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(回答先: 「あなたの体が燃やせない」 無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教 火葬場現地ルポ、迫り来る多死社会 投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 31 日 23:20:32)
「死者のホテル」が繁盛する時代
無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教
待機遺体が増えている
2016年11月2日(水)
鵜飼 秀徳
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/16/102400002/102800005/p2.jpg
川崎市にある遺体ホテル「そうそう」の遺体安置室。棺を置くスペースとソファが置かれているのみ(写真提供:そうそう)
「遺体保管所 絶対反対」
ただならぬ文言が書かれたのぼり旗が、ひとつの建物を取り囲んでいた。
町工場が点在する神奈川県川崎市中原区。建売住宅が並び、子連れ女性の姿がある。東京都との境を流れる多摩川が目の前だ。対岸には二子玉川の大型ショッピングモールが見える。
穏やかな街の雰囲気とは対照的に、のぼり旗に囲まれた「遺体ホテル」と呼ばれる施設はあった。遺体ホテルは、ひと言でいえば、死後、葬式や火葬をするまで遺体を安置しておく民間施設のことだ。事情があって自宅に保管できない遺体、あるいは火葬場の不足による「待機遺体」が次々に運ばれてくる。遺体の保管場所に困った遺族が、すがる気持ちでやってくる。
ネイビーとシルバーのツートンカラーの外観が特徴的な3階建て。この建物に看板の類は見当たらず、一見すれば倉庫のよう。近隣の住民感情に配慮していると思われる。
住民の反対運動は、これでも落ち着いてきたのだという。
建設計画が持ち上がってから、地元公民館で幾度となく説明会が開かれた。その様子は、テレビのワイドショーなどでも取り上げられ、住民が経営者を厳しく糾弾するシーンが流れた。
「厳粛な人の死を、金儲けに使ってけしからん」
「こういう施設が近所に存在すること自体、気持ち悪い」
完成までに住民説明会は計5回開かれた。1回当たり100名以上の住民が参加したが、場は荒れた。主催者側の出席者は「そうそう」という名の遺体ホテルを運営するアート企画の代表、竹岸久雄一人。会場は怒号が飛び交い、竹岸の感情も昂った。
「法的には何の問題もありません。よく考えてください。人はみんな死ぬんですよ。みなさんもこういう施設を必要とする時が来るかもしれない」
テレビのワイドショーで取り上げられた際、司会者やコメンテーターの受け取り方は番組によって様々だったが、多くは「難しい問題」と締めくくられた。
竣工後は住民への内覧会を開いた。
「思ったよりも奇麗ね」
内覧した住民はこうつぶやいた。
竹岸は遺体を搬入する際には外から見えなくするなど、住民感情には特に気を遣った。ようやく営業を始めたのが2014年10月のことだ。遺体ホテルの名前は「そうそう」とした。「葬送」が語源だ。死者を見送る場所として「葬荘」という語呂合わせもできる。
「ここは、どなたでも利用できます。反対運動で、一時はどうなることかと思いましたが、おかげさまで、利用数は右肩上がりに増えてきています」
まるでビジネスホテルのよう
竹岸が遺体ホテルの内部を案内した。エントランスを入ると、正面にチェックインカウンターがあり、コンシェルジュが座っている。その横に自動ドアがあり、先が遺体安置室になっている。室名はアルファベットでAから番号がふられ、計11室がある。ホールには、ソファやオブジェが置かれており、ここが遺体保管所であることを知らされなければ、一般のホテルと錯覚してしまうような雰囲気だ。
だが、各部屋のドアを開ければ、一般のホテルとは一線を画す空間が広がる。
遺体安置室の広さは10畳ほど。遺族が座れる椅子と小さなテーブルがあるだけで、がらんとしている。遺体を納めた棺を置くと、くつろげるようなスペースはなくなってしまう。棺は間近で見ると、思いのほか大きい。
旅館業法上のホテルとしての許認可は受けていないので、遺族の宿泊に必要なベッドや水回りはないという。遺族がひと息つける場として、2階にはラウンジがある。
そういえば、映画などのシーンでよく見る遺体安置所は、ステンレス製のベッドに遺体を乗せて、壁面に収納される冷蔵式のものを想像する。だが、そうそうの部屋にはこうした冷蔵機能はない。1日に何度か葬儀社のスタッフがここまでやってきて、ドライアイスを補充していく。
料金は1日(24時間)当たり9000円(税込み)。訪れた日は全11室のうち9室が埋まっていた。しんと静まり返った廊下を歩いていると、一つの部屋から遺族と思われる人の声が漏れてきた。
