こっちが正しい分析: 経済コラムマガジン 2017/10/26(960号) 48回衆議員選の分析
希望の党はもはや新党ではない
総選挙の結果は、ほぼマスコミ各社の直前の予測通りと言える。ただしマスコミ各社の直前の予測自体は公示前の予測と大きく違っていた事実に注目することが大事である。公示前、ほとんどのマスコミは自民党の大敗と希望の党の大躍進を予想していた。 都議選が終わった頃から、マスコミは次の総選挙で小池旋風が起ると囃し立てていた。特に公示直前には「希望の党は定員の過半数である233名の立候補者を立てられるか」「小池知事は衆議院選に出るか」とバカげたことを言っていた。しかしこれに対して本誌は先週号、先々週号で、冷たく「希望の党に風は吹かない」と言い切って来た。小池氏が選挙に出ても結果はほとんど変らなかったと筆者は見ている。結局、自民党はかなり善戦し、本誌の見立てが正しかったことになる。 さらなる分析を進める前に、例のごとく各党の勢いの推移を見るため比例区の獲得投票数を掲載する。たしかに比例区の獲得議席は比例区の獲得票数にほぼ比例する。しかし小選挙区では一票の重さが異なるので、有権者が比例区と小選挙区で同じ政党に投票したと仮定しても、比例区の票数に小選挙区の議席数が比例するわけではない(一票が重い地方で強い自民党がより多くの議席を占める)。また野党毎に立候補者を立てれば、小選挙区では死に票が増え与党が有利になる。
各党の比例区の獲得投票数(万票)と増減率(%)
政党名 今回 前回 前々回 3回前 増減率(対前回)
自 民 1,856 1,766 1,662 1,881 5.1 民 主 ーー 978 963 2,511 ーー 維 新 339 838 1,226 ーー ▲59.5. 公 明 698 731 712 805 ▲4.5 共 産 440 606 369 494 ▲27.4 社 民 94 131 142 237 ▲28.2 希 望 968 ーー ーー ーー ーー 立・民 1,108 ーー ーー ーー ーー その他 73 ーー 867 ーー ーー 合 計 5,576 5,333 6,018 7,037 4.6 この表から逆風の中で自民党が善戦したことが分る。特に全体の投票数の伸び率を若干上回る比例票を得たのは驚くことである。これは自民党陣営と自民党の固い支持層が、最後まで危機感を保ったからと筆者は見ている。このことが今回の選挙で一番重要なポイントである。またマスコミが騒いでいた「森友・加計学園問題」はほぼ影響が無かったと言える。むしろ雇用情勢の好転などによって、若年層が自民党により多く投票しているようである。
無党派層の票は立・民、希望といった新党に流れた。ただし希望の獲得票(比例と小選挙区)の大半は、旧民進党の候補者が持って来たものである(基礎票)。希望の党が独自で集めた無党派層の比例票はせいぜい300〜400万票程度と想定より相当少なかったと筆者は推測する。特に小選挙区で希望の党という名前での票の上積みを期待し民進党から合流した立候補者にとって、当てが外れたことになった。 一方、立・民には無党派層の票がある程度流れた(比例票は600〜700万程度と推定)。しかしこれとても大きなブームを起こしたとは言えない程度の票数である。これも投票日の悪天候が少し影響したと思われる。一方、維新や共産党に流れていた無党派層票は立・民や棄権(悪天候によって)に回ったようである。 筆者は「希望の党に風は吹かない」と言い切って来た(この場合の希望の党は民進合流前の希望の党)。この根拠として「東京の有権者(特にに無党派層)の新党に対する投票行動は極めて特殊」であり、これが東京で起ったとしても全国的に起るとは考えにくいことが挙げられる。また無党派層の人々が、次の選挙で続けて同じ新党に投票するケースが少ないことが経験的に言える。したがって都議選で新党の都民フアーストの会に投票したような反自民の無党派層は、次の選挙であった今回の総選挙で次の新党である立・民に投票したと見られる(飽きっぽい無党派層にとって、希望の党はもはや新党ではない)。
さらに新党ブームというものは、いつもほぼ東京に限られる現象と指摘した。過去の実例でも、東京の新党ブームが及ぶのはせいぜい首都圏、東海圏、近畿圏の都市部までであった。これまでも新党ブームが地方に波及したケースはほぼ皆無であった。 この話はあまりマスコミが取上げないが、安倍総理が解散を表明した1週間前の9月17日に大阪・摂津市で市議会選が行われた。この選挙に「市民ファーストの会」という新党から4名が立候補した。もちろん「市民ファーストの会」は都議選で空前の大躍進をやってのけた「都民ファーストの会」の大阪版である。これには当時の希望の党の若狭議員も支援していた。
