★阿修羅♪ > 経世済民80 > 830.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
参院選の大争点 ブラック企業はイエスかノーか/自民党が圧勝すると、日本のブラック化が進み、労働者がボロ雑巾扱いされる
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/830.html
投稿者 ベーシックインカム@全ての人に健康で文化的な生活を 日時 2013 年 7 月 08 日 19:57:01: S27q4DRmV.QEQ
 

■参院選の大争点 ブラック企業はイエスかノーか
4日公示された参院選。「ブラック企業」の代名詞として立候補に批判があった前ワタミ会長を、安倍自民は結局、比例名簿に載せた。
つまり「ブラック企業」を肯定したのだ。
そんな自民が圧勝し、国会でねじれが解消すると、労働者にとってどんな恐ろしい社会になるのか。
有権者はよくよく考えた方がいい。

「今の自民党は正しい方向に進んでいる」

4日夕方、自民党公認のワタミ前会長、渡辺美樹(53=比例区)が、JR上野駅前で声を張り上げた。
会社帰りのサラリーマンやOLなど大勢が行き交っていたが、ほとんど素通り。
約10分の演説に耳を傾けていたのは、せいぜい20〜30人。
拍手もまばらで、公示初日にしてはお寒い限りだった。

ワタミといえば、昨年始まった「ブラック企業大賞」で、2年連続ノミネートされている。

〈365日24時間死ぬまで働け〉

社員に配布される会社の理念集にはそう記されている。
実際、08年6月には、入社2カ月の森美菜さん(当時26歳)が過労自殺した。

「渡辺氏の公認をめぐってはネットを中心に非難ゴウゴウ。自民党内でも疑問視する声が上がり、党本部にも抗議が殺到しました」(永田町関係者)

だから、参院選を取り仕切る石破幹事長も、週刊誌に〈党や私のところにも批判のメールや手紙が山ほど来ています。
(渡辺)本人にも(ブラック企業か否か)きちんと説明するように何度も言っていますし、説明が十分でないとなれば私どもも考えます〉なんて答えていた。

ところが、先月28日、美菜さんの遺族が、渡辺の公認撤回を求めて自民党本部を訪れたのに、門前払い。
説明を求める遺族の願いを聞き入れようともしなかった。
当の渡辺も4日の演説後に、「ブラック企業大賞? まったくのナンセンス。明確な基準がないまま報じられるのは、ペンの暴力」と悪びれもせずに話していた。

ジャーナリストの横田一氏が言う。
「先日、美菜さんが働いていた横須賀の店を訪ねてみたんです。店内には安倍首相と渡辺氏のポスターが並べて張ってありました。
そういう感覚の持ち主なんでしょう。
もともと渡辺氏に声をかけたのは、教育問題で意気投合した安倍首相。だから公認されたわけです。
限定正社員や解雇をカネで解決する制度の導入をもくろむ安倍政権とワタミの姿勢は、ぴったり重なり合います。
安倍自民が参院選に勝ち、ねじれが解消するというのはそういうこと。
大企業が優遇され、ブラック化が進み、労働者がボロ雑巾扱いされるということなのです。
若者の怒りが投票率アップにつながることを期待しますよ」

ブラック企業にイエスかノーか。これも参院選の大きな争点なのである。
http://news.livedoor.com/article/detail/7833246/
>自民が圧勝し、国会でねじれが解消すると、労働者にとってどんな恐ろしい社会になるのか。
>大企業が優遇され、ブラック化が進み、労働者がボロ雑巾扱いされる。
>有権者はよくよく考えた方がいい。

ほんとうにその通りだ。
こんな党(自民党)に参院選で大勝させて本当にいいのか。有権者はよーく考えた方がいい。

【補記】
参院選で、自民党が過半数を獲得した場合、実施が予想される安倍政権の政策等

●公共料金(電気・ガス・水道)&生活必需品(食品・日用雑貨・ガソリンなど)の価格のさらなる値上げ
●風邪は窓口7割負担、少額の治療費は全額負担、そして70〜74歳も75歳以上も1割→2割負担(産業競争力会議【議長・安倍晋三首相、3月29日】で報告された内容)
●増税・増保険料(現時点においても、健康保険料の大幅値上げに役所などに問い合わせや苦情が殺到しているという。負担額倍増以上の人も多数)
●「死亡消費税」導入(金持ち以外からも、税金をブン捕ってやろう、ということ。早い話、控除のない相続税の拡大)
●年金支給年齢68歳引き上げ (2004年に約束した「100年安心プラン」はどうなった!自民党政権は詐欺だ!)
●失業手当受給資格要件厳格化等(受給に必要な被保険者期間6か月→12か月、加入要件31日以上雇用見込み→6か月以上雇用見込み、給付日数短縮)
●残業代ゼロ法案(ホワイトカラー・エグゼンプション制度)
●日本全国の“ワタミ化”いや“ブラック化”か(「365日24時間、死ぬまで働け!」【自民党比例区候補の渡邊ワタミ会長】 )
●「限定正社員」制度(事実上の「正社員の非正規労働者化」→非正規労働者の拡大→貧困層のさらなる増大へ)
●生活保護法改悪(“水際作戦”合法化、扶養義務強化。困窮しても、事実上、利用できない制度へ。“最後のセーフティネット”は生活保護制度から刑務所へ!?)
●児ポ法改悪(単純所持逮捕、アニメ漫画規制等)
●憲法第96条改悪(憲法改正手続きを定めた憲法第96条の改悪は、自民党・維新が目論む国民の権利・自由を奪う「憲法の全面改正」への突破口として利用される)
●原発推進(原発再稼働、新増設、そして原発輸出【注】すでに、安倍首相は、原発輸出の「トップセールス」にまい進中)

自民党に投票する人は、以上の政策の実施に賛成だから、投票するのだろうか?
自分の暮らしはよくなったのか。
あるいは、上記の政策を実施すれば、自分の暮らしはよくなるのか。
よく考えて投票することをお勧めしたい。

自民圧勝なら社会全体が暗黒化 大企業が優遇され、ブラック化が進み、労働者がボロ雑巾扱いされる。
ブラック企業にイエスかノーか。これも参院選の大きな争点なのである。

【補記2】
社説:アベノミクス 国民主役の成長戦略を/安倍政権の本質は、たった1%の富裕層のための政治(トリクルダウン経済理論)
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/588.html
社説:エネルギー白書―しっかり色付きですね/安倍政権は、原発推進政権だ!
http://www.asyura2.com/13/genpatu32/msg/295.html
佐田玄一郎議運委員長「議員実績ないがあっちは大好き」20歳女子大生と4万円でエッチ2発/こんな党(自民党)には投票しない
http://www.asyura2.com/13/senkyo150/msg/487.html
証券役員 アベノミクスの“恩恵”/報酬1億円超続々/大手2社 2人→10人に/その一方、低所得層の家計は苦しくなるばかり
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/804.html
自民党・石破議員が女をおねだりしてSEXか?(月刊噂の真相)
東ドイツ秘密警察「石破茂氏は北朝鮮で美女をあてがわれた」(週刊現代)
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/giin/1297009422/l50
風邪は7割負担に!?アベノミクスで医療破壊
http://ameblo.jp/takumiuna/entry-11529746250.html
本誌が追い詰めた安倍晋三首相「相続税3億円脱税」疑惑
http://www.asyura2.com/07/senkyo41/msg/1134.html
立花隆『週刊現代』に寄稿 安倍首相「三億円脱税疑惑」水面下の攻防 (権力とマイノリティ)
http://www.asyura2.com/07/hihyo6/msg/451.html
自民、国有地「未納15億円」告発された! (日刊ゲンダイ) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo150/msg/331.html

