http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/609.html
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今回の日米首脳会談を評する投稿を二つほど行ったが、それでもなおここ数日、なぜ米国オバマ政権はあれほどまで露骨に安倍首相を冷遇したのかという問いが頭から離れない。
米国オバマ大統領はなぜあれほど安倍首相を冷遇したかという問いを考えるため、この投稿とは違う「安倍首相に一輪の花さえ持たせなかったオバマ政権の対日外交:あからさまな日本冷遇に潜む米国支配層の意図と目的」というタイトルを設定して文章を書き始めた。
なぜそこまで気になるかと言えば、米国オバマ政権があからさまと言えるほど安倍首相を冷遇したワケが、安倍首相の個人的資質に起因するものなのか、安倍首相の政策にまつわる問題なのか、日本という国そのものの位置づけが変わってしまったことにあるのか、はたまたそれらが混ざり合ったものなのかのいずれかで、日本が今後受ける影響が大きく異なると思ったからである。
私は世間からは反米主義者と認定されるような言動を行っていると自覚しているが、それは米国支配層が世界支配層の代行的立場にあるがゆえであり、USAという国家との関係を悪化させたいと思っているわけではない。
中国やロシアとは較べようもなく恐ろしい米国との関係は、できるだけ良好な状態を保ち、それを基礎に、自立した多面的外交を少しずつ推し進めていくべきだと考えている。
その過程で時として日米関係がぎくしゃくすることがあっても、日本の国益は米国と同じではないのだから、ある程度のことならやむを得ないと考えている。日本がなぜそのような対外政策を採るのかということについては、米国を含み、疑念を抱く国には意を尽くして説明すべきだと思っている。
■ オバマ政権の安倍首相に対する冷遇と日本の主要メディアの評価
日米首脳会談が終わると、国内主要メディアは、予想通り、鳩山元首相から始まる民主党3政権が「日米同盟」を壊したという前提で、安倍首相は、日米首脳会談を通じて「日米同盟」を強力に復活させたと評価した。
そして、そのような評価をもっともらしいものと思わせるため、日米首脳会談の映像は切り貼りされ(記者懇談のシーンでさえノーカットの映像を流さなかった)、親米派コメンテーターを繰り出して、日米首脳会談の成功を讃える報道に励んだ。
それでもさすがに、あまりにひどい扱いを無視できなかったのか、冷遇のワケを知っているゆえなのか、フジ産経グループ以外の主要メディア(私が見聞きした範囲)は、エピソード的にちらちらながら、安倍首相(日本)がオバマ大統領から受けた冷たい仕打ち(冷遇)を報じていた。
親自民・親安倍的コメンテーターのなかでさえ、あまりのひどさに我慢ならないのか、取り繕った解説で高い評価を与えるとしながらも、ちくりちくりとオバマの価値観やオバマ政権の対日観を説明し、日本が置かれている世界秩序の現状を垣間見せる人たちがいた。
主要メディアは、国民がオバマ政権の接遇ぶりを安倍首相(日本)に対する冷遇と受け取らないよう、オバマ大統領は性格がビジネスライクだからと必死に取り繕った。
世界に向けて日米同盟の強固さを示す絶好の機会である共同記者会見がないことも、米国に大きな果実がないからだと解説することで誤魔化していた。
いずれにしろ、今回の日米首脳会談に注目していた国は、中国と韓国といったアジア諸国だけと言っていいほどで、欧州諸国はニュースとして取り上げることさえなかったのは不幸中の幸いかも知れない。
主要メディアが揃ってあの日米首脳会談を基本的に成功と評価するのは、認可事業(TV)を内に抱え、安倍自民党政権との“歴史的親和性”や“居心地の良さ”をベースにした提灯持ち活動の一環であるが、冷静に考えればもっと深い理由があることがわかる。
それは、今回の日米首脳会談を“普通の基準”で評価すれば、国民の心情に強い反米感情を引き起こしかねないものになってしまうからである。
自民党や安倍氏からよりも、米国支配層からの覚えのめでたさを気にする主要メディアの幹部たちは、国民世論が反米や嫌米に傾くような報道を行うわけにはいかない。
ものは言い様とはよくいったもので、いちおう権威があるとされる報道機関が、ありきたりのものであってももっともらしい説明を付けて“成功”と言えば、忙しさや面倒くささもあって、さすがやっぱり自民党だねと思う国民も少なくないだろう。
日本は、尖閣問題をめぐり中国との角逐が続く状況に置かれており、米国から袖にされたという厳しい現実はどうあっても認められない。それゆえ、自民党政権であることと相俟って、「日米同盟の復活」や「首脳会談の成功」という“前向き”の評価に徹する他ないのかもしれない。
NHKなどが、日本は米国からどうでもいい存在と思われているとか、安倍首相はオバマ大統領から“人間性失格の烙印”を押されていると報じたら、国民のあいだにただならぬ空気が漂うかも知れない。
ここまでを読んであっしらは何をおかしなことを言っているんだと思い、今回の日米首脳会談は建前ではなく心底から“成功”と評価している人には、「振り込め詐欺」に気をつけてねという他ない。
安倍支持者であれ、親米派であれ、気分や願望さらには習い性によってではなく、現実をありのまま理性的に把握しようとする人なら、最低限、安倍首相はオバマ政権に快く歓迎されなかったという事実は認めるであろう。
私は、今回の日米首脳会談を受けて、日米関係は民主党政権時代よりも悪化し、安倍首相は、オバマ大統領から露骨に不快感を示されるほど最悪の首脳関係に置かれていると評価する。
(念のため、親米派でも民主党支持者でもないので、鳩山元首相の普天間問題をめぐる対米交渉は評価するが、それ以外、良好な日米関係に腐心した民主党政権を評価するわけではない)
「歴史認識」問題ではないが、それまでの経緯を忘れてしまえば、現在の出来事さえ真っ当に評価することができなくなる。
成熟し安定していると錯覚されている自民党を母体とする安倍首相の外交力により、民主党政権時代に崩れた日米関係を復活させたとしたり顔で語っている人やそう信じている人に聞きたい。何を根拠にそう言えるのか、まさかあの「トラスト・ミー」の話を持ち出して比較するわけではないでしょうねと。
● 今回より民主党政権の日米首脳会談のほうが大きな成果
安倍首相の前に訪米して日米首脳会談を行った首相は民主党の野田氏である
