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PRESIDENT 2013年10月14日号 伊藤博之=文
これから日本は急速な「生産年齢人口の減少」「後期高齢者の増加」の時代を迎える。そうしたなかで一体どういったことが起きるのか? 社会保障給付費の負担増にともなう現役世代の苦しい生活の姿が垣間見えてくる。
これから40年までのビジネスマンの生活を考えていくうえで、大きな影響を及ぼしてくるものは何かというと、やはり年金、医療、介護などの社会保障費の給付が急速に膨らむことにともなう負担の増加である。
80年度にまだ24兆8000億円だった社会保障給付費は、10年度に103兆5000億円と100兆円の大台を突破し、12年度の予算ベースでは109兆5000億円に達した。
「今後は毎年1兆円ずつ増えていく」とアナウンスされ、その財源確保で消費税を14年4月から3%、翌15年10月からは2%引き上げることが予定されている。しかし、社会保障制度に詳しい学習院大学経済学部教授の鈴木亘さんは「焼け石に水だ」と指摘し、その理由を次のように語る。
「毎年1兆円の増加という数字は、あくまでも国の財政負担分だけ。そのほか地方の財政負担分と、国民が保険料として負担している分を合わせると毎年3兆〜4兆円ずつ増えていきます。消費税が5%引き上げられることで約13兆5000億円の財源が確保され、それを社会保障給付に充てる予定ですが、社会保障給付費の伸びが急で、数年のうちに財源不足に陥るでしょう」
仮に現在の社会保障の水準を維持したまま、政府が公約に掲げている20年時点でのプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化達成と、その後の維持・継続を行うとしたら、どのくらいの消費税率にする必要があるか、鈴木さんが自らの試算や各シンクタンクの予測値をまとめてみると、25年で20〜25%、50年には30〜40%という数字に集約されたそうだ。
もし、そうなったとすると、国民所得に占める租税負担と社会保障負担の割合を示した国民負担率も一気に上昇していく。鈴木さんの推計によると11年度に38.8%だった国民負担率は、25年に52.1%となり、50年には71.3%にまで達する。「収入の7割強を税金や社会保険料にとられてしまったら、国民の生活はさながら“生き地獄”のような状況に陥るでしょう」という鈴木さんの話に、あなたは耳を塞いでしまうのだろうか。
年金・医療や雇用の問題に詳しいみずほ総合研究所上席主任研究員の堀江奈保子さんも「主要先進国の年金の支給開始年齢は、米国が27年までに67歳へ、ドイツが29年までに同じく67歳へ、さらに英国が46年までに68歳への引き上げを決めています。税金や保険料を負担する現役世代の負担増を考えると、日本においても支給開始年齢の引き上げはやむをえないでしょう」という。
こうしたなか、持続可能な社会保障システムを構築しながら、今後30年間、日本経済がどう変わっていくのかを展望したのが大和総研だ。レポートの取りまとめの中心メンバーを務めた鈴木準主席研究員が、改革シナリオの概要について教えてくれた。
「65歳の年金の支給開始年齢の引き上げを20年度に前倒しし、31年度からは69歳支給にする一方で、70歳以上の医療費の自己負担割合を17年度から2割に引き上げます。そして、30年代初頭に消費税が20%になることを前提にシミュレーションしたのですが、それでもプライマリー・バランスの対GDP比はマイナスでした。そこで、マクロ経済スライドの強化を行い、現役世代の手取り収入に対する公的年金の支給水準を政府公約の5割から4割へ引き下げることや、私的年金の整備・活用なども追加した厳しい『超改革シナリオ』を想定しました」
その結果、プライマリー・バランスの対GDP比はようやく30年代に入ってからプラスに転じる見通しとなった。しかし、オーソドックスに予測した「ベースシナリオ」の実質GDPの平均成長率が、10年代=1.5%、20年代=1.5%、30年代=1.0%であったのに対して、超改革シナリオをとった場合には、おのおの0.3%、0.1%、0.1%ずつ押し下げ要因に働くという。
■年金の75.5歳支給で損失は約2900万円
04年の年金制度の見直しで、政府は「100年安心プラン」という“錦の御旗”を掲げ、いまだに下ろしていない。しかし、本当に安心なのか。学習院大学教授の鈴木さんが厚生年金の積立金の将来予測をした結果が図6だ。
図6 2038年に枯渇する虎の子の厚生年金「積立金」
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「青の実線が現行の支給開始年齢で行った場合の予測値ですが、38年度には積立金が枯渇してしまいます。また、国民年金についても40年度に枯渇する見通しです。04年にマクロ経済スライドが導入されたものの、高齢者の反発を恐れて“伝家の宝刀”を一度も抜けずにきた結果、すでに毎年数兆円規模で“虎の子”の取り崩しが始まっています」
その取り崩しは09年度から始まっていて、13年度の予算分を含めた補正ベースで見ると、その総額は24兆4237億円に達する。図6のグラフを指差しながら鈴木さんが続けて語る。
「現在の3年に1度のペースで支給開始年齢を70歳まで引き上げていくのが橙色の実線ですが、それでも54年には枯渇してしまいます。結局、支給開始年齢の引き上げだけで100年安心プランを実現させようとすると、赤紫色の線が示すように後期高齢者の仲間入りを果たした75.5歳にまで延ばす必要があります」
現在、夫婦2人分の標準的な年金受給額は月額23万940円で、支給開始年齢が1歳引き上げられると、その12カ月分である277万1280円がもらえなくなる。支給開始が65歳から75.5歳へ引き上げられたら、損失額は10.5年分に当たる2909万8440円にもなるわけで、該当する世代の老後のマネープランは大きな狂いが生じる。
一方、厚生年金の保険料率は04年の制度改正で当時13.58%だったものを、毎年0.354%ずつアップしていき、最終的に17年度に18.3%へ引き上げることが決まっている。この保険料率をさらにアップすることで新たな財源を確保することも可能なのだが、鈴木さんの試算によると、18年度以降も引き上げを行い、最終的に32年度に23.8%にする必要があるそうだ。
医療保険では70〜74歳の自己負担額割合について、14年4月以降、70歳になる人から5年かけて現在の1割から2割へ引き上げる見通しになった。しかし、もともと08年から実施するはずだったもので、遅ればせながら本来の制度に戻すだけ。投入していた2000億円近い国の負担が軽減されるとはいえ、社会保障にかかわる国の財政負担額である29兆4000億円から見ると微々たる額にすぎない。都道府県ごとの全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料率は健康保険法で上限が12%に定められているが、鈴木さんは引き上げが必至と見ている。
また、介護保険では「要支援」向けのサービスを介護保険から各市町村が独自に手がける事業に移し、現役並みの所得のある高齢者には自己負担額の引き上げを行う方向で動き始めている。しかし、それでも認知症などの病気に罹りやすい後期高齢者の急増にともなって財源の逼迫は避けられず、協会けんぽベースで見た1.55%の保険料率に関しても鈴木さんは「4倍前後のアップが必要でしょう」と指摘する。
こうしたなかで密かに求められ始めているのが「自助努力」だ。社会保障制度に詳しい社会保険労務士でブレインコンサルティングオフィス代表取締役の北村庄吾さんは、「12年1月から新たに介護医療保険料控除が新設されました。本来、財政が苦しい政府は税収を少なくするような制度は設けたくないはず。それをあえて行ったのは、国が面倒を見る分を減らすから、自分たちでカバーしていってほしいという意思表示なのでしょう」という。
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