■いかがわしい安倍晋三の側近・西村康稔のベトナム買春を相手ホステスが告白
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20130627/1372342644
■安倍側近・西村康稔副大臣 ベトナム買春を相手ホステスが告白! (週刊文春) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo149/msg/838.html
■安倍晋三首相側近の徳田毅、西村康稔、佐田玄一郎の弛み切った秘部に「3本の矢」が命中し政権の前途に暗雲 (板垣 英憲) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo149/msg/891.html
■自民議員買春と慰安婦否定の関連 連中が中枢にいる安倍内閣の腐敗 (日刊ゲンダイ) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo150/msg/216.html
■安倍政権の火種、自民党幹部に相次ぐ売春疑惑…1回20分×2でお値段4万円?
http://biz-journal.jp/2013/06/post_2398.html
■「2人とも安倍首相の側近である。自民党とは幹部にこういう人物のいる党である−買春事件:平野 浩氏」 (晴耕雨読) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo149/msg/883.html

■《安倍内閣徳田政務官辞任(自民党)》「泥酔状態で無理やり性的関係」と主張 当時19歳女性が提訴、1千万円で和解成立 
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/557.html
■徳田虎雄Jr. 女性問題で辞任 政務三役のスキャンダル連続炸裂のウワサ (ZAKZAK) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/494.html
■自民党「徳田毅」代議士が慰謝料1000万円の「未成年女性」泥酔姦淫 週刊新潮
懲役5年の「内柴被告」と同じ穴の「国土交通大臣政務官」
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/544.html
■懲役5年の内柴正人とどこが違う?政務官辞任の徳田毅「嫌がる19歳泥酔させて性行為」(J-CAST)
訴状に「泣きながら『やめてください』と繰り返したが、原告は被告の着衣を脱がせ…
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/659.html
■徳田性暴力:追及へ女性有志の会!/維新なぜか賛同者ゼロ!(京都政経調査会)
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/753.html
■徳田前政務官 2000万円迂回寄付発覚 オンナの次はカネだ。(日刊ゲンダイ) 
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/894.html
この行為が行われたのは徳田議員の新婚時代で、盛大な披露宴から半年あまりのことだったというから、
徳田議員のモラルの低さは人並み外れているといえるだろう。…
新潮はこれをもって、(自民党の徳田前政務官について、)先日、準強姦罪で実刑判決を受けた内柴正人被告と同様である、と一刀両断している。
http://news.livedoor.com/article/detail/7384832/

■前出の森田実氏は「持たざる者、恵まれない人々に光を当てるのが、本来の政治家の務め。
腐りきった自民党の体質こそ、参院選の第一の争点にすべきです」と言っていたが、本当だ。
異常な女性観に支配されたモラル無き政治家を許していいのか。
有権者は今度の選挙でキッチリと答えを出すべきだ。
http://asumaken.blog41.fc2.com/blog-entry-9196.html

大半の国民にとって、自民党に投票するということは、自分で自分の首を絞めるようなものだろう。
参院選で自民党に一票を入れようと考えている有権者は、よくよく考えた方がいいと思う。  

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2013年7月08日 20:30:02 : NdgqsTj8jc
生活保護者には、パチンコするなと言い

国会議員は、歳費で売春(買春)

税金で、売春(買春)するな!! 

倫理の欠片も無い連中(自民党)に政治を行う資格無し


02. 2013年7月08日 20:52:12 : nJF6kGWndY

>自民党が圧勝すると、日本のブラック化が進み、労働者がボロ雑巾扱いされる

自民党が勝っても

多少、格差が拡大し、日本の景気と財政は良くなるだろうが

共産党や社民党以外なら、どこが政権を取っても、そう悪くはならないだろう

いずれにせよ、景気を悪化させる規制や既得権優遇措置を温存し、実質経済成長せずに、老人や貧困層に再分配ばかりしていれば、正規労働者が、貧しくなることには変わりない

あとは、その速度の違いだけだ


03. 2013年7月08日 21:00:49 : zKbzRSxHCY
それでも多くの人は自民党になんとなく投票してしまうのか?

私はアカではないが、反対票としての共産党以外に、入れたい候補者がいない。

その候補者もちょっとな感じで、どこにも入れたくない
候補者ばかりだ。


04. 2013年7月09日 00:14:22 : SdfUdgXTYc
>>02
よくならないよ。
そもそも、財政をこれだけ悪化させてきたのは、自民党じゃないか。

法人税や所得税率の最高税率を下げる一方で、
巨額の公共事業とシロアリ官僚主導の補助金行政で、
国民が納めた税金や保険料を大量に無駄にしてきた。

しかも、自民党は過去の失政をまったく反省しないどころか、
相変わらずの旧態依然の利権政治。

自民が4.7億円献金請求 日建連にアベノミクス推進掲げ
http://news.livedoor.com/article/detail/7826385/
大量の国債発行、巨額の無駄な公共事業、シロアリ官僚主導の補助金垂れ流しのアベノミクスのツケは、
いずれ大増税・社会保険料大幅引き上げ、そして社会保障大幅削減という形で、国民に回される。


05. 2013年7月09日 00:51:04 : CxfDVCf636
バブル崩壊時に財政出動しなければ信用収縮が激しくなり経済規模が大幅に
小さくなっていた可能性がある。
国民の金融資産が多いのも財政出動でデフレの悪化を抑えてきたからだと思う。
問題は財政出動の恒常化で官民共にモラルハザードを起こし生産性向上や
規制緩和を真剣に取り組まずに既得権益の保護を優先し財政を悪化させ続けた事だ。
年金や社会保障改革、消費税増税を先延ばしにすれば金融機関はリスクを回避する為に
日本国債は日銀が買い取りを続けざるを得なくなるだろう。
財政ファイナンスでインフレを悪化させて財政を助けるのか
年金や社会保障改革、消費税増税で財政を助けるかの違いにしかならない。
庶民はどのみち茨の道を進む事になる。
簡単で苦しくない都合のいい解決策が有るなら教えて頂きたい。



06. 2013年7月09日 04:18:49 : SdfUdgXTYc
自民党 土建屋に請求した「4億7100万円」
税金の大盤振る舞いで巨額のカネをせびる
「まるで請求書。巨額の公共事業の見返りに献金を求めることは、最悪の利権政治だ」
わいろの要求とどこが違う?
自民党は昔ながらの利権政治にまっしぐら。
土建屋と持ちつ持たれつのただれた関係が復活しつつある。
これでは、日本を取り戻すという文言がむなしく響くばかり。
「古い自民党政治を取り戻す」の間違いじゃないのか。
汚職栄えて国滅ぶ――。
それでも日本人は安倍自民党に一票を投じるのか。
だとしたら、日本人はみんなマゾヒストだ。(ゲンダイより一部引用)


何が「アベノミクス」だ。
何が「成長戦略」だ。
ふざけるな!
まず、自民党は、利権政治をやめて、いままで無駄遣いした税金をすべて返せ!

自民、国有地「未納15億円」告発された!
http://news.livedoor.com/article/detail/7829936/
これじゃあ、巨額の税金泥棒と同じ。
民間人が巨額の国のカネを勝手に踏み倒したら、強制退去を命じられるのだから、自民党だけ特別扱いは許されない。


07. 2013年7月09日 07:18:29 : niiL5nr8dQ
【第1回】 2013年7月9日 吉田典史 [ジャーナリスト]
昼夜を問わぬ異常な激務を同僚でさえ見て見ぬふり!
夫の過労死をめぐって組織の闇と戦った妻の25年間
今、ビジネスマンは喘いでいる
俯瞰的な報道で真実はわからない

 企業で働くビジネスマンが喘いでいる。職場では競争原理が浸透し、リストラなどの「排除の論理」は一段と強くなる。そのプロセスでは、退職強要やいじめ、パワハラなどが横行する。

 最近のマスメディアの報道は、これら労働現場の実情を俯瞰で捉える傾向があるように思える。たとえば、「解雇規制の緩和」がその一例と言える。事実関係で言えば、社員数が100以下の中小企業では、戦前から一貫して解雇やその前段階と言える退職強要などが乱発されている。解雇にまつわるトラブルは、決して新しい問題ではない。

 にもかかわらず、こうした積年の課題が深く吟味されないまま、「今の日本には解雇規制の緩和が必要ではないか」という論調が一面で出てくることについては、理解できないものがある。