それは、今回の日米首脳会談からわずか8ヶ月前の昨年4月30日のことで、相手は、今回と同じオバマ大統領である。
その首脳会談では、両国首脳が並び立つかたちの共同記者会見も行われ、大統領主催の晩餐会に較べると格は落ちるが、クリントン国務長官主催のレセプション(夕食会)も催された。
外交では接遇の違いも重要だが、その違いだけをもって、民主党政権時のほうが日米関係は“強固”だったと言いたいわけではない。
“反米派”である私は評価していないが、親米派なら大歓迎の「未来に向けた共通のビジョン」というまがまがしい日米共同声明も発表された。加えて、外務防衛閣僚による日米安全保障協議委員会共同発表も行われている。
野田訪米は、石原前都知事がヘリテージ財団で尖閣諸島購入計画をぶち上げた(4月17日)直後であったが、中国側は極右石原の“またまたの妄言”というレベルで受け止めており、9月中旬以降の「尖閣諸島騒動」とは違って“まだ穏やかな日中関係”であった。そのようななかでも、「日米同盟」の強化が力強くうたい上げられたのである。
(もともと「日米同盟」の目的は、対中国でも対北朝鮮でもなく、米国の世界戦略遂行を助ける駒として日本を活用すること(基地やおカネの提供と下働き)にあるから、日中関係の変化が影響を与えるというものではない。米国政権は、日本とは関係なく、米中関係のありようを変化させていく。日本の政治家やメディアは、願望やある方向の政策を実現するために、対中国や対北朝鮮を「日米同盟」と結びつけているだけである)
今回の首脳会談で安倍首相は、「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなっている」という認識のもと、安全保障問題を第一義的に提起した。
しかし、安倍首相の発言を受けたオバマ大統領は、日米同盟の重要性と同盟強化に向けた日本の取り組みは歓迎したものの、その口から、日米安全保障条約の“あ”も、中国の“ち”も、尖閣諸島の“せ”も、発することはなかった。中国を念頭に置いた安保問題への言及は、のれんに腕押し、安倍首相の一方的なもので終わったのである。
首脳会談のそのような雰囲気は、日米共同声明にも反映されている。
日米共同声明は、TPPにおける関税問題をめぐる解釈と米国側の非関税的要望が書かれたものに“矮小化”され、「日米同盟」や「安全保障問題」に関わる文言はまったくなかった。
それだけにとどまらず、カーニー大統領報道官は、首脳会談前の記者会見で、日本政府が対中国牽制として期待する「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象であり、日本の施政を害しようとする如何なる一方的行為にも反対」という1月のクリントン国務長官発言について、頓珍漢なふりをして「知らない」と受け答えした。
その必要があるとも思わないし精神安定剤の効用を超えないとも思っているが、唯一、ケリー国務長官が、岸田外務大臣との会談で、「安保条約の適用についての米国の揺るぎないコミットメントを確認するとともに,尖閣諸島を巡る問題に対し日本が自制的に対応していることを評価する」と、“日米安保”に関わる発言を行った。
しかし、前任者であるクリントンさんの「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象である旨改めて述べるとともに,日本の施政を害しようとする如何なる一方的行為にも反対する」という発言に較べると、トーンダウンしたことは否めない。
さらに言えば、ケリー発言のポイントは、「尖閣諸島を巡る問題に対し日本が自制的に対応していることを評価」という内容を付け加えることで、中国との緊張を高めることは控えるようにというメッセージにしたことである。
外務省のサイトに二つの首脳会談に関する概要がアップされているので、メディアのフィルターを通さず読み比べることで、どちらが親密な日米関係につながる外交を行ったか冷静に判断していただきたい。
※ 外務省サイト:日米首脳会談資料
[安倍政権]
「日米首脳会談(概要)平成25年2月22日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/us.html )
「日米外相会談(概要)平成25年2月22日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_kishida/us_1302.html )
[野田政権]
「野田総理の米国訪問(平成24年4月29日〜5月1日)」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/usa_120429/index.html )
※ 訪米直前に掲載されたワシントン・ポスト紙の安倍首相インタビュー記事が「中国の激怒」を買ったが、これも、安倍首相の発言内容をことさら中国を刺激するニュアンスにして日中関係を煽るというワシントン・ポストの思惑があるようにも思える。ワシントン・ポストは、中国のメディアと違って政府機関ではないので、接遇問題とは直接の関係はない。
菅官房長官がインタビューの記事化についてワシントン・ポストに抗議し、外務省も、記事は「中国には周辺諸国と領土紛争を起こす「根深い必要性がある。共産党が国内の支持を得るためだ」」と書いているが、安倍首相の実際の発言は、「力による行動が国民の支持にもつながっている。問題の根深さを認識することが大切だ」というものだったと抗弁した。
● 安倍首相とオバマ大統領のぎくしゃくした関係
安倍首相をいじめたいわけではないので気が引けるが、メディアが歪めて伝えている安倍首相と米国との関係を少しでも事実に近づけ、その実相を知ることは意味があると思っている。それゆえ、なぜか、保守派政治家のエースで米国からも信頼されていると見られている安倍晋三氏が、米国支配層から実際はどのように見られているかわかるものを少しだけ示したい。
日米関係は米国にとっても重要であることは確かで、日本で内閣総理大臣が変わると、ほとんどの場合、米国の大統領から首相就任を祝う電話がかかってくる。
外務省のサイトに電話会談の履歴が掲載されているのは、第一次安倍政権からなので、それ以降について示す。
1)第一次安倍政権:2006年9月26日発足:ブッシュ大統領から祝意の電話なし
第一次の安倍首相がブッシュ大統領と初めて話したのは、北朝鮮の核実験公表を受けて、先方から滞在中のソウルに電話があったときである。
この電話会談で、ブッシュ大統領より、安倍総理の初の中韓両国への外遊の成功に祝意が示されたが、首相就任の祝意は述べられていない。
