04. 2013年7月09日 07:28:33
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日産ゴーン社長の10倍の年収を稼ぐCEO加速する米企業トップの巨額報酬と社会格差 2013年7月9日(火) 堀田 佳男 9億8800万円――。 日産自動車のカルロス・ゴーン社長(59)の2013年3月期決算期における報酬が6月下旬に公表された。 今さらこの額に驚く方は多くないだろう。ただ日本のほかの企業との比較となると、「やはりゴーン社長は稼ぎ過ぎ」との思いを抱く人は少なくない。一部メディアからは、一般社員との差があり過ぎるため社員のやる気を削ぐことになっていると指摘された。 それでは米国の現状はどうなのか。ゴーン社長の報酬額は米CEO(経営最高責任者)のトップ100位にも入ってこない。時期を同じくして米国のトップ200位が発表された。米国の稼ぎ頭はコンピューター・ソフトウェアの雄、オラクルのローレンス・エリソンCEOの9620万ドル(約96億2000万円)。ゴーン氏とはケタが1つ違う。ちなみにトップ200の平均額は1510万ドル(約15億1000万円)である。 なぜ何十億円もの報酬を企業トップが手にできるのか。そのカラクリと拡大する米国の社会格差に眼を向けてみたい。 米企業CEOの報酬が巨額である理由を端的に述べると、契約社会としての利点と歪みの両面が表れた結果を言える。ただいくらCEOと言えども、新入社員の1000倍以上の報酬を手にすべきなのか。米国の一般市民でさえ「取りすぎ」との思いを抱く人がほとんどである。 億円単位になる報酬はコンペンセーションといわれる総合的な賃金体系によるものだ。一部の日本企業で採用されてはいるが、まだ一般的ではない。これこそが、米国で拡大する格差の一因とみなされている。コンペンセーションという単語の本来の意味は「埋め合わせ」「代償」だが、「報酬」という意味もある。 コンペンセーションに含まれるのは基本給をはじめ、短期インセンティブ、ボーナス、有価証券、ストックオプション、その他すべての手当を含んでいる。たとえばニューヨークの朝晩の交通渋滞を避けるためにヘリコプター通勤をする手当なども入る。 一般労働者の1000倍の年収だったワシントン大統領 ほとんど好き放題と言っても過言ではない報酬は、役員会で認められてはいる。ただ一般社員との格差は広がる一方だ。実はこの格差は米国の誕生時からあった。初代大統領ジョージ・ワシントンの年収は1789年、2万5000ドル(約250万円)で、18世紀末の一般労働者の約1000倍である。これはワシントン大統領が定めた額ではなく、連邦議会が決めている。 ワシントン氏は大統領になる以前からすでに大富豪で、当初「大統領は一介の公僕にすぎない」として報酬を断った。だが受領しない前例を作ると、後の大統領も追随しかねないと考え、受け取ったという。 それでも19世紀末、JPモルガン社長の報酬と一般社員の年収格差は約20倍に落ち着いていた。1930年代にコンペンセーションという報酬体系が生まれ、徐々に社内格差が広がりはじめる。その背景には業績を上げれば上げるほど、企業トップの収入も増えるという考え方が流布しはじめたからだ。 ただ1970年代まではCEOと一般社員の格差は30倍程度だった。コンペンセーションもシンプルで、基本給プラス5割のボーナスといったシステムである。ところが80年代に入ってストックオプションを報酬に加えたことで、90年代には1億円を超す報酬を手にするCEOが登場した。 当時から「ミリオンダラーを得る資格があるのか」という市民からの批判の声があり、93年に連邦議会が企業役員の報酬公開を義務づけた。しかしこれが逆効果だった。企業トップの報酬額がオープンになったことで、才能のある経営者を他社から引き抜いてくるために、金額はさらに引き上げられた。ガラス張りが逆効果になったのだ。 巨額報酬が「ウォール街を占拠せよ」の背景に コンペンセーションの平均額はリーマンショック後、少しだけ目減りしたが、すぐに復活している。報酬額は企業によって計算モデルが違うが、売り上げや収益、株価だけでなく、経営者としての才覚や競合他社との優劣なども数値化されて加味される。 ちなみに、前出のエリソン氏の報酬96億円のうち約90億円はストックオプションで、現金として支給された額は6億円ほどだ。多くのCEOも6割以上を株やストックオプションという形で受け取っている。それでも一般社員からみると、取りすぎとの意識が根強い。2011年9月に始まった「ウォール街を占拠せよ」の底流には、こうした格差に不公正を感じた市民の憤懣があった。 連邦政府はこうした企業トップの法外な報酬を抑えるためのアイデアを、過去何度も試みてきた。前出の報酬公開もその1つである。しかし良い結果に終わったことはなかった。 リーマンショック後に破綻したアメリカン・インタナショナル・グループ(AIG)を覚えておられるだろうか。連邦政府はAIGが本当に倒産すると余波が大きすぎるとして、850億ドル(約8兆5000億円)の融資を決める。AIGは多額の税金を注入されたにもかかわらず、社員400人に総額160億円のボーナスを支給するのである。 日本企業であれば、こうした状況下にボーナスの支給は差し控えるだろう。だがAIGはボーナス支給を社員との契約と捉え、税金であっても企業としての契約履行を義務と考えた。つぶれた企業の言い分としては不適切で、米市民の怒りを買った。 連邦議会がここでも動いた。下院はこの400人に対して90%の付加税を課す法案を通過させた。400人のためだけの法律である。しかし、国家が一部の国民を懲らしめるために法律を作るのはいかがなものかと、上院は採決を見送るのである。バランスの力が働いた。 世界中から糾弾されたAIGのエドワード・リディ元CEOは2009年3月、連邦下院の公聴会に召喚されて述べた。 「政府から援助を受けながら社員にボーナスを支払ったのは、そうしないと優秀な幹部社員がみな辞めてしまうからです。会社を存続させるためには仕方がなかったのです」 「自分たちの利益を最優先する経営スタイルに戻った」 リーマンショック後もその考え方は変わっていない。フォーチュン誌の上級編集者であるアラン・スローン氏が述べる。 「米国の金融大手は金融危機直後、既にリーマンショック前の経営スタイルに戻ってしまいました。それは自分たちの利益を最優先にする考え方です。2番目は顧客で、3番目がそれ以外の人たちです」 米経営コンサルタントのマーク・ハダック氏が説明する。 「優秀な経営コンサルタントを他社から招く時、最優先にくるのが報酬額なのです。企業を成長させるために有能な経営トップを招く時、業績が上がったら上がっただけの手当を支給するシステムを作らないと誰も来てくれないのです」 日本企業のように、入社時から社内で育った生え抜きを社長にするのではなく、社外から有能な人物を引き抜いてくることが米企業の常道である。その時にインセンティブになるのがストックオプションを含むコンペンセーションの報酬制度なのだ。 オバマ大統領は米社会の格差を是正するために、「報酬制度の変革をする時期がきた」と述べたが、民間の給料体系を変えることは容易ではない。非常識なコンペンセーションが存続する限り、社会格差は広がりこそするが縮まることはないだろう。 アメリカのイマを読む
日中関係、北朝鮮問題、TPP、沖縄の基地問題…。アジア太平洋地域の関係が複雑になっていく中で、同盟国である米国は今、何を考えているのか。25年にわたって米国に滞在してきた著者が、米国の実情、本音に鋭く迫る。 |