 また、社員に低賃金での重労働を強いる「ブラック企業」の問題も、あたかも特定の経営者が率いる企業で起きている問題であるかのように、型にはめられた批判がなされる。だが、バブル崩壊以降の不況や経営環境の激変の中で、そうした土壌は多かれ少なかれ、世の中のほとんどの企業に根付いていると言ってもいい。

 これまでのようにメディアが俯瞰でとらえる限り、労働現場の実態は見えない。筆者の持論であるが、会社は状況いかんでは事実上、社員を殺してしまうことさえある。また、そのことにほぼ全ての社員が頬かむりをし、見て見ぬふりをするのが現実だ。職場で行われる退職強要やパワハラについて、大半の社員は沈黙を守り、企業内労働組合は抵抗することすらしない。こうした劣悪な労働現場には、社員を苦しめる「狂気」が存在するのだ。

 この連載では、理不尽な職場で心や肉体を破壊された人々、最悪の場合はそれがエスカレートして死に至った人々やその遺族などに取材を試み、彼らの横顔を浮き彫りにしていく。そして、踏みにじられた人々が再生していくプロセスにも言及し、転機を迎えた日本の職場が抱える問題点や、あるべき姿を提言していきたい。

 連載第1回は、ブラック企業で働く若者などを中心に、現在も水面下で増え続けている「過労死」問題に焦点をあてる。日本で過労死認定がなされ始めた頃に話題になった事件の被害者家族は、今、どんな思いで日々を過ごしているのだろうか。

後を追って死ぬことができたら
どれだけ楽なことか……。


夫を過労死で亡くした馬淵郁子さん(渋谷にて)
「私は許していない。私の心は、あのときに死んだの。遺族の心は、何十年経っても癒えない。彼は、殺されたのだから……」

 馬淵郁子さん(73歳)は、夫の死についてゆっくりと話す。英語に堪能で、時折横文字を交えて説明する。

「あのときは、夫の遺体を前に何が何なのか、わからなかった。彼の書いたものを見ることができるようになったのは、12年後だった……。その頃に『もう、私たちのところに帰ってこないのね』としみじみ思った」

 夫のカンラスさんは1988年7月、心臓発作(虚血性心疾患)により死亡した。61歳だった。65歳の定年を4年後に控えていた。夫の死は1990年、過労死に認定された。都内では初めての認定(中央労働基準監督署)であり、全国では2人目だった。

 夫が死亡し、4ヵ月が過ぎようとした頃、次女(当時13歳)が作文を書いた。その一部を抜粋し、紹介したい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『見ていてください、天国のパパ』

 父が亡くなって四か月がたとうとしています。あっという間でした。今では家の中がとても寂しくなりました。

(中略)

 パパが亡くなってからというもの、食事らしい食事があまり食べられません。最近は、母に文句を言って、ちゃんとした食事を作ってもらいます。

 でも、ほしいものでも少しがまんをしています。中一の私には、ほしいものがたくさんあります。自転車・ステレオ・洋服etc…。けれど、もう楽ができないということを自分で判断しています。

 母が働いて、姉がバイトをして今やっとこ生活ができるくらいです。でも、私はパパがいなかったと言ってひもじい思いをするのはいやです。パパがいたから楽な生活ができたことは感謝しています。

(中略)

 今はまだ無理かもしれないけど、絶対お母さんを楽にさせてあげたいです。お姉ちゃんの結婚する姿、孫、見たかったと思います。けれど、もう見れません。

(中略)

 父のお葬式、初七日、四十九日、母は父のためにどんなお金も出しそうです。

 生活がどんなに苦しくなっても、父にはずかしくなくすることが、一番やることなんです。これからも、母を柱として、頑張っていきたいです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「泣けるのはまだ余裕があるから」
突然、夫の死を告げられた妻は……。

 死は、急に告げられた。

 1988年7月2日の午前3時、万世橋警察署(千代田区)から自宅に電話が入る。警官は「遺体の確認に来てほしい」と言う。馬淵さんは夜の明けた後、駿河台日大病院(千代田区)に駆け込んだ。夫が横たわる。冷たくなっていた。

「涙が出なかった。泣けないのよ……。泣けるのは、まだ余裕があるからだと思う」

 夫は外資系海事会社の日本支社で、鑑定人(サーベイヤー)として働いていた。その日は、千葉県君津市の港で仕事を終え、JR秋葉原駅で最終の山手線に乗り換えようとした。そのとき、心臓発作に襲われ、息を引き取った。

 馬淵さんは、遺体をみつめながら「過労死」であることを確信した。その場には、上司も駆けつけた。動揺していたという。

 馬淵さんは、その場で思った。過労死であることを会社や行政に認めさせたい、と。それが、夫の無念な思いを晴らすことになる。その場で怒りをぶつけることはしなかった。

「業務上の死であり、過労死であることを認めさせるまでは……。そのためには、会社に様々な書類を提出してもらわないといけない。同僚らの証言も必要になる」

 馬淵さんは、冷静であり続けた。過労死の認定を勝ち取ろうと、署名集めをする。

「こういう死を許してはいけない。会社はあれほどまでに酷使し、いざ死んでしまうと、業務上の死とは認めない。それは、あまりにも不合理……」

 馬淵さんは農業団体で働き、2人の娘を養いながら闘いを続けた。当時は過労死の存在すら、社会で広く知られていなかった。

深夜であろうと休日であろうと出社
「会社はスレイブ・ドライバーだ」

 夫の職場でのニックネームは、「プロフェッサー」(教授)。生前の写真を見ると、温厚で誠実で、インテリな雰囲気を漂わせる。フィリピンで生まれ育ち、母国語のビザヤン語を始め、英語やスペイン語、インドネシア語などに精通していた。

 馬淵さんは写真に視線を送り、少し照れ笑いをしながら話す。

「私が当時、50歳。一回り近く年上で、寛大な人だった。彼は心が広い人だから、頼り切っていた。それだけに、彼を失った喪失感は……。後を追って死ぬことができたら、どれだけ楽なことかと思った。けれど、2人の娘(当時18歳・大学1年と13歳・中学1年)がいたから、無責任なことはできない」

 夫は23年間、船の航海士をしていた。船長の資格も持っていた。40代からは、アメリカに本社のある外資系海事会社の日本支社で、鑑定人(サーベイヤー)として働いた。

 港に停泊する船に泊まり込み、船荷、船体、海上火災などの鑑定業務を厳密に行い、鑑定報告書をつくる。

 責任感の強い夫は、仕事に邁進した。船に事故があれば、深夜であろうと休日であろうと職場に向かう。ときには飛行機に乗り、港に向かう。そのような出張から戻ると、夜遅くまで報告書などをつくる。

仕事が押し寄せ、家に持ち帰る
妻が手伝うほどの激務が15年間も

 馬淵さんは、25年前の、6月25日のことを最近のことのように話す。

「寝ようとしてベッドに横たわった後も、仕事のことが気になるようだった。起き上がり、着替えて着替えて君津の港に向かった。仕事を断ることができない性格だったの。長時間の過密労働と、ストレスも大きかったと思う」

 死亡する前の15年間は仕事が押し寄せ、家に持ち帰り、馬淵さんが手伝うほどだった。上司からの指示のものもあれば、取引先から指名で依頼を受けることもあった。 

 日本支社には50人ほどの社員がいたが、夫は語学に堪能で、鑑定や報告書の作成などに慣れているために、その代わりになる人が見つからない。

 さらには、社内には労働組合がない。入社時には、人事担当者などから社外の労働組合には入るべきではないと言われていたという。仕事は、夫に集中する。いつも、夫は「会社はスレイブ・ドライバー(奴隷使い)だ」と家で漏らしていた。亡くなる2ヵ月前には、「もう、辞めたい」と口にしていた。

 部長からは休日、家にまで電話があり、仕事の指示がなされた。馬淵さんは夫の身を案じ、居留守を使うこともあった。それでも、夫は休日を返上し、現地に向かう。仕事のスキルが高いがゆえに、次々とこなす。すると、一層仕事が増えていく。また、休日に家に電話が入る。そして出社する。この繰り返しだった。

