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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第56回 韓国失業率の謎を探る
http://wjn.jp/article/detail/7877145/
週刊実話 2013年12月26日 特大号
韓国経済が面白いことになっている。不動産バブルが崩壊を始め、家計の負債依存の経済成長が不可能になりつつあるのだ。
韓国の国民銀行のデータによれば、'13年7月の住宅価格は前年同月比で0.72%下がり、14カ月連続の下落となった。ソウルのマンション取引量は、何と前月比で80%も減っている。
バブルが崩壊すると、国民は借金返済を始め、消費が減り始める。実際に、韓国の家計の消費性向(所得から消費に回す割合)は低下の一途をたどり、モノやサービスが売れなくなり、物価は低迷している。
何と、'13年9月以降の韓国は、3カ月連続で消費者物価指数が1%を下回ったのだ。韓国は明らかに、デフレ化しつつある。
物価上昇率が低迷する(=通貨ウォンの価値が下がりにくい)状況で、アメリカや日本が量的緩和(通貨発行)を続けているため、韓国ウォンは対日本円、対ドルで価値を上げ続けている。すなわち、ウォン高だ。国内の需要縮小、及びウォン高の打撃を受け、すでに韓国では中堅財閥が3社、倒産してしまった。
現在、韓国の大卒者の平均就職率は異常に低い。例えば、2012年の大卒者(大学院、専門大学出身者を含む)の平均就職率は59.3%だった。残りの40%は、大学を出たのはいいが「職がない」という話なのである(そして、NETTと化す)。
2013年10月の韓国の失業率は2.8%だった。失業率が2%台ということは、ほぼ「完全雇用」といってもいい水準だ。
雇用環境が「完全雇用」で、かつ物価上昇率が1%を切っている。思わず「わおっ!」と叫びたくなってしまう。韓国は国民にとってまことに「理想的」な経済環境を構築したことになる。
と、言いたいところだが、もちろんそんなことはない。そもそも、完全雇用の国で大卒の4割が就職できないなどということは有り得ない。
韓国が「低失業率、低インフレ率」に見えるのは、単に統計上のトリックを駆使しているに過ぎない。具体的には、失業率を「低く見せる」テクニックが多用されているのだ。
OECDが'13年7月16日に、加盟国の雇用情勢を分析した「雇用アウトルック2013」を公表したのだが、そこには韓国の労働事情に関する驚くべき実態がデータとして掲載されていた。すなわち「労働参加率」である。
労働参加率とは、生産年齢人口に占める労働人口の割合を意味している。生産年齢人口とは、15歳から64歳までの人口である。
生産年齢人口の中で、働く意思を持つ就業者及び失業者の合計である労働人口がどの程度の割合かを示したものが労働参加率だ。例えば、15歳以上であっても、働く意思や能力がない病弱者や学生、専業主婦は非労働力人口となり、労働人口に含まれない。
整理すると、「生産年齢人口−非労働力人口=労働人口」「失業者÷労働人口=失業率」となるわけだ。
勘のいい方はお気づきになられたと思うが、労働人口の中の「失業者」を「非労働力人口」と定義してしまうと、見かけ上の失業率は下がる。失業率とは、あくまで「労働人口に占める失業者の割合」であり、非労働力人口は失業統計の範疇外になってしまうわけだ。
労働人口ではなく「生産年齢人口」に占める「働いていない人の割合」を見れば、韓国の雇用環境の実態がわかる。
日本の場合、労働参加率は74%である。それに対し、失業率は約4%だ。
すなわち、生産年齢人口に対する失業率は2.96%。非労働人口26%(100%-74%)を加えると、我が国の生産年齢人口対失業率は約29%。日本は「生産年齢人口の内、29%(26%+2.96%)が働いていない」ことになる。
それに対し、韓国は労働参加率66.4%で、失業率は2.8%。生産年齢人口に対する失業率は1.96%。そこに非労働人口33.6%(100%-66.4%)を加えると、生産年齢人口失業率は35.6%と、日本よりも悪化する。韓国は「生産年齢人口の内、35.6%(33.6%+1.96%)が働いていない」というオチである。
生産年齢人口に占める「働いている人」の割合を「就業率」という。日本の就業率は71%(100%-29%)、韓国は64.4%(100%-35.6%)。実際には、韓国人は日本人以上に「働いていない」もしくは「働けていない」というのが真実なのだ。
韓国の雇用統計は奇妙な事例が少なくなく、例えば、
「職安から仕事を紹介されたものの、断った」
このような失業者は、勤労意欲がない者として「非労働人口」にカウントされてしまう。
労働者は、誰もがそれなりの「キャリア」「仕事の経験」を積み重ねてきているはずだ。
例えば、IT開発者として職を食んできたものが失業し、いきなり「スーパーマーケットのレジ打ち」「ビルの警備員」などの職を職安で紹介されたとして、素直に「はい、わかりました」と新たな仕事場に赴く人は少数派であろう。
ところが、現在の韓国では職安で斡旋された仕事を断った場合、自動的に非労働人口に分類されてしまうのだ。
結果的に、労働人口から失業者が「退出」し、見かけの失業率は下がる。あるいは、失業者がコンビニで週に1時間バイトをした場合、失業者ではない労働者として統計されてしまう。とにかく、韓国当局の「失業者を増やさない」姿勢は徹底している。
上記の類の「情報」を知らない場合、韓国の見かけ上の失業率が低いことを受け、「韓国経済は好調だ」と勘違いしかねない。
経済指標とは、きちんと「奥の奥」まで理解しなければ、正しい判断には役に立たないのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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