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中国と韓国が北朝鮮を崩壊させる戦略に転換〜石油の供給を停止
中国は、韓国による統一と米軍撤退を意図
重村 智計 2014年6月30日 日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140629/267727/?rt=nocnt
日本と北朝鮮は明日、7月1日、外務省局長級の協議を北京で行う。同月3〜4日には、中国と韓国がソウルで首脳会談を開く。これらはいずれも、中朝関係が最悪の状態にあることを示すものだ。
中国の習近平国家主席は、金正恩第1書記とはまだ一度も会談しないのに、朴槿恵大統領とは頻繁に会っている。これはあからさまな、北朝鮮崩壊戦略と言える。追いつめられた北朝鮮は、日朝関係改善に転じた。1日の日朝交渉は、中韓首脳会談へのあてつけとして、その直前に北京で行うものだ。「中国がだめでも、日本がある」と、中国にみせつける。金第1書記は、中国に捨てられたために、拉致問題を解決する覚悟を決めた。
習国家主席は張成沢粛正を知らなかった
中国が北朝鮮を見捨てると決めるに至った発端は、米国のジョー・バイデン副大統領の訪中だった。昨年12月4日、北京の人民大会堂で中国の習国家主席と、バイデン米副大統領が会談した。会談の詳細な内容は明らかにされていないが、中国の当局者によると同副大統領は北朝鮮の核問題に触れた。
「北朝鮮崩壊後の処理を、米中で話し合いたい。核問題を解決するために、北朝鮮への原油供給をやめてほしい」
米政府は、北朝鮮のナンバー2だった張成沢(チャン・ソンテク)・国防委員会副委員長が粛正されたことを知り、北朝鮮崩壊は遠くないと判断した。バイデン副大統領は、この情報と判断を元に崩壊後の北朝鮮処理に言及したのだった。
ところが、習国家主席には張成沢粛正の情報が届いていなかった。会談後に、その事実を知らされた習国家主席は、外交当局に対して激怒したという。
バイデン副大統領は習国家主席に対して、「核開発を放棄して生き残るか、あるいは核開発を続けて崩壊するか」の選択を北朝鮮に迫るべきだ、と主張した。このために、原油の供給を中止するよう求めた。
中国が石油の供給を止めた
今年1月から、中国から北朝鮮への原油供給が中断している。この事態は6月も、なお継続している。石油がなければ、北朝鮮は崩壊する(参考記事「北朝鮮軍が砲撃に踏み切った真の理由は石油の払底」)。
中国が、原油供給を止めると北朝鮮は崩壊する、というのが多くの専門家の判断だ。北朝鮮の金正恩体制は、軍と秘密警察が支えている。石油がなければ、軍は維持できない。北朝鮮は石油を全面的に中国に依存している。
北朝鮮軍の石油使用量は、アジア各国の軍隊の中で最少だ。年間の使用量は、最大でもわずか40万トン程度。日本の自衛隊の石油消費――年間150万トン――と比較して余りにも少ない。
当面は、備蓄を食いつぶすにしても、2年が限界だ。この危機を打開するには、日本から援助と資金を獲得するしか術がない。こうして、今年1月末に日朝の秘密接触が始まった。北朝鮮が、日本から経済協力や支援を得るには、拉致問題を解決する必要がある。北朝鮮の指導者は、「拉致被害者の帰国」を決断した。ただ、その規模が問題だ。
「統一問題は韓国とだけ話し合う」
北朝鮮の中枢から、「金正恩第1書記が、拉致被害者を帰す方針を決めた」との情報が聞こえてくる。日本の外交当局者も、この情報を入手した。これは、北朝鮮の情報工作の一環ではあろうが、国際政治は拉致被害者の帰国が実現する方向に向かっている。
朝鮮半島を研究する専門家は、「中国は北朝鮮を決して見捨てない」と、説明してきた。また軍事問題の専門家も「北朝鮮は、中国にとって安全保障上の緩衝地帯だから、崩壊させない」と、説明している。ところが、中国は「北朝鮮が崩壊してもかまわない」との外交戦略に、方針を変えた。
この戦略変更は、少数の軍事専門家の間では昨年春頃から指摘されていた。北朝鮮の崔龍海(チェ・リョンヘ)人民軍総政治局長が、2013年5月に中国を訪問し、軍服姿で要人と会談した。金第1書記の親書を、習国家主席に手渡したいと申し入れると、軍服姿なら会えないと断られた。彼は、平壌から軍服しか持ってこなかった。駐中国北朝鮮大使の服を借り会見したが、習主席は最後まで冷たい態度だった。
中国は、張成沢・国防委員会副委員長の訪中を要請していたので、崔龍海氏が来たのは不満だったという。これで、習主席の金第1書記「嫌い」は、決定的になった。北朝鮮側も、激怒した。
翌月の2013年6月に、韓国の朴槿恵大統領が訪中した。習国家主席は、中国語のできる朴大統領に好意を抱いた。2人だけの首脳会談で、習主席は「統一問題については、韓国とだけ話し合う」と述べ、朴大統領を喜ばせた。
統一韓国がなれば在韓米軍は撤退
南北統一を阻む最大の懸案は、在韓米軍の問題である。中国は、在韓米軍の撤退を求めている。朴大統領は、北朝鮮の脅威がなくなれば、在韓米軍が駐留する理由はなくなると説明。南北統一後に米軍は朝鮮半島から撤退するとの見通しを述べた。習国家主席は朴大統領に、統一韓国に関して、米国と在韓米軍撤退問題を協議するとの考えも明らかにしたという。