 馬淵さんは見るに見かねて、「もう、辞めなければダメ」と説得する。しかし、夫は自分の代わりがいないと、仕事を引き受ける。

 大きな病気を患うことはなかったが、晩年は血圧がやや高かった。夫の死後、馬淵さんは、夫が受けた会社の健康診断の結果を3年分、提出することを求めた。高脂血症と胃炎になっていることを知った。

「鑑定のときには、30メートルほどの船底に降りていく。あの頃は、タバコを止めたこともあり、やや太り気味だった。階段の上り下りが心臓などにも負担になり、心拍数が上がっていたんじゃないのかな。徹夜も多かった……」

上司に呼び出された夫の「最後の姿」
電話をしても取り次いでもらえない

 1988年6月26日、日曜日。2人の上司が、3分おきに家に電話をしてくる。緊急で千葉県君津市の港に向かってほしいという指示だった。

 夫は翌朝早く、君津港から都内の大井ふ頭での鑑定に向かい、その後、君津に戻った。馬淵さんはつぶやく。

「あのとき、行くことを止めておけばよかった……。今でも、常に後悔している」

 君津で検査する船荷は、鋼材だった。検査は雨が降らなければ、3〜4日で終わる。だが、夫からは電話がこない。

 このようなことは、初めてだった。馬淵さんは心配し、会社に1日に3回ほど電話を入れる。「夫を帰してほしい」。電話に出る社員は「カンラスさんは仕事が忙しく、終わらない」と返答する。

 当時は、携帯電話がない。下船して、電話を入れる時間すらないくらいの忙しさだった。仕事はさらに延びる。1週間にわたり船に泊まり込み、対応した。徹夜の作業もあった。

 ようやく、仕事を終えたのが7月2日。夜10時20分、夫から電話が入る。「君津にいる。これから帰る」。これが、夫婦の最後のやりとりになった。夜半過ぎ、JR秋葉原駅の構内で心臓発作に襲われ、息を引き取った。

過労死の認定書をとるべく奔走するも
夫と仲の良かった同僚らは知らん顔

 馬淵さんは、過労死の認定を勝ち取ることが「自らの使命」と信じた。労災の申請を受けた労働基準監督署は、夫の仕事の状況、労働時間、病歴などを調査し、業務上か業務外か(労災にあたるかどうか)の判断を行う。

 馬淵さんは、夫の仕事の状況を証明した書類や陳述書の提出を会社に求めた。それらを確認すると、事実関係として誤りが多かった。誤りがみつかるたびに、修正を求めた。

 その頃、夫が3人分のサーベイヤーの仕事をしていたことを知った。会社は、そのことを隠していた。

 業務上の死であることを立証するために、夫の同僚らに証言を依頼したが、難航した。同僚には、馬淵さんが書いた報告書にサインをしてもらうことを求めたが、なかなか承諾をしない。

「夫と一番仲がよかった人たちから、証言を得ることが最も難しかった。協力すると、会社から睨まれて災難がふりかかると思っていたのかな……」

 少し考え込む表情を見せて、話す。

「あのときに痛感した。会社って、組織って本当に冷酷……。会社員が自己保身的になり、会社の上の人たちは社内のことを必死に隠そうとする。これは、世界の国々で見られること。だけど、日本ほどひどい国は少ないと思う」

会社って、組織って本当に残酷
日本の社会は根底に愛が足りない

 馬淵さんは、いざとなると日本人の多くの会社員が、自己保身のあまり、職場の不当な行為を覆い隠す傾向があることは、宗教観と関係があると指摘する。

「宗教観が他の国と比べると、希薄だから、他の人への愛がないように見える。日本の社会はその根底に、愛が足りないように思う」

 馬淵さんは過労死の認定を得た後、1990年5月、「東京過労死を考える会」を結成した。さらに1991年に「全国過労死を考える家族の会」を結成した。そして、過労死で死亡した人の遺族から相談を受け始めた。遺族は、うつ病になる人が多かった。「自殺をしたい」と漏らす人もいた。「遺族ならば、それが普通のこと」と説明する。

 過労死の遺族からの相談を受ける際、自分が会社と交渉していた頃を思い起こすことがあった。 

「大企業も、証拠書類はなかなか出さない。タイムカードすら提出しない。ときには偽造をする。社員も証言することを拒む。自分には、過労死が降りかからないと思い込んでいる……。会社という組織は冷酷なの」

 また、世の中の過労死の実態は、夫が死亡した25年前と比べて悪化していると見ている。

「社員がリストラなどで減り、1人が抱え込む仕事量が増えている。しかも、仕事ができる人に集中する。そして、パワハラがエスカレートする。社員や企業内労働組合は何も言わない。サービス残業なんて、勤務の記録にすら残らない。これでは認定もされない。私には、実質的な殺人に見えるの。人が死んでいるんだから……」

 夫を亡くした直後(1991年11月)、他の遺族らと無念な思いや、喪失感、空しさなどを赤裸々らに綴ったのが、『日本は幸福(しあわせ)か―過労死・残された50人の妻たちの手記 』 (全国過労死を考える家族の会 )だ。当時、静かに話題となった。54人の未亡人の声なき声に目を通すと、職場のあり方は今も何も変わっていないことがわかる。

 馬淵さんは「過労死防止基本法」制定に向け、100万人の署名を集めている。現在、44万に達した。超党派の国会議員に制定を呼びかけ、制定に向けて、同制定実行委員会が闘いを展開中だ。

 25年前は、日本で「過労死」という言葉が知られるようになった時期であり、その後、精神疾患などになった挙げ句の「過労自殺」といった言葉も浸透し始めた。これらの事件の労災申請は、過去最多の水準で推移している。今年5月には、国連が日本政府に対して、過労死防止対策の強化を求める勧告を出している。

 忘れてならないのは、25年前よりは労災認定の基準などが緩和されてはいるものの、闘うことを諦め、泣き寝入りをした遺族が相当数に上っていることだ。さらに、一部の企業が「生活保障金」などといった名目で、一定のお金を遺族に支払い、死に至った経緯などを封印したケースもある。

 これは決して他人事ではない。現在、「ブラック」と呼ばれる職場で理不尽な働き方を余儀なくされている社員も、こうした「過労死事件黎明期」のケースを紐解きながら、日頃から対策を考えておいたほうがよかろう。

踏みにじられた人々の
崩壊と再生

 この連載では毎回、記事に登場する取材対象者の「崩壊と再生」を私なりの分析で捉え、記事末で述べることにする。今回は、25年以上の長きにわたって、馬淵さんがかつての夫の会社に厳しい眼差しを向け続ける背景を私なりに考えてみたい。それは、過労死が家族の心にいかに深い傷を残すか、ということへの問題提起であり、その課題が解決しない限り、遺族の再生は始まらないと言える。

1.死者や遺族の尊厳を
徹底して否定する社会への怒り

 馬淵さんの話をうかがうと、2年前の震災で家族を失った一部の遺族とオーバーラップするものが多かった。震災後に筆者が取材した遺族は、子どもを死なせた幼稚園や小学校などに異議申し立てをしていた。家族の死は「自然災害」によるものではなく、「人災」だったというものだ。

 馬淵さんも、夫の死は心臓発作によるものと心得ながらも、「死に追いやる何かがあった」という疑いを持った。そして、労災認定を勝ち取るために動いた。

 遺族が不信感を持ち、怒りを持つ大きな理由の1つはここにある。死に至る状況をつくりながらも、組織が真相を封印しようとする。経営陣や社員らは御身が大事と言わんばかりに無関心を貫く。

 生前は、死亡した社員(家族)を散々利用しておきながら、死後は一転してその社員がいなかったかのように扱う。そこでは、死んだ人やその遺族の尊厳が徹底して否定される。ここが、大きな問題なのだと思う。

 この極端な組織防衛や自己保身には、職場や社会から強い批判が浴びせられ、歯止めがかからないといけない。しかし、私が知る限り、そのような人はごく少数だ。

 馬淵さんは取材で、「日本の社会に愛がない」と指摘する。その愛は、不当な行為などを許さない、という意思と置き換えてもいいのかもしれない。馬淵さんが怒りを持ったのは、会社や行政だけではなく、日本の社会や日本人の意識のあり方だったのではないだろうか。

