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資本主義と未来 アル・ゴア元米副大統領:「GDPが増えても95%の所得は1%の富裕層が得る」原子炉の安全運転は可能
http://www.asyura2.com/14/hasan91/msg/205.html
投稿者 あっしら 日時 2014 年 10 月 20 日 06:28:22: Mo7ApAlflbQ6s
 

(回答先: 米の格差拡大懸念 FRB議長講演 教育など門戸広げる必要:上位5%富裕層の平均所得は89年から13年にかけ38%増 投稿者 あっしら 日時 2014 年 10 月 20 日 05:26:12)


[時論]資本主義と未来 アル・ゴア元米副大統領
政治システム再構築を 炭素排出、価格で規制


 アル・ゴア元米副大統領が映画「不都合な真実」で地球温暖化を警告し、ノーベル平和賞やアカデミー賞を受賞してから7年が過ぎた。インターネットの重要性をいち早く指摘するなど先見性に定評のあるゴア氏が次に関心を向けたのが「未来」の行方だ。「いますぐ行動しなければ未来が脅かされる」と主張するゴア氏は、どんな予想図を描いているのか。


 ――世界に大きな変化が起きていると訴えていますね。

 「世界を変える6つの要素がある。(1)国境を越えて絡み合う世界規模の経済(2)数十億人がネットでつながり知識を共有(3)生命科学の革命(4)西洋から東洋への構造再編(5)維持できない成長(6)気候変動の危機――だ。我々はこれほど多くの革命的な変化が同時に進展する事態を経験したことはない。人類は最も重要な選択に迫られている」


 ――経済のグローバル化の陰で、貧富拡大などの問題も問われています。

 「天然資源の利用や人口増加がいまのペースで続けば成長を維持できない。コンピューターによるアルゴリズム取引など、市場の安定を瞬時に崩すリスクをはらむ新たなビジネスが増えている。表土流失や地下水枯渇も深刻で、今世紀中に(生物)種の半分が死滅する危機に直面している。これは倫理に反する。維持できない成長の問題に取り組まなければならない」


 ――資本主義経済は持続可能なのでしょうか。

 「資本主義が持続不可能だとは考えていないが、改革は必要だ。たとえば我々は国内総生産(GDP)を成長の指標としてよく使うが、大きな欠陥がある。1937年にGDPを考案した経済学者サイモン・クズネッツ氏は『GDPを経済政策の指標に使ってはいけない』と述べた。GDPは政策形成に重要な項目を考慮に入れていないからだ」
 「GDPが増えても95%の所得は1%の富裕層が得る。残りの人々はGDPが拡大しても利益を得ない。GDPは環境汚染を評価できず、教育や医療、地域サービスの利点を測定することも可能でない。成長をどのように測定すべきか考え直さなければならない」


 ――米国は世界の指導的立場を失ったと指摘されています。何が原因ですか。

 「政治や経済の力の源泉は西洋から東洋に移った。ジャカルタ、ヨハネスブルク、サンパウロ、上海などが新たな中心地になる。米国が力を失ったように見えるのは、我々の政治システムが機能不全に陥り、政治決定をゆがめる特定の利益団体が米国人の知性を覆い隠したためだ。だが米国にはまだ世界のリーダーになるチャンスがある。民主主義が健全性を取り戻すよう再構築することが重要だ」


 ――2016年の大統領選の争点は。もしヒラリー・クリントン氏が立候補したら支持しますか。

 「米国の大統領はリーダーシップを発揮し、世界の平和と繁栄に向け先見性を示すべきだ。だれもまだ立候補を表明していない状況で、候補者に言及するのは気が早い。ヒラリー氏自身も、出馬したら勝てると思うかという質問を何度もされている」


 ――日本では研究不正の問題が注目されています。米国ではあなたが1981年に下院の科学技術委員会で問題提起したのをきっかけに、研究不正を防ぐ研究公正局が設置されました。

