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2012年3月 5日 (月)
東電の法的整理なくして電気料金引上げ認可なし
東京電力が家庭用電気料金を本年7月から10%引き上げる方針を示していることが判明した。
また、東京電力は家庭用とは別に事業者向け電気料金を本年4月から17%引き上げる方針を示している。
まったく筋の通らない政策を容認しているのは野田佳彦内閣である。
実質債務超過の東京電力を法的整理しない日本の政府は、世界の笑いもの、世界の七不思議のひとつに数えられている。
日本は表向き、法治国家であることになっている。
法治国家であるなら、ものごとの処理は法律に基づいて行う必要がある。
ものごととは、東電が昨年、原子力事故を引き起こし、原子力事故の損害賠償が課題になっていることだ。
日本には原子力事故が発生した場合、損害賠償をどのように進めるのかについては、「原子力損害賠償法」という法律が存在する。この法律が唯一の法律である。
そして、この法律に、原子力事故が発生した場合の損害賠償の方法が明確に定められている。したがって、政府はこの法律に沿って問題処理を進める責務を負っている。
それが法治国家における政府の当然の行動だ。
原子力損害賠償法第三条に以下の条文がある。
第2章 原子力損害賠償責任
(無過失責任、責任の集中等)
第3条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
法文解釈に曖昧な部分はない。原子力事故の損害賠償責任は、当該事業者が負うことが明確に定められている。
当初、一部で疑義が存在したのは、この条文のただし書きについてだ。
「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」
という部分だ。
「異常に巨大な」の解釈については、国会でも過去に論議されてきた。
人類史上経験したことのないような規模の天災地変であるとの理解が政府から示されてきた。
今回の原発事故の原因はまだ完全には究明されていないが、福島原発で観測された地震の揺れと津波が事故発生の契機になったことは間違いない。
しかし、その地震の揺れも、津波の規模も、「人類史上経験したことのない規模」のものではなかった。
それどころか、独立行政法人産業技術総合研究所などの専門機関が、再三にわたり、政府と東電に、福島原発の津波対策が不十分であることを警告していた事実が明らかにされている。
最近では、1896年の明治三陸地震津波が、今回の津波と同規模であった。研究機関は、明治三陸地震と同規模の地震が、この地震よりも南側にずれた地点で発生した場合の津波発生状況をシミュレーション計算したうえで、福島原発の津波対策が不十分であるとの警告を発していた。
また、古くは西暦869年に発生した貞観地震津波が今回と同規模のものであったことが確認されており、産総研および東北大学、東京大学などによる共同研究により、この規模の地震および津波が東北地方太平洋岸に定期的に襲来している事実を明らかにしたうえで、東電福島原発の津波対策の不備を強く警告していたのである。
東京電力はこうした警告を、津波対策強化に費用がかかることを理由に無視してきた。その延長上に今回の重大事故が発生したのであり、東電が責任を免れないことは当然である。
これまでの経緯を踏まえるなら、刑事責任が問われる必要があるが、警察当局はまったく動いていない。東電が警察関係OBの天下りを30人以上受け入れているために、刑事捜査が行われていないのなら、残念ながら、これが日本の現実である。
「地獄の沙汰もカネ次第」と言うが、まさに、「警察の沙汰もカネ次第」ということになる。
原賠法の規定により、東電が損害賠償責任を負うが、損害賠償金額が東電の純資産を超える。つまり、東電が債務超過に陥る。債務超過に陥ることを破綻と呼ぶ。
したがって、東電を破綻処理、法的整理しなければならない。
ところが、一部の人々が、法的整理はできないと主張して、法的整理をしないまま、今日に至っている。法的整理できない理由としてあげられているのは、
1.安定的な電力供給が損なわれる
2.金融市場が混乱する
3.損害賠償原資が枯渇して損害賠償に支障が生じる
というものだが、すべて正しくない。
会社更生法を用いて法的整理をすれば、安定的な電力供給は可能である。
金融市場参加者はリスクを認識して参加しているため、混乱は生じない。
検討の必要があるのは、3つ目の点だ。
法的整理する場合、東電に対する債権者に対しては、法的な弁済順位に従って弁済が行われる。その際、例えば、東電社債の保有者が持つ債権は、一般担保権付社債であり、損害賠償債権よりも高い弁済順位を与えられる。
このような手続きで法的整理が行われると、東電資産が枯渇して、原子力事故の損害賠償に支障が生じるというのだ。
しかし、この点については、原賠法16条の規定を用いれば、問題を解決できる。
第4章 国の措置
(国の措置)
第16条 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2 前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
つまり、東電の損害賠償原資が不足する部分について、原賠法第16条の規定によって、政府が援助を行えば、問題は生じない。これを実行するには国会の議決が必要だが、国会は議決するはずだ。
つまり、東電を法的整理しない理屈は成り立たない。
東電を法的整理しないとき、誰が得をするのか。それは、株主と金融機関だ。法的整理する場合、株主は出資した資金の範囲内で責任を問われる。金融機関は貸金の一部を貸倒れとして損失処理しなければならない。
貸し手の第一位は、2010年3月末時点で日本政策投資銀行だった。財務省の最重要天下り機関だ。財務省は事故発生後に、民間銀行に巨額の短期資金を東電に融資させ、東電のメインバンクが日本政策投資銀行ではない偽装をしたのだと思われる。
政府が東電救済策を強硬に推進しているのは、財務省所管の日本政策投資銀行を救済するためだ。そもそも、このスキームを書いたのが財務省なのだ。
金融機関が負うべき責任が免除されて、その負担がそのまま、電力利用者に転嫁される。高い電気料金で、電力利用者が原発事故の損害賠償資金を払わされることになる。
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