2.過労死を生みながらも
誰にも何も言わせない構造の矛盾

 生前、馬淵さんの夫には仕事が集中した。3人分の仕事をしていた。言い換えれば、社員の仕事の量や担当する仕事、つまりは職務範囲、そして配置転換や人事異動、ノルマ(目標)、人事評価などを経営サイドが自由に扱える構造がある。

 過労死を生む理由の1つは、ここにある。社員の仕事の量や担当する仕事にチェック機能が働かない。せめて社員の仕事の量や担当する仕事、そして配置転換や人事異動などについては、労使双方でもっと丁寧に話し合い、相互理解を進める必要がある。

 現在は、大企業から零細企業まで、社員が担当する仕事の範囲や量、ノルマなどは経営サイドのやりたい放題と言える。それに社員が抵抗できないからくりもある。人事評価には、かつては「情意考課」、今では「行動評価」が盛り込まれている。

 つまり、「協調性」「規律」「積極性」「リーダーシップ」などである。これらの評価項目があると、はむかう社員を「協調性がなく、規律を乱す」として排除することもできる。

 大企業では、遅くとも1980年代前半には成果主義的な人事評価が始まっている。30年以上が経っても、経営サイドはこれらの「行動評価」を評価項目から外さない。中には「自己啓発への取り組み」といった項目に、「行動評価」を巧妙に忍ばせている企業もある。

 こうして生活態度や私生活に介入し、ある意味で拘束をし、経営サイドに言いなりになる社員を育成しようとしている。

 ここ十数年、企業が唱えた「会社員よ、プロフェショナルになれ!」といったスローガンの矛盾は、ここにある。本当に職業意識を持った職業人にしていこうとするならば、生活態度や私生活に介入する「行動評価」は止めるはずである。ところが、それを30年以上手放さない。

 一方で、社員の仕事の量や担当する仕事、そして配置転換や人事異動、ノルマ(目標)、人事評価などを経営サイドが自由に扱う構造は温存させる。ここに優秀な人に仕事が集中し、過労死になったとしても、誰も何も言えない構造がある。

 馬淵さんの夫は、こうした因習の犠牲になったと言えないだろうか。


08. 2013年7月09日 07:20:23 : niiL5nr8dQ
【第45回】 2013年7月9日 江上 剛 [作家]
其の45「論語」を読む。
やる気が起きない停滞期をどう過ごす?
 窓の外は、しくしくと雨。うっとしい天気だ。雨が降っているのにもかかわらず、むしむし。首筋にたらーりと汗。

 満員電車に乗ると、スマホをいじっていた若い女性が露骨に嫌な顔を向ける。汗臭いのかな?まさか加齢臭?

 これから暑くなる。歩くたびに汗でワイシャツはびしょびしょだ。自分でも気持ち悪いのに、身動きしようのない混雑した電車の中で若い女性に自分の汗が降りかかろうものなら、身体を汚したと傷害罪?で訴えられかねない。

 ああ、こんな嫌な思いをしても働かないといけない。朝、起きると、毎日がブルー・マンデー状態。どうにも動きたくない。栄養ドリンクを飲もうが、体操しようが、ダメなものはダメ。

 体調が思わしくなくても、気候が悪くても、評価されてさえいれば、なんとかベッドを離れて、会社に行くことができるが、評価されていなければ、もはやどうしようもない。

 評価されていなければ、やる気が起きない。人生の停滞期だ。

 誰にもこんな時期がある。停滞期のない人はいない。そこをどう過ごすかで、次のステージが決まってくる。

停滞したら「休む」に限る

 銀行に勤務していた頃、すごい話を聞いた。私が勤務していた第一勧銀(現みずほ銀行)は、合併銀行だったのでいつも派閥争いをやっていた。旧第一銀行と旧勧業銀行とで。

 その人は、旧第一銀行の出身だったのだけれど、どうにも仕事のやる気がなくなってしまった。意欲減退の停滞期に入ってしまった。理由は、派閥争いに巻き込まれ、そのあまりのくだらなさにげんなりしてしまったのだ。

 サラリーマンをやっていると、まわりのくだらなさに自分を合わせているうちに、とことん疲れてしまうことがあるが、そういう状態だ。

 彼は、先輩に相談した。

 彼 「どうしたらいいでしょうか?」。
 先輩「休め」。
 彼 「えっ、休むんですか?」。
 先輩「しばらく銀行に来るな。そのうち上司も変わるし、お前にもやる気が出るから」。

 彼は、先輩のアドバイスに従って、数ヵ月も休んだ。仮病だよね。いい時代だったともいえるが、休んでいる間に派閥争いをしていた人たちがいなくなり、彼が職場に復帰した時は、すっきりしていたそうだ。その後、彼は出世して専務にまでなった。

 停滞したら「休む」に限る。これが鉄則なのだろう。

明日のことまで思い悩むな

「天下を取るは、常に無事を以てす」(老子)

 無為を説いた老子も天下を取るには、とにかく何もしないことだ、あるがままにまかせることだと言っている。

 人というのは、とかく知恵が回り、欲があるから、なにかとやりたがる。それがストレスになり、かえってやる気がなくなり、停滞期に入ってしまうというわけだ。彼に対して先輩が「休め」と言ったことは、非常に素晴らしいアドバイスだったのだ。

「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である。」(マタイによる福音書)

 イエスの言葉で最も有名な言葉の一つだ。明日のことまで思い悩むなという姿勢がサラリーマンには重要だ。

 面倒なこと、苦労させられること、やる気を阻害させられること、いっぱいわが身に降りかかる。どうしようもない。判断ができなくなる。これが気分をブルーにさせる。そんな時、明日のことまで思い悩むなと、一旦、全てを自分から切り離してみよう。そうすると、ぐっすり眠ることができる。そうなれば翌朝は、やる気が回復しているだろう。この言葉も、頭や心を休ませることが大事だと教えてくれている。

 中国の古典に「泥魚」というものが出て来る。この魚は川の水が豊富な時は活発に泳ぐが、乾期になり、川の水が干上がると、泥の中でじっとしているのだそうだ。水が無くなったからといって他の魚のように、水を求めて、慌てて動きまわらない。だから不死身なのだそうだ。「休む」ということが如何に大事かということを教えてくれる魚だ。

自分の貧しさを憎む者は道理を外す

 しかし、孔子は、とても真面目だから、なかなか休めとは言ってくれない。

 学問をする人は、「食飽くことを求むるなく、居安きを求むるなく」(学而第一)してがんばらにゃいかんという。

 すなわち美味しいものを食べたいとか、いい家に住んでゆっくりしてちゃダメというのだ。ちょっとワーカホリック的だが、これもいい。ひたすら何も考えずに、励むということはストレスをためない第一歩とも言えるからだ。

 さらに

「勇を好んで貧を疾(にく)めば乱す」(泰伯第八)

 とも言っている。

 これなんかは、「休め」と言っているようなものだ。むやみやたらと勇ましく、血気盛んで、自分の貧しさを憎む者は、道理を外れてしまう。これを仕事に置き換えてみると、出世したいとか、成果を上げたいとか、自分の立場をなんとかしようと焦りまくって、血気にはやり、色々騒いでいると結局、道を外してしまうよということだろう。

 ちょっと牽強付会なところもあるが、「休む」効用を説いていると言えなくもない。

 しかし、そんな「休む」なんてことをしたら、ポストは無くなるし、失業してしまうかもしれないじゃないかと、心配になる。大丈夫。こういう時こそ、世になかなか認められなかった孔子はいいことを言っている。

「爾(なんじ)の知る所を挙げよ。爾の知らざる所は、人其れ諸(これ)を舎てんや」(子路第十三)

