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3月18日(日)17時45分 All About
思う存分キャリアを追究する娘。一方で、老母は娘家庭のおさんどんに追われる
■母娘関係では、「母側の憂うつ」も深刻!
ここ数年「母と娘」が抱える微妙な関係について、注目が集まっています。母親に依存される「娘側の憂うつ」を伝えるものが多いのですが、実際には、成人してからも娘から頼られる「母側の憂うつ」も深刻なものです。
その代表的なものに、「キャリア娘」と「支える母」の微妙な母娘関係があります。私が見聞きしてきた事例の一部をお伝えしましょう(プライバシー保護のため、細部を変えています)。
■事例1:「私は娘の召使い?」——家事・育児はバアバの仕事
小さい頃から優等生だったA子さん(40歳)は、母であるF美さん(65歳)の自慢の娘。A子さんは大学卒業後、新聞社に就職。結婚して子どもを出産してからは、フリージャーナリストとして昼も夜もなく全国を走り回って働いています。
そんなキャリア娘を支えるのが、老母のF美さん。娘の家庭を切り盛りするため、毎日、娘の家に通って家事全般を引き受け、孫の保育園のお迎えや保護者会行事にも出席してきました。
初老の友人たちが、やれ「旅行だ」「登山だ」と楽しんでいるのを尻目に、F美さんは相変わらず娘を支え、家事・育児に追われる毎日。孫が年長になり、「小学校に入ればやっと自分の時間が持てる」と期待していた矢先に、娘のA子さんが第2子を妊娠。「2人目の世話もお願い!」と娘から頼まれると、何も言えません。
2人目の子が生まれて小学校に上がるまでは、最低でもこの先8年間は、娘の家に通い続けなければなりません。そのときF美さんは73歳になります。「何の躊躇もなく仕事に邁進する娘を見ると、時々やりきれなくなることもあるんですよね……」とため息をもらすF美さんです。
■事例2:「孫育て」から解放されて、心に急に穴が空く
都内に暮らすJ子さん(70歳)は、大学病院の正看護師として夜勤もこなす娘のY香(46歳)さんを支える母。忙しい娘に代わって、娘の家庭の家事はもちろん、2人の孫の世話も近所に住むJ子さんが全面的に担当してきました。そんな孫たちも、上が中1、下が小5に成長。最近では、兄弟だけで夜の留守番もでき、母のY香さんがいないときには、冷凍食品を温めるなどして夕食も食べられるようになりました。
孫育てから解放されてほっとしたのもつかの間、急に空虚な気持ちに襲われるようになったJ子さん。何しろ初孫が生まれて以来、13年間という長きに渡って娘の家庭に通ってきたのです。急にその任務から解放されても、何をしたらいいのか分かりません。気がつけば、ご近所や昔の友人との縁も遠のき、今さら関係を掘り起こすのも一苦労です。
かといって、用もないのに孫の顔を見に行っても塾や部活で忙しく、なかなか会うこともできません。娘は子どもたちの学費を稼ぎ、「看護師長」という夢を目指して、より一層仕事に邁進しており、老母につきあう暇もありません。急に自分の役割が分からなくなり、途方に暮れてしまうJ子さんなのでした。
■「働く母」の現実は、「母の内助の功」があってこそ!?
先の2つの事例を見て、どう感じられましたか? 女性の社会進出が本格化し始めた80年代後半以降、キャリアを確立しつつ育児を両立させる女性が増えてきました。とはいえ、それも実家、特に「母の内助の功」があってこそ成り立つケースが多いものです。
日経ウーマンオンライン「業界別・女性管理職の子育てとの両立事情」(平均年齢44.78歳、2011年)によると、管理職に就く女性の13.3%が「自分の実家のバックアップ」によって仕事と家庭の両立を図っていると回答。「金融・保険業」では26%を越えています。単一回答であるため、保育園などの「子育て支援サービス」の利用の選択の割合が多いのですが、複数回答の場合、「実家」の割合が上記の回答より多くなると想像できます。
好きな仕事を続けながら、結婚も出産もつかむ。これは多くの女性の理想です。とはいえ、1986年の男女雇用機会均等法施行以前に成人になった女性で、キャリアと家庭を両立できた人は一握り。憧れがかなわなかった母親世代にとっては、結婚した娘のキャリアを支えることは、自分の青春を再構築するほどの特別な意味を持っているものです。
■孫育てに追われるうちに、セカンドライフが減っていく!?
とはいえ、結婚して一家を構えた娘をサポートし続けることは、母親にとってさまざまな危機をはらんでしまうものです。
まず、老母が「孫育て」にあたる50代後半から60代は、老後生活の助走期間ともいうべき大切な年代です。多くの人はこの期間に、自分自身の自立した老後生活への準備を始めていきます。昔の趣味を再開し、行けなかった旅行に出かけてみようかと意欲が湧くのも、健康度の高いこの年代だからこそ。孫育てから解放される70代頃から始めても、体の不安が先立ち、思い切ったことはなかなかできないものですし、新しい交友関係を築くのも、容易なことではありません。つまり、娘のサポートに追われているうちに、自分自身のセカンドライフが減ってしまうリスクがあるのです。
また、キャリア娘をサポートしても、娘からの「優しい恩返し」が期待できるとは限りません。母が「自分の夢」としてキャリア娘を育ててきたなら、バリバリ働きながら家庭を築いている現状そのものが、娘本人にとっては「母の夢をかなえてあげている」ことになります。
娘は、「私は『自慢の娘』としてこんなに頑張っている。その上、大好きな孫にも毎日会わせてあげて、親孝行している」と、都合よく考えているかもしれません。そんな娘に恩返しを期待しても、「まだ私に何かやれと言うの?」と反感を持たれるだけかもしれません。
■老母が娘の家庭に介入するリスクとは?