習近平国家主席の一連の言動は、中国が北朝鮮崩壊を視野に入れている事実を、物語る。それを裏付けるように、中国の主要銀行は昨年から北朝鮮へのドル送金を中止した。これは、アメリカの強い要請を受け入れたためであった。
北朝鮮は、中国に石油とドルを止められた。中国の対北政策のこの変化は、北朝鮮の「死」につながる。このため、北朝鮮は日本との関係改善に乗り出さざるを得なくなったのである。
金正恩は横田さんの孫娘を専用機で運んだ
北朝鮮は中国に捨てられ、日本に急接近した。日本は、崩壊の危機に直面している北朝鮮の「弱み」を、十分に理解しておくべきだ。日本に譲歩するしか、生き残る術はない。
日朝交渉再開を申し入れたのは、北朝鮮の秘密警察である国家安全保衛部(国家保衛部)の副部長であった。国家保衛部は、2002の日朝首脳会談を実現させた権力機関である。
12年前に、日本との秘密交渉に当たった柳京副部長(後に処刑)の部下が、日本の外務省に連絡してきた。この副部長の身元と、金正恩第1書記が直接指示したことを確認したうえで、日本は交渉再開を受け入れた。
日本政府は、金正恩第1書記の誠意の確認を求めた。金第1書記は、まず横田さんご夫妻と孫娘をモンゴルのウランバートルで面会させることに応じた。そのうえ、孫娘のモンゴル行きに、自身の専用機を提供した。孫娘一家は、金正恩専用機でウランバートルに飛び、日本はこれで誠意を確認した。北朝鮮にとって、日本との国交正常化はこれほどに重要で、国家の運命がかかっているのだ。
ポイントは国防委員会
北朝鮮で拉致問題への権限を持つのは、国防委員会である。国家保衛部は、国防委員会の傘下にある。日朝交渉では、国家保衛部の担当者が、名前と肩書きを外交官に変えて参加している。国家保衛部の職員は、決して本名と所属を明らかにできない。国防委員会の担当者は、近くのホテルや大使館で待機し、指示を出している。再調査の調査委員会に国防委員会に所属する人物の名前があれば、信用していいだろう。
北朝鮮の外務省は、日本の外務省とは違い、交渉の権限をまったく与えられていない。上部機関に言われた通りに発言しているだけで、交渉の席上での裁量権はない。北朝鮮の「日朝正常化交渉担当大使」には、何の権限もない。拉致被害者の安否を確認するため北朝鮮が設置する特別調査委員会に国防委員会に所属する者の名前がなければ、意味がない。
金第1書記は、日朝交渉を再開するにあたり、日朝国交正常化にこぎつけ日本から資金を獲得するには、拉致問題の解決が必要なことを理解した。拉致解決の方針を既に下したという。その見返りは、小泉政権が既に約束した、国交正常化と1兆円を超える経済協力資金である。
とりあえずの「手付金」が、コメ支援と日本人遺骨収集の経費だ。北朝鮮は、まず小泉政権が約束しながら提供しなかった12万5000トンのコメを、人道支援として実行するように迫るだろう。また、1945年前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨収集には、数十億円以上の費用と遺骨1体当たり100万円以上の資金が出る、と皮算用している。
北朝鮮は、日本から獲得できるものを一つひとつ確認しつつ、拉致調査の結果を小出しにする可能性が高い。これが北朝鮮のやり方だ。
問題は、日本政府が把握していない拉致被害者全員の名前が、明らかにされるかどうかだ。日本政府が認定している拉致被害者の名前だけでは日本の国民は納得しないだろう。
したがって交渉には、時間がかかる。北朝鮮側は「問題は、一度で解決したい」と述べているという。これは、言葉のとおり受け取れば、拉致被害者全員の調査結果を出すからそれで終わりにしてほしい、責任とか保障とか言わないでほしいとの意向に聞こえる。だから、日本政府は「北朝鮮が把握している拉致被害者全員を出せば、1回で解決できる」と、金第1書記を説得すべきだ。現在の北朝鮮で、拉致問題の解決を決断できるのは彼しかいない。
重村 智計(しげむら・としみつ)
早稲田大学大学院国際コミュニケーション研究科・教授
1969年早稲田大学法学部卒業。1976年に韓国高麗大学大学院研究生。1986年スタンフォードプロフェッショナルジャーナリズムプログラム修了。シェル石油勤務を経て、1971年毎日新聞社に入社。1979年〜1985年、毎日新聞社ソウル特派員。89年〜94年ワシントン特派員。毎日新聞論説委員をへて、2004年9月より現職。
主な著書に『北朝鮮はなぜ潰れないのか』 (2007年・ベスト新書)、『朝鮮半島「核」の外交−北朝鮮の戦術と経済力』(2006年・講談社新書)、『外交敗北−日朝首脳会談の真実』(2006年・講談社)など。
- 今年1月以降も丹東−新義州パイプラインで送られ続けている中国から北朝鮮への石油 あっしら 2014/7/01 03:40:18
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