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[今を読み解く]未婚者増加時代の課題は 「困ったとき」の支援を
立命館大学教授 筒井淳也
一昔前までは、よく「家族のかたちが変わってきている」と言われていたものだ。その際念頭に置かれていたのは、核家族や共働き家族の増加であろう。しかし現在では、そもそも家族を持たない人が増えている。
家族を持たない人たちが年老いたときの生活を考えなくてはならない
生涯未婚率(50歳時点で1度も結婚したことがない者の割合)は2010年時点で男性20.1%、女性10.6%であった。この数値はさらに上がってゆく可能性が高い。現代において、結婚することは決して「当たり前」ではない。
企業や自治体によるマッチング事業の隆盛は、こうした時代の流れを反映したものだ。同時に、ついに結婚せず、家族を作らなかった人々のこれからの生き方にも注目が集まりつつある。
家族を持たない人たちにとっての「問題」とはなんだろうか。
●依存の問題大きく
ひとつには、他者との交流、絆の問題がある。近代化にともない、私たちは情緒的なつながりを家族に集中させるようになった。近隣づきあいや友人関係ももちろんあるが、夫婦関係や親子関係の緊密さほどではない。とはいえ、他人とふれあい、悩みをわかちあうことから幸せを得ることは、未婚のままでも不可能ではない。仕事やサークルを通じた人間関係を充実させている未婚者もいるだろう。
他方で、見通しがつきにくい課題もある。それは、「困ったときにどうするか」である。困ったときというのは、生きていく上で誰かに頼らざるを得なくなったとき、である。
にらさわあきこ著『未婚当然時代』(ポプラ新書・16年)では、結婚するために相当な努力をする必要が出てきた時代において、人々の「婚活」の実態が描き出されているが、結婚や家族のそとに「絆」を求めようとする人たちも登場する。シェアハウスの住民がその一例だ。
しかし、著者の「困ったときには誰を頼るのか」という問いかけに対する、住民の男性の答えはあいまいだ。それもそうだろう。シェアハウスは基本的に、経済的・精神的に自立した者どうしが共同生活をする場所なのだ。ケアが必要な人は、通常は参加しない。
そう、ここで問題になっているのは、自立した者どうしがとりむすぶ絆ではない。他人に依存しなければ生きていくことが難しい場合に、誰を頼るのか、という問題である。この依存問題は、子ども、高齢者、障害者、そして失業者が直面しやすいものだ。そして子どもや高齢者は、誰よりも家族に頼ることが多い。
山田昌弘著『家族難民』(16年・朝日文庫)でも、「家族に代わるもの」の難しさが追求されている。未婚のまま生涯を送る者も、子ども時代には親に依存していたはずだ。しかし将来はそうはいかない。友人関係を充実させて「情緒的な絆」の問題を解決することは可能かもしれないが「依存の問題」はそうはいかない。自立した者どうしで気持ちの良い関係を築くことができても、いざ自分が他人を頼らざるを得ない(たとえば要介護)状態になったときに、相手は逃げてしまうかもしれない。
それに、依存問題は未婚でいつづける者だけの問題ではない。家族による育児や介護が殺人に結びつく例が後を絶たないことからもわかるが、ときに依存関係は他者との関係を破壊してしまう。他人を世話することから人は喜びを得ることもあるが、負担に押しつぶされてしまうことだってある。
●ケアの相手分ける
ファビエンヌ・ブルジェール著『ケアの倫理』(原山哲・山下りえ子訳、14年・白水社)は、依存は実はすでに社会のいたるところに埋め込まれた関係だ、ということに気づかせてくれる。依存者と自立者の区別は思うほどはっきりしたものではない。
ただし、情緒的な絆を取り結ぶ相手(友人でも家族でも)と、依存状態に陥ったときに「自立」を助けてくれる相手(ケアテイカー)を分けて考えることは重要だ。そうしないと、家族のいる者は家族関係を破壊し、家族のいない者は(将来の依存を恐れて)誰とも生涯にわたる関係を築くことができなくなる。
ケアに対して公的な支援を充実させることによってのみ、私たちは安心して他者と長期的な絆を取り結ぶことができる。ケアの問題について考えるとき、シェアにせよ地域コミュニティーにせよ、家族と政府のあいだにあるような「中間領域」にあいまいな期待を寄せるのは危険だ。依存状態になったとき、確固とした普遍的な支援が受けられるという確信があってこそ、人は他者との関係から幸福を引き出すことができるのだ。
[日経新聞11月13日朝刊P.19]
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