05. 2013年2月05日 12:06:44
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【第4回】 2013年2月5日 断絶職場でいくら努力しても目標は達成できない! 縦のつながり機能させるマネジメントの“3つの場” 与えられた目標だけでは前に進めない 上司と部下の「縦」のつながりを考える 前回の横のつながりに続き、今回は縦のつながりについて考えます。上司と部下のつながり、これはマネジメントそのものであるとも言えます。 先日、ある企業で部長クラスの人に聞くと、年度初めに自分の方針を文章にして発表し、自分の言葉で語っている人は6〜7割ほどでした。部によって人数のバラツキはありますが、多いところは100人を超える部下がいる部門も珍しくありません。それなのに、自分がやりたいことを自分の言葉で伝えていないマネジャーが3分の1もいるという事実に驚きました。 ミドルマネジャーは、上下の板挟みにあって辛い立場だと言われます。事実、上からの厳しいプレッシャーと下からの圧力に疲弊している人が、私の周りにもたくさんいます。 しかし、冷静に考えると、ミドルマネジャーは自分でものを考えなくても務まるようになっているのかもしれません。何故なら、「今年度はこれだけやってください」とポンと目標を与えられるからです。 達成すべき目標が上から与えられて(確かにそれは達成するのが厳しい目標ではありますが)、与えられた目標を達成することが、自分の役割になっているのかもしれません。 ですから、与えられた目標にいかに到達するかに、ミドルマネジャーの思考・行動は注力されます。部下に、「何を」(What)と「どうやって」(How)を伝えることが、マネジメントになっていくのです。 こうした事態の何が問題なのでしょうか。それは本来やるべきこと、向かうべき方向に組織が進んでいかないということです。組織は階層が上になればなるほど、現実から離れて大きな方向性を探り、決定していきます。 方策の具体案は現場に近いところで生まれ、トップ層の方向感と現場からの提案が噛み合っていくことで組織は大きく前進していきます。しかし、上下の役割が噛み合わないと、それぞれ必死で頑張っているのに前に向かって進まないという結果を招いてしまいます。 こんな事例があります。グローバル化が進み、国内市場をターゲットにしつつも海外メーカーとの競争に晒されつつある会社の話です。 当面の経営の健全化もさることながら、独自技術を打ち出していかないと早晩、市場から消えてしまう危険性をはらんでいます。このことは中堅以上の社員なら誰もが認識している事実なのですが、実際のマネジメントはこれを反映していないのです。 その会社の部長層にインタビューする機会を得ましたが、彼らは今期の数字しか追っていないことがわかりました。「どうして?」と聞くと、「それがトップ層とコミットした数字だから」という答えが異口同音に返ってきます。「本当は何をすべきなのか」を聞くと、「独自性ある技術を確立しつつ市場を拡大していくことだ」と、これもまた異口同音に答えるのです。 その独自性のある技術とはどれで、どんな可能性が広まっているのかを聞くと、そこは人によって答えが変わってきます。技術に対する評価は、意見が分かれます。今後のことは誰も確かなことはわからないからです。 だから市場の可能性を信じて、それぞれの現場で挑戦していくことに意味があるのですが、残念ながらそこに取り組んでいないのです。何故なら、今、そこにマンパワーを投入しても見返りが少ないからです。今期の数字を上げるには、既存の技術で小さな数字を積み上げていくほうが確実なのです。 経営が技術力の重要性を説いても 意識するミドルマネジャーは少ない 聞けば、有望と言われるある先端技術についても、現在の状況まで育て上げたのは、1人の技術者だと言います。しかし残念ながら彼は、事業の採算がとれるまでの間に、ラインから外されてしまったそうです。モノを言うものの数字を上げられず、現場にとって扱いづらい存在だったからです。 社長をはじめトップ層は、「技術力で生きていこう」というかけ声をかけているものの、日常的にそのことを意識している、言い換えればそのための行動を日々とっているミドルマネジャーは少ないのです。人事処遇もそのための配置ではなく、今期の数字で評価されています。 このままでは、次世代技術を掲げて市場で生き残っていけるのか、その将来性に疑問を感じざるを得ません。しかし、多くの会社で同じようなことが起こっているのではないでしょうか。 国内市場が縮小化する中で、グローバル市場、とりわけ新興国市場で売れる商品づくりが叫ばれながらも、気にかけているのは、現在の売上高の大半を占める国内市場のことばかりという事例もあります。 個人商店的な活動を卒業して、チームとして販売活動を展開しようというかけ声をかけながらも、現場での動きは個人の数字を追いかける姿に変化はないという会社もあります。 変化する市場を先読みして、「新しい事業の柱を立てよう」「そのための事業探索をしていこう」と言いながら、既存の商品で対応できないニーズを横に置いている営業社員たちの姿も多くあります。 向かうべき方向性をトップマネジメントが示しても、ミドルマネジャーがそのことを真正面から受け止められず、数字として示された目先の業績を追いかける日々を繰り返しているのです。 