「日米電話首脳会談(9日)の結果概要平成18年10月9日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/usa_p_06/gaiyo.html )
2)福田政権:2007年9月26日発足:首相就任当日、ブッシュ大統領から祝意の電話
「日米首脳電話会談について平成19年9月26日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_fukuda/p_usa_0709.html )
3)麻生政権:2008年9月24日発足:ブッシュ大統領から祝意の電話なし
就任から半月後、ブッシュ大統領との初めての電話会談が、米朝協議の結果を説明する目的で行われた。
「ブッシュ米国大統領と麻生総理の電話会談平成20年10月12日
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_aso/p_usa_0810.html )
※ 麻生氏も、安倍氏ほどではないが、創氏改名や慰安婦問題できわどい発言を行っている。
4)鳩山政権:2009年9月16日発足:オバマ大統領から祝意の電話なし
オバマ大統領から首相就任を祝う電話はかかってきていないが、国連総会のためニューヨークを訪れ、就任から1週間後にオバマ大統領と日米首脳会談を行っているから、それを斟酌すれば電話の必要はなかったと言えるだろう。
「日米首脳会談の概要平成21年9月23日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/visit/0909_sk.html )
5)菅政権:2010年6月8日発足:就任前にオバマ大統領から祝意の電話
「菅次期総理大臣とオバマ米国大統領との電話会談平成22年6月6日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/1006_kan_sk.html )
6)野田政権:2011年9月2日発足:就任前にオバマ大統領から祝意の電話
「野田次期総理大臣とオバマ米大統領との電話会談平成23年9月1日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/9/0901_05.html )
7)第二次安倍首相:2012年12月26日発足:オバマ大統領から祝意の電話なし
麻生首相のときは、就任半月後に、北朝鮮問題でオバマ大統領から電話がかかり、米朝交渉についての説明を受けたが、2月12日に北朝鮮が核実験を公表したあとまず会談を行った相手は、ルース駐日大使であった。
「ルース駐日米国大使による安倍総理表敬平成25年2月12日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/130212_01.html )
その二日後、オバマ大統領の一般教書演説を受けたかたちで、安倍首相がオバマ大統領に電話をかけるかたちで会談を行った。
「日米首脳電話会談(概要)平成25年2月14日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/us_130214.html )
第一次安倍政権発足以降、首相就任時における米国大統領の儀礼的行為を列挙してみたが、それをたどれば、安倍首相支持者でも、安倍氏が、米国政権から日米関係強化の“切り札”として重要視されている政治家とは言えないことがわかるはずだ。
反米だが安倍支持という“倒錯者”であれば米国からの評価なぞどうでもいいことになるが、安倍支持者がどう言い立てても、米国政権が、3年有余の民主党政権時代に壊された日米同盟を強化する政治家として安倍氏に期待を寄せているというような現実はどこにもないのである。
もし、オバマ大統領が、民主党政権時代の日米関係にうんざりし、安倍氏の首相就任に大きな期待を寄せたのなら、就任直後は期限間近の「財政の壁」問題があったとはいえ、年初のある時期までには祝意の電話をかけていたであろう。
● あの鳩山元首相と安倍首相の日米関係における比較
安倍支持者の方がここまで読み進めたら、櫻井よし子さんではないが、オバマはリベラルな中道左派だから安倍とは相性が悪いからねと言うかもしれない。
それを否定しない。というより、それが安倍首相を冷遇している基礎にあるとも考えている。
しかし、第二次オバマ政権は発足したばかりであと4年は続く。この間の中国の台頭ぶりを考えれば、これからの4年間で「日米同盟」(日米関係)がどう変化していくのかは、日本にとって極めて重要な問題である。
オバマの4年間はじっと耐え、次の大統領選で共和党親日政権が誕生するのを待つという悠長な話は通用しない。また、4年後に米国で親日政権が誕生する保障もない。
民主党時代に「日米同盟」が破壊されたと嘆く人士がイの一番に持ち出すターゲットは、鳩山元首相であろう。
そして、「日米同盟」破壊のキーワードとして、「トラスト・ミー」を持ち出すであろう。
何度か書いたが、鳩山氏は、友達になりたくないという意味で嫌いなタイプで、政治家としても総合的には評価しないが、その対米外交の姿勢だけは高く評価している。
米軍基地の過重負担に苦しむ沖縄の問題を取り上げ、普天間基地の沖縄以外への移設が実現できるようオバマ大統領に働きかけたからである。
歴代自民党政権で、日米合意済みの内容を持ち出して沖縄の負担軽減を持ち出す首相はいたが、正面切って他の解決手段を米国と一緒に追求しようとした首相はいなかったからである。
鳩山氏は、政権奪取につながった総選挙運動中から日米・日中の等距離外交や東アジア共同体を政策として掲げていたが、就任直後にニューヨークで首脳会談を行ったことからわかるように、それをもって、オバマ大統領から冷遇されることはなかった。
政治でよく見られる“誤解”の一つだが、自分の意向に沿って動く政治家や自分の要求を唯々諾々と呑む政治家を尊重するわけではなく、逆に、そのような政治家は、たんなる便利な存在として、軽蔑しながら利用するだけである。
奇妙な話だが、相性の問題はあるとしても、日本の首相で米国の大統領にもっとも高く評価された人は社民党の村山富市氏だと思う。政治的信条や政策はともかく、クリントン大統領は、その誠実で実直な人柄を高く評価した。