 孔子が愛する仲弓が宰相となった時、彼が孔子にアドバイスを頼んだ。孔子は、色々とアドバイスをするのだが、その中で賢才(人材)を登用しなさいという。仲弓が、あらゆる賢才を知るわけにはいかないので、どうしたらいいですか、と聞いた。すると孔子は、あなたが知っている賢才を登用すればいい、という。その理由は、「人其れ諸を舎てんや」とうことだ。賢才であれば、他の人が黙っていないから、かならず見つけ出してくれるということだ。

 あなたもやる気が起きない、停滞期に入ったら、思い切って「休め」ばいい。休んだからといって、会社はあなたを捨ててはおかない。かならず休み明けには、賢才として新たなチャンスを与えてくれるだろう。

「捨てる神あれば、拾う神あり」とも「果報は寝て待て」とも言うじゃないですか。昔の人はいいこと、言いますね。


09. 2013年7月09日 07:22:21 : niiL5nr8dQ
【第90回】 2013年7月9日 出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長兼CEO]
続・日本人の「残業精神論」問題――人間にとって働くことの意義はどこにあるか
 前回のコラムで、「日本人の労働時間が長い原因は残業を評価する誤った精神論にある」と書いたところ、多くの読者からたくさんのご意見を頂戴した。そこで、再度、この問題について考えてみたい。

若い時、必死に仕事に
打ち込むことは是か非か

 最も多く寄せられたコメントは、「若い時、必死に仕事に打ち込むことは、自分を鍛える意味でもかなり有効ではないか(≒長時間労働を行ってもいいのではないか)」というものだった。確かに、「石の上にも3年」という言葉があるように、新しい仕事に就いた時等は、「ともかくガムシャラに仕事に打ち込む」ことは、キャッチアップのためにも必要でもあり、また、かなり意味があることだと考える。

 これは何も、若い時に限った話ではない。人生では「踏ん張りどころ」や「正念場」が、誰にも等しく訪れる。友人のスペイン人のバンカーは、例年2ヵ月近い夏休みを取っていたが、ある銀行の頭取として経営の立て直しに招かれた時は、土日もなし、休暇もなしで、1年365日、ひたすら仕事に取り組んでいた。人生を時間軸で考えた時、ひたすら必死に仕事に打ち込む時期があっても当然いいと思う。大学時代が、必死に勉学に打ち込むべき時期であるように。

 しかし、だからと言って、たとえば若い人に職制が長時間労働を強いるようなことは、決してあってはならないと考える。それはパワハラそのものであり、「俺が鍛えてやる」などといった、それこそ時代錯誤の不毛な精神論の発露に他ならない。必死に仕事に打ち込むことは、原則としては、あくまで自発的な営為であるべきだ。その意味でも、時間を切り売りする労働ではなく、自分のアタマで考える裁量的労働が、21世紀の労働観の中核に据えられるべきだろう。

 また、若い時や大変な時は、それこそ「火事場の馬鹿力」で、感覚的には多少の無理がきくことは紛れもない事実だ。しかし一方で、ありとあらゆる医学的所見が、たとえ若い人であっても、長時間労働は一般に注意力の低下をはじめとした労働生産性の低下をもたらすことを指摘している点を、決して忘れるべきではあるまい。

 また「残業の多い職場は、要員が不足しているか、仕事が一部の人に片寄っている場合がほとんどである」との指摘も多くいただいたが、全くその通りであろう。これは言い換えれば、管理者のマネジメント能力の不足に他ならない。全体の仕事量と要員のバランスを維持することや、部下の一人一人の適性を良く見て、実質的に過不足なく仕事を割り振ることは、(実は、言うは易し行うは難しで、なかなかできないことではあるのだが)管理者のマネジメントの一丁目一番地に他ならない。

 残業が増えるのは、「何よりも社内で無駄な会議が多いからだ」というコメントも多かった。これも、管理者のマネジメント能力の問題であろう。会議の前に十分準備をすることは当然として、たとえば「情報をシェアする会議なら30分、何かを決める会議は1時間」といった社内ルールを定めて、会議の冒頭にチェアーが今日の会議の目的を明確に述べる、あるいはメンバーを必要最小限に絞り込む等、会議を効率化する方法はいくらでもあり、また、よく知られているはずだ。しかしそれらが徹底されないのは、やはり、管理者のマネジメント能力の不足というしかない。諸外国に比較してわが国で一番劣っているのは、実は管理者のマネジメント能力なのかもしれない。

ワークよりライフが大切だ

 ところで、世間では、ワーク・ライフ・バランスという表現が一般的によく使われているが、これはちとおかしいのではないか。日本人の労働時間は、世界的に見ればかなり長くて平均1728時間もあるが、それでも1年8760時間のわずか20%を占めるに過ぎない。自己啓発等実質的に仕事のために費やしている時間を最大限重ねても、せいぜいが全体の2〜3割といったところだろう。即ち、全体の7割以上の時間は、ライフ、即ち、食べて寝て遊ぶことに費やされているのである。そうであれば、ライフ・ワーク・バランスという表現の方が、はるかに実態に近いのではないか。

 また、こうした時間配分を冷静にながめてみると、人間にとっては、共に食べて寝て遊ぶパートナーや友人の存在が、いかに大きいものであるかということも一目瞭然となる。ライフに比べれば、全時間の2〜3割を占めるに過ぎないワークは、実は人生の上では、極論すると、どうでもいい、とるに足らないことだ、と見ることも十分可能なのだ。

 逆に言えば、ワークは、どうでもいいことだからこそ、「思い切って正しいと信じることをやればいい」「上司や他人の目を気にする必要などどこにもない」「相性が悪ければどんどんチェンジ、もしくはスピンアウトすればいい」等といった、いい意味での「開き直り」も、また、可能になるのではないだろうか。まじめに仕事で悩んで病気になる人は、ひょっとしたら「ワークが人生のほとんどすべてである」といった(実は現実とはほど遠い)思い違い(錯覚)をしているのではないだろうか。現実を直視する、即ち、リアリズムが何よりも大切である所以である。

働くことは世界経営計画の
サブシステムである

 ライフの真の目的は、動物である人間にとって一番大切なシゴトである、次の世代を育てて上手に引き継ぐことにある。動物の全エネルギーの95%以上は、そのために費やされているという生物学者の本を読んだ記憶があるが、それに比べると、人間の2〜3割というワークの比率は、かなり大きなものがある。つまり人間にとっては、働くことも、また、とても大切なシゴトなのだ。

 ではワークの意義はどこにあるのだろうか。人間は誰しも、周囲の世界をある程度は理解して毎日働いている。この会社はこういう会社だとか、こういう社風だとか。そして、その周囲の世界に「100%」満足して働いている人は、おそらくどこにもいないだろう。上司がもう少し物わかりがよければとか、社員食堂がもう少しおいしければとか、誰しも「ここを変えたい」「これはなんとかしたい」という気持ちを持って働いているのが、人間社会の常であろう。

 その意味で、地球上の全ての人間は、周囲の世界を変えたい、もっと良くしたいという「世界経営計画」を持っているのである。アラジンの魔法のランプの精であれば、世界を瞬時に変える(メインシステムを担う)ことは、おそらくたやすい相談であろう。しかし、生身の人間にとっては、そうは問屋が卸さない。人間ができることは、周囲の世界を少しでも変えるために、自分は何ができるのか、何を分担して生きていくのか、働いていくのか、ということしかないのだ。

 つまり、人間は、世界経営計画のサブシステムを担って、生きて働いていくことしかできない動物なのである。それが生きる意味であり、働く意義なのだ。そうであれば、株式会社に勤めようと、NPOに勤めようと、あるいは公務員であろうと、何一つ、働くことについて、本質的な違いはないのだ。この意味からすれば、全ての職業が等しく尊いことも、また、容易に理解できるだろう。

(文中、意見に係る部分は、筆者の個人的見解である)