 「不正を防ぐには科学者自身による監視と倫理が不可欠だ。ごまかしはほかの研究者が見破る。しかし不正に目を奪われ、同じ生命科学分野の素晴らしい成果を忘れてはいけない。新型万能細胞(iPS細胞)で成果をあげた山中伸弥京都大教授は、世界で最も尊敬を集める科学者の一人だ」
 「最新の生命科学は命の設計図を変える革命だ。種の境界を越え、初期の人工生命を作る能力もある。疾病の根絶など利点は多く、人間の価値を守るための困難な倫理上の問題にも直面している。技術の応用には倫理指針が必要になる」


 ――日本は高齢化が進み、社会保障などの課題に世界で真っ先に直面する「課題先進国」。どうすれば乗り越えられますか。

 「多くの先進国が低成長の問題に直面している。日本の人口は約1億3千万人だが、今世紀末には6300万人に減少する。人口統計学者が『低出生率の罠(わな)』と呼ぶ現象に陥っており、解決するには政策の変更が必要だ。20世紀にはフランスとスウェーデンが同じ罠に陥ったが逃れる道を見つけた。働く母親を支援する政策だ。私は安倍晋三首相に個人的に提案し、よく理解してもらった」
 「母親の出産休暇や父親の育児休暇を拡充するだけでなく、働きながら育児をしたいと女性が思えばキャリアを犠牲にしなくても仕事を続けられるようにする手当てが必要だ。いくつかの国はすでに導入した。日米は女性差別の問題に取り組み続ける必要がある」


 ――07年のアカデミー賞授賞式では「温暖化は道徳の問題だ」と呼びかけました。道徳は世界に広がったと考えますか。

 「そう思っている。気候変動の危機に対する認識は広がった。極端な気象現象が非常に頻繁に起きている。たとえば先日、広島では(大規模な)土砂災害が発生した。泥流と洪水によって愛する人を失った方たちに哀悼の意を伝えたい。悲惨なことに、世界中で似た現象が起きている」


 ――何が原因なのでしょうか。

 「地球の温暖化によって発生した熱の90%は海に吸収される。そのため海水の蒸発量が増え、大気が暖まり、より多くの水蒸気が大気中に保持される。こうして嵐の雨量が増え、土砂崩れを招く。だが、これは世界中で増えている極端な気象現象の一つにすぎない」
 「暖められた海は台風やサイクロン、ハリケーンを強める。13年に巨大な台風がフィリピンを襲った際には、台風が通過した太平洋は平常より3.5度暖かかった。そのため台風は史上最大規模に成長し、400万人が家を失った。大型ハリケーン『サンディ』が12年にニューヨークを襲ったときも、大西洋は平常より5度暖かかった。この影響で、1000億ドルを超える壊滅的な打撃をもたらし、多くの人命が失われた」


 ――地球温暖化によって北極海の氷が溶けているとの指摘もあります。

 「氷が溶ければ海面が上昇し、海抜の低い地域の人々に大きな影響を与える。世界の人口の50%が沿岸から約24キロメートルの範囲で生活している。日本を含む10カ国では人口の大半が海面上昇の危険にさらされる地域で暮らす。太平洋では小さな島国が消滅の危機にひんしている。フロリダ州マイアミのような米国の都市でも、満潮時には道路に海水が及ぶようになった」
 「南アジアのバングラデシュでは多数の難民が沿岸地域から都市部に押し寄せた。中東のシリアにおいては気候変動による渇水で家畜の80%、農地の60%が使い物にならなくなり(生産性が極端に低下し)、100万人の難民が街にあふれた。極端な気象現象が世界の人々の気候変動に対する認識を強めたといえる」


 ――どうすれば気候変動による被害を防げますか。

 「太陽光や風力による発電の技術革新が進み、温暖化ガスを排出しない再生可能エネルギーでおこした電力の価格は急落している。それにもかかわらず、我々はいまでも毎日、9800万トンの温暖化ガスを大気に放出している。大気をまるで下水道のように使い、温暖化ガスを捨てている」
 「1日に放出する温暖化ガスによる効果は、40万発分の核兵器の熱量に換算できる。地球は大きいが、放出される熱量も多い。大気を下水道にしないためには、炭素に価格をつけ(て取引す)るよう政治家に圧力をかける必要がある」