外交となると、国益はそれぞれ異なるから、相手の要求が理解できるものであっても受け容れられないことも多い。しかし、まともな政治家なら、自分が受け容れられない主張を相手がするからといって、その相手を軽蔑したりはしない。逆に、政治家としてはまっとうな姿勢だと評価し、いい加減な姿勢ではなく、気合いを入れて交渉に臨む。
日本のメディアや政治家は、対中国や対北朝鮮は別だが、対米については相手の要求をすぐ呑む首相を好むようだ。(対中国で強硬姿勢が強く出るのは、従米言動の反動という要因もあると見ている)
鳩山元首相は、09年秋、シンガポールAPECに出席する前に訪日したオバマ大統領と首脳会談を行った。この首脳会談で、あの「トラスト・ミー」は発せられた。
この「任せて欲しい」という発言はあれこれ取り沙汰されてきたが、鳩山氏が日本国首相として、なんとか沖縄の負担を軽減しようと思い、総選挙で県外や国外移設に言及したことを説明し、「大変困難を伴う問題だ」と率直に語り、「できるだけ早く作業部会で結論を出したい」と語ったことに意義があるはずなのに、それはすっかり忘れ去られ、バカな外交のエピソードとして語られるようになってしまった。
日米首脳会談で沖縄の問題をそこまで語った首相はいなかった。しかし、その言葉をネタに、メディアに背後から撃たれるような仕打ちを受け、韓国の艦船が撃沈されたことをきっかけに元の辺野古移転案で落ち着くという結末になってしまった。
「トラスト・ミー」発言が、「私が辺野古移転を実現する。任せてくれ」という意味で行われたのなら、当然重大な政治責任が発生するが、「他に方法がないか検討するから任せてくれ」という意味で行われたのだから、力不足で不成功に終わった結果に申し訳ないということでしかない。
辺野古移転どころか米軍駐留さえ反対だが、それまでの自民党政権が、自ら辺野古移転で米国と合意していながら、10年間も実現できなかったことのほうが政治責任は大きいと思う。
「日米首脳会談の概要平成21年11月13日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/visit/president_0911/sk_gaiyo.html )
「鳩山総理より、日米同盟は日本の外交の基軸であるが、更にアジア太平洋地域の平和と繁栄の基礎となっている旨、この日米同盟に基づいて、オバマ大統領と連携して、二国間関係はもとより、アジア太平洋地域やグローバルな課題における日米協力を強化したい、その上で「建設的で未来志向の日米同盟」を深めていきたい旨述べた。オバマ大統領よりは、鳩山総理の認識に基本的に同意する旨、初めてのアジア歴訪の最初に日本を選択したことは、米国の日米同盟重視の姿勢を表すものである旨、日米関係はこれまでもイコール・パートナーシップであったと考えており、これからもそうである、お互いを尊重しながら緊密にやっていくことが重要である旨の発言があった。
米軍再編に関しては、鳩山総理より、抑止力を維持しつつ沖縄の負担を軽減する観点から、重要な課題と認識している旨、特に普天間飛行場の移設については、既に設置が合意されているハイレベルのワーキング・グループを通じて、できるだけ早く解決したい旨、前政権における日米の合意は非常に重く受け止めているが、選挙中から本件問題については県外・国外移転を主張しており、そのことで沖縄県民の期待も高まっている旨、本件は大変困難な課題であるが、時間が経てばより解決が難しくなることも認識している旨述べた。これに対し、オバマ大統領よりも、ハイレベルのワーキング・グループを設置して迅速に解決したい旨述べた。」
そして、鳩山氏の「トラスト・ミー」発言は、翌年5月(辞任直前)の日米電話首脳会談できっちり落とし前もついている。
「日米電話首脳会談について平成22年5月28日」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_hatoyama/us_1005sk.html )
「本28日(金曜日),午前8時過ぎから約20分間,鳩山由紀夫総理大臣は,オバマ米大統領との間で,日米電話首脳会談を行いました。
電話会談では,日米関係のほか,韓国哨戒艦沈没事案及びイランの核問題への対応について意見交換を行いました。
(1)日米関係に関しては,鳩山総理から,「2+2」共同発表の発出への合意を歓迎し,日米同盟を一層深化,発展させていきたいと述べた上で,そのためにも,普天間飛行場の移設問題について,地元の理解を得つつ,代替の施設の建設や沖縄の負担軽減に向け日米間で協力していきたい旨述べました。オバマ大統領からは,鳩山総理の努力に対する感謝と総理の発言に対する賛意が示され,日米双方で更に努力することとなりました。
(4)また,両首脳はG8サミット及びG20サミットで再び会うことで一致しました」
このやり取りを読めば、結果は振り出しに戻ってしまうものであったが、オバマ大統領が、なんとかしようとした鳩山氏の努力を評価していることから、鳩山氏の「トラスト・ミー」に怒っているわけでないこともわかるだろう。
鳩山氏の「トラスト・ミー」発言騒動は、自民党と主要メディアが政治的に利用したものと言ったほうが的確なのである。
■ オバマ大統領があれほどあからさまに安倍首相を冷遇したワケ
日米首脳会談で合意した政策ではなく、安倍首相への接遇に関してなら、米国オバマ大統領は、「安倍首相への不快感」を世界に向けあからさまに示したと判断できる。
● 安倍首相冷遇の実態
オバマ政権のやり方は日本人として我慢ならないと思っているので、冷遇ぶりを具体的に書くのもおぞましいが、気が付いたものをあげたい。
オバマ政権の対応にカチンとくるのは、支持不支持は別として、(安倍)首相は政治的に日本国を代表する存在であり、その首相への接遇は、日本国がどう遇されているかという意味をもつと考えているからである。
1)オバマ政権は安倍首相との会談を望んでいないことを世界に晒した。
会談を望んでいないことはまだしも、それが、世界中に知れ渡ってしまったことが大きな問題である。
2)安倍氏の配偶者(昭恵さん)が同行を望んだがミシェル夫人の都合を理由に断られた。
昭恵さんは、自身のフェイスブックで、首相との同行を望んでいたが 「オバマ夫人の日程の都合」が理由で実現しなかったと書いているそうだ。
オバマ政権側は、昭恵夫人の要望は首相の訪米が決まったしばらく後に知らされたため、ミシェル夫人は「長い間予定されていた街の外で行われるプログラムへの出席」を変えることができなかったと説明したそうである。