10. 2013年7月09日 07:35:50 : niiL5nr8dQ
国民は与党を「はしゃがせ」てはならない

田中愛治・早稲田大学教授に聞く

2013年7月9日(火)  張 勇祥

21日の参院選がいよいよ迫ってきた。各種調査からも与党・自民党の圧倒的な優位は揺るがない。この絶大な支持の背景は何か。自民党は選挙後、「暴走」してしまうのか。また、有権者は何を考え、どう投票先を選ぶべきか。無党派層の投票行動をはじめ選挙、世論形成を専門としてきた早稲田大学の田中愛治教授に聞いた。(聞き手は張 勇祥)
参院選では与党・自民党の圧倒的な優勢が伝えられています。背景をどう分析しますか。

田中:まず、安倍晋三政権への支持率がなぜ高いのかを考える必要がある。言うまでもなく、好調な経済情勢がバックにある。少なくとも国民レベルでは、経済政策の3つの柱を指す「3本の矢」にスピード感があり、円高の修正もあって景気は回復に転じた。


田中 愛治(たなか・あいじ)氏
早稲田大学政治経済学術院教授。1951年東京都生まれ。1975年早稲田大学政治経済学部卒、1985年オハイオ州立大学で博士号(政治学)取得。政治学、政治過程論と並んで「投票行動論」を専門の1つとする。選挙結果や各種調査のデータを解析することで、無党派層をはじめとする世論動向について詳細な動向分析を手掛ける。
 ただ、国民は最初から積極的に安倍政権を評価していたわけではない。2009年と2012年の衆院選における自民党の得票数を見ると、実は2012年の方が減っている。投票率が下がったので得票率は上昇しているが。これは自民党への期待、支持というより、民主党への失望が大きかったことを示している。失われた20年の中、国民は疲れ切っていたので、民主党への失望の反動で自民党にすがる思いだったのだろう。

 しかし、この半年で積極的な評価へと変わった。都議選で自民、公明の両党は候補者が全員当選するという圧勝を果たした。大都市部には無党派層が多く、都議選は国政選挙での無党派層の投票行動を先取りしていると考えられる。1993年に自民党が下野することになった衆院選でも、その直前の都議選で日本新党が躍進していた。さらに、地方に行くほど組織票の重みが増す。全国での選挙となる参院選で与党は(都議選に比べ)もっと勝つだろう。

しかし、参院選後には消費税の増税や社会保障改革などの難問が山積しています。

田中:ここで安倍内閣が気を付けなければならないのは、国民は内閣の政策を全てそのまま支持しているとは言い切れないことだ。消費税、社会保障だけでなく、憲法改正やTPP(環太平洋経済連携協定)、原発再稼働、農業、保育・子育てなど論点はかなり多い。

 今回の参院選では特に野党の立て直しが遅れているので、消去法でも他に選択肢がなく自民党と考える有権者は多いだろう。その結果としての過半数の議席数をもって、「全権委任」を受けたと単純に信じてしまうと、後になって政策面で行き詰まるきっかけになりかねない。

消費増税やTPP、対応誤れば国論二分

 日本維新の会の共同代表を務める橋下徹・大阪市長は、その典型例かも知れない。2012年の衆院選で日本維新の会が躍進したのは、改革志向が強いと思われたためだ。彼の主張する個々の政策全てに対して国民の支持が強くあったわけではなかったのだろう。しかし橋下氏はご自身のすべての政策提案が多くの国民に強く支持されていると考えたのではないだろうか。その結果、支持を失っていってしまった。

 自民党は「自主憲法の制定は党の使命」と謳っているので、いずれ着手していくことになるだろう。しかし、それは国民の多数意見かどうか。また、優先順位の高いテーマなのか。特に、この優先順位を定めることは政権を安定して運営していくために重要だ。


 繰り返しになるが、消費増税や社会保障改革、TPPなどは対応を誤るとすぐに国論を2分する問題に発展しかねない。ここで思い起こさなければならないのはイギリスのトニー・ブレア元首相のことだ。ブレア旋風とまで言われ、任期半ばまでは非常に高い支持を得ていたが、イラク戦争で米国に同調したことをきっかけに任期後半はかなり苦しむことになった。国論を分けてしまう争点に踏み込むと政権はすぐに弱体化する。その結果、政策の推進力を失っては誰にもメリットはない。

 逆に、米国のクリントン元大統領は性的なスキャンダルにまみれながらも求心力の維持に成功した。彼の特徴は徹底的に経済を重視し、国民に大きな負担を被せたり世論が分かれたりしてしまう問題には踏み込まなかったことにある。もちろん、国民皆保険のような難しいテーマを避けたことで、現職のオバマ大統領が苦しんでいる側面はある。

では、消費税率の引き上げをはじめ、国民に痛みを求める政策は実行できなくなるのではないでしょうか。

田中:景気回復が続き、ボーナスや賃金の上がる環境を作り出すことが、まず必要だ。賃金が上がってこそ増税の痛みにも耐えられるわけで、企業がリストラや賃下げに取り組んでいる中で消費税上げを実行してしまっては、国民は苦しくなってしまう。

 次に、説明責任を明確に果たすことが求められる。財政再建がなぜ必要で、そのために金額的にどの位の改善が必要かを明らかにする必要がある。これを避けていては国民の納得を得られず、様々な異論が出てくることになってしまう。

 最後に、予算の公平かつ効果的な配分が必要だ。かつての自民党は支援団体にばらまき、民主党は津々浦々にばらまいた。特定の集団を優遇することに今の国民はアレルギー反応が強いし、一方で津々浦々に配る余力は日本の政府にはもうない。できるだけ不満が少ない、優先順位の高い分野に予算を使うべきだ。

国民が求めているのは経済再生

恐らく勝利する自民党、そして安倍内閣に求められるのは何でしょうか。

田中:より科学的に、精緻に、個別のテーマについて世論を汲み取る努力が必要だ。昨年の衆院選後も自民党が支持を保てたのは、この点が比較的うまく行っていたためだ。もちろん、参院選で勝つまでは「ねじれ国会」が解消できず、やりたいこともできない状況だったことが、慎重な政権運営につながった面は大きい。

 一方、2009年に政権を奪った後の民主党の鳩山内閣は「はしゃぎ過ぎ」た感があった。その結果、鳩山首相は個別のテーマで国民の多くが望まない方向に走り、支持を失った。今、国民が自民党に求めているのは恐らくは経済再生にほかならず、経済が絡まない問題の優先順位はかなり低いだろう。このことを常に意識する必要がある。

国民にできることはありますか。


田中:有権者がどのような投票行動を取るかは研究の蓄積がある。例えば育児といったシングル・イシューに強い関心を持ち、それをもとに投票する政党や候補者を決める有権者もいるにはいる。しかし、多くの人は全体的な評価、判断から投票先を決定する。

 今、与党の大勝がかなりの確率で推測できる状況を前提とする。まず、自分が何にこだわっているかをよく考えていただきたい。景気、財政、TPP、原発、憲法改正だけでなく、いじめ問題にいたるまで様々なイシューがある。これらにこだわりがあるなら、全体的な評価ではなく、注目する個々のイシューで自分の考えにいちばん近い政党を選ぶのも1つの方法だ。逆に、ご自分が内閣の業績の全般に対する評価で決めるのなら、それに従えば良いと思う。

 2005年の郵政選挙、そして2009年の衆院選でも「勝たせ過ぎた」との声が街角から上がった。与党があまりに勝ちすぎると「はしゃいでしまう」恐れを肌で感じていたのだろう。政党は大勝してもはしゃいではいけないし、国民もはしゃがせてはならない。

 セカンドベストすらない、という声が上がりそうだ。それでも、今、改めて考えなければならないのは、セカンドベストがかなりベストから離れた「下」の評価であっても、与党に堅実でいてほしいなら、そこのバランスを真剣に考える必要があるということだ。


アベノミクスの真価を問う

 


 

 
国を作り替えないと日本に外国人は来ない

中村修二・米カリフォルニア大学教授に聞く(前編)

2013年7月9日(火)  細田 孝宏

 有能な人材を外国から受け入れようという動きが世界で広がっている。「日経ビジネス」は7月8日号の特集で、各国が繰り広げる人材争奪戦の様子を描いた。日本も「高度人材に対するポイント制」を導入しているが、まだ成果に乏しい。日本が有能な外国人にとって魅力的な国となるには何が必要か。かつて青色発光ダイオードを開発し、その発明の対価を巡って所属企業と裁判を争った中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授に聞いた。(聞き手は日経ビジネス 細田孝宏)
所属していた日亜化学工業を退社した後、アメリカの大学で教授に就任して10年以上が経ちました。アメリカには世界中から有能な人材が集まりますが、どこに魅力があると感じますか。