縦のつながりを機能させる マネジメントの「3つの場」 こうした縦のつながり、つまりマネジメントをうまく機能させるには、どうしたらいいのでしょうか。3つの場が必要になります。@上位方針を腹落ちさせる場、A上位方針を現場の活動にまで展開する場、B日々の行動変化を振り返り確認する場、の3つです。順に見て行きましょう。 第一の「上位方針の腹落ち」とは、しっかり理解するというレベルではなく、方針を聞いた部下が心から実現したいと自らの気持ちを昂ぶらせることです。方針を理解させよう、徹底させようと思うマネジャーは、なぜこの方針が重要なのかを語ります。そして、明確な達成基準を設定します。 多くの場合、数値目標を掲げて「これを達成しよう」というゴールを示します。数値で表しにくいところでも、「◯◯イベントを成功させる」「◯◯の仕組みをつくる」という表現で達成基準を示そうとしています。 これらのことはとても重要です。しかし正しく理解しても、人の心は動かないということも忘れてはいけない真実なのです。多くのマネジャーは、「これを達成しないと生き残ることができない、存続の絶対条件なんだ」ということを、口を酸っぱくして語っているでしょう。しかし、やるべきこととそれが求められる背景を伝えられても、残念ながら心が動かない、腹落ちしない人が多いのです。 達成のプロセスをイメージさせよ ヒントはマネジャーの原体験の中に では、どうやって心を動かすのでしょうか。 理屈で説得するのではなく、達成した状態や達成に至るプロセスをイメージさせて、その情景に自分を置いてみたいという気持ちを引き起こすのです。「これが実現できたらすごいな」「達成感ありそうだな」「自慢できるだろうな」とか、「そんなチームで仕事をすると楽しそうだな」「やり甲斐があるだろうな」と思わせることが大事です。 そう思わせる力はどこにあるか。自分の原体験の中にあります。「自分がこの仕事をしていて良かった」と、心から思える経験を見つめなおしてください。そこに仕事をする意味を見出し、それを今、チャレンジしようとしている仕事の中に埋め込んでいくのです。 この一連のプロセスは、部下の心を動かすだけでなく、実は自分自身を勇気づけることにもなります。私も起業する前は、組織に勤め、時には意に沿わぬ異動や仕事のアサインがありました。そういうときは、自分で自分を勇気づけることを心がけてきました。 どんなことが実現できたら自分がワクワクするかを、自問自答していくのです。ある程度の仕事経験を持っていれば、部下の原体験も聞いて、そこに共感を寄せることも効果的です。 第二は、「上位方針と現場の動きをリンクさせること」です。原体験を語り、共感を生んだことでスタートする土台はできますが、なすべきことは原体験だけでは見えてきません。具体的に何をなすべきなのかをしっかりと考えます。 現場で「断絶」が起きていると 努力しても目標を達成できない ここで改めて指摘したいのは、方針で語っていることと現場の具体的な動きの間の、どこかで断絶が起きているということです。先に事例をいくつか挙げましたが、断絶があると現場の日々の活動をいくら積み上げても、方針を達成できないのです。独自技術を打ち立てるには、リスクを犯したり、利益率の低い案件でも受注したりしないと、前進しないのです。 ミドルマネジャーも現場の人たちも、日々必死で仕事をしています。だから、組織の成果が出ないことを、自分たちでない何かに求めようとしがちです。しかしもう一度、日々の行動を積み重ねたものが方針の実現につながるかを点検してみてください。もし足りないとしたら、何が必要なのかを明確にすべきです。 方針を現場の動きに展開する際に、まず行うべきことは、実現すべき将来像を鮮明に描くことです。「こんなことを実現しよう」と抽象的な言葉で語っていても、具体的な姿が曖昧なままであることは少なくありません。中長期の視点でしっかりと考えることが必要です。 実現したときに、顧客はどんな喜びを感じているのか、どういう言葉を発しているのかを頭に描きます。それは、今までにないどんな付加価値を提供しているかが鮮明にならないと描けないものでもあります。 さらに、それを実現しているときの自分たちの姿をイメージします。どんな職場で、どんな努力をしながら、価値を生み出しているのでしょうか。「イメージできないものはマネージできない」は、弊社ファウンダーの野田稔から教わった言葉ですが、マネジメントの原点を突いている言葉だと思います。 次に行うことは、そのイメージを実現するための方策を、制約条件なしでみんなで知恵出しすることです。多くの場合、これまでの慣習や思い込みから、自分たちだけの力で何とかしようと考えがちです。リスクを取ることにも、総じて消極的です。 リソースの範囲を広げて、リスクテークすることを是として考えたときに、実現の可能性も広がります。もちろん、自分たちが享受する利益が減ったり、リスクに対する対応策が必要になったりすることもあるでしょう。しかし、だからと言って現在の延長線上で甘んじていることこそが、本当のリスクであることを認識することも必要です。 方針を立てるとは、そういった懸念事項を洗い出し、腹を決めて進路を選択することでもあります。その決断こそが、マネジメント層の意気込みであり、それが組織に伝わったとき、部下の心にも期するものが出てきます。 