ミシェル夫人は、日米首脳会談二日後のアカデミー賞授賞式に出演していた。これは生なので、安倍首相の訪米日程とは重なっていない。もう一つ、いつ録画されたかはわからないが、ミシェル夫人は23日(首脳会談翌日)夜に放送されたNBCの「Late Night」に出演し、女装した司会者と一緒に“ママ・ダンス”を踊っていた。
3)安倍首相一行のワシントン到着を出迎えたのはマーシャル国務次官補代理だった。
麻生首相の訪米でも、国務省儀典長代行が出迎えたことで「冷遇」が問題になったが、ほぼ同じ格の国務省職員が安倍首相一行を出迎え者であった。
国務省の序列は、長官→副長官→分野ごとの次官→次官補であり、次官補代理はその下に位置付けられる。
30兆円を超える米国債購入(イラク戦費向け)の功績が認められてか、天皇なみにブッシュ大統領の出迎えを受けた小泉元首相は例外中の例外である。副大統領はとてもとても望まないし、国務長官はムリと承知でも、副長官かぎりぎり儀典長などの次官が出迎えて然るべき関係が日米であろう。
胡錦濤主席はバイデン副大統領の出迎えを受けたが、大統領主催の晩餐会があることを踏まえれば、出迎えとしては妥当な格である。
4)食事の接待は晩餐会もレセプションも昼食会もなかった。
個人的にはアメリカの料理をことさら食べたいとは思わないが、外交儀礼絡みではそうも言っていられない。
今回の訪米では、首脳会談の途中にパワーランチが設定されたが、正式な食事会は設定されなかった。
それ自体が招待した米国側の接遇として問題と言えるが、それ以上の問題は、前日に到着した安倍首相がブレアハウス(大統領の賓客向け宿泊施設)に宿泊し、すぐそばにいたオバマ大統領にその夜の公式行事がないことまで世界に知れ渡ったことである。晩餐会とまではいわないが、その気ならオバマ大統領に安倍首相をもてなす時間的余裕があったことを世界が知ったのである。
野田首相は、首脳会談の前日にクリントン国務長官主催の歓迎レセプション(夕食会)でもてなされた。
安倍首相は、公的な用がないオバマ大統領にもケリー国務長官にも無視されたまま、アメリカ到着の夜を過ごしたのである。
また、ご丁寧なことに、首脳会談途中のパワーランチで、オバマ大統領が食事を採らず水だけで済ましたことまで漏れ伝わっている。
5)首脳会談後の共同記者会見も設定されなかった。
会談そのものの様子が放映されるわけではないので、世界に向けた首脳会談の華は、共同記者会見ということになる。
共同記者会見が必要ないというのなら、会談そのものを行う意味がないか、険悪な関係であることを示唆することになってしまう。
たとえ親交を暖めることだけが目的であっても、二人がお互いを褒め合いちょっとしたエピソードを語ることで十分盛り上がり、二ヶ国の関係を世界に示すうえで効果的である。
今回の日米首脳会談は、中国が絡む尖閣問題はともかく、両国にとって長年の懸案である北朝鮮が核実験を公表した直後に開かれており、共同記者会見を催す意義(必要性)はあったはずである。
6)極めつけは、記者懇談の場で、オバマ大統領から素直には握手をされなかったことである。
共同記者会見が設定されなかったことと並んで重要なシーンが、この「握手失念」だと考えている。
共同記者会見がないことから、記者の要望で、首脳会談の途中(パワーランチの前)での記者懇談の場が設定されたと言われている。
記者との懇談が終わると、オバマ大統領はそのまま退席しようとした。通常なら、カメラマン向けに、座ったままお互いが笑顔で握手する場面が締めくくりになるのだが、オバマ大統領は握手しないまま立ち上がった。日本人記者から「握手を!」との声がかかり、それを聞いたオバマ大統領が立ったまま握手を求めてことなきをえた。
野田首相の訪米では、通常通り、会談の場では座ったまま握手している写真が撮られている。( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/usa_120429/pmm.html )
安倍首相の握手の写真は、共同記者会見で見られる立ち姿での握手となっている。( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/us.html )
オバマ政権の安倍首相に対する接遇がどれほどひどいものなのかということは、次のような想定をしてみればよくわかるはずだ。
1)首脳会談のためにオバマ大統領が訪日したとき、日本政府が同様の接遇をしたら日米関係はどうなるのか?
2)安倍首相の訪問先が米国ではなく、たとえばフランスや中国もしくは韓国など他の国だったとして、同じような接遇を受けても、日本のメディアは今回と同じ評価を与えるのか?
3)中国やロシアの首脳がオバマ大統領との会談のために訪米し、安倍首相と同じような接遇を受けたとしたら、それらの国のメディアは、日本のメディアと同じように、米国との戦略的関係が強化されたと評価するだろうか?
大げさに考えなくても、例示したどのケースでも、冷遇された国では相手国に対し喧々囂々の非難が湧き起こり、関係が否応なく険悪なものになることぐらいの想像はつくだろう。
安倍首相は米国に冷遇されたと表立って評した中国(共産党)の態度は、笑って見ていればいいものをわざわざ筆にする未成熟の現れだとも言えるが、日本の主要メディアも、自らの口で語れないことを代弁させる意図も込めて、中国側の日米首脳会談に対する評価を紹介していた。(好意的に考えれば、中国は日本に警告を与えてくれたとも言える)
憲法規定的に日本以上の対米従属である韓国は好意的に評価したが、今回の日米首脳会談については、日米以外の国では中国にどういうインパクト(印象)を与えられたかがすべてとも言えるから、中国からあのような反応をされれば、“日米同盟強化”の成果がないと言っても過言ではないだろう。
笑いの対象でしかないかもしれないが、「同盟の完全復活、自信の宣言 中韓露へ強い抑止力」という見出しを掲げた産経新聞の心根と理性はどのようなものなのか疑わざるをえない。
● オバマ大統領が安倍首相を冷遇したワケ
従属とも隷属とも言われる卑屈な日本政府の対米外交ではあっても、これまでの米国政権は、少しは日本側に気を遣い、日本側の顔も立ててきた。
より正確性を期せば、最低限、外交儀礼や外交慣例を知る人が、米国政権は日本を冷たくあしらっていると判断するような接遇はしてこなかった。
私とは政治的スタンスが違うという前提での評価だが、今回の日米首脳会談は、安倍首相の外交的失敗と指弾できるものではない。
安倍首相の失敗と言えるのは、相手が訪問を望んでいない状況で押しかけ的に訪問し、あげく、あのような仕打ち(冷遇)を世界に晒してしまったということだけである。