中村修二(なかむら・しゅうじ)氏
カリフォルニア大サンタバーバラ校(UCSB)教授
1979年徳島大大学院修士課程修了、日亜化学工業入社。1993年に青色発光ダイオード(LED)、1995年に青紫色半導体レーザーを開発。1999年に退社。2000年から現職。青色LEDの特許権譲渡の対価について日亜化学と訴訟で争ったことで知られる。2011年、米国テレビ界で活躍した人や優れた作品に与えられるエミー賞を受賞した。(写真:林幸一郎、以下同)
中村:大学教授になったせいもあると思いますが、日本に比べ圧倒的に自由です。日本は規制天国ですな。何というのか、島国にずっと閉じこもっていたので非常に保守的。一度規制を作ったら変えないし、時代錯誤になっても維持してがんじがらめになっている。

 日本が発展するには一回完全に沈没して古いシステムをがらっと変えないといかんでしょう。政治家も分かっているようですが、絶対変わらないと思いますね。一回つぶれて、すべてのシステムを変えないと。

 知り合いの日本人に言わせたら「もう日本はつぶれてる」って。まあ家電メーカーはむちゃくちゃな赤字を出しているわけですし。自動車もつぶれるくらいまで行って追い詰められないと、がらっと変わらないでしょう。

 安倍さんもかなり真剣にやっているけど、まだ全然足りない。司法制度、教育制度、ありとあらゆるシステムをすべて壊して今の時代にあったシステムにしないと存在していけない。

 アメリカが違うのは時代に合うようにシステムをどんどん変えていくこと。それと人材です。移民を受け入れてきたのが強みになっている。移民がなければ今のヨーロッパと一緒に停滞していたでしょう。

いろんな人がいるほど社会は安定する

 ヨーロッパの人は理論を作るのは得意ですがモノ作りは下手。理論だけですよ、はっきり言って。例外はドイツくらいで、それ以外の国は経済がおかしくなっているでしょ。アジアは逆。体を動かすモノ作りは得意ですが、理論は苦手です。

 アメリカは各地の移民を受け入れて、モノ作りの人と理論の人がうまく組み合わさっている。移民を受け入れなかったらギリシャみたいになっていたんだろうと思いますよ。

移民はアメリカの強さにつながっているということですか。

中村:いろんな人がいるほど社会は安定するんですよ。物理学にエントロピー増大の法則ってありますね。なんでもバラバラになろうとする。バラバラになったほうが安定するんです。

 日本は平等サラリーマンでみんな同じ。アメリカは貧乏人からスーパー金持ちまでいる。みんな同じというのは崩壊する運命なんですよ。エネルギー的にこんな不安定な国はあり得ない。

 世界はアメリカ式の国になっていくのではないかと僕は思っています。日本は一番不安定なんですよ。今つぶれる方向に向かっているのは良いことなんです。新しい時代に合ったシステムができるから。

技術者として見た場合、アメリカの良いところは何でしょうか。

中村:全員がアメリカンドリームを見るチャンスがあることでしょう。いい発明をしたら、誰でもビル・ゲイツみたいになるチャンスがある。日本ではそんなチャンスは与えられていない。永遠のサラリーマンなんです。一生懸命働いても途中で肩たたきにあって、年収が半分になってしまうのが日本の科学者や技術者。

 ベンチャー企業もありますけれどアメリカに比べるとないに等しい。有名大学、有名企業に入って永遠のサラリーマンをやるのがいいと思っている。全くの間違いなんですが。「こんなサラリーマン生活はわしの夢じゃなかった」と気がついて酒場で酒飲んで文句を言う。そういうのをすべて壊さないといけません。

ご自身も企業で技術者をしていました。

中村:ええ僕もそうでした。出たのが徳島大学でしょ。電子工学科だと、夢は東芝、ソニー、シャープ、松下(電器産業、現パナソニック)に入ること、それが夢ですから。成績の良い順に推薦を受けて入社できるんです。

国語も英語にしてしまえ

 学科には100人くらいいましたが、成績1番の学生は電電公社、今のNTTに行けるわけです。「電電公社に推薦で入れるぞ、1番になれ」って。もう洗脳ですよ。アメリカじゃ考えられない。夢見るのは個人でベンチャーをやることですから。

大学にも責任があると。


中村:こちらの大学だと工学部の教授はほぼ100%、企業のコンサルティングをやっています。そして50%は自分のベンチャー企業を持っています。学生も自然にベンチャーに目が向くわけです。日本はゼロですよね。

日本に外国から人材が来てもらうには何が必要だと思いますか。

中村:やはり言葉でしょうな。英語は世界標準語です。特にサイエンスや技術ではそう。学会でも全部英語です。ですから英語ができる国にしないとまず来ない。アジアで人材が集まっている国はシンガポールと香港ですよね。

 日本は保守的だから難しいと思いますけれど、一度崩壊したら言葉も英語にしてやり直したらいい。日本民族だけで日本語しか使わないのではどうしようもない。

日本企業でも英語を公用語化しようという動きが出ていますが。

中村:いや言葉は企業だけではダメでしょう。小さい頃から変えないと。例えば、小学校では英語以外しゃべらないとか。国語も英語にする。保守的な人が「とんでもない」と言いそうですが、学校では勉強も遊びもみんな英語にする。週何時間か授業でやるだけでは無理ですよ。

英語以外の課題は何でしょう。

中村:日本もアメリカンドリームを見られるようなシステムを作ることです。ベンチャーに投資して金持ちになる、自分でベンチャーをやってお金を稼ぐ。そういうことが可能なシステムを作る。

「お金持ちは悪」の呪縛を解け

 日本のもっと悪いところは「お金儲けが悪い」と教育していることです。その洗脳をまずやめる。特に科学者や技術者はそう思わされてきている。日本で理想の科学者ってどんな姿ですか。お金に無頓着で汚い白衣を着て、研究所に閉じこもって黙々と研究する。それが理想の科学者なんですよ。

 そんな洗脳はやめないといかん。科学者はビル・ゲイツみたいに大金持ちになって世界を変える。「ああいうのがいい」というふうにしないとダメです。

 企業も変わらないといけません。僕もアメリカでLED電球のベンチャー会社を作りました。最初はたった3人でしたが、アメリカの会社はどこの大手でも会ってくれる。日本で言うとソニーの研究所所長レベルの人でもすぐにアポイントが取れる。

ところが日本でベンチャーやって、「3人の会社なんですけど」って言ったら怒られますよ。「わしを誰やと思うてるんだ」と。こういうのをすべて破壊しないと外国人にとって魅力ある国というのはあり得ないですよね。

 ベンチャーのシステムがないですし、人材も流動化していないし。日本人だけでしょ。やはり多民族国家じゃないと。ベンチャーを引きつける魅力はゼロですよ。

アメリカでも企業で一生勤め上げる人がいますよね。

中村:そういう人はいますよ。でも出来の悪い人ですから(笑)。元気で野心のある学生は自分でベンチャーをやるんです。

ベンチャーに誰がお金を出すかという問題もありますね。

中村:アメリカではベンチャーキャピタル(VC)やベンチャーで成功した人がたくさんいて、投資しています。

 日本にはVCはないですよね。名前はそうなっていますけど、実際はないですよね。銀行だと担保がいる。個人資産を全部担保にして、つぶれたら全財産を取られるなら誰もやらないですよ。


国境を越える人材争奪戦


11. 2013年7月09日 19:39:11 : jYxndDpSFY
でもさあ、他に選択肢ないし。民主?共産?

  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
  削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告する?」をクリックお願いします。24時間程度で確認し違反が確認できたものは全て削除します。 最新投稿・コメント全文リスト

 次へ  前へ

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民80掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民80掲示板
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