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コラム:米財政混乱でFRBが払うツケ=嶋津洋樹氏
2013年 10月 11日 18:35 JST
嶋津洋樹 SMBC日興証券 シニアマーケットエコノミスト(2013年10月11日)
米国では、2014会計年度予算と連邦債務の上限引き上げをめぐり、政府と議会との対立が続いている。今のところ、実体経済への影響は軽微とみられるが、金融市場は不安定化し、それが政治的な先行き不透明感とあいまって企業や消費者のマインドを圧迫していると考えられる。今後、時間が経過するにつれて、実体経済への悪影響も顕在化する可能性が高い。
ルー米財務長官が今月1日にベイナー下院議長(共和党)へ宛てた手紙によると、米財務省がデフォルトを回避するために実施している緊急措置は遅くとも今月17日には尽きるという。それ以降は、手元に残った約300億ドルでしのぐことになる。米議会予算局は米政府の1日あたりの平均的な税収を70億ドル、経常的な支出を100億ドルと試算。社会保障関連や国債の利払いなど、経常的な支出以外で緊急性が高く必要不可欠な資金も考慮すると、どんなに切り詰めたとしても1カ月を過ごすのがせいぜいだろう。その先には、米国債のデフォルトという事態が控えている。
こうしたなかでも市場参加者がパニックに陥っていないのは、米国のデフォルトは「絶対にあり得ない」と信じて疑っていないことに加え、「万が一」の場合でも米連邦準備理事会(FRB)が救済措置を講じると考えているからだろう。
もちろん、米国のデフォルトが実際にどのような影響をもたらすかを想像することは不可能に近いが、市場参加者はすでに米国の財政政策をめぐる混乱がFRBに資産購入(いわゆるQE)の継続や拡大を迫る可能性を意識し始めている。それは、FRBが政治の失敗に対応させられている姿を浮き彫りにするだろう。
<「雇用の最大化」期待が生むモラルハザード>
中央銀行の目的は、適切な金融政策の運営を通じて「物価の安定」を図ることだと筆者は理解している。金融政策の独立性は、そのために不可欠な制度だ。主要先進国で、この2つを備えない中央銀行は1つもないだろう。しかし、社会が複雑化するなかで物価の安定と金融政策の独立性の両者を達成することは困難になっている。このことは、世界の主要中銀がリーマンショック後に果たした役割の大きさをみれば明らかだ。中央銀行の目的達成を重視する姿勢が、金融政策の独立性を浸食するという事実は皮肉である。
FRBと同じことは欧州中央銀行(ECB)にもいえる。ギリシャに端を発した欧州債務危機は、欧州各国の政治家が同国の救済に二の足を踏んだこと、そしてギリシャが危機の原因となった財政政策の見直しに抵抗したことで深刻化。ECBは市場参加者が通貨ユーロの存続を疑い始めたことを受けて、国債買い入れプログラム(OMT)を創設し、その火消しに回った。ECBは、欧州各国の政治家が財政政策の統合に消極的だったことで生じたツケを払わされているといえる。ECBが域内各国に構造改革を促すとともに財政統合に積極的な姿勢を示すのは、ツケが膨らむことへの警戒心の表れだ。
ただし筆者は、独立性の浸食という点ではFRBのほうがECBよりも深刻な立場にあると懸念している。というのも、FRBが「物価の安定」に加え、「雇用の最大化」という責務を抱えているからだ。FRB自体が認めている通り、「雇用の最大化の水準は主に労働市場の構造やダイナミクスなどの非金融要因で決まる」というのが一般的な理解だ。にもかかわらず、「雇用の最大化」の責務を抱えるのは、得意ではないことをできると言っているに等しいだろう。しかも、リーマンショック後のFRBはそれが得意であるかのように振舞ってさえいる。
オバマ米大統領は9日、イエレンFRB副議長を次期議長に指名。イエレン副議長はバーナンキ議長の金融緩和策を理論的な側面などから支えており、市場参加者の間では今後も「物価の安定」よりも「雇用の最大化」に軸足を置いた政策運営が続くと期待されている。そうした期待は、米労働総同盟産別会議(AFL・CIO)のトラムカ議長が、オバマ大統領のイエレン氏指名を待たずに支持を表明したことで、さらに膨らんでいるといえるだろう。主に非金融要因で決まる「雇用の最大化」の達成を期待されたイエレン次期議長の船出は波乱が予想される。
このように考えると、主に金融要因で決まるとされる「物価の安定」の達成も困難との見方が多いなかで誕生した黒田日銀は、FRBやECBよりも恵まれている。安倍首相は就任当初、日銀法の改正を主張し、「物価の安定」を日銀の目標とするように迫った。そのことが日銀の独立性を脅かしたとの批判も多い。しかし、日銀の置かれた環境は、金融政策で可能なこと以上の責任を負わされつつあるFRBやECBに比べ、独立性を強める機会が残っているという意味で幸運だ。