それとて、安倍首相の責に帰する問題ではない。
オバマ大統領が安倍首相との首脳会談を望んでいないとしても、最終的には受け容れたのだから、外交儀礼をあからさまと言えるほど失し、外交慣例にもひどく反する接遇を行ったことこそが問題である。
オバマ政権が安倍首相にあのような仕打ちを行ったワケをいろいろ考えてみたが、一つを除き、腑に落ちる理由や目的が見当たらない。
安倍政権は発足直後であり、国内経済政策はともかく、米国との関係では、米国からやるべきテーマは与えられていても、まだその進捗をとやかく言われるような時期ではなく、米国の気に障るような政策も実行していない。仮に気に障る政策があったとしても、前述したように、米国政権の気に障る政策であっても、侮辱でなければ、すぐさま冷遇につながるわけではない。
“超”金融緩和政策は米国のほうが先行しており、アベノミクス批判は、自分たちに火の粉が降りかかりかねない“やぶ蛇”である。会談でも、オバマ大統領は、いい結果になればいいねという感じで、アベノミクスを批判してはいない。
いろいろ考えても、世界戦略を遂行するためにまだまだ使えるはずの日本という駒を失いかねない非礼に踏み切ったオバマ政権の真意が確定できなかった。
失笑が漏れるかも知れないが、私はできるだけ好意的に人や組織を評価するほうなので、今回の日米首脳会談でも、オバマ政権は、親米を自負し従米政策に動く安倍首相に一つか二つの花は持たせてやるだろうと思っていた。例えば、関税撤廃で聖域を認める譲歩をしてやるフリなど...。
しかし、オバマ政権は、安倍首相にたった一輪の花さえ持たせなかった。それどころか、外交慣例は知らずとも、世間一般の礼節を知っている人なら誰でもが驚くような非礼をなした。
だからこそ、それが見えた(事前にそうなることを教えられている)日本の主要メディアは、そのような事実を国民一般に悟られないよう、安倍首相の提灯持ちにいっそう励んだとも言える。
安倍首相は、日米同盟の力強い復活を成し遂げ、TPP参加条件で米国から譲歩を引き出したと自画自賛したが、実際の内容は、どうひいき目に見ても、ムリヤリこじつけたらそう評価できないこともないという厳しいものである。TPP関連のテーマは、別の機会に投稿したいと思っている。
オバマ政権があのような接遇をした背後にあるワケは、安倍首相の個人的資質問題なのか、安倍首相の対外政策問題なのか、日本という国そのものの位置づけが変わってしまったことなのか、はたまた、オバマ大統領が「財政の崖」(財政支出の強制的削減)で頭を痛めているという事情があったからなのか、などなど考えてみても、これという決定打は思い当たらない。
安倍氏の性格(価値観)であれ政策であれ、安倍氏個人のレベルでとどまることが理由なら、あの非礼は許し難いとしても、まだ救いがある。
間近に迫り来る「財政の崖」のため心ここにあらずなら、一時的な問題ということで済むが、記者懇談の場で握手を忘れていたとしても、記者に促されれば、あのような無愛想ではなく、ジョークの一つも返して笑顔で握手をしたはずである。
ともかく、世界史的な変化を理解しないまま、日米関係や世界における存在感が「冷戦構造」時代と同じと錯誤(支配層は国民にそう思わせる)したまま外交を続けることは最悪である。
日米首脳会談関連の投稿の一つで、「個人的に、安倍首相は憎めないと思っている。勝手に、たぶん、生まれが良くて、才覚もないせいだろうが、小泉元首相のようなエグサが表面に出てきていない。だから、いわゆるいい人に見える。褒めているのか貶しているのかわからなくなるが、自分の言動が意味するところが、それほどわかっていないのではないかと推測する。また、そう言うことが日本のためになると心から思い込んでいるようにも見える。言ってしまえば、まわりの大勢が何があっても支えてくれるような大店の三代目として据わりがいい人なんだろう」と書いた。
今となっては、このような見方が甘かったと反省している。
結論を言えば、呼吸をすることのように当然と考えているように思える安倍首相の“自民党的保守愛国感覚”がオバマ大統領の逆鱗に触れたことで、あれほどの冷遇を受けてしまったと判断するに至った。
具体的に言えば、総選挙期間中から政策として掲げていた「河野談話」や「村山談話」の見直しである。より突っ込んで言えば、「従軍慰安婦」問題に対する態度である。
帰国後の安倍首相は潰瘍性大腸炎で苦しんでいるようには見えないから、ひょっとしたら、少しは冷遇を感じたとしても、それほど深刻な冷遇だとは思っておらず、冷遇されたワケもわかっていないのではないと心配になる。
外務省官僚や側近が、「オバマさんはビジネスライクな人だから」、「日米同盟が強固であることは首脳会談で十分わかったからわざわざ共同記者会見を開く必要はなかった」とか適当に誤魔化している可能性もある。
友好国首脳の公式訪問でのあのような冷遇は論外だが、オバマ大統領が安倍首相に“人間性失格”の烙印を押す気持ちがわからないではない。
わたしは、あのアベだから、根もない信念もない言葉だけの軽い「自民党的保守愛国」発言を繰り返すことで、愛国主義ないし民族派的意識の人々の歓心を買っていると笑って済ましてきた。
しかし、オバマ大統領は、当然のことだが笑い話としては受け止めず、日本の首相になるくらいの人だから、安倍氏は確固たる信念をもって政策や歴史を語っていると受け止めたと思われる。
オバマ氏が安倍氏をどのように理解しているかを知る参考となるのは、安倍政権発足直後の1月2日にニューヨーク・タイムズ紙が掲載した「Another Attempt to Deny Japan's History 」という社説だと思う。
社説のタイトルは「日本の歴史を否定する新たな試み」とでも訳せるものだが、そのなかで、「日本の安倍晋三新首相は、今回の任期を、韓国との緊張を高ぶらせ、両国の協力をより困難にする深刻な過ちからスタートさせようとしている。安倍氏は、朝鮮半島や他の地域の女性たちを性奴隷にしたことを含む第二次世界大戦中の日本の加害に対する謝罪を書き直そうとする動きを見せている。」
「彼は第一次安倍政権で、戦時中日本軍の性奴隷となった女性たちが実際強制されていたという証拠はまったく見つからなかったと言った。」
「自民党の指導者である安倍氏が、これらの謝罪(引用者注:「村山談話」と「河野談話」)をどう修正するのかは明らかになっていないが、安倍氏は、これまでも、戦争時の日本史を書き換えることを公然と切望してきた。このような、犯罪を否定し、謝罪を薄めるどのような試みも、日本の戦時中の残忍な支配に被害を受けた韓国や中国・フィリピンをも激怒させることであろう。」
