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尖閣紛争で「中立」の立場をとるのは理不尽、
米国内で相次ぐ日本支持の声
2012年11月07日(Wed) 古森 義久
尖閣諸島を巡る日本と中国の紛争への米国の対応について、いくつかの角度から報告してきた。
この米国の対応に対し、ごく最近、米側で日本の領有権支持を明確に打ち出すべきだとする意見が相次いで出てきた。いずれも民間の識者からだが、米国政府の元高官も含まれており、注目すべき現象である。
ニクソン以来「中立」の立場を貫いてきた米国政府
米国政府の尖閣問題に対する態度は、すでにこのコラムでも何回も書いてきたように、「尖閣には日米安保条約は適用されるが、主権については立場を取らない」という趣旨である。つまり主権、領有権に関しては日本と中国のどちらにも与しない中立だというわけだ。
ただし米国の歴代政権でも1950年代のアイゼンハワー、そして60年代に入ってのケネディ、ジョンソン両政権、さらには70年代のニクソン政権の当初までは、みな尖閣諸島への日本の潜在的主権、つまり「残存主権」を明確に認定してきた。尖閣諸島の主権、領有権は日本以外の国には帰属しないという認識だったのである。
それが「中立」へと変わったのはニクソン政権の中ごろからだった。71年10月に米国議会上院が開いた沖縄返還協定の批准に関する公聴会では、ニクソン政権の代表たちが「尖閣の主権についてはどの国の主張にも与しない」と言明したのだった。つまりは「中立」である。
オバマ政権も尖閣の主権に関しては「中立」である。同時に「日米安保条約の尖閣への適用」を言明しているから、もし尖閣が攻撃を受ければ、日本を支援して防衛行動を取る構えは明白だろう、というわけだ。だが公式の言明では「安保条約の適用」という無機質な表現の域を決して越えない。日本側からすれば、その点に曖昧さ、ひいては不安が残ることになる。
日本でも外務省の元国際情報局長までが「尖閣が中国の攻撃を受けても米国は日本を支援しない」と述べて回っている。一般国民の間に、米国はなぜもう一歩進んで、尖閣防衛の誓約を明言しないのか、という疑問が湧くのは自然だろう。
ワシントン駐在の新しい日本大使に任命された佐々江賢一郎前外務次官も、最近の日本の新聞のインタビューで、米国の見解について次のように説明した。
「米国政府が尖閣主権について特定の立場を取らないということは、中立ということではない。日米安保条約が尖閣諸島にも適用されるとの明確な立場を取ることは、日本が武力の攻撃や脅威に直面した場合、米国も十分な対応をするというのだから、中立ではあり得ない、という意味だ」
こんな言葉の背後にも、米国に日本の支援をもっと明確に表明してほしいという期待があると言えよう。
「米国は同盟諸国の味方をしなければならない」
そんな背景の中で、米国において、米国政府は尖閣諸島の主権についても日本側への支援を明確に表明すべきだ、という意見が3件ほど発表された。
その第1は国防総省の中国部長を務めた経歴のあるダン・ブルーメンソール氏の意見だった。同氏は現在は米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員やワシントンの大手民間研究機関のAEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート)の上級研究員として活動する中国専門家である。
ブルーメンソール氏は10月31日にネット外交論壇で公表した「なぜ日中尖閣紛争がアジアで最も爆発的な問題なのか」という題の論文で次のようなことを述べていた。
「米国は米中関係の諸課題の中でも特に日本と中国の尖閣諸島を巡る衝突に特別な注意を払うべきだ。ここ数年、米国はアジアの領有権紛争では南シナ海の中国とベトナムやフィリピンとの摩擦に主要な関心を向けてきたが、日本はアジアでも米国の最も重要な同盟国なのだ。米国は日本との強い同盟の絆なしではアジア戦略を成功させることはできないのだ」
「中国の絶え間のない日本の領海や紛争海域への侵入と日本への威嚇は日本側にも非生産的なナショナリストの対応を引き起こした。だがこの悪循環を作り出しているのは中国側であり、中国の挑発こそが日本側のナショナリズムを強めるのだ」
「米国は日米安保条約が尖閣諸島に適用されることを確認する一方、なお尖閣の主権の帰属については米国と日本との間には見解の違いがある。この違いは1970年代からであり、米国が対中国交正常化を進めたときの不注意と拙速さの表れだった」
「いま日本は孤立を感じ始めており、米国が尖閣の領有権紛争になぜ中立を保ち続けるのか理解できないでいる。米国はアジアの領有権紛争に対し、長年、中立の立場を表明し、紛争が『平和的に解決』されればよいと安易な言明をしてきた。だがこの姿勢は中国がまだ弱く、その主張を強く推し進めることができない時代には適切だったが、その時代はもう終わったのだ」
「米国は本当に南シナ海や東シナ海の領有権紛争の結果がどうなっても構わないのだろうか。そんなことは絶対にない。米国は軍事衝突を望まないというだけでなく、重要な海上輸送路を押さえる紛争諸島が中国の支配下に入ることをも望まないのだ。米国は同盟諸国の味方をしなければならない。領有権紛争をどのように解決するか、米国は明確な解答を出すべき時にきたのだ。そのための評価は計算された地政学の利害と同盟諸国、友好諸国を支援する利害に基づかねばならない」