すぐに成果を生み出せなくても 日々の実体験を振り返り続けよ そして3つ目は、この連載のテーマでもある経験学習、内省に関連することで、日々の行動の中に変化を見出すということです。 残念ながら、方針を展開した後、振り返っているポイントがずれていることがあります。方針展開は、日常管理とは異なり、これまでとは違う行動を現場に求めます。同じ行動を徹底するとか、何度も繰り返すということではなく、質的に違う行動を起こして、初めてチャレンジャブルな成果に到達することができるはずです。 しかし、その行動はすぐには成果を生まないことが少なくありません。先にお話ししたように、企業が新技術による市場開拓や新興市場向けの製品開発など、試行錯誤を経て進んでいくのは、説明するまでもありません。だからこそ、プロセス管理が大事と言われるのですが、マネジャーたちはついつい現場ですぐに拾える数字を追いかけてしまいます。昨年把握した数字をなぞっていくケースが多いのが実情です。 この連載では、実体験を振り返ることの大切さを伝えてきましたが、「縦のつながり」においては、振り返るときの焦点を予め設定します。何故なら、求められる成果が明確になっているからです。 現場の実践の中で、「求められる行動がとれたのかどうか」「とれなかったとしたらそれは何故なのか」「行動はしたのに期待する効果が出なかったとしたら何故なのか」。あるいは「行動もし、期待する効果が出た場合なら、その再現性を高めるにはどうしたらいいのか」。 焦点が定まっていれば、誰しもいくつもの疑問が沸き起こってきます。それは取りも直さず、経験値の共有が進む土台でもあります。 こうした動きをつくっていくために重要なことは、その振り返りの場を予め設計しておくことです。どのタイミングで、どういう事実を取り上げて、どんな変化の兆候を把握するかを決めておくのです。 振り返りの場面では、当の本人の意図したことや感じたことを大切にしますが、前提として事実を押さえておくことは絶対です。事実に基づき、その場で何が起こったのかを深掘りしていくことで、新たな変化につなげることが可能になります。 上司が部下に目指すビジョンを提示 互いに深く共感し試行錯誤を支援 以上、職場における「縦のつながり」、特に方針の展開という点に着目して、どのように上司と部下が心を1つにしていけばよいのかを見てきました。 「縦のつながり」も、「横のつながり」と本質的には同じことです。互いの思いに深く共感して、それぞれの試行錯誤を支援していくことです。上司の思いだけでなく、部下の思いを傾聴する中で信頼関係も増してきます。振り返りの場面では、個々の踏ん張りをそのまま放置することなく、認め励まし、時には叱咤激励をしていくことが大切です。 1つ重要な違いは、「縦のつながり」においては、まず上司が方向性と到達すべきゴールを示す、つまりビジョンを示すことです。「縦のつながり」は、上司であるマネジャーの原体験を出発点として紡ぎ出していくのです。これから新年度の方針を立てるタイミングですが、数値目標の前に、自分の原体験を振り返るところから始めてみませんか。 著者からのお知らせ ●『ミンツバーグ教授のマネジャーの学校〜成長を可能にする新しいプログラム』 好評発売中。 『ミンツバーグ教授の マネジャーの学校〜成長を可能にする新しいプログラム』(フィル・レニール・重光直之共著/ダイヤモンド社) 勤めていた会社が買収されてリストラがすすむ中、ミドルマネジャーである自分はどうしたらいいのか? 途方にくれたフィル・レニールが、義理の父、ヘンリー・ミンツバーグ教授の手ほどきを受けながら、内省を軸にした学びを自分の職場で始めたところ、驚くほどの変化が……。リフレクション・ラウンドテーブルがどのようにして生まれたのかを、フィル・レニール自身が語り、そのプログラムを日本に導入した重光直之が応用例を具体的に解説します。ミンツバーグ教授が提唱する、「第3世代のマネジメント能力開発プログラム」の真髄が、真実の物語を通じて迫ってきます。
●リフレクション・ラウンドテーブルとは?
経営学の世界的権威ヘンリー・ミンツバーグ教授とフィル・レニールとによって生み出された、内省と相互コーチングによる実践的なマネジャー向けプログラム。世界では「コーチング・アワセルブズ」の名称で展開されている。日本においては、株式会社ジェイフィールが「リフレクション・ラウンドテーブル」の名称で導入・展開している。 現在、カナダ、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、インド、パキスタン、中国、韓国、UAEなど世界24ヵ国にて展開され、日産自動車、富士通グループ、キヤノン、富士フイルム、ING銀行、ボンバルディア、ベル・カナダ、キャセイパシフィック航空といったグローバル企業に採用されている。 2012年11月、日本の人事部が主催するHRアワード「プロフェッショナル部門最優秀賞」を受賞。 ●日本の人事部「HRアワード」のご紹介
日本の人事部「HRアワード」は、人事、人材開発、労務管理などの各分野において、積極的な活動・挑戦を続けている企業人事部や人事サービス企業、また人事担当者にとって、有益だと評価されている書籍やサービスを表彰することで、人事や人材開発に関わる全ての企業や個人のレベルアップと、人材に関わるフィールド全体の活性化を実現することを目的とする取り組みです。 |