私に言わせると、ニューヨーク・タイムズ紙の社説は甘い。
なぜなら、「彼は第一次安倍政権で、戦時中日本軍の性奴隷となった女性たちが実際強制されていたという証拠はまったく見つからなかったと言った」という部分は経緯の一端でしかなく、第一次安倍政権での安倍氏の核心的言動が隠されたままになっているからである。
オバマ大統領も、たぶん、安倍首相の「従軍慰安婦」問題に通じる「河野談話」見直し発言が初めてのものであったなら、今回あれほど露骨な冷遇はしなかったと思われる。
ご存じだと思うが、安倍首相は、最初の首相時代、この問題で米国政界とのあいだで大きな軋轢を生じさせている。
第一次安倍政権時代の07年初め、米国連邦議会が従軍慰安婦問題について日本政府に謝罪を求める決議を採択する動きが大きくクローズアップされた。
そして、当時の安倍首相は、参議院予算委員会で「河野談話」の内容はその通りであり私も受け容れると答弁し、それを訪米前にブッシュ大統領への謝罪で利用し、訪米したときも、ブッシュ大統領や連邦議会関係者に従軍慰安婦問題で釈明したという経緯がある。
言ってしまえば、オバマ大統領は、安倍首相自身が6年前にゴメンなさいをして決着させた問題を今なお蒸し返していることで、承服しがたい安倍氏の“人間性の欠陥”を見たのだと思う。当時のオバマ氏は大統領の座を狙う連邦上院議員であったから、少しは経緯を知っているはずだ。
そして、配偶者の昭恵夫人は、そのとばっちりを受けるかたちで訪米できなくなったと推測している。(昭恵さんがそのような夫に寄り添っていることに強い違和感を覚えている可能性もある)
より言えば、日韓併合条約の正当性といった政治的解釈が難しい歴史問題(占領国である日本やイラクへの憲法の押し付けと同等)ならいざ知らず、21世紀の今なお、女性の人権にまつわる問題を繰り返し取り上げ、それへの責任を頑なに否定する安倍氏の人間性にある種のおぞましさをオバマ大統領が感じているのではと推測している。
「河野談話」は、あの内容の謝罪で大きな歴史問題が収まるのならラッキーと言える程度のものだから、それさえ否定しようとする安倍氏は、どんな価値観を持った人間なのかと疑ってしまって当然だと思う。
(無人機を飛ばして、近辺の人たちが巻き添えになることも厭わず、裁判なしで処刑を行っているオバマ氏本人には、価値観の問題を語る資格があると言えるのかと問いたい)
※ 「河野談話」に関する参考投稿
「Xyzxyzさんへ:石原氏や橋下氏が標的にしている「河野談話」のどこが問題なのですか?」
( http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/870.html )
実のところ、07年の安倍首相は、従軍慰安婦問題が日米首脳会談に陰をもたらさないよう、訪米前にブッシュ大統領に電話会談で謝罪を行っている。
その電話会談については、“なぜか”、外務省サイトの第一次「安倍総理大臣 首脳会談記録」の履歴から除外されている。
そのため、現在でも見られるAFPの関連記事を紹介する。
タイトルは、「「従軍慰安婦問題の謝罪」、ブッシュ大統領が安倍首相を評価 - 米国」(2007年04月04日 09:03 発信地:米国)となっている。
記事には、「国家安全保障会議(NSC)のゴードン・ジョンドロー報道官によると、2人はこの日、電話で会談した。ブッシュ大統領は、安倍首相が「旧日本軍が強制的に連行した証拠はない」との認識を示した自身の発言に対し前月の参議院予算委員会で謝罪したことについて、満足感を示し、「今の日本は第2次大戦時の日本ではない」とコメントした」と書かれている。( http://www.afpbb.com/article/politics/2206510/1485757 )
※ 安倍首相は、07年4月の訪米前にもう一つニューズウィーク誌のインタビューに応じ、第2次世界大戦中の従軍慰安婦問題について「日本の首相として大変申し訳ないと思っている。彼女らが非常に苦しい思いをしたことに対し責任を感じている」と述べ、同問題では初めて「責任」に直接言及して強く謝罪の意を表明した。
安倍氏は、「20世紀は世界各地で人権が侵害されたが、日本にも責任があり、例外ではない」と強調。同時に「われわれは常に自らの歴史に謙虚になり、私たち自身の責任に思いを致さなければならない」とした上で、旧日本軍の関与を認め謝罪した1993年の河野洋平官房長官談話を継承する考えを重ねて示した。
2007/04/21 04:05 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/200704/CN2007042101000289.html
それでもなお、4月27日に行われた日米首脳会談において、従軍慰安婦問題が扱われている。
最後の項目だが、
「6.慰安婦問題
慰安婦問題については、安倍総理からの説明に対し、ブッシュ大統領より安倍総理の発言は非常に率直かつ誠意があり、その発言を評価するとの発言があった。」
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/usa_me_07/j_usa_gai.html )
となっており、謝罪がすでに4月4日に行われていることで、首脳会談の場での謝罪という不様は晒さずに済んだ。
07年の訪米では、連邦議会関係者とも異例の会談を持った。当時のペローシ議長が、「上下両院の指導部が超党派で一堂に会して他国の総理にお会いするというのは、非常に稀(unusual)なことであり、これは、ここに出席している議会指導部の安倍総理に対する敬意の顕れであるし、また日米関係を更に強化したいという強い思いの顕れであると思う」と述べている。
( http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/usa_me_07/usa_0426a.html )
ブッシュ大統領に謝罪をしているので、それをことさら求めていないし、表現も実に気を遣ったものになっているが、安倍氏は従軍慰安婦問題で連邦議会議員による“査問”を受けたと見ることができる。
日本政府は連邦議会での慰安婦決議採択を回避するためお金をかけたロビー活動まで行い、安倍的価値観に共感する国会議員やジャーナリストも、火元の一つであるワシントン・ポスト紙に意見広告を掲載するなどしたが、結局7月30日に、連邦議会下院において、従軍慰安婦問題で日本政府に謝罪を要求する決議が採択されてしまう。