「私どものほうからお客様に、利用目的や、亡くなられた方の属性をお聞きすることはありません。しかし、ご遺族の雰囲気や、葬儀社さまから間接的に状況を知ることがあります。本日は、自死された方が入っていらっしゃるようです。先日は、臨月でお腹の赤ちゃんとともに亡くなられた方がいらっしゃいました。そうした予期せぬ死に接したご遺族は、すぐにその事実を受け入れることが困難です。心の整理をつけるために、このホテルを利用される方が少なくありません」
竹岸は、「開業当初は、鳴かず飛ばずでした」という。しかし、騒動が収束しつつある最近では月に200人ほどの遺体が運び込まれてくる。2015年の稼働率は73パーセント。一般のホテルに置き換えれば、なかなかの繁盛振りだ。遺体ホテルの利用者は、今後、ますます増えていくだろうと、竹岸は予測する。日本における死を取り巻く社会が、大きな節目を迎えているのだ。
遺体を自宅に戻せなくなった
高齢化社会という言葉は、今や日本社会を語る上での常套句になっている。だが、もう少し時間を進めれば、そのフレーズはきっと「多死社会」へと、ステージが移ってゆくことだろう。
多死社会が間もなく到来する。データを見れば、よりリアルに分かる。2005年、死亡数が出生数を初めて上回った。そして2007年以降は、ずっと死亡数上位の状態が続いている。
厚生労働省「人口動態統計の年間推計」によれば、2015年の死亡数は、130万2000人(推計値)だった。この数字が今後25年間にわたって、右肩上がりに伸びていく。
死亡数のピークは、1947年から1949年生まれの、いわゆる団塊世代が90代を超える2040年と推測されている。現在よりも30万人以上も多い、166万人が1年間に死亡するとの推計がある。この数字は鹿児島県の人口(170万人)に相当する数である。
多死社会の歪みは、すでに様々なところに現れている。ひとつは火葬場の不足だ。火葬場は遺体ホテル同様、いわゆる迷惑施設だ。新設は容易ではない。
火葬場の増設が見込めない中で、じわじわと死者数が増え続けている。本連載の第一回でふれたように、死者が増える夏場や年の暮れには、火葬待ちが1週間から10日というケースも出てきている。首都圏では火葬能力が死者の数に追いつかない。そこで、遺体を待機させておく場所が必要になるというわけだ。
考えてみれば、人が死ねば、火葬までの遺体安置場所は、かつては「自宅」であったはずだ。自宅葬が減り、葬祭ホールで葬式をやるケースが増えているが、それでもいったんは故人が暮らした自宅に戻す。そしてせめて枕経、納棺までは自宅で執り行うのが一般的だった。
だが都会では、居住空間に「死」を迎え入れることが難しくなってきている。
一つは、マンション暮らしの世帯が増えている点だ。特に都会の高層マンションでは、管理組合の規約によって遺体を運び込めないところが多い。病院から自宅に戻したい気持ちが遺族にあっても、人目につきやすい日中にマンションの室内に運び入れることは憚られる。
さらに、昨今の「葬式の簡素化」が、待機遺体の増加に拍車をかけているという。都市圏で急増しているのが「直葬」だ。直葬は葬式をせずに、火葬してしまうことである。
葬儀や仏事に関する情報サービス会社「鎌倉新書」が2014年に全国の葬儀社を対象に調査したリポートによれば、関東圏の全葬儀に占める直葬の割合は22パーセントにも及ぶという。
直葬の場合、病院などからいきなり火葬場へ直行することは少ない。墓地埋葬法によって、死後24時間以内の火葬が禁止されているからだ。つまり、その間、どこかに遺体を保管しておく必要が生まれる。
マンションに遺体を運び込めない場合も、直葬するまで遺体を一時保管したい場合にも、火葬場の遺体保管庫を利用することは可能だ。だが、火葬場の保管庫の場合、面会時間が決められていることなど、自由度は高くはない。何より無機質な印象で、そこに何日も故人を安置しておくことへの遺族の心理的負担は大きい。
将来的にも、こうした行き場のない遺体の安置場所を求める遺族の数は増えていく。竹岸は、そこに商機を見いだした。しかし、世間の目からすれば、遺体安置ビジネスは、キワものであることには間違いなく、ややもすれば、色眼鏡で見られてしまう。竹岸と「死の世界」との接点はどこにあったのか。
彷徨える遺体の受け皿として
竹岸は言葉遣いは丁寧で、折り目正しい印象の男性だ。それもそのはず、竹岸はかつて、シェラトン都ホテル東京のホテルマンだった。ベルボーイや宴会場を担当していた。実はホテルでは「お別れの会」や「偲ぶ会」が多く実施される。竹岸はこうした故人に対するサービスに強い関心を抱くようになっていったという。2003年に独立。一般葬儀社向けのB to B事業を開始する。事業内容は、葬儀社への人材派遣と葬式代行サービスだ。葬儀業界の隙間を埋めるこのような業務は、業界では珍しいことではないという。