 ――日本では11年の東日本大震災後に原子力発電所が止まり、温暖化ガスの排出量が増えています。

 「災害で愛する人を失った日本の方々にもう一度お悔やみを申し上げたい。ただ福島第1原発の事故を経験したいまでも、私は原子炉の安全運転が可能だと信じている。東京電力の何が間違っていたのか、政府と電力会社との関係がなぜ機能不全に陥ったのかなどといった問題に、私は専門的な知見を持たない。それでも私にはホワイトハウスで8年間、働いた経験があり、安全な形で原子炉を運転し、放射性廃棄物を処分することは可能だと考える。核兵器の拡散を防ぐこともできると確信している」
 「原発の安全運転が可能だとしても、原子力の未来にとってはよくない問題はほかにもある。太陽光でおこした電力の価格が年々下がっていることだ。原発は将来も利用されると考えるが、その役割は現時点の予測より小さくなるだろう」


 気候変動への警鐘リード

Al Gore 1969年に米ハーバード大卒。米下院議員、上院議員を経て93年にクリントン政権で副大統領に就き、2期8年務めた。93年には「情報スーパーハイウエー構想」を打ち出し、インターネットの普及を促した。2000年の大統領選に出馬。一般投票数で対立候補のブッシュ氏を上回る大接戦を演じたが選挙人の獲得数では敗れた。
 環境保護に熱心で、ドキュメンタリー映画『不都合な真実』で地球温暖化に警鐘を鳴らし、07年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を獲得。気候変動問題に関する啓発活動が評価され、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とともに07年のノーベル平和賞を受賞した。ワシントン出身、66歳。

=インタビューの英文をNikkei Asian Review(http://asia.nikkei.com/)に

[日経新聞10月19日朝刊P.11]


 

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コメント
 
01. 2014年10月20日 09:58:21 : nJF6kGWndY

>GDPを経済政策の指標に使ってはいけない

特に名目GDPはダメだな

生産力は実質GDPである程度評価できるが

是正後所得格差や環境負荷、規制不備による金融リスクなどの外部不経済も、

適正な重みを用いて効用関数に取り込んだ指数が必要になってくるだろう


02. 2014年11月04日 07:41:29 : jXbiWWJBCA

賃金格差拡大の犯人探し、世間の「常識」は経済学者の「非常識」?

国際貿易と賃金格差の関係

2014年11月4日(火)  黒川 義教

 賃金格差に関して多くの先進国で見られた経験的事実の1つは、製造業で就業している熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金が、1980年代後半から上昇し始めたことであろう。では、一体どのような要因が賃金格差の拡大を引き起こしたのだろうか?

 恐らく私たちがよく見聞きするジャーナリスティックな議論は、中国などの低賃金国との貿易が原因だとするもので、そうした議論は世間の「常識」となっているようにすら見える。例えば、自国の低賃金労働者が職を失ったり、彼らの賃金が上がらなかったりするのは、中国などから安い製品を輸入しているからだとする論調だ。

 一方、多くの経済学者は、国際貿易は賃金格差拡大の主要な要因ではないと考えている。コンピュータの導入などの技術変化が主要な要因であると考えるのが経済学者の「常識」だからだ。

 このように、一般的な「常識」は経済学者の世界では常識ではなく、逆に、経済学者の「常識」が一般的な常識ではない、という場合がよくある。それでは世間一般と経済学者は、常識を共有できない運命にあるのだろうか? 答えは否である。というのも、国際貿易が格差の重要な要因だと主張する経済学者もいるからだ。

