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http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0DT02D20140513
2014年 05月 13日 11:57 JST
上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 13日] - ドル円相場はこのところ方向感が出にくくなっている。日本の貿易赤字が長期化していることや、日銀の金融引き締めがまったく見えてこないことを考慮すれば、円高方向に大きく動く余地は乏しいだろう。したがって、現在は基本的には「円安第3波」のきっかけ待ちの時間帯だということになる。
振り返れば、野田佳彦首相(当時)による2012年11月14日の衆院解散表明が起爆剤になって始まった「アベノミクス」が大きなテーマとなっている今回の局面で、ドル円は「ストップ・アンド・ゴー」的な、つまり「一方向に走ってから、しばらく立ち止まる、ないしは後ずさりする」パターンの動きを繰り返してきた。
12年11月14日時点で80円前後だったドル円は、日銀による「量的・質的金融緩和」導入(13年4月4日)などを材料にしながら、円安ドル高の方向に走った。13年5月22日に103.74円をつけるところまでの動きが「円安第1波」である。
だが、翌5月23日に日本の10年物国債利回りが1%ちょうどまで急上昇したことをきっかけに、海外ファンドがそれまで積み上げてきたポジションを解消する日本株売り・円買いの動きを強めたため、6月13日に一時93.75円をつけるところまでドルは大幅に反落。その後11月中旬までの長期間、ドル円は98円を中心とするボックス圏での推移になった。
「円安第2波」が到来したのは13年11月下旬である。早ければ年明け早々にも日銀が追加緩和に動くのではないかと勝手に期待した海外投資家が、日本株買いと円売りのペアトレードを再び活発に行ったことが、おそらく主因だ。大納会にかけて日経平均株価が9営業日続伸するなど高値を模索する中、ドル円は今年1月2日の海外市場で105.45円をつけた。
しかし、ドルの上昇はそこまで。成長戦略への失望感や早期追加緩和観測の後退などから、「アベノミクス」期待が海外投資家の間で減退したためである。円売りドル買いを積極的に進める手がかりが失われる中、今度は102円台を中心とするボックス圏が形成されている。
<「円安第3波」の原動力は米金利上昇>
近年のマーケット全体の動きをグローバルに俯瞰すると、07年の米住宅バブル崩壊から欧州債務危機に至るまでの「リスクオフ」局面は12年秋までに終わり、現在は「リスクオン」局面が継続中だと判断される。「リスクオフ」局面で逃避的に買い進まれた円には、売り戻される余地がまだある。したがって、ドル円は向こう1―2年内に110円前後まで円安方向に動くだろうと、筆者は引き続き予想している。
しかし、「アベノミクス」関連の動きから円売りを一段と進める手がかりは、現在見出しにくくなっている。黒田東彦日銀総裁は「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を公表した後の4月30日の記者会見で、「物価安定の目標」2%の達成にあらためて自信を示した。公的年金運用における株式比率の引き上げや、法人税の実効税率引き下げは、市場が長く材料にしてきたことから、やや新味がなくなりつつある。
そうした中で考えられる1つのシナリオが、日米金利差の拡大とそれに伴うマネーの流れが原動力になった「円安第3波」の到来である。
すでに低水準にある日本の長期金利が、ここから一段と低下するとは考え難い。日本の10年物国債利回りについては、「量的・質的金融緩和」導入の前日である13年4月3日の水準(0.55%)が心理的に非常に大きな節目であり、仮にこの水準を下回るような金利低下が起こっても長続きしないだろう。
したがって、重要な着眼点となるのは、米国の長期金利が一段と上昇するかどうかである。具体的には、1月2日に一時3.05%まで上昇したものの、2%台後半のレンジにその後逆戻りしている米10年物国債が、3%台前半へと利回り水準をいつ切り上げるかだ。
<米金利上昇シナリオを阻む「障害物」>
ところが、この米長期金利の一段の上昇というシナリオには、「障害物」がいくつかある。ウクライナ情勢に代表される地政学リスクなどもあるが、筆者の見るところ、特に重要なのは、1)利上げをけっして急ごうとしないイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の政策運営姿勢と、2)その基盤を形成している米国の物価状況の落ち着きである。
4月29―30日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、4度目の量的緩和(QE)縮小を決定するとともに、3月のFOMCで質的な内容に書き換えられた「フォワードガイダンス」(超低金利政策の「時間軸」)を維持した。その内容のうち最も重要な部分は、「特にインフレ率の見通しが2%というFOMCの長期目標を下回り続け、長期的なインフレ期待が十分抑制された状態にとどまる場合において、資産買い入れプログラム終了後もかなりの期間(for a considerable time)、現在のフェデラルファンド(FF)レートの誘導レンジを維持することが適切になる可能性が高い」という箇所である。
リスク管理の発想からすれば、利上げ開始が早すぎて景気が腰折れして失敗する(「量的緩和第4弾=QE4」に追い込まれる)よりも、利上げ開始が遅すぎて失敗する(インフレ率が加速して2%の目標値を超えるか、何らかのバブルが発生する)ことの方が、FRBとしては「後始末」を行いやすい。これが、イエレンFRB議長をはじめとするFOMC内の主流派が内心おそらく考えていることだろう。利上げ路線への転換とその継続は、イエレン議長にとって失敗が許されない「大仕事」であり、拙速な動きは事実上タブーである。
米国の利上げ開始は最速のケースでも15年末だろうという予想を、筆者は維持している。16年にずれ込む可能性も少なからずあるだろう。金融政策変更が実体経済に及ぼす影響を見極めるために必要とされるラグ(時間差)を考えた場合、資産買い入れが14年の年末近くに終了した後、利上げまで少なくとも1年程度のインターバルを置くことは自然である。
そこで大きなカギを握るのが、米国の物価動向だ。上記の「フォワードガイダンス」などを用いながら、FRBが利上げの開始を後ずれさせ、そして追加利上げのペースを遅らせる前提条件は、インフレ状況の低位安定である。これまでのところ、米国のインフレ率が加速する兆しはうかがわれない。
米国の3月のコア個人消費支出(PCE)デフレーターは前年同月比プラス1.2%で、3月の消費者物価指数(CPI)コアは同プラス1.7%。いずれもインフレ目標である2%を下回っている。サービスの価格動向に大きく影響する賃金関連の動向を見ると、1―3月期の雇用コスト指数は前年同期比プラス1.8%、4月の雇用統計で時間当たり賃金は前年同月比プラス1.9%、1―3月期の労働生産性速報値で単位当たり労働コストは前年同期比プラス0.9%である。
このように考えると、ドル円相場のボックス圏推移は、どうやらまだしばらく続きそうだ。米長期金利の一段の上昇と「円安第3波」の到来は、米国の景気・物価指標がもう少し強い動きを示し始めるまで、おそらく7月以降にずれ込むのではないか。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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