さらに、老母が娘の家庭の面倒を見過ぎてしまうことで、母娘それぞれの自立が損なわれるという危機もあります。結婚した娘の家庭に老母が介入することで、「何でも母任せ」の環境になると、娘に「妻や母」としての自覚が育ちにくくなるからです。これでは、勉強のために母にすべてを頼り切っていた学生時代と大差はありません。また、こうして実母に頼り切っている妻、義母が介入してくる家庭を、娘の夫はどう思っているでしょう? 小さな疑問から、夫婦関係の亀裂が生じることも少なくありません。
一方で母の側も、「自分の人生を懸けてきたのだから、老後は全面的に娘に頼れる」という甘い期待を抱きやすいものです。本来は老い始めた頃から、自立したセカンドライフを自分自身で築いていくものですが、娘のサポートに追われて過ごすことで、「いずれは娘が何とかしてくれる」と依存的な気持ちを強くしていく人が少なくありません。とはいえ、先にも述べたように、娘が「私は既に恩返しをしている」と思い込んでいる場合、急に冷たくされる悲劇もあります。
では、キャリア娘をサポートする母がメンタルリスクを減らすためには、どうしたらいいのでしょう?
■娘の家庭は、娘夫婦で切り回すのが原則
女性がキャリアと育児を両立するには、家族のサポートが欠かせません。とはいえ、老母が何もかもを引き受ける必要はないと思います。
本来、結婚して自立した後の家庭生活は、本人たち夫婦が話し合い、工夫しあって切り回していくもの。まずは、娘夫婦が自分たちの力で最大限チャレンジし、ワークスタイル、ライフスタイルを工夫する。それでも、どうしても難しい部分を実家にサポートしてもらう、というように、娘世帯と親世帯との境界線を引くことが大切です。
また、老母のサポートを利用する際には、お金を払ってお礼をするのも大切なことです。本来、ファミリーサポートセンターに子育て支援を依頼すれば、時給700円、800円といった利用料が発生します。もちろん、家族のサポートを時給制にするのは世知辛すぎますが、月に1回は若干でもお礼をするなど、娘の側から配慮したいものです。娘が気が利かないなら、老母が「少しは、子守り代を負担してちょうだい」などと、はっきり請求してもいいのです。
■家族だからこそ「はっきり伝えあう」習慣が必要
率直に伝えあわずに、何となくお互いが自分の都合のいいように相手に期待してしまうのが家族のコミュニケーションの悪い例です。
先に述べたように、母が「これだけ娘に尽くしているんだから、いずれは恩返ししてくれるだろう」と漠然と期待する一方で、娘は「私は母自慢の孝行娘。孫の世話で生き甲斐まで作ってあげている」と感じているなど、人はそれぞれ自分の都合のいいように考えているものです。こうした誤解を回避するためにも、お互いの考え、気持ちをはっきりと口に出す習慣を、家族それぞれが身につける必要があります。
「はっきり口にすると、ケンカ腰になるのでは?」と躊躇する人がいますが、それは、ギリギリまで不安や怒りを溜め、攻撃的になってしまうからです。そうならないためにも、疑問を感じた時点で「これは困るので、こうしたい」「このままでは苦しいので、こうしてはどうだろう」というように、「気持ち」と「提案」をセットにして伝えることが大切です。
■初老は、セカンドライフを充実させる大切な時期
娘が出産育児に臨む時期は、キャリア形成に重要な「働き盛り」の年代に当たります。同時に初老の母にとっても、セカンドライフを確立する非常に大切な年代なのです。この時期に大切にした友人や開拓した活動が、本格的な高齢期を迎えてから心の支えになることが多いからです。
自立には、経済面、生活面、健康面だけでなく「精神面での自立」も要です。身近にいる家族だけに依存せず、外で友人と関わり、さまざまな活動に取り組むことが、精神的な自立を促します。
そして、仕事優先で家庭を母に頼り切っているキャリア娘に、「生活面での自立」を諭していくのも老母の大切な仕事。一家を持って自立したのなら、自分の家庭は最大限、夫婦の力で切り盛りしていく。困難であれば、ライフスタイル、ワークスタイルを調整するなどの工夫していく。それでもサポートが必要なときに、実家がバックアップする。手を出しすぎず娘の自立を見守っていくことは、老母だからこそできる仕事ではないかと思います。
日本は働く母親をバックアップするシステムが脆弱なため、どうしてもフルタイムで働く女性の負担が、大きくなってしまいます。そこで老母という「内助の功」が欠かせなくなるのですが、この初老の時期は、老母にとっても精神と生活を自立させていく大切な時期なのです。母と娘それぞれが境界線を意識しつつ、ピンチのときには助け合う。こうした節度のある関わり方が、自立した母娘関係を続けるために必要なのだと思います。(文:大美賀 直子)
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