 そこで、本コラムでは、まず、国際貿易が賃金格差拡大の主要因であると考える一般的な「常識」に対する経済学者側の批判を解説する。次に、技術変化が賃金格差拡大の主要因であると考える経済学者の「常識」を紹介する。最後に、私たちの「常識」をサポートする経済学者の議論を紹介する。

私たちの「常識」に対する経済学者の批判

 先に述べたように、国際貿易が賃金格差拡大の主要因であると考える世間の「常識」は、経済学者によって批判されてきた。主な批判は3つある。

(1)「国際貿易と賃金格差のパズル」

 1つ目の批判は、「国際貿易と賃金格差のパズル(謎)」に依拠している。国際貿易と賃金格差に関するデータには、標準的な国際貿易モデルでは説明できない「パズル」が存在するからである。

 例えば米国とメキシコの貿易で考えよう。標準的な国際貿易モデルであるヘクシャー=オリーン・モデルに基づけば、理論上、貿易を自由化した後は、熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金は、(先進国である)熟練労働者が豊富な米国では上昇し、(途上国である)非熟練労働豊富なメキシコでは低下すると予測される。つまり、米国では貿易量と相対賃金に正の相関が、メキシコでは負の相関が予測される。

 ところが現実には、図1及び図2が示すように、1980年代後半から90年代前半の米国とメキシコ両国で、貿易量と相対賃金に正の相関が見られた。つまり、米国だけでなくメキシコでも、熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金が上昇したのだ。これが「国際貿易と賃金格差のパズル」だ。

図1

図2

 なお、途上国内でも賃金格差が拡大するという現象は80年代から90年代のメキシコに限られた現象ではない。1978年の、米ジョンズホプキンス大学のクルーガー教授による、1972年までをカバーした途上国10カ国の研究でも既にこの現象は発見されていた。

 もっと最近では、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のバーマン教授らの1998年の研究や 、米エール大学のゴールドバーグ教授らの2007年の研究も、途上国における賃金格差拡大の証拠を示した。このように、途上国内の賃金格差が縮小するはずであるという「ヘクシャー=オリーン・モデル」の予測と合致しない研究結果が多く報告されているのである。

(2)「価格と賃金のパズル」

 2つ目の批判は、標準的な国際貿易モデルでは説明できないもう1つのパズルである、「価格と賃金のパズル」に基づく。先に紹介した標準的なヘクシャー=オリーン・モデルでは、熟練労働集約的な財の非熟練労働集約的な財に対する相対価格と、熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金は、同方向に動くことが予測される。

 モデルでは、熟練労働者が豊富な米国における熟練労働者の相対賃金の上昇が、コンピュータのような熟練労働集約的な財の相対価格の上昇によって引き起こされる、と説明されるからである。賃金の上昇には財の価格の上昇が必要であるというわけだ。ところがデータが示す事実は、80年代の米国では、熟練労働者の相対賃金が上昇したにもかかわらず、熟練労働集約的な財の相対価格は上昇しなかったのだ。

 米ハーバード大学のローレンス教授と米ダートマス大学のスローター教授は93年の研究で、80年代において、財の価格が賃金に対して影響を及ぼした様子をほとんど発見できなかったと報告した。彼らの測定では、熟練労働者・非熟練労働者の間の賃金格差は、1979年から89年の間に10パーセント拡大していた。

 ここで、先に説明したヘクシャー=オリーン・モデルを思い出してほしい。このモデル通りであるならば、この熟練労働の非熟練労働に対する相対賃金の上昇は、熟練労働集約的な財の非熟練労働集約的な財に対する相対価格の上昇を伴ったはずである。

 そこで、彼らは、National Bureau of Economic Research (NBER、全米経済研究所)やBureau of Labor Statistics(BLS)にあるデータで調べたが、コンピュータのような熟練労働集約的な製品に対する、アパレル製品のような非熟練労働集約的な製品の相対価格が上昇するという証拠は、少なくとも79年から89年の間では発見できなかった。彼らが調べたのは、各産業の熟練・非熟練労働の雇用比率の値を横軸に、各産業の輸出価格のパーセント変化の値を縦軸にしたグラフである。彼らは輸入価格に関しても同様の分析をした。

