは戦時中の政府が“脅威”として受け止めていた状況を想起させる。
「少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する」。昨年9月、自民党総裁選に再選された安倍晋三首相は記者会見で、歴代政権が避け続けてきた人口の数字目標を明確に掲げた。
戦時中の人口学者は当時の少子化を指して「日本民族の老衰と衰亡」と訴えたが、一刻も早く現在の少子化の流れを断ちきらなければ、日本人は“絶滅”の危機を脱することはできない。(論説委員 河合雅司)
https://www.sankei.com/premium/news/160209/prm1602090007-n4.html
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