02. 2013年2月18日 00:49:36
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世界経済:まやかしの通貨戦争 2013年02月18日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2013年2月16日号)世界は日本と米国の金融政策の積極性を歓迎すべきだ。 2月15〜16日にモスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、通貨安競争が最大のテーマとなった〔AFPBB News〕
世界の経済大国の高官は戦争を回避するという使命を担い、2月15〜16日にモスクワで会合を開いた。回避しようとしていたのは、爆弾や銃弾を使用する戦争ではなく、「通貨戦争」だ。 各国の財務相と中央銀行総裁は、主要20カ国・地域(G20)の同輩たちが、輸出を増やすために自国通貨を切り下げ、近隣諸国を犠牲にして自国経済を成長させることを懸念している。 ブラジルを筆頭とする新興国は最初に、通貨戦争を仕掛けたとして米国を非難した。2010年に、米連邦準備理事会(FRB)が新たに刷ったお金で国債を大量購入した時のことだ。 この「量的緩和(QE)」により、大勢の投資家がより良い利回りを求めて新興国市場に殺到し、新興国の為替レートを上昇させた。 現在、このような批判の矛先は日本に向けられている。新首相の安倍晋三氏は、成長を再開させ、デフレを克服するために大胆な刺激策を約束した。また安倍氏は輸出を拡大させるために円安を訴えた。円相場は然るべく、昨年9月末(安倍氏が政権を取ることがはっきりした時)以降、対ドルで16%、対ユーロで19%値下がりした。 しかし、新興国の不満は度を越している。各国は米国と日本の行動を非難するより、むしろ称賛すべきだ。そしてユーロ圏は、日米両国の例に倣った方がいい。 刀を印刷機に代えて 戦争のレトリックは、日米両国が輸出を増やして輸入を抑制するために、直接的に自国通貨を抑えていることを示唆している。だとすれば、それはゼロサムゲームであり、保護貿易主義や貿易の激減に発展しかねない。しかし、これは日本と米国がやっていることではない。 中央銀行が短期金利をゼロ近くまで引き下げ、伝統的な金融政策の手段を使い切ってしまった時には、QEや、インフレ率上昇を国民に納得させる取り組みなどの非伝統的な手段に頼ることになる。どちらの対策も実質金利(インフレ調整後の金利)を低下させる。日本では今、これが起きているのかもしれない。 この政策の主たる目標は、国内の支出と投資を刺激することだ。低い実質金利は大抵、副産物として通貨も引き下げるし、通貨安は輸入を抑える傾向がある。しかし、この政策が内需を回復させることに成功した場合、やがては輸入の増加をもたらす。 弱い需要と抑制された物価上昇率に苦しむ経済大国での積極的な金融拡張は、諸外国にとって良いことであり、悪いことではない。国際通貨基金(IMF)は、米国の第1弾の金融緩和は、米国の貿易相手国の経済生産を最大で0.3%増加させたと結論付けている。ドルは確かに下落したが、ドル安は日本がデフレ対策を強化する動機になった。 日米両国における金融刺激策の組み合わせは、世界の投資家の信頼感にとって強力な特効薬となった。 ECBは日本を真似ろ 自国の輸出が集中砲火を浴びることに怯える欧州の高官らは、ユーロの価値を直接管理するという馬鹿げた考えを温めている。 むしろユーロ圏は不平を言うことをやめ、日本を真似し始めるべきだろう。欧州中央銀行(ECB)は、必要とあらばQEを通じて、金融政策を緩和すべきだ。金融緩和はユーロ高を鈍らせると同時に、ユーロ圏周縁国の景気後退と戦う対策にもなる。 この選択肢は、今もインフレが問題となっているブラジルのような新興国では利用できないかもしれない。こうした新興国の場合は、限定的な資本規制が、市場を不安定にする投機資金流入に対する賢明な短期的防衛策かもしれない。 円相場に対する日本の攻撃が口先の範疇を超え、円安誘導のために実際に市場介入を行うようなことがあれば、その時は諸外国が日本を非難するのは正しい。それが起きるまでは、他国は通貨戦争について不安を煽る根拠のない発言を避けるべきだ。財務相と中央銀行は互いを叩き合うのではなく、経済の停滞と戦うべきなのだ。 欧州不安、焦点は「PIGS」から「FISH」へ 米国の投資家を悩ます新たな難題 2013年02月18日(Mon) Financial Times (2013年2月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
差し迫ったユーロ危機はひとまず収束したように思えるが・・・〔AFPBB News〕