熟練労働を要する産業は相対価格がむしろ低下

 しかし、輸出価格と輸入価格のどちらの価格変化も、熟練労働集約的な産業の国際価格が非熟練労働集約的な産業のそれよりも上昇したことを示唆しなかったのである。それどころか、熟練労働集約的な財の非熟練労働集約的な財に対する相対価格は、むしろ低下したのである。

 このように標準的な国際貿易モデルの予測とは異なり、熟練労働集約的な財の相対国際価格が低下したことをもとにして彼らは、80年代の米国の相対賃金に対する国際貿易の影響は、それほど大きくなかった、と自信を持って結論を下した。

 ただここで注意すべきなのは、国際貿易が米国の賃金格差の拡大にそれほど影響を与えなかったとする彼らの結論に対して、反対を唱える経済学者がいることだ。ローレンス教授とスローター教授は米国の「技術変化」を外生的に取り扱っている(=国際貿易によって変化しない)が、その前提は、国際貿易が賃金格差に対して持ち得る影響の一部を見えなくしている可能性がある。

 つまり、米国の技術変化の一部は、生産のグローバリゼーション(非熟練集約的な部門が米国からメキシコのような低賃金途上国に移り、熟練集約的な部門の大部分が米国に残る)によって引き起こされており、技術変化を外生的に取り扱うことはできないというわけだ。この種の技術変化によって、米国の非熟練労働に対する相対需要と相対賃金が低下している可能性もある。

(3)貿易量の小ささ

 3つ目の批判は、貿易量に基づく。先の図2をもう一度見ていただきたい。米国・メキシコ間の貿易が米国のGDP(国内総生産)に占めるシェアは、驚くほど小さい。このような貿易が所得にそれほどの大きな影響力を持つはずがないというのだ。

 読者も良くご存じの、2008年のノーベル経済学賞受賞者である米プリンストン大学のクルーグマン教授は95年の論文で、米国の貿易量が小さいことが、国際貿易によって賃金の変化を説明できる可能性を低いものにしていることを簡単な数値例で議論した。そこで彼は、世界貿易に関する計算可能なモデルを発展させて、通称「中進国」と呼ばれる新興工業経済地域(newly industrializing economies, or NIEs)における輸出の成長が、OECD(経済協力開発機構)諸国の労働市場にどれほどの影響力を持つのかを分析した。

 クルーグマン教授のモデルは、2国(OECD諸国全体とNIEs全体)、2財(熟練集約的な財1と非熟練集約的な財2)、そして2生産要素(熟練労働と非熟練労働)から成り、市場は競争的であると仮定する。 彼は、過去の実証研究の結果に基づいた数値をモデルのパラメータの値に設定し、賃金格差のどれほどの変化が、観察されるNIEsの国際貿易と両立可能であるのか、という問いを投げかけた。

 彼が示したのは、熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金を貿易前のレベルから3パーセント上昇させるだけで、OECD諸国の生産量の2.2パーセントに相当するNIEsの輸出量(OECD諸国の支出に占めるNIEs製造業品の実際のシェアよりも大)を達成可能である、というものであった。

 この数値例は、この賃金上昇が、熟練労働集約的な財の非熟練労働集約的な財に対する相対価格のたった1パーセントの上昇を伴うのみであったことも示した。よってクルーグマン教授は、この数値例の下で、NIEsの貿易規模に伴う相対価格の変化は「測定誤差の範囲にほかならない」と結論付けた。言い換えれば、「相対価格の変化は国際貿易以外の諸要素を反映しているはずだ」ということになる。

クルーグマン教授も前言撤回!