ブルーメンソール氏のここまでの主張でも、米国政府が尖閣紛争に対して取るべきだとする言動のあり方はすでにはっきりしてくる。従来の「中立」や「特定の立場を取らない」という態度は曖昧すぎて米国のアジア戦略に合致しない、と主張しているのだ。
同氏はさらに次のように具体的な指摘をしていた。
「日中紛争はこれからの何年もアジアへの米国の関与では最も重要な試練となるだろう。共に強い国力を有する日中両国の間の緊迫は緩和の兆しはない。日本が尖閣の主権を後退させることはない。やはり危険をもて遊んでいるのは中国側だ。米国にとって曖昧さというのはときに有効であっても、この尖閣に関しては明確さが求められる。中国はいまやこれまで30年にわたり米国が主導して保ってきたアジアの平和を支える国際秩序に挑戦しているのだ」
「米国はいまやこの秩序を守るための先導役にならねばならない。ということは、同盟諸国の側に立つことを意味する。さらにそれ以上に、米国はアジアでの中国と米側の同盟、友好の諸国との領有権紛争ではどのような結果の解決を望むか、明確に表明する時期がきたと言えよう」
ここまで紹介すれば、ブルーメンソール氏の意見は極めて明快であることがいやでも分かる。米国は尖閣紛争でも主権、領有権の帰属まで日本側をはっきりと支援せよ、と提唱しているのだ。
中国の反日キャンペーンは冷笑に値するデマ
同じような趣旨の第2の意見は、米国有力紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」(インターネット版)10月25日付に掲載された寄稿論文である。筆者は米海兵隊勤務や外交官として在日米大使館に在勤した経歴の弁護士グラント・ニューシャム氏だった。論文は「米国は(尖閣での)日中紛争で日本を明確に支持せねばならない」と題されていた。
この論文は当日本ビジネスプレスでも他の記事によりすでに紹介されていたが、重複を承知のうえでその要旨をここで報告しよう。
「米国政府の尖閣諸島を巡る日中両国の争いに巻き込まれたくないという配慮は分かるが、このままだと、尖閣紛争は永続し、やがて米国自体のアジアでの安全保障を脅かすため、『意図的な曖昧さ』を放棄すべきだ」
「中国側は尖閣問題ではここ2年ほど自国艦船を尖閣海域に侵入させ、国内で反日の暴動をあおり、さらに日本や日本国民への粗野で中傷的な言明を続けている。このような中国の威嚇戦術にはアジア諸国が懸念を抱いており、米国は平和的な対応しかしていない民主主義の日本をもっと公然と支持することが必要だ」
「中国は日本に対して80年も前の日本側の軍事行動を扇情的にいま持ち出しているが、これは冷笑に値するデマであり、自分たちの政権の弱みを隠すための隠蔽作戦だ。文明国家の振る舞いではない」
「現在の米国政府の尖閣問題に対する言明は単に安保条約の条文上の責務を述べているだけで、具体的に何を意味するか分からない。そのため、かえって中国側の軍事攻撃を招きかねない。米国は法の統治や人権の尊重、個人の自由など日本との共通の価値観を強調し、日本防衛の基本方針を明確に述べるべきだ」
これまた極めて強力な日本支持の勧めである。オバマ政権の姿勢への明確な批判だとも言えよう。
米国が無関係のままではいられない日中の冷戦状態
第3の意見は前述の大手研究機関AEIの研究員マイケル・オースリン氏が10月4日に大手外交雑誌「フォーリン・ポリシー」に発表した「アジアの冷戦」と題する論文である。
日本の政治研究やアジアの安全保障研究で知られる気鋭の学者オースリン氏は、尖閣紛争の米国にとっての意味について、次のような趣旨のことを述べていた。
「尖閣を巡る日本と中国との紛争では、今回も、尖閣水域でも北京の街路でも人命が失われることはなかった。だが、たった1人の死、たった1つの誤算が世界第2と第3の経済大国を直接の衝突へと追い込む危機は十分にある。その場合、米国は、日本との安全保障条約を守って中国との関係全体を危機にさらすべきかどうかという非常に苦痛の選択を迫られることとなる」
オースリン氏はこの記述ですでに米国が尖閣問題に対し「中立」というように距離を置いたままではいられない、と警告しているのだ。そのうえで中国側の主張に対して次のように述べていた。
「米国から見ても、中国の周辺諸国との数え切れない海洋領有権紛争の実態は、中国が自国の主権を不当に侵害されている側の国だとはどうにも考えられないことを示している」
「今後も日本と中国との間の実際の軍事衝突は避けられるかもしれないが、冷戦のような状態は必ず続いていくだろう。尖閣を巡るいまの摩擦がたとえ解決されても、日中両国の領有権の争いは続き、日中関係全体はますます冷えきっていくだろう。米国にとっても長期の戦略的な対応が必要となる」
オースリン氏はこのように米国は日中両国の紛争や摩擦に無関係ではいられない、と説くのである。つまりは米国当局が尖閣の領有権について「中立」と繰り返し、いかにも尖閣紛争自体に無関係のままであるかのように振る舞うわけにはいかないのだ、という警告だとも言えよう。
このように米国でも、尖閣問題についていまの現政権のアプローチでは不十分だと主張する声が生まれてきたのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36490
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