筆者は、金融政策の独立性は法律に定めるだけで担保されるものとは捉えていない。FRBもECBも与えられた目的を達成し続けたことで、国民からの信頼に裏づけられた本当の意味での独立性を獲得した。だからこそ、国民が政治的な失敗などへの対応も期待するのである。しかし、バーナンキFRB議長やドラギECB総裁がたびたび指摘する通り、金融政策は魔法の杖ではない。すべての期待に応えようとすれば、いずれ弊害が生じるだろう。FRBが米国政治の混乱を受けて、資産購入の規模縮小を先送りするとの見方にはモラルハザード的な危うさも見え隠れする。
バーナンキ氏からイエレン氏に議長が交代するFRBの本当の課題は、金融緩和策の縮小が内外経済に与える影響ではなく、際限なく拡大する期待への対応だと筆者は考えている。
*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE99A05F20131011
アングル:米財政問題は企業にも影響、利益見通し引き下げか
2013年 10月 11日 14:08 JST
[ニューヨーク 10日 ロイター] - 今週から始まった米企業の第3・四半期決算発表シーズンでは、政府機関閉鎖と連邦債務の法定上限引き上げをめぐる問題に関する経営者の発言が最大の注目材料だ。投資家はこれに基づき、財政運営をめぐる政治対立が、今後の企業業績にどの程度の影響を及ぼすのかを探ろうとしている。
カルバート・インベストメント・マネジメント(資産額約130億ドル)の株式部門最高投資責任者(CIO)、ナタリー・トゥルナウ氏は財政問題について、現時点で数量化するのは難しいが経済や企業業績にマイナスの影響があるのは間違いないとの見方を示した。
同氏は「政治対立が解決されるまでは、ある程度の設備投資や新規雇用が先送りされるかもしれない」と述べた。
既に企業はダメージを受けており、政府との取引比率が大きい防衛や医療などのセクターは最も痛手が大きい。ゴールドマン・サックスは対政府売上高が少なくとも全体の20%に上る企業を列挙しているが、その多くは防衛・医療関連だ。
米国防総省に対する最大の兵器システム供給業者であるロッキード・マーチン(LMT.N)は、政府機関閉鎖によって約2400人を一時帰休させるとしている。
管理医療保険サービスのヒューマナ(HUM.N)とヘルス・ネット(HNT.N)は、軍人家族へのサービス提供契約において政府からの支払い遅延が起きる事態に直面していると表明した。
投資家にとって最大の懸念は、企業が第4・四半期の利益見通しを下方修正して、それが今年の株価上昇を一段と抑えてしまうことにある。
S&P総合500種.SPXは10日に大きく上昇したが、政府機関閉鎖開始以降ではなお1.5%下落した状態にある。年初来では18.1%の上昇。
BNYメロン・ウエルス・マネジメントのレオ・グロホウスキCIOは「利益をめぐる不透明感の存在が、当面警戒的であるべき理由だ。われわれは企業が示すガイダンスを注視していく」と話す。
これまでのところは利益見通しに財政問題が与えた影響は小さい。トムソン・ロイターのデータでは、S&P500種構成企業の第4・四半期増益率の最新予想は10.8%で、1日時点の予想は10.9%だった。
それでも多くの投資家は、米経済成長がまだ加速していない点を踏まえると、企業利益に関するこうした第4・四半期と来年の市場予想は楽観的過ぎると考えている。米連邦準備理事会(FRB)も9月に今年と来年の国内総生産(GDP)成長率見通しを引き下げた。
トムソン・ロイターによると、来年全体の増益率は11.4%と見込まれているが、米企業の過去4四半期の平均増益率は4.1%で、売上高の伸びは1.3%にすぎない。
フィデューシャリー・トラストのマイケル・ムラニーCIOは「GDP成長率が上向き始めるまでは、たとえ売上高目標が下げられたとしても達成されるとは思わない」との見方を示した。
バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチのアナリストチームが記したノートによると、政府機関閉鎖が2週間続けば第4・四半期のGDP成長率は0.5%ポイント押し下げられる。
これはそれほど大きな数字ではないが、政府機関閉鎖によって生み出された不透明感は消費者信頼感に打撃を与える恐れもある。
BOAメリルリンチの株式ストラテジスト、ダン・スズキ氏は「消費者信頼感が低下し始めれば、消費全般に悪影響が広がりかねない。株式市場において消費者の動向に左右されやすい分野にとってリスクであり、この分野についてわれわれは既にいささか警戒心を持っている」と指摘した。
(Caroline Valetkevitch記者)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE99A04A20131011
- FEDによるインフレ目標の実態 ゼロ下限制約下における金融政策 ポスト・ケインジアンへようこそ SRI 2013/10/14 10:57:54
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