 なお、ここで2点注意しておきたい。第1に、筆者は2011年の自著で、クルーグマン教授同様に単純なモデルを用いて国際貿易と賃金格差を分析したが、私の単純モデルは、たとえ小さい量の国際貿易でも賃金格差の拡大に重要な影響を与え得ることを、米国とメキシコの2国の数値例で示していた。

 確かに国際貿易は米国GDPにおいては小さな量ではあるが、メキシコGDPの観点からは決して小さくないことに注意すべきである。米国・メキシコ間の貿易は、米国GDP比で1994年は1.4パーセント、2000年は2.5パーセントであったのに対し、メキシコGDP比では1994年は23.9パーセント、2000年は42.6パーセントであった。

 第2に、何とクルーグマン教授自身が2008年の論文で、「国際貿易の賃金格差への影響が微々たるものと想定することはもはや安全ではない」と警告したのである。彼は、1995年の論文発表時と比べて、米国による貧困国との貿易が劇的に増加してきたことや生産拠点のフラグメンテーション(細分化)が進んできたことを理由に挙げている。

経済学者の「常識」:技術変化が主要因である!

 上で紹介した3つの批判が主な理由で、国際貿易が賃金格差拡大の主要因であると考える世間の「常識」は、経済学の世界では「非常識」とされてきた。一方、経済学者の世界で「常識」とされてきた説明は、技術変化、特に「スキル偏向型技術変化」(skill-biased technological change)に基づいたものだ。スキル偏向型技術変化とは、スキルの高い熟練労働者に対する需要を増やすような技術変化を指す。

 スキル偏向型技術変化には様々な形があり得るが、スウェーデン・ストックホルム大学のクルーセル教授らは2000年の研究において、特にハイテクコンピュータなどの資本財と熟練労働者の間の補完性(capital-skill complementarity)に着目し、賃金格差の拡大を、技術変化に基づいて説明した。

 彼らは、1963〜92年の米国の時系列データを用いて、資本設備と熟練労働者の間の代替の弾力性と、資本設備と非熟練労働者の間の弾力性を推定した。代替の弾力性とは、要素1の要素2に対する相対価格が上昇したら、要素1の要素2に対する相対需要がどれほど変化するのかを測るもので、弾力性の値が大きいほど両要素はより代替的であるといい、逆に値が小さいほどより補完的であるという。

非熟練労働者の競争相手は資本財と熟練労働者?

 その結果クルーセル教授らは、資本設備と熟練労働者の間の代替の弾力性が、資本設備と非熟練労働者の間のそれよりも小さい、つまり、資本財は非熟練労働者よりも熟練労働者により補完的であるという結果を得、資本財とスキルの補完性(capital-skill complementarity)が成立しているとした。彼らの推定の下では、観察された生産要素の変化で、この期間の賃金格差の変化の大部分を説明できるというのだ。

 つまり彼らは、1980年代におけるハイテクコンピュータなど資本設備の価格の大きな低下は、資本設備と補完的な熟練労働者に対する需要を増加させ、代替的な非熟練労働者に対する需要を減少させた、と結論付けたのだ。

 この技術変化に基づいた説明は、米国とメキシコの両国で見られたハイテク設備価格の低下と賃金格差の拡大と整合的である。よって、米国の非熟練労働者が直面する最も重要な競争は、ハイテク設備や米国の熟練労働者との競争であって、外国の労働者との競争ではないことが示唆されるのである。多くの経済学者の間では、こうした技術変化に基づいた説明が「常識」となっている。

 以上のように技術変化に基づいた説明は、多くの経済学者に支持されてきたのであるが、もちろんいくつかの批判もあった。例えば、英オックスフォード大学のウッド名誉教授は1994年の研究において、スキル偏向型の技術変化は、賃金格差の拡大に関する潜在的な説明にはならないと却下した。80年代において、労働生産性と全要素生産性のどちらの成長も鈍っていたことが理由だ。

 全要素生産性とは、生産の増加のうち、資本や労働といった生産要素の増加では説明できない(技術変化などによる増加の)部分を計測したもので、TFPと呼ばれる。ウッド名誉教授はさらに、先進国における賃金格差の拡大パターンは、技術変化による説明にとって不利であるとも主張した。