ところがこの4名は信じられないくらいの大惨敗を喫したのである(27人中22位、25位、26位、27位)。つまり都民ファースト(希望の党)の新党ブームは大阪にさえ全く及んでいなかったのである。安倍官邸はこの選挙の結果も参考にし、解散・総選挙の最終決断を下した可能性がいく分かあるのではと筆者は密かに思っている。 魅力に欠ける候補者
今回の総選挙の結果ほど、大半のマスコミ陣(ジャーナリスト、政治評論家、論説委員など)にとってショックなことは過去に無かったと筆者は推察する。ここ数年、彼等は「安倍一強体制」打倒を目指し画策して来た。22日の深夜、体勢が決まった後にテレ朝系で「朝まで生テレビ」の特番が放送された。この一人と言える司会の田原総一郎氏は番組の最初から荒れていた(酒でも飲んでいるかのように感じられた)。 田原氏は、排除の論理で新党が乱立し自民党が「漁夫の利」を得たと言い張っていた。そしてこの結果の責任は小池氏にあると言う。たしかにほとんどのマスコミ人も同じことを言っている。しかし筆者が調べたところ、「希望の党」と「立・民」の候補者の競合によって自民党が勝ったと見られる小選挙区は全国でわずか12ケ所であった。 仮に両党の候補者が一本化されていたとしても、おそらく自民党の議席が5〜6程度減るだけであり、自民党の大勝という事実は変らないと考える。たしかに東京の競合する選挙区だけが7ケ所と極端に多かったので、彼等は全体の情勢を見誤ったのであろう。このような考えが薄っぺらなマスコミ人は、足元の東京しか見ていないのである。 また田原氏は「日本の消費税率は低く、20%以上に上げる必要がある」といった例の嘘話を披露していた。これについて 本誌16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」 http://www.adpweb.com/eco/eco889.html で指摘したように、軽減税率の適用のない日本の消費税の負担は欧州各国と比べても既に十分重いのである。他にも田原氏はばかげたこと色々とを言っていたが長くなるので割愛する。
安倍政権を嫌うマスコミ人(田原氏のような)が描いたシナリオは、都議選で見せた都民ファースト(希望の党)の空前のブームに民進党全体が合流し、安倍政権を窮地に追込むことであった。もしこれに共産党が協力すれば、自民党政権を倒すことも出来ると彼等は夢想したのであろう。
しかし小池氏が「排除の論理」を打出す前に、既に希望の党ブームはほぼ終了していたというのが筆者の見方である。それどころか前段で述べたように「希望の党ブーム」は大阪にさえ及んでいなかったのである。この幻の「希望の党ブーム」に落目の民進党が乗っかても、とても自民党に勝てるとは筆者は思わなかった。 むしろ希望の党に排除されたことによって、民進党左派の立・民は、無党派層の同情票を集め望外の議席数を獲得した。結果的に、民進党の分裂劇によって旧民進党全体では議席を伸すことができた。またもし民進党が合流せず党の分裂がなかったら、どろ船の民進党はさらに沈んでいたと筆者は見ている。 先々週号17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」」 http://www.adpweb.com/eco/eco958.html
で、「小池新党による政権交代とマスコミは騒いでいるが、彼等は選挙情勢を全く念頭に置いていない」と指摘した。この「選挙情勢」とは主に全国の小選挙区の選挙情勢のことである。 合流後の希望の党の小選挙区の候補者の多くは、民進党の前職・元職である。特に元職の大部分は、09年の民主党が308議席獲得した空前のブームで当選したが、その後2回の総選挙で落選し続けている。はっきり言えば有権者から見て魅力に欠ける候補者である。したがってそもそも地方においては希望の党ブームが起っていないのだから、民進党から希望に看板を変えても自民党の現職に勝てるはずはないと筆者は分析していた。ましてや公募で選んだ希望の党のプロパー候補者が、地方の小選挙区で勝てないのは当たり前である(基礎票を持っている民進党の前職・元職の方がまし)。 むしろ公示後に強敵として浮上して来たのが立・民の候補者であった。同じように魅力に欠ける候補者が多かったが、前述の通りこちらは排除されたことで無党派層の同情票を集めた。まさに排除されたことが幸いしたのである。 連日、政治評論家やジャーナリスト達がテレビなどで今回の選挙結果の解説や分析を行っている。しかしこれらの人々の見方が浅いのか、筆者には納得の行かない話ばかりである。自民党の議員までもが同様のことを言っているのには驚く。東京でじっとしているだけでは全国の情勢に疎くなるのであろう。 http://www.adpweb.com/eco/
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