04. 2013年9月30日 10:09:37
: niiL5nr8dQ
イランの核開発の時計 針をリセットできるのは対話だけ 2013年09月30日(Mon) Financial Times (2013年9月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)「イスラエルは核兵器を保有していると認めるべき」、イラン大統領 イランのロウハニ大統領(左)は国連総会で友好的な外交キャンペーン展開した〔AFPBB News〕 先の国連総会での珍しい興奮の後には、腹立たしいほどの不確実性が残った。イランのハサン・ロウハニ大統領による米国への提案は、世界の世論を再形成する方法を見事に披露した。 ロウハニ大統領の巧みな外交は、イラン政府と西側諸国の苦々しい関係に重大な変化が訪れる前兆となるかもしれない。その一方で、大統領の心地よい言葉は、敵国に武装を解かせるためのフェイントである可能性もある。 これに対して取るべき対応は、関与し、試すことだ。米国、イラン両国の大統領が握手しなかったのは残念だが、バラク・オバマ大統領が示した反応――現実主義の抑えが利いた熱意――は適切だった。 オバマ大統領は国選総会で、自身の1期目のアジアへのピボット(旋回)は、2期目に入り中東への再ピボットに転じたと言っているようだった。中東地域で燃えさかるいくつもの火の手を考えると、選択肢はあまりなかった。 オバマ大統領が、イランとの関係のリセットを、アラブ・イスラエル紛争の終結を目指す最新の努力と結び付けたのは、正しい対応だった。粘り強いジョン・ケリー米国務長官が主導する和平構想をホワイトハウスがどの程度支持しているのかという疑念があったが、今やそれが払拭された。 中東和平と核開発問題は切り離せない 中東に平和と安定をもたらす魔法のカギは存在しないものの、近年の歴史の教訓があるとすれば、それは大きな課題を切り離すことはできないということだ。 国家間の紛争は大抵、地図上の線を巡って起きる。この見かけ上の単純さは、誤解を招くことがある。イスラエルとパレスチナの2国家共存案の国境線は、1993年のオスロ合意以降ずっと明白だった。だが、イスラエルを地図に合意させることができず、イスラエルの安全に対する保証についてアラブ諸国を合意させることもできなかった。 ケリー長官が突破口を開くチャンスは恐らくわずかだが、中東地域にとっては、長官が努力していることが重要な意味を持つ。 イランの核開発プログラムは、また別の課題をもたらす。根本まで突き詰めると、イラン政府と西側の交渉は、時計の針の位置に関する論争に要約できる。形式的な詳細を除けば、ウラン濃縮と核拡散防止条約(NPT)の正確な条項を巡る論争は、遠心分離機と同じくらい核開発の意図に関する議論でもある。 米国は、リスクを取る用意ができていなければならない、さもなくば対立が生じ、イランが核兵器取得に向けた道のりをさらに進んでいくことになる。空爆は事態の進展を遅らせることはできるが、イランがそうと決めたら、同国が核爆弾を入手するのを止める確実な方法は存在しない。 こうした核拡散を防ぐ最大の望みは、イラン政府を説得し、拡散がイランの戦略的利益にかなわないことを納得させることにある。 西側諸国の政府が自問しているのは、民生用プログラムがイランが核兵器を生産するプラットフォームになる事態をいかに防ぐか、という疑問だ。これに対し、当の西側政府が分かっているが認めたがらない答えは、抑止と説得が失敗した場合にできることはあまりない、ということだ。だが、西側が交渉から引き出せるかもしれないのは、爆弾を製造する決断から実際に核兵器を取得するまでの間隔の延長だ。 肝心なのは、核兵器保有の決断から兵器取得までの間隔 このため時計の針が重要になってくるわけだ。核交渉を担当する米国のベテラン高官が言うように、原子力産業を抱える国はすべて、専門家が「ブレイクアウト能力」と呼ぶ核兵器製造能力を持つ。重要なのは核開発の意図であり、意図が不確かな時には、平和的な濃縮から弾頭とミサイルの製造までの時間的距離が重要になる。 イランの場合、米国とその同盟国は、この間隔を週単位、月単位ではなく、年単位で測りたいと思っている。間隔が短いほど、世界が対応する間もないうちにイランが核兵器を実験する可能性が高まる。一方、時間の尺度が長いほど、イスラエルか米国、あるいは両国が核施設を破壊するために先制攻撃を仕掛けるという脅しの信憑性が高まる。 イラン側はこれを理解している。ロウハニ大統領は友好的な外交キャンペーンを繰り広げながら、核交渉に関するイラン政府の立場を大きく変えなかった。大統領は軍事プログラムを追求する意図は否定したが、イランはNPTで認められている民生用原子力計画の権利を放棄しないと主張した。 信頼を醸成し、妥協の余地を生むという意味では、トーンの変化は重要だ。だが、実質的な譲歩が必要になる。 制裁は、イランが予想していた以上に同国に打撃を与え、実際、米国が望むべくもないほどの効果をもたらした。イラン政府の今の目標は、迅速な制裁緩和を確保する一方、核開発プログラムについては極力大きな自由を維持することだ。これは最低限の国際管理・監視の下でウラン濃縮を続けることを意味する。 米国が見る限り、イランの最高指導者であるアヤトラ・アリ・ハメネイ師はまだ核兵器を手に入れる決断を下していない。だが、過去に見られた国連軽視の証拠からは、時計の針を真夜中の1分前というギリギリのタイミングに設定しようとする野心がうかがえる。 米国と欧州諸国は、イランが民生用プログラムの一環としてウラン濃縮を継続することを受け入れている。イスラエル政府は反対しているが、イランが核問題の責任を負う大国6カ国と協議しているうちにイスラエルが空爆に踏み切ることは想像しにくい。 世界には新たな中東戦争にかかわる余裕はない 西側諸国は、濃縮ウランの量と質に対する厳しい制限(既存の在庫のイラン国外への移転を含む)と、イラン政府が軍事オプションを追求しようとした場合に世界に警報を出すリアルタイムの監視メカニズムを通じて、時計の針を戻したいと考えている。 論理的に考えれば、取引は可能なはずだ。苦々しい過去を別にすると、イランと西側は永遠に敵対しなければならないという地政学の鉄則は存在しない。数十年間にわたる不信感、互いが認識する戦略的利益の衝突、国内の政治的圧力は、成功を阻む大きな障害になる。だが、各国首脳はそろそろ、闇に包まれたこの地域のために新たな力学を思い描くべきだ。世界は本当に、新たな中東戦争にかかわる余裕はない。 By Philip Stephens
|