 なぜなら、賃金格差の拡大パターンと技術進歩との間にはクロスカントリー(cross-country)な関係が見られなかった――つまり、賃金格差が拡大したすべての先進諸国で技術進歩が見られたわけではなかったからだ。

「賃金格差拡大の源泉は国際貿易」のロジックとは

 これまで見て来た通り、多くの経済学者は、先に紹介した3つの批判(国際貿易と賃金格差のパズル、価格と賃金のパズル、貿易量の小ささ)を主な理由に、「国際貿易が賃金格差拡大の主要因である」という考え方には同意せず、技術変化が主要因であるという考え方を「常識」として受け入れてきた。それでは、世間と経済学者は、常識を共有できない運命にあるのだろうか?

 答えは否である。実は、技術変化ではなく国際貿易が重要な要因だと主張する経済学者もいる。ここでは、世間の「常識」をサポートする経済学者の議論として、米カリフォルニア大学デービス校のフィーンストラ教授と米カリフォルニア大学サンディエゴ校のハンソン教授による1996年の研究を紹介する。

 両教授は、直接投資とアウトソーシングに基づき、先に紹介した3つの批判を弱めることが可能な、国際貿易と賃金格差に対する1つの理論的説明を与えた。さらにその理論をデータで実証テストすることで、国際貿易が賃金格差拡大の重要な要因であると主張した。

 まず、彼らの理論的説明を紹介する。直接投資が先進国から途上国への生産活動のシフトを引き起こすので、先進国は非熟練労働集約的な財を途上国へとアウトソーシングすることになる。こうした先進国が途上国へとアウトソーシングする財は、途上国の基準では逆に、これまで生産されていたどの財よりも熟練労働集約的であるとする。

 その結果、先進国・途上国の両国で生産における平均熟練集約度は上昇することになるので、両国で熟練労働者への需要が高まることになる。よって、先進国から途上国への直接投資は、先進国の途上国へのアウトソーシングを招き、先進国・途上国の双方で熟練労働者の非熟練労働者に対する相対賃金の上昇を引き起こすことになる。

 このように、彼らは標準的なヘクシャー=オリーン・モデルでは説明できなかった国際貿易と賃金格差のパズルに対する1つの理論的解決を与えたのだ。

 さらに彼らのモデルでは、先進国における相対賃金の上昇は国内生産物の輸入財に対する相対価格の上昇を伴っていたが、1980年代の米国において国内価格が輸入価格以上に実際に上昇したことを確認した。相対賃金と相対価格の動きが理論とデータで合致している点で、彼らはもう1つのパズルである価格と賃金のパズルに対しても、1つの理論的解決を与えたのだ。

アウトソーシングが賃金格差に影響

 次に、彼らの実証テストを紹介する。彼らは、実証テストで、途上国への直接投資によって引き起こされたアウトソーシングが、米国の熟練労働に対する需要増加を引き起こした要因なのかどうかを問うた。

 この問いに答えるため、彼らは、450の米国産業(4-digit SIC分類)のパネルデータを用いて、総賃金に占める熟練労働者のシェアを被説明変数、輸入シェアの変化を含む産業の諸変数を説明変数とした回帰分析をした。その結果、1979年から85年の間において、米国製造業において、熟練労働に対する需要が増加する要因の15から33パーセントは、「輸入シェアの増加」で説明できると発見した。よって、国際貿易、特にアウトソーシングは、賃金格差に重要な影響力を持つというわけである。これは、GDPに占めるシェアの小さい国際貿易が賃金格差に影響力を持つはずがないといった批判を弱めることになる。

変わりつつある経済学者の「常識」

 本コラムでは、まず、国際貿易が賃金格差拡大の主要因であると考える世間の「常識」に対する経済学者側の批判を解説した。さらに、技術変化が賃金格差の主要因であると考えている経済学者の「常識」を紹介した。そして最後に、世間の「常識」をサポートする経済学者の議論も紹介した。