葬儀業は、人が亡くならなければ、開店休業状態である。そのため多くの葬儀社が人件費の無駄を省くため、普段は最小限のスタッフしか抱えていない。そして、ひとたび葬式の依頼があれば、派遣会社を通し、スタッフが現場に配置されるのである。竹岸は、葬式のスタッフ派遣・代行業を最初に、来る多死社会を見据えて、遺体ホテルの構想を膨らませた。
その頃、葬祭場や納骨堂の運営を手掛けるニチリョクが、横浜で日本初の遺体ホテル「ラステル」の営業を開始していた。ラステルやそうそうの他にも、都内や大阪にも同様の施設がある。それらの多くは遺体ホテルに葬儀ホールも備え、そこで葬儀をすることが遺体安置の条件になっている。だが、竹岸は、「誰でも自由に、遺体を一時保管できる遺体ホテル」を目指した。
川崎市をその場所に選んだのにも理由がある。川崎市は人口150万人近い政令指定都市だが、火葬場が2つしかない。人口で同じ規模の愛媛県の火葬場は38だから、いかに川崎市の火葬場が少ないかが分かる。待機遺体が多くなるのも必然だ。多摩川を挟めば東京都なので、都内からの利用客も見込める、と踏んだ。
今、竹岸の元には、様々な業種の企業から「遺体ホテルに参入したい。アドバイザーになってほしい」との依頼が相次いでいる。倉庫会社、バス会社、広告代理店など異業種の参入が今後、見込まれるという。
好むと好まざるとにかかわらず、多死社会をにらんで遺体ホテルは増えていくだろう。彷徨える遺体の受け皿として、機能しているからだ。
「実は、反対運動に加わっていらっしゃった方のご利用も、3組ありました。もちろん反対運動からは身を引かれました」
竹岸は、さらりと話した。
都市化により、特に「死」を禁忌する風潮が蔓延している。死を受け入れる場をどこかに造る必要があることは、多くの人が理解できる。でも、できることならば死を直視せずに暮らしたい──。そんな矛盾が社会に渦巻いている。
同社のホームページを開けば、こんなメッセージが流れる。
「草々。締め括りの言葉には元来、簡略をお詫びする気持ちが込められています。昨今は社会状況の変化にともない、直葬や家族葬といった簡略化した葬儀形態が増えています。(中略)たとえ略式であっても、できる限り故人様のご希望に沿い、質素ながら自由で、後悔のないお別れができる温かい空間を『そうそう』がご提供いたします」
(第4回に続く)=敬称略=
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『無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教』
鵜飼秀徳著/日経BP/1700円(税別)
遺体や遺骨が彷徨う時代――。既に日本は死者数が出生数を上回る「多死時代」に突入した。
今後20年以上に渡って150万人規模の死者数が続く。
遺体や遺骨の「処理」を巡って、死の現場では様々な問題が起きている。
首都圏の火葬場は混み合い「火葬10日待ち」状態。
遺体ホテルと呼ばれる霊安室ビジネスが出現し、住民運動が持ち上がっている。
都会の集合住宅では孤独死体が続々と見つかり、スーパーのトイレに遺骨が捨てられる――。
「無葬社会」が、日本を覆い尽くそうとしている。
そこで僧侶や寺はどう向かい合えばいいのか。
「イエ」や「ムラ」が解体され、墓はどうなる?
現代日本における死のかたちを通して、供養の意義、宗教の本質に迫る。
『寺院消滅〜失われる「地方」と「宗教」〜』の著者、渾身の第2弾。
このコラムについて
無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教
「多死時代」に突入した日本。今後20年以上に渡って150万人規模の死者数が続く。
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地方寺院を食う形で、都市部の寺院が肥大化していく。
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日本を覆い尽くさんばかりの「無葬社会」の現実。
現代日本における死のかたちを通して、供養の意義、宗教の本質に迫る。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/16/102400002/102800005/?
- 寺院も「死者のホテル」を始めた 無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教 死を避ける都会人が直面する多死社会 2016年1 軽毛 2016/11/07 13:47:58
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