02. 2014年12月08日 06:28:05
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【第22回】 2014年12月8日 ダイヤモンド・オンライン編集部 加速する円安はどこまで進む? 政府・日銀の本音は「円安ウェルカム」 12月5日、円は対ドルであっさりと120円を突破し、7年4ヵ月ぶりの円安水準となった。黒田日銀の「ハロウィーン緩和」以降、円安はその歩みを速めている。円安“弊害論”も強まる中で、円安はどこまで進むのか。市場では政府・日銀の円安許容度が広がっているという見方も出ている。鮮明になった金融政策の 違いが急速な円安を招いた 10月末の日本銀行による追加緩和以来、円・ドルは109円から120円へ、わずか1ヵ月の間に約10円もの円安となった。ここへきて急速に円安に動いたのは、日米の金融政策の違いがより鮮明になっためだ。 そもそも為替市場の流れ自体も、円安方向にあった。円・ドルの最も基本的な需要・供給要因は経常収支。我が国の経常収支は周知のように貿易収支が赤字に転じたことを主因に、毎月、縮小傾向にあった。昨年1〜9月の経常黒字は約4兆6000億円だったが、この1〜9月は約1兆2000億円にまで黒字が減ってしまった。その分ドル売り・円買いの圧力が小さくなっている。 一方、超量的緩和によるゼロ金利と円安を見越して、実は、「じわじわとにじみ出る」(市場関係者)ように、円は海外へと動き出している。海外の債券、株式の取得は毎月1兆円規模で続いている。これは円売り・ドル買い要因だ。つまり、ドル売りの供給圧力が小さくなる一方で、ドル買いのニーズは高まっている。 そうした地合いの上に、10月29日にはFRB(米連邦準備制度理事会)がQE3(量的緩和第3弾)を終了、間髪をいれず同31日には黒田日銀が「ハロウィン緩和」を発表した。米国は実質的なゼロ金利政策は維持しつつも、市場に大量のマネーを供給する政策に終止符を打つ一方、日銀はマネーを供給する政策を一段と拡大する。ドルと円の比でみれば、円の供給が増えるため、円安要因となる。 加えて、5日発表の米国の雇用統計で、市場の予想よりもよい数字が出て、米国の景気は強いとの見方が広がった。量的緩和終了に続く、金融政策の正常化=金利の引き上げが近づくのではないかと市場は判断。短期の投資マネーが円売り・ドル買いに動いた。これが足下で円安が急速に進んだ背景だ。 原油価格下落で 円安にゴーサイン!? では、円安はどこまで進むのか。メインシナリオは、現在の円安は行き過ぎており、一度調整されて110円台後半に戻り、その後再び「緩やかな」円安路線に戻る、というものだ。「チャート的には1ドル123円あたりが円安のメドだが、為替市場はだいたい5円単位で動くので、125円もあり得る。そこから一度調整に入る」(市場関係者)。 その理由は第一に、この9月は日本の経常収支の黒字幅が拡大し、黒字の縮小はほぼ止まったとみられること。二つ目が低成長、低インフレに悩まされるECB(欧州中央銀行)が、来年にもいよいよ量的緩和に踏み切らざるを得ないと予想されること(円高要因)。米国は景気の足取りが確かなものになってきたとはいえ、インフレ率が1%台とまだ低く、金利引き上げがすぐに行われるとは思えないこと、だ。 しかしである。ベテランの市場関係者はこう語る。「過去30年間市場を見てきたが、平均すれば円ドルは120円くらい。ただ、この30年の間に160円もあれば80円もあった。だから、来年は150円に突っかけるかもしれない」。 そこで市場関係者が注目しているのが、政府・日銀がどこまで円安を許容するかということだ。目下、宴たけなわの選挙戦でも野党側が円安弊害論をぶち上げているにもかかわらず、政府・日銀の円安許容の幅は広がっているという見方が強い。 その背景には、原油価格を代表とするコモディティ(原油、ガス、穀物などの商品)価格の下落がある。コモディティ価格が下落局面にある点が、今回の円安の特徴だ。 原油価格(WTI原油先物)は、6月の105ドルから、直近の78ドルまで25%も下落している。その間、円・ドルは101円から121円と約20%の円安となったが、原油価格の下落は円安による支払いコスト高を帳消しにして、おつりがくるほどだ。もし、原油価格の下落がなければ、ガソリンを始め、石油関連製品は軒並み値上げとなっていたはずだ。 むしろ消費者物価は、前年同月比で7月の3.3%から8月3.1%、9月3%、10月2.9%と、消費税率引き上げによる物価上昇分の影響約2%を除くと、1%を切るところまで落ちてきた。消費者物価上昇率2%(消費税の影響を除き)を目標とする政府・日銀にしてみれば、これは好ましくない傾向だ。 10月31日の追加緩和発表の際、日銀は「原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ……デフレマインドの転換が遅延するリスクがある」と述べている。ある市場関係者は「市場はこれを当局からの円安容認のゴーサインと受け止めた」と、解説する。原油価格が大幅に下がっているいま、物価目標2%の達成のためには、円安はむしろ歓迎というわけだ。 そして円はその方向に動いた。次の焦点は、円安のメリット・デメリットを総合的に勘案して、政府・日銀はどの水準を望ましいと考えているのか、だ。それは1ドル125円か、130円か。その意思表明は口先介入か、実際の為替介入か。市場関係者はその水準に目を凝らしている。 (ダイヤモンド・オンライン編集長 原 英次郎) http://diamond.jp/articles/-/63357
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