政府(外務省)や主要メディアが情報隠しに励んでいることが問題なのだが、07年の日米間で起きた従軍慰安婦問題騒動は、当時の安倍首相の肝心な言動が秘匿され、連邦議会下院で奇妙な日本非難決議が採択されたようだというレベルの受け止めで終わってしまった。
そのため、今なお、第一次安倍内閣は、「河野談話を否定する閣議決定を行っている」とか、「安倍首相は「河野談話で日本は不名誉を背負っている。前回の安倍政権(2007年3月)に強制性を証明する証拠はなかったと閣議決定したが国内外で共有されていない」と問題視していた」という類のガセネタが流布している。
このように考えると、安倍氏を支持するとか自民党の提灯持ちをするとかというレベルを超えて、アジア諸国のみならず米国との関係もズタズタにして日本という国をおかしくしたい人が政府中枢やマスコミ幹部にはびこっているのではと疑いたいたくもなる。
(その可能性もあるが、ただたんにアホなだけの可能性もある)
07年に当時の安倍首相が、「河野談話」を踏襲することを誓い、従軍慰安婦問題で米国ブッシュ大統領に謝罪したという事実が覆い隠されていることで、今日に至るまで深刻な問題を引きずり続け、あげく、最重要友好国である米国の大統領から、世界に晒されるかたちで露骨なまでの冷遇をされてしまう事態に陥ったのである。
あまりにもバカバカしい処方箋になるが、安倍氏が、「河野談話」や「村山談話」に触れずに総理大臣に就任していただけで、ニューヨーク・タイムズのあの社説も出ず、訪米時にオバマ大統領からあのような接遇を受けることもなかったのである。
(なぜなら、米国側は、07年に安倍氏の歴史認識問題はいちおう決着をみたと受け止めているからである)
現在の対米関係や対韓関係で卑屈な対応をとり続けているにもかかわらず、昔の軍や政府の名誉をあそこまで踏ん張って守ろうとする政治家たちのセンスが理解できない。
かつての日本軍中枢も政府官僚たちも、とんでもなく誤った政策に走ったが、その多くは、日本を何とか良くしたいと思いながら奮闘したはずである。
だから、たぶん、彼らの多くは、安倍首相に、「俺たちは対外的に悪者でいいんだ。俺たちがやったことを謝罪することで、日本が今の世界で堂々と振る舞えるようになるのなら、その道を選択してくれ。俺たちをかばおうとすることで、日本がおかしくなるほうがいたたまれない」と言うだろう。
大きな疑問は、安倍さんはご自身の過去の言動を記憶していないのかということであり、安倍首相に諌言する側近や官僚がいないのかということである。
安倍さんは、失礼ながら、07年従軍慰安婦問題について、けっきょく何が問題で、どう対処したのか覚えていない可能性もあると思っている。
安倍さんは何かを言われて激怒するタイプとは思えないから、誰が猫の首に鈴を付けるかという高尚な問題ではなく、気軽に話す機会がある人ならいつでも説明できるはずである。
そんなことはないはずと思うが、側近の誰も、安倍首相がオバマ大統領に冷遇されたワケをわかっていない?のかな。
オバマ大統領に確認すればすぐわかることを長々と推測してきたが、それは、日本が重大な岐路に立っていると考えているからである。
はっきり言わせて貰えば、中国に対し大きな口を叩いてこられたのも、米国の後ろ盾や庇護があったればこそである。
政治的ではなく人間的評価として、安倍首相は、オバマ大統領から、たぶん、北朝鮮の金正恩第一書記よりも低く評価されていると思う。
ある時期の政治関連投稿にべたべた付加したように、安倍首相は、官房副長官時代に、中国や北朝鮮とりわけ北朝鮮から大きな恩義を受けている。
安倍首相が自民党総裁になり、野田前首相があのタイミングで衆議院を解散し、おまけだが、石原氏が都知事を辞任したのも、尖閣諸島をめぐって日中関係が険悪になった状況を打破するための動きである。
あの日米首脳会談を受けて考え直すと、日本の政界は、うかつにも、PC(ポリティカル・コレクトネス)と目されるオバマ大統領のことをまじめに考慮せず、中国との関係改善や米国から指示されている北朝鮮との国交正常化にうってつけの安倍氏を総裁・総理に選んでしまったと言える。
総裁になった安倍氏も、戦時中の経緯どころか、わずか6年前の経緯さえ忘れ、“自民党的保守愛国”の旗を振ってしまったようである。
利用はされるが米国大統領と固い絆を結ぶことはできず、中国や北朝鮮に対しても負い目を感じている安倍首相が、どういう外交を行っていくのかとても不安である。
首相補佐官も外務省官僚も、間抜けばかりではないだろうから、安倍首相の歴史認識発言や関連政策を軌道修正させるだろう。
おかしな話だが、安倍首相の歴史認識問題は徐々にリベラルなものに変わっていくと思う。
もっとも恐れるのは、安倍日本が、対米・対韓だけでなく、対中や対北朝鮮でも卑屈な外交をするようになってしまうことである。
お願いだから、誰か、安倍首相に、歴史認識問題にまつわるこれまでの経緯をわかりやすく説明して欲しい。
そして、それを受けた安倍首相が、オバマ大統領を含め謝罪(軽いもので十分)すべきは謝罪し、相手の国を慮りながらも堂々と主張できる外交のスタートラインに立つことを心から願っている。
※ 日米首脳会談関連参考投稿リスト
「行かなきゃよかった安倍首相:国内向けはともかく、世界における日本の存在感と政治力を貶めてしまった日米首脳会談」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/326.html
「日米首脳会談:「TPP+辺野古+ハーグ条約」が土産でも、晩餐会はともかく、共同記者会見さえ開かない冷遇ぶり」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/281.html
「[衆議院解散劇の裏を読む]米国も絡む日中関係に規定され動いてきた日本の12年後半政局」
http://www.asyura2.com/12/senkyo140/msg/769.html
「茶番劇!?石原氏は、息子も出馬した総裁選での安倍勝利を予め知っていた可能性:無視されたままの党首討論会「石原重要証言」」
http://www.asyura2.com/12/senkyo140/msg/780.html
※ 07年の米国に対する謝罪に関する資料をフォローアップのかたちで投稿する。
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