この数年間、米国の投資家は(他国の投資家とともに)「PIGS」あるいは「PIIGS」についてパニック状態に陥っていた。 というのも、ギリシャがユーロを離脱するという憶測が飛び交う中でユーロ圏の問題が深刻化し、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインといった国々に市場の注目が集まっていたからだ。 最近は、喜ばしいことに、ギリシャの離脱を巡る差し迫ったパニックは劇的に沈静化している。例えば、筆者は先日、北米の最も有力な資金運用担当者のグループが投資見通しについて意見を交わすのを聞いていた。 今から1年前、これらの投資家(合わせて恐らく1兆ドルの資産を運用している)の半分が、1年内にユーロ圏を離脱する国が出ると予想していた。今はその比率が10人に1人に低下している。 言い換えると、ギリシャ(および他の国々)をユーロにとどめるためならドイツは何でもするという確信が大幅に強まっているのだ。となれば、2年前にパニックに陥って地域を去っていた一部のヘッジファンドが、スペインやギリシャといった周縁国市場に戻ってきているのもさほど不思議ではない。 ある西海岸の大手投資家いわく、「米国の多くの人がユーロの結束を守るドイツの意志を完全に過小評価していた。その状況は変わった」ということだ。 短期的な警戒から基本的な成長展望に懸念がシフト だが、そうしたパニックの沈静化は明らかに歓迎すべきだが、同時に印象的なのは、大手投資家の間で、短期的な警戒が何か別のものに取って代わられたことだ。欧州の周縁国だけでなく、ユーロ圏の中核諸国でも見られる、基本的な成長展望に関する長期的な強い不安感がそれだ。 その結果、今焦点が当たっているのはPIGSだけではない。一部のトレーダーが「FISH」と呼ぶ国々――フランス、イタリア、スペイン、オランダという経済大国――に関する議論も高まっている。 いくつかの視点から見ると、このグループに焦点を当てることは奇妙に思えるかもしれない。国債利回りは、欧州中央銀行(ECB)が支援を約束した結果、イタリアやスペインに関する市場の不安がここ数カ月で急激に後退したことを示している。 スペインとイタリアの10年物国債利回りは現在それぞれ約5.2%、4.4%と、どちらも昨年夏の水準を2ポイント下回っている。そして、フランスやオランダについて言えば、これらの国がユーロ圏にとって極めて中核的だと考えられているために、国債利回りのスプレッド(格差)が劇的に拡大することは1度もなかった。 だが、米国の多くの投資家を心配させているのは、短期的な危機というリスクではなく、成長を徐々に低下させ、政治的、経済的な混乱を招く恐れのある長期的な構造問題だ。例えば、2月14日には、FISH諸国の経済が昨年第4四半期にそれぞれ0.3%、0.9%、0.7%、0.2%縮小したことが明らかになった。 スペインの財政、フランスの競争力、オランダの不動産市場・・・・ 悲惨な数字には見えないかもしれない。だが、例えば、国際金融協会(IIF)は現在、今年のフランスの成長率がほぼゼロになり、イタリアとスペインでは経済がさらに縮小すると予想している。 あるいは、ミント・キャピタルのビル・ブレイン氏が言うように、「スペインにおける本当の危険は長期的なものだ・・・スペイン経済を欧州連合(EU)の規則であるGDP(国内総生産)比3%以下の財政赤字に戻すだけでも、あと3、4年は経済的な窮状が続くことになる」のだ。 一方、フランスから出てくる最近の統計は――IIFが言うように――「非常に期待外れである」ことが判明し、「低迷がより持続的なものになると心配するだけの理由」を生み出している。つまり、ある米国の大手投資家が言うように、「フランスにおける競争力の問題は深刻で、現在の政策が事態を悪化させている」わけだ。 これまで市場の注目から逃れてきたオランダでさえ、構造的な問題に苦しめられている。「オランダは崩壊の過程にある不動産市場を抱えており、家計の債務は非常に多額だ(オランダはスペインより4年遅れている)」。SLJマクロのステファン・イェン氏は最近の調査メモでこう述べている。 「オランダの住宅債務(住宅ローン)のGDP比は107.1%で、スペインの52.4%、フランスの41.2%より高い」 ユーロ圏の多くの政治家は間違いなく、このような懸念を人騒がせなデマとして片付けるだろう。何しろいくつかの調査では、ユーロ圏の景況感と活動が現在若干持ち直しつつあることが示されている、と彼らは言う。 だが、結果的にFISHに関するこうした不安が大げさだったことが分かったとしても――それは本当に「もしも」の話だが――、重要な点は、米国の(そして他の国際的な)投資家の心の中では、ユーロ圏の政治的、経済的構造に関する根本的な問題が未解決のままになっていることだ。 北米の投資家が日本に熱い視線を向けるのも当然か そういうわけで、非常に多くの北米の投資家が米国の債券と株式に資金を投入し続けているのもさほど不思議ではない。 そして、日本が今、北米の資金運用担当者の間で最もホットな話題の1つになっているのも驚くには当たらないだろう。大手投資家は自分たちの資金を投入するために、米国以外の場所を探しているからだ。 言い換えれば、欧州が北米の巨額の資金にとって本当に魅力的な投資先になるためには、FISHに関するこうしたじわじわと高まる不安を解消する必要がある。だが悲しいことに、それはPIGSに関する昨年のパニック状態を鎮めるのと同じくらい難しいかもしれない――それより難しいとは言わないまでも。 By Gillian Tett
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