 最後に触れておきたいのは、最近、国際貿易が賃金格差拡大に重要な影響力をもつことを示す研究も増えてきている点だ。技術変化のもたらす影響に比べれば小さいものの、国際貿易の賃金格差拡大に対する影響は、これまで思われてきたよりも重要であると考えるのが経済学者の新しい「常識」になってきていると言った方が良いかもしれない。その意味で、世間の「常識」が経済学者の「非常識」、とはもはや言えなくなってきたのかもしれない。

(注)
本コラムは、経済学の専門家向けに書かれた拙著『国際貿易と賃金格差』(三菱経済研究所、2011)及びサーベイ論文“A Survey of Trade and Wage Inequality: Anomalies, Resolutions and New Trends,” Journal of Economic Surveys, 2014, 28(1), pp. 169-193の一部をもとに、一般読者向けに書かれたものである。
図1では、非生産労働者(non-production workers)と生産労働者(production workers)をそれぞれ熟練労働者と非熟練労働者と定義している。同様の定義は、例えば、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のバーマン教授らによる米国に関する1994年の研究や米マカレスター大学のロバートソン教授によるメキシコに関する2004年の研究でも用いられている。米国の相対賃金はAnnual Survey of Manufactures(ASM)のデータに基づいて、メキシコの相対賃金はMexican Monthly Industrial Survey(Encuesta Industrial Mensual, or EIM)のデータに基づいて計算している。図2では、米国・メキシコ間の貿易量を、米国のメキシコへの輸出とメキシコからの輸入の和で定義している。貿易とGDPのデータは、International Trade AdministrationとBureau of Economic Analysis(BEA)のデータを用いている。
参考文献
●Berman, Eli; Bound, John and Zvi Griliches. “Changes in the Demand for Skilled Labor within U.S. Manufacturing: Evidence from the Annual Survey of Manufactures.” Quarterly Journal of Economics, 1994, 109(2), pp. 367-397.
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●Feenstra, Robert C. and Gordon H. Hanson. “Foreign Investment, Outsourcing and Relative Wages,” in Robert C. Feenstra, Gene M. Grossman and Douglas A. Irwin, eds., The Political Economy of Trade Policy: Papers in Honor of Jagdish Bhagwati. Cambridge, MA: MIT Press, 1996, pp. 89-127.
●Goldberg, Pinelopi K. and Nina Pavcnik. “Distributional Effects of Globalization in Developing Countries.” Journal of Economic Literature, 2007, 45(1), pp. 39-82.
●Krueger, Anne O. Liberalization Attempts and Consequences. Cambridge, MA: Ballinger, 1978.
●Krugman, Paul R. “Growing World Trade: Causes and Consequences.” Brookings Papers on Economic Activity, 1995, (1), pp. 327-377.
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●Kurokawa, Yoshinori. “Variety-Skill Complementarity: A Simple Resolution of the Trade-Wage Inequality Anomaly.” Economic Theory, 2011, 46(2), pp. 297-325.
●Lawrence, Robert Z. and Matthew J. Slaughter. “International Trade and American Wages in the 1980s: Giant Sucking Sound or Small Hiccup?” Brookings Papers on Economic Activity: Microeconomics, 1993, (2), pp. 161-226.
●Robertson, Raymond. “Relative Prices and Wage Inequality: Evidence from Mexico.” Journal of International Economics, 2004, 64(2), pp. 387-409.
●Wood, Adrian. North-South Trade, Employment, and Inequality: Changing Fortunes in a Skill-Driven World. Oxford: Clarendon Press, 1994.


このコラムについて
「気鋭の論点」

経済学の最新知識を分かりやすく解説するコラムです。執筆者は、研究の一線で活躍する気鋭の若手経済学者たち。それぞれのテーマの中には一見難しい理論に見えるものもありますが、私たちの仕事や暮らしを考える上で役立つ身近なテーマもたくさんあります。意外なところに経済学が生かされていることも分かるはずです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20